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治癒の神獣
252:覚悟を決めたから
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「貴様っ!」
俺が力尽くで神獣を従わせると言い切ると、チオーナのそばにいた護衛が声を荒げて持っていた武器を俺に向けた。
「やめなさい! 今は私が話しているのです!」
だが、そんな今にも俺を攻撃しようとしていた護衛の動きはチオーナの一喝によって止められた。
「ごめんなさいね。──それで、邪魔をする者全て、と仰いましたけど、そのようなことが出来ると、本気で思っているの?」
「いいえ」
「なら──」
「出来る、ではなく、やるんです」
よく言うだろ? 出来るかどうかではない。やるかやらないかだー、って。それと同じだ。俺にとってやることはもう決まっている。だったらそれが出来るかどうかなんて関係ない。
「出来るかどうかなんてどうでもいい。願いを叶えるものがあるんだから手を伸ばす。どんな事をしても、どんな事になっても、必ず願いを叶える。──俺は、覚悟を決めたんです」
俺は自身の想いを告げると共に、問いかけてきたチオーナを正面から見据えた。
俺の視線に合わせてチオーナの側にいる護衛は警戒を強め武器を握り直したのが分かった。この後の展開次第では、最悪、戦闘になるだろうな。
チラリと視線を横に向けると、コーキスはその場で立ったまま動く気配がない。
今のところはコーキスは動く気がないようだけど、流石に誰かが殺されれば動くだろう。
まあ、そうだったとしても止まるつもりはないけど。
俺はいつ戦闘になってもいいように少しだけ姿勢を低くしてチオーナからの返事を待つ。
「──ふふっ。そう……そこまでその子のことが大事なの。分かったわ。貴方達を神獣様の元まで連れていきましょう」
だが、そんな緊張感の漂う空気の中でチオーナは笑いながら許可を出した。
「ごめんなさいね。意地悪な事を言って」
「え……あー、いや。……こちらこそ生意気な事を言って申し訳ありませんでした」
「いいのよ。先に行ったのはこっちなんだから」
チオーナがさっきまでの真面目な緊張感のある雰囲気を消して最初に会った時のような優しげな雰囲気に変わると、そんな彼女につられるように俺も自然と戦闘態勢を解いていた。
それからすぐに、今のはちょっと無礼すぎたかな? と思って謝ったんだが、なんか簡単に許してもらえた。
……こう言っちゃあ失礼だけど、なんだか近所のおばさんみたいな雰囲気だな。人がいいと言うか、おしゃべりというか、そんな感じ。
この人、トップにしては軽すぎないか? いやまあ、さっきまでの態度を見た後だとまとめ役としての能力がないなんて言えないし、そっちの方が話しやすいからいいんだけど。
「それにしても、あんなに情熱的な想いの詰まった言葉を聞いたのは久しぶり……いいえ、初めてじゃないかしら。貴女、良い人と出会ったわね」
「……あ。え……は、はい」
チオーナの言葉に戸惑いながら応えるような声が、俺の背後からいやにハッキリと聞こえてきた。
……え?
ギギギッと錆び付いたかのように首を動かし背後を見ると、なにがなんだか分かっていないようなポカンとした表情をしているイリンがいた。
……やべぇ、イリンがいるのをすっかり忘れてた。
って事は、だ。まさか……いや、まさかもクソもないんだけど、もしかして今までのセリフ全部聞かれてたのか?
いやいやいや。嘘だろ? 俺、なんかいろいろ言った気がするぞ? え? 嘘でしょ?
俺は思わずイリンから目を逸らし、バッと前に向き直ってしまった。
……ぅああああああぁぁぁぁ~~~~!! あー、やっちまったー!
いや、今更感あるけど、それでも誰かと話してるのを聞かれるのと、自分から覚悟を決めていうのじゃ全然違うじゃん!
確かに俺は覚悟を決めたけど、それはイリンの怪我を治すための覚悟であって、想いを告げる覚悟じゃないんだよ!
いやまあ、怪我を治した後には自分から言うつもりだってのは変わりないんだけどさぁ……
……はあぁぁ~~……なんか後ろを振り返りづらい……
「ふふふっ。良いわねぇ~。貴方たちみたいな子はつい応援したくなっちゃうわね」
口元を押さえてコロコロと笑う姿は上品だが、チオーナはそう言った後に少しだけ表情を曇らせた。
「けど、ごめんなさい。本当なら今すぐにでも会いたいでしょうけれど、そうもいかないのよ。早くても明日のお昼過ぎになっちゃうわ」
「あ、いえ。もっと時間がかかると思っていました……だいぶ早いですね」
王様ってわけじゃないけど、俺が面会を求めているのはここのトップで、『神獣』なんて呼ばれる存在だ。下手をすれば王様よりも偉いかもしれない。少なくともこの里ではこの国の王様であるグラティースよりも尊重されている。
そんな人物に会うのだから一週間くらい待たされるかもな、と思っていた。
「元々事前に連絡はされていたし、こちらもそのつもりでしたから」
「そうですか……ありがとうございます」
「いえいえ。それほどのことではありませんよ。それに私は神獣様の元へ連れて行きますが、神獣様が貴方の願いを聞いてくださるかは別ですから。大丈夫だとは思いますが、うまくいくことをお祈りしています」
何にしても、すべては明日だ。明日になればやっと前に進めるようになる。
──絶対に神獣を認めさせてみせるっ!
