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獣人国での冬
225:救援
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今日の正午のもう一話投稿しますので、よかったらそっちもどうぞ。
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「現在大規模討伐作戦に出ている冒険者たちの救援準備が行われております。申し訳ありませんが、急ぎの御用でなければお待ち下さい」
ギルドで受付から説明を聞き叫んだシアリスに対して、受付の女性は抑揚のない事務的な言葉を返してきた。
「だから! 救援とはどういうことですか! なぜそのような事にっ!」
だが、そんな説明で納得できるはずもなく、シアリスは再び叫んで女性を問い詰める。
「今年の敵は獣系の魔物だったはずです。よほどの事がなければ救援など必要はないでしょう? だというのに、何故救援などということになっているのですか!?」
俺は今回の討伐隊の事をギルドに直接確認したわけではなかったが、ケイノアが言っていた限りでは出現する魔物は狼や猿などの獣系の魔物であったはずだ。
で、あるのなら、敵は冒険者たちにとっては普段からよく戦う相手であり、予想よりも数が多かったところで救援など必要ないはずだ。
「確かに獣系の魔物が敵だと判断されていました。実際最初はその通りだったようです。ですが、どうしてそうなったのかわかりませんが、昨日、敵はアンデットになって討伐隊を襲いました」
「アンデット!? 何故アンデットがっ!」
「原因は不明です。ひとまずは援軍を送り事態の収拾を行い、その後に調査となります。その結果はのでしばらくお待ち下さい」
受付の女性の言葉は最初よりも硬くなり、語気も強まっている気がする。多分、食い下がるシアリスにイラついているんだと思う。
まあ問題なく終わると思われていたのに突然救援要請があって、ギルドとしても混乱している忙しい時にクレーマーが来たら、俺だってキレる可能性がある。
「ならその援軍はどうなっているのです! 事態の収拾というのなら早く動きなさい! ここにいる冒険者達を送ればいいではありませんか!」
普段は見せない高圧的な態度のシアリスに、俺はそのあまりの違いから違和感を感じてしまった。
だがしかし、今はそんな違和感にかまっている場合じゃない。そろそろシアリスを止めないと面倒な事になりそうな気がする。業務妨害とか救援の邪魔をしたとか言って罰せられる事だってあるだろう。
「こちらとしても出来る限りの対応はしております。中途半端な援軍を送ったところで、余計危険が増すだけです。今は対アンデットに秀でた者を集め、揃ったところで一気に方をつける方針で動いております」
「何を悠長な事を──」
「シアリス。落ち着け」
俺は問題が起きる前にシアリスの肩に手を置き、彼女と受付の女性の間に入って話を止めにかかる。
「忙しいところすみませんでした。討伐隊にこの子の姉が行っているので心配なのです。俺たちも冒険者なので、必要になったらいつでも出られるように準備してますね」
「……ええ、その時は期待してます」
受付の女性のその表情は、お前たちに何が出来るんだ、と言わんばかりのものだった。これでも俺、大会で優勝したんだけどな……
まあ、忙しいところにクレーマーの相手をして苛立っていたんだろう。今の俺の装備はすごく簡素なものだし、それも相まってたんだろうと納得しよう。
「シアリス、こっちに来てくれ」
俺は受付の女性に食いかかってたシアリスの手を引いてギルドの端の方に寄った。
そこで離し始めようと思って振り返ると、パシッとシアリスの事を掴んでいた手を振り払われた。
「何をするのですか! あなたは状況をわかっているのですか!?」
「大丈夫だ。ギルドだってすぐに援軍を出すはずだし、ケイノアだってそう簡単にやられるようなやつじゃないんだろ? むしろ敵を全て片付けて調子に乗ってる可能性も──」
「違う! そんな可能性なんてありません!」
落ち着かせようとしたのだが、どういう事かシアリスは頭を激しく横に振り俺の言葉を否定する。
「あなたは何もわかっていない。お姉様では勝てるはずがないのです!」
「どういう事だ? だってあいつは眠りの魔術が……いや、待て。敵は、アンデット?」
アンデット。つまりは死者だ。動いていたとしても、その体は死んでいる。そんな奴に『眠り』なんてものが効くのか?
「そうです。アンデットに眠りの魔術は効きません! だからお姉様を助けに行かないといけないのです!」
「だが、だとしてもあいつは天才なんだろ? だったら……」
「お姉様、眠りの魔術を使わない単純な戦闘能力で言ったら、一般的なエルフより少し出来る程度でしかありません! アンデットの大群を相手にすることなどできないのです!」
「なんっ……!」
まさか……だとしたらかなりやばい状況じゃないか?
「だからすぐにでも助けに行かないといけないと言っているのですっ!」
憤りを露わにしたシアリスはその場から去ろうとしたが、俺はその腕を掴んで引き止めた。
「……アンデットが現れたのが昨日の夜からだとして、ケイノアはどのくらい持つと思う?」
「その前にどの程度眠りの魔術を使ったかによって変わりますが、もって後一日です。ですが、それがどうしたというのです。あなた方に助けを期待した私が間違っていました。私はお姉様の元に行きます」
「待て! お前はアンデットに効果のある何かを持っているのか?」
アンデットを倒すには特殊な魔術や魔術具が必要になる。それをもっていなければ、救援に行ったところでミイラとりがミイラになんてことになる。だからこそギルドもまだ動けていないわけだし。
「……だからどうしたというのです。あなたには関係ないでしょう。邪魔です。その手を離しなさい!」
シアリスはそう言うと腕を掴んでいた俺の手を振り払い走り去っていった。おそらく、いや、確実にケイノアを助けにいったのだろう
俺は走り去っていったシアリスの背を見送って、これからどうするべきかその場で考え始める。が、その考えも一瞬で終わった。
俺はさっきの受付に近づき話しかける。
「少しいいか?」
「はい? ……また貴方ですか。どうしました? 見たところ装備もまだ整っていないようですが。まさかその格好が貴方の万全だと──」
「援軍が向こうに到着するのはいつになる」
またきたのか、と露骨に苛立ちを見せる女性の言葉を遮って、俺は必要な事を聞く。
自分の言葉を途中で止められた事が不愉快だったのか、女性は顔をしかめたが、受付としてのプライドからか質問にはしっかりと答えてくれた。
「……早くとも明日の昼です。もっとも、それはなんの問題もなく事が進んだ場合ですが。実際にはもっと