『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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治癒の神獣

256:ソーラルの怒り

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「良かったわね、イリンちゃんの怪我を治してもらえて」

 神獣の元から里へと帰る途中。チオーナは俺の抱き抱えるイリンに視線を向けて微笑んでいる。

「はい……ありがとうございました」
「私はただ案内しただけよ。神獣様が治してくださったのは貴方自身のおかげよ」

 その後は特に会話することもなく俺たちは里へと戻ってきた。

「神子様! ご無事でしたか!」

 里に着くと、神獣のいる場所に向かうための道の入り口で待っていたチオーナの護衛がすぐにチオーナの心配をし始める。

「ええ、問題はないわ。さあ、家に戻りましょうか」

 だが、いつものことなのかチオーナは護衛達の事をさらりと流している。

 そしてチオーナの家に向かう事になったのだが、神子が神獣の元に行きやすいように近くに建ててあるのか、向かうと言っても家はすぐそこだ。

 歩いて五分もしないうちにチオーナの家にたどり着き、家の中にはいる。

「それでは、イリンちゃんは部屋でゆっくりと寝かせてあげてください。夕食はどうします? そちらに運ばせましょうか?」
「はい。お願いできますか?」
「ええ。ではそのように」

 そうしてイリンを抱いたまま与えられた部屋に向かうと、背後からチオーナに声をかけられた。

「アンドーさん。貴方もしっかりと休んでくださいね。イリンちゃんが起きた時に疲れのたまっている貴方の姿を見たら悲しみますよ」
「そう、ですね。はい。ありがとうございます」




「……イリン。しっかり治せよ」

 イリンをベッドに寝かせると、俺はしばらくの間そのそばでイリンの手を握りながら祈っていた。

 そうしたところで治りが早くなるわけではない。それでも、そうせざるにはいられなかった。

 だが、イリンの手を握る自分の手に力が入りすぎている事に気がついて、ゆっくりと手を離した。

 その後は特に俺にできることはないから自由に動いていてもいいのだが、今はこの部屋を離れて何かをする気にもなれなかったので、ベッドの横の椅子に座って目を瞑ってじっとしていた。

「────っ! ──。────!!」

 いつのまにか外から聞こえ手きていた騒ぎに気付きハッと体を起こす。どうやら目を閉じているうちに眠ってしまっていたようだ。

「……敵襲?」

 不意に部屋の外から聞こえた怒声に疑問を口にはしてみたものの、多分違うだろうなとは思っている。敵だったらもっと騒がしくなっていてもおかしくないはずだ。

 これは敵じゃなくて喧嘩とかそういう感じのやつだろう。

「できるだけ静かにしてほしいんだけどな……」

 喧嘩の内容次第では俺が口出しすることではないのだが、それでも今は少しでも静かにしてほしい。
 その内誰かが仲裁して静かになるだろうけど、一応何が起きてるのかだけ把握しておくか、と思い探知を広げていく。

「──神子様! 何故ですか! 何故奴らに手を貸したのです!」

 探知を広げると、この建物玄関で大声を出している者がいるが、誰だろうか? コーキスと同じような見た目をしているが、そもそもこの里にはそういう見た目の人が多く、俺には誰が誰だか見分けがつかない。精々がコーキスではないだろうという事ぐらいだ。

 話している内容は……俺たちのことか?

「何故も何も、何か問題があったかしら? 約束を叶えただけですよ」
「約束など、あいつが勝手にした事でしょう! あの人間達は狐の配下なのですよ!?」
「彼らがグラティース王の遣いというのは合っていますが、配下ではありませんよ」
「だとしても、仲間である事には変わらない! 貴方は憎くないのか!?」

 最初は丁寧だった口調もだんだん乱れてきている。

「おい、ソーラル! 神子様に失礼だぞ!」

 ソーラルってのが犯人、というかこの騒ぎの元か。

 ……ああ、思い出した。ソーラルってあいつだ。俺たちがこの里に来たときにコーキスに突っかかって仲間に毒を喰らって動けなくなった奴。

 そうか、ならさっきまでの会話を聞いた感じからしても、俺たちがここにいる事に対して怒って騒いでいるのか。

「うるさいっ! お前は憎くねえのかよ! 俺達の誇りを踏み躙って仲間の故郷を焼いたあのクソ野郎が、憎くねえのかよ!」

 チオーナの護衛達がソーラルを注意したが、ソーラルは寧ろ更に怒りを露わにして怒声を上げている。

「……思うところがないわけじゃない。だが、それとこれは別だ。ここは神子様の御前であり、お前の態度は相応しくない。何か言いたいことがあるのなら少し冷静になれ」

 冷静にソーラルを宥めようとしていた護衛達はグラティースに対して怒っていないように見えたが、やっぱり何も感じていないというわけじゃないんだな。

「……なんだよお前ら。なんでそんなに落ち着いてられんだよ。あの狐野郎は……あいつは、もしかしたら今度はここを焼いて神獣様を襲おうとしてるのかもしれないんだぞ!? なのになんでっ……!」
「それは貴方の勝手な思い込みです。かの王がそうするという根拠は何もなく、単なる憶測でしかありません。少なくとも、今ここに泊まっている彼らはそのような事をしませんよ」

 チオーナがそう言うと、ソーラルは愕然としたように黙り込んでしまった。

「心配であるというのなら、彼と話してみて決めてはいかがですか?」
「──っ! ふざけんな! あいつらと馴れ合うなんてできっかよ!」

 彼、というのは俺のことか? 俺と接して少しでもグラティース関係の者に対しての偏見が無くなればとでも思ったんだろうか?

 だが、ソーラルにはその提案は到底受け入れられるようなものではなかったのだろう。乱暴に玄関の扉を開けて走って行ってしまった。

「おい待てっ! ソーラル!」
「神子様、申し訳ありません。ソーラルには後ほど謝罪にこさせます」
「構いませんよ。……それよりも聞きたいのですが、あなた方はソーラルの言葉をどう思いますか?」

 神子であるチオーナに無礼な態度を取ったソーラルの代わりに謝る護衛の二人だが、チオーナはそんな彼等を手で制して質問をしている。

「どう、とは、あの狐の王が神獣様を襲おうとしている事についてですか?」
「ええ。一部ではそのような噂が流れていたでしょう?」
「……そうですね。個人的にはないと思っています」
「私もです。神獣様の力が欲しくてこの地を焼いたところで、神獣様の怒りを買うだけです。かの王はそのような無駄なことをしないと思います」

 まあそうだろうな。神獣に力を貸して欲しいということはあったとしても、その時は誰かをここに送ってくるだろう。俺の場合は元々ここに来ようとしていたからかもしれないが、実際にグラティースに頼まれたわけだし。

 味方、とまではいかなくても理解してる奴っているんだな。まあトップの神獣と神子が理解を示してるんだから当然か。

「ただ、ソーラルは親が例の場所の出身であり何度も行っているだけに納得できないのでしょう。そしてそれは彼だけだけではありません。同じような者や実際に住んでいた者は考えを改めるのは難しいでしょう」

 でもやっぱり、なかなか関係の改善ってのは難しいんだろうな。無理もないが。

 これ以上は見ていても無駄だろうと、俺は広げていた探知を解除した。
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