……でもその前に、後ろにいるイリンはどうしよう……?
俺が力尽くで神獣を従わせると言い切ると、チオーナのそばにいた護衛が声を荒げて持っていた武器を俺に向けた。
「やめなさい! 今は私が話しているのです!」
だが、そんな今にも俺を攻撃しようとしていた護衛の動きはチオーナの一喝によって止められた。
「ごめんなさいね。──それで、邪魔をする者全て、と仰いましたけど、そのようなことが出来ると、本気で思っているの?」
「いいえ」
「なら──」
「出来る、ではなく、やるんです」
よく言うだろ? 出来るかどうかではない。やるかやらないかだー、って。それと同じだ。俺にとってやることはもう決まっている。だったらそれが出来るかどうかなんて関係ない。
「出来るかどうかなんてどうでもいい。願いを叶えるものがあるんだから手を伸ばす。どんな事をしても、どんな事になっても、必ず願いを叶える。──俺は、覚悟を決めたんです」
俺は自身の想いを告げると共に、問いかけてきたチオーナを正面から見据えた。
俺の視線に合わせてチオーナの側にいる護衛は警戒を強め武器を握り直したのが分かった。この後の展開次第では、最悪、戦闘になるだろうな。
チラリと視線を横に向けると、コーキスはその場で立ったまま動く気配がない。
今のところはコーキスは動く気がないようだけど、流石に誰かが殺されれば動くだろう。
まあ、そうだったとしても止まるつもりはないけど。
俺はいつ戦闘になってもいいように少しだけ姿勢を低くしてチオーナからの返事を待つ。
「──ふふっ。そう……そこまでその子のことが大事なの。分かったわ。貴方達を神獣様の元まで連れていきましょう」
だが、そんな緊張感の漂う空気の中でチオーナは笑いながら許可を出した。
「ごめんなさいね。意地悪な事を言って」
「え……あー、いや。……こちらこそ生意気な事を言って申し訳ありませんでした」
「いいのよ。先に行ったのはこっちなんだから」
チオーナがさっきまでの真面目な緊張感のある雰囲気を消して最初に会った時のような優しげな雰囲気に変わると、そんな彼女につられるように俺も自然と戦闘態勢を解いていた。
それからすぐに、今のはちょっと無礼すぎたかな? と思って謝ったんだが、なんか簡単に許してもらえた。
……こう言っちゃあ失礼だけど、なんだか近所のおばさんみたいな雰囲気だな。人がいいと言うか、おしゃべりというか、そんな感じ。
この人、トップにしては軽すぎないか? いやまあ、さっきまでの態度を見た後だとまとめ役としての能力がないなんて言えないし、そっちの方が話しやすいからいいんだけど。
「それにしても、あんなに情熱的な想いの詰まった言葉を聞いたのは久しぶり……いいえ、初めてじゃないかしら。貴女、良い人と出会ったわね」
「……あ。え……は、はい」
チオーナの言葉に戸惑いながら応えるような声が、俺の背後からいやにハッキリと聞こえてきた。
……え?
ギギギッと錆び付いたかのように首を動かし背後を見ると、なにがなんだか分かっていないようなポカンとした表情をしているイリンがいた。
……やべぇ、イリンがいるのをすっかり忘れてた。
って事は、だ。まさか……いや、まさかもクソもないんだけど、もしかして今までのセリフ全部聞かれてたのか?
いやいやいや。嘘だろ? 俺、なんかいろいろ言った気がするぞ? え? 嘘でしょ?
俺は思わずイリンから目を逸らし、バッと前に向き直ってしまった。
……ぅああああああぁぁぁぁ~~~~!! あー、やっちまったー!
いや、今更感あるけど、それでも誰かと話してるのを聞かれるのと、自分から覚悟を決めていうのじゃ全然違うじゃん!
確かに俺は覚悟を決めたけど、それはイリンの怪我を治すための覚悟であって、想いを告げる覚悟じゃないんだよ!
いやまあ、怪我を治した後には自分から言うつもりだってのは変わりないんだけどさぁ……
……はあぁぁ~~……なんか後ろを振り返りづらい……
「ふふふっ。良いわねぇ~。貴方たちみたいな子はつい応援したくなっちゃうわね」
口元を押さえてコロコロと笑う姿は上品だが、チオーナはそう言った後に少しだけ表情を曇らせた。
「けど、ごめんなさい。本当なら今すぐにでも会いたいでしょうけれど、そうもいかないのよ。早くても明日のお昼過ぎになっちゃうわ」
「あ、いえ。もっと時間がかかると思っていました……だいぶ早いですね」
王様ってわけじゃないけど、俺が面会を求めているのはここのトップで、『神獣』なんて呼ばれる存在だ。下手をすれば王様よりも偉いかもしれない。少なくともこの里ではこの国の王様であるグラティースよりも尊重されている。
そんな人物に会うのだから一週間くらい待たされるかもな、と思っていた。
「元々事前に連絡はされていたし、こちらもそのつもりでしたから」
「そうですか……ありがとうございます」
「いえいえ。それほどのことではありませんよ。それに私は神獣様の元へ連れて行きますが、神獣様が貴方の願いを聞いてくださるかは別ですから。大丈夫だとは思いますが、うまくいくことをお祈りしています」
何にしても、すべては明日だ。明日になればやっと前に進めるようになる。
──絶対に神獣を認めさせてみせるっ!
……でもその前に、後ろにいるイリンはどうしよう……?
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