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獣人国での冬
230ー裏:???
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「くそっくそっくそっくそっ! なんでだ! なんでこんな事になったんだ! なんだあいつ等は! いきなり来てあんな……!」
途中までは順調だった。
魔物を呼び寄せ冒険者達に狩らせ、奴らが調子に乗り疲労が溜まってきたところで、特別性のアンデットもどきを使う。
奴らは昼でも動き、私の意のままに動かすことのできる便利で、強力な駒だ。奴らに襲われれば、まともに装備の整っていない冒険者は、無残に死んでいくしかなかった。
そうすればやってきた冒険者達は殺され、新たな討伐隊が来るまでにいくつもの村や町を壊滅させられるはずだった。
そうやってこの国を混乱させ、来るべき日に備えて戦力を削いでいく。それが私の目的だった。
だというのに! 何故こうも上手くいかない!? 途中までは何の問題もなかったはずだ!
……いいや理由など知れている。あの冒険者共だ。あいつ等さえここに来なければっ……!
援軍が来るのは構わなかった。元より来るというのは想定内であったのだから。たとえ援軍が来たところで対処できるだけの戦力は揃えてあった。
だが、援軍としてやってきたのは、軽装の男と何故そんなものを着ているのかわからないがメイド服を着ている女だった。
予想よりも早い。何故二人だけ? と思いはしたが、その程度ならば問題無いと思っていた。
だが、蓋を開けてみればこのザマだ。
何だアレは! アレだけ用意した魔物はどこに行った! なんだあの黒いのは! あの男は何者なのだ!?
女の方も異常だ。ありえないほどの身体能力。あんなものを想像できるわけがない! どう考えれば、切り札の一つだった巨人が、ああも簡単に倒されてしまうだなんて誰が想像できるのだ!
「くそっ!」
私が、というより、今回の件の犯人が冒険者の中に紛れている事に気がついたのだろう。現在冒険者達は一ヶ所に集められ、その動きは監視されていた。
「このままじゃ我々の計画が終わる……それどころかこのまま援軍が来て調べられたら……」
それでも何とか逃げ出せないものかと、私は比較的監視の薄い場所を移動している。
「……やるしか、ないのか? だが、アレをやれば私は……」
だが、やはりそう甘くはないようで、背後から冒険者が近づいてきた。
「おいどうした。こんなところで」
集団から少し離れ、少し見づらいところにいた私のことを怪しんでいるのか、いつでも武器を抜けるように警戒している。
くっ、何とかしなければ……
「……ああ、すみません。ちょっと緊張から解放されたせいか、いきなり腹が痛くなって……流石にこれ以上離れるのは不味いですかね? あそこでするのはちょっと……」
「あー、そうだな……でもまあ、今はあまり遠くに行かない方がいいな。悪いけどここに居させてもらうぞ。お前も疑われたくないだろ?」
「まあ、そうですね」
「ここにいるつっても見ねえからよ。俺だって野郎の用足しなんざ見たかぁねぇしよ」
計画が破綻したせいで私の顔色が悪いことも相まってか、目の前の獣人の男は信じたようだ。
私から視線を逸らし背を向けた獣人の男。だが、この場からは動く気がないようだ。
「……解決まで時間かかるだろうし、どこかにしきりでも作ってもらえるように言ってみるか?」
そんな風に悩んでいるが、こんな獣風情に本当に私がそんな事で悩んでいると思われるのは腹立たしい。
……ああ、もういいか。やってしまおう。どうせこのままここにいたところでなんの結果も残せずに終わってしまうんだ。だったらせめて、我々の計画を邪魔したあの男を道連れにしてやろう。
私の中で最後の一歩を押しとどめていた何かがフッと消え、私は最後の手を使うことを決意した。
私は気取られないように背後から男に近づき、首に刃を突き立てる。
「!?」
首にナイフが突き立てられ、まともに声を出すことの出来ない男。
そして首に刺さっていたナイフが抜かれ、溢れた血は辺りを盛大に赤で染め上げた。
「てめえ! 何をしてやがる!」
比較的近くにいた他の冒険者が私の行動に気がついたみたいだが──もう遅い。
私は腰の収納具のポーチから薬を取り出し、それを躊躇うことなく一息に飲み干すと、今度は魔術具を取り出して発動する。
「この野郎が! てめえが犯人か!」
そうしている間に近づいてきた冒険者が私の体に槍を突き立てたが、そんなもの、今の私には意味がない。
私は槍に貫かれたままニヤリと笑うと、槍を持つ冒険者に向かって歩き出す。
当然ズブズブとさらに深く突き刺さるが、最早どうでもいい事だ。
「なっ!? てめえ何してやがる!」
私に槍を突き刺した冒険者に抱きつき、笑う。
「クソがっ! 離しやがれ!」
ああ、身体が熱いまるで全身が焼かれているようだ。
熱い熱い熱い熱い──
「ガアアアア!! テメエエエエエ!! ハナセッ、ハナセヨオオオオオ!」
そして、私の身体は冒険者諸共溶けるようにその輪郭を失っていき、そこで私の意識は途切れた。
途中までは順調だった。
魔物を呼び寄せ冒険者達に狩らせ、奴らが調子に乗り疲労が溜まってきたところで、特別性のアンデットもどきを使う。
奴らは昼でも動き、私の意のままに動かすことのできる便利で、強力な駒だ。奴らに襲われれば、まともに装備の整っていない冒険者は、無残に死んでいくしかなかった。
そうすればやってきた冒険者達は殺され、新たな討伐隊が来るまでにいくつもの村や町を壊滅させられるはずだった。
そうやってこの国を混乱させ、来るべき日に備えて戦力を削いでいく。それが私の目的だった。
だというのに! 何故こうも上手くいかない!? 途中までは何の問題もなかったはずだ!
