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獣人国での冬

230:イリンの活躍

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「これからどうする?」
「……一応俺は今回の討伐隊では部外者なんだけど?」
「気にするな。文句を言う奴なんざいやしねえからよ」

 いつのまにか周りに集まってきていた他の熟練と言えそうな冒険者達。その若干後ろにいるのはギルドの職員かな?

「つってもやることなんてないだろ? 援軍が来るまで警戒を続けて、できれば情報を集める。それでお終いだろ」
「まあ、そりゃそうなんだが──」

 スキットが俺の言葉に同意を示そうとしたが、それは他の冒険者の声によって邪魔された。

「敵襲! 敵の増援がきたぞ!」
「チッ。落ち着いて話し合いもできやしねえな」

 俺は、はあ、とため息を吐いて立ち上がり目の前の森に視線を向けると、犬や猫系などの動きの速い魔物がある程度の距離を開けながら迫ってきていた。

 そんな魔物たちを目にして、つい顔をしかめてしまった。

「……敵も考えたな。面倒な……」
「どうした?」
「こうも散らばってちゃまとめて片付けるのも難しい。俺のアレは広げるまでに時間がかかるから素早い相手だと効果が薄いんだよ」

 小さな渦だったらすぐにでも作れるが、さっきみたいに大群をまとめて片付ける程度の大きさだとそれなりに時間がかかる。そして、そんな時間をかければ、今迫ってきている敵はすぐに渦の範囲外に出てしまうだろう。
 先読みして設置してもいいけど、それはそれで面倒だ。

「ご主人様、私にお任せください!」

 どうしたものかと悩んでいると、イリンが胸に手を当て一歩踏み出しながら気合の入った声でそう言ってきた。

「イリン? 大丈夫なのか?」
「はい! ご主人様はそのままお話を続けてください。……ただ、動きを止めることはできますが完全に破壊するのは時間がかかるので、とどめは冒険者の方々にお任せしたいのですが、お願いできますか?」

 イリンがチラリとスキットの方に視線を投げかけると、スキットもそれに気がついたようで頷いた。

「ああ、その程度なら疲れてても出来るだろうよ」
「でしたらお願いできますか?」
「おう。任せとけ」

 スキットの了承を聞くと、イリンは若干不安そうにしながら俺に向き直った。
 不安そうなのは、多分、俺の命令じゃないのに勝手に話を進めたからだろうか?

「ご主人様。よろしいでしょうか?」
「……気を付けろよ」
「はい! それでは、行ってまいります!」

 敵は最初よりは少ないとはいえ、それでも危険である事に変わりはない。対アンデット武器も持ってないし、倒すと言ってもそう簡単なことではない筈だ。
 だがそれでも、俺はイリンを止める事はしなかった。

「……大丈夫なのか?」
「さあな」
「は? さあなってお前! いいのかよ!?」

 スキットが大声を上げて俺を問い詰めるが、俺はそんなスキットに動じる事なく既に敵と交戦しているイリンの背中だけを見ていた。

「ああ、イリンが──好きな子がやるって言ったんだ。だったら信じて待っててやるべきだろ」

 当然失敗した時にはフォローはするし、なんかやらかしたとしても怒ったりなんてしない。それに、できることなら危険なことはやめて欲しい。

 けど、本人がやるって言ったんだ。だったら待っててやるさ。

「……はあ、そうかよ。なら話を戻すぞ……犯人探しはどうする? 俺たちの中にいるんだろ?」
「かもしれない、って可能性だけどな。普通に森の中に潜んでる事だってある。どのみち、犯人なんてどうやって探せばいいかわからないし、どうしようもないだろ。まあ、仲間内に裏切り者がいるかどうかは、街に戻って嘘感知の魔術具を使えば分かるだろ」