……いいや理由など知れている。あの冒険者共だ。あいつ等さえここに来なければっ……!
援軍が来るのは構わなかった。元より来るというのは想定内であったのだから。たとえ援軍が来たところで対処できるだけの戦力は揃えてあった。
だが、援軍としてやってきたのは、軽装の男と何故そんなものを着ているのかわからないがメイド服を着ている女だった。
予想よりも早い。何故二人だけ? と思いはしたが、その程度ならば問題無いと思っていた。
だが、蓋を開けてみればこのザマだ。
何だアレは! アレだけ用意した魔物はどこに行った! なんだあの黒いのは! あの男は何者なのだ!?
女の方も異常だ。ありえないほどの身体能力。あんなものを想像できるわけがない! どう考えれば、切り札の一つだった巨人が、ああも簡単に倒されてしまうだなんて誰が想像できるのだ!
「くそっ!」
私が、というより、今回の件の犯人が冒険者の中に紛れている事に気がついたのだろう。現在冒険者達は一ヶ所に集められ、その動きは監視されていた。
「このままじゃ我々の計画が終わる……それどころかこのまま援軍が来て調べられたら……」
それでも何とか逃げ出せないものかと、私は比較的監視の薄い場所を移動している。
「……やるしか、ないのか? だが、アレをやれば私は……」
だが、やはりそう甘くはないようで、背後から冒険者が近づいてきた。
「おいどうした。こんなところで」
集団から少し離れ、少し見づらいところにいた私のことを怪しんでいるのか、いつでも武器を抜けるように警戒している。
くっ、何とかしなければ……
「……ああ、すみません。ちょっと緊張から解放されたせいか、いきなり腹が痛くなって……流石にこれ以上離れるのは不味いですかね? あそこでするのはちょっと……」
「あー、そうだな……でもまあ、今はあまり遠くに行かない方がいいな。悪いけどここに居させてもらうぞ。お前も疑われたくないだろ?」
「まあ、そうですね」
「ここにいるつっても見ねえからよ。俺だって野郎の用足しなんざ見たかぁねぇしよ」
計画が破綻したせいで私の顔色が悪いことも相まってか、目の前の獣人の男は信じたようだ。
私から視線を逸らし背を向けた獣人の男。だが、この場からは動く気がないようだ。
「……解決まで時間かかるだろうし、どこかにしきりでも作ってもらえるように言ってみるか?」
そんな風に悩んでいるが、こんな獣風情に本当に私がそんな事で悩んでいると思われるのは腹立たしい。
……ああ、もういいか。やってしまおう。どうせこのままここにいたところでなんの結果も残せずに終わってしまうんだ。だったらせめて、我々の計画を邪魔したあの男を道連れにしてやろう。
私の中で最後の一歩を押しとどめていた何かがフッと消え、私は最後の手を使うことを決意した。
私は気取られないように背後から男に近づき、首に刃を突き立てる。
「!?」
首にナイフが突き立てられ、まともに声を出すことの出来ない男。
そして首に刺さっていたナイフが抜かれ、溢れた血は辺りを盛大に赤で染め上げた。
「てめえ! 何をしてやがる!」
比較的近くにいた他の冒険者が私の行動に気がついたみたいだが──もう遅い。
私は腰の収納具のポーチから薬を取り出し、それを躊躇うことなく一息に飲み干すと、今度は魔術具を取り出して発動する。
「この野郎が! てめえが犯人か!」
そうしている間に近づいてきた冒険者が私の体に槍を突き立てたが、そんなもの、今の私には意味がない。
私は槍に貫かれたままニヤリと笑うと、槍を持つ冒険者に向かって歩き出す。
当然ズブズブとさらに深く突き刺さるが、最早どうでもいい事だ。
「なっ!? てめえ何してやがる!」
私に槍を突き刺した冒険者に抱きつき、笑う。
「クソがっ! 離しやがれ!」
ああ、身体が熱いまるで全身が焼かれているようだ。
熱い熱い熱い熱い──
「ガアアアア!! テメエエエエエ!! ハナセッ、ハナセヨオオオオオ!」
そして、私の身体は冒険者諸共溶けるようにその輪郭を失っていき、そこで私の意識は途切れた。
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