 話は再び今後の行動についてに戻ったが、ぶっちゃけ特に話すことはないんだよなぁ。

「……じゃあ、一応残ってる奴らを全員を軽く調べて名簿でも作っておくか」

 なるほど。そうしておけば調査も早く済むだろうし、調べ始めてから逃げた奴がいればそいつが怪しいとわかるか。

「そうだな。だから後はゆったり気張り過ぎずに休んでればいいんじゃないか?」
「だな。おい。全員一か所に集めてくれ。何人かは全体を監視して、反抗する奴、これからこの場所から逃げようとした奴は問答無用出捕まえていい。だが、出来れば生かして捕まえろ。何か吐くかもしれないからな。……っつーわけで行動開始だ!」

 スキッゾはここにいる冒険者の中でもそれなりに力があるのか、みんな文句を言わずに動き出した。

「じゃあ、なんかあったまた頼るかもしれんが、それまで寛いでてくれ」
「何にもないことを祈ってるよ」

 だが、やはりと言うかなんというか……結局そのまま終わることはなく騒ぎは起きた。

「……なんだ?」
「あん? なんだありゃ? ……何かが地面を這ってんのか?」

 そうして警戒しながらも戦場を眺めていると、だんだんと何が起こっているのかが理解できた。

「……ありゃあ流石に不味くはねえか?」

 出来上がったのは周辺にあった死体を集めて形成した、巨大な人型の怪物だった。
 その体は、基本的には骨と肉でできていたが、所々に人の顔らしきものが見える。見ているだけで気分が悪くなりそうだ。

 そして、そんな化け物が三体、戦場に現れた。

「おい! 嬢ちゃんを下げろ! 流石にアレを一人で相手させんのは無理だ!」

 スキットはそう言って慌ててるけど、正直俺にはそんなに慌てるようなことではないように思えて仕方がない。
 理由としては、今までの戦いを見てそう思ったのだが、それとは別に、何というかイリンなら何とかするっていう安心感があるんだよなぁ。

「おい! 信じてるとか言ってる場合じゃねえ! 早くしねえと──」

 ドオオオォォォォオン!!

「……は?」

 轟音を響かせながら倒れる巨大な怪物。見ると、腰のあたりで二つになっている。
 そして、それをやったのは、当然ながらイリンだった。

 ……大丈夫だとは思ってたけど、まさかこんなにだとは思わなかったな……

 倒すとは思ってたけど、それはそれなりに時間をかけてのことだと思ってた。足元から少しづつ削っていくとか、動き回って同士討ちさせるとか。俺が思ってたのはそういう倒し方だ。
 多分あの倒し方だと、あの折れてる部分に一撃入れただけだろう。

 本当に、まさか、だ。

 ……イリンと戦う事になったら負けそうな気がするんだが気のせいだろうか?

 若干の冷や汗を書きながらそんなことを考えていると、イリンは倒れた怪物の頭に追撃を叩き込んでから次の怪物へと近寄り、再び轟音を立てながら倒した。

 そして最後の怪物をに一撃を入れると……

「あ……」
「おい、こっちにきてんぞ!?」

 最後だと思って油断したのか、イリンが倒した怪物は俺たちのいた場所に近かったこともあってちょうど俺の上に落ちてくるように吹き飛んだ。

「きゃああああああ!」

 こちらに怪物の残骸を飛ばしてしまったイリンは、悲鳴を上げながら走ってここに戻ってこようとしているが、最初ほどの速さはない。多分戦闘で疲れたんだと思う。

 走っているイリンは間に合わないが、むしろその方がいい。イリンが対処するとしたら、思い切り弾くくらいだろう。その場合は俺以外の奴らに余計な被害が出る。だから俺が対処した方が良いのだ。

 これだけの大きさのものを収納できる渦を作るには時間が足りないが、問題無い。

「……よっ、と」

 だったら直接触って収納するだけだ。そうすれば、余計な被害なんて出る心配がない。
 俺は身体強化の魔術を使うと怪物の残骸に向かって飛び上がり、触れる。
 怪物は、俺が触った瞬間に収納され、跡形もなく消え去った。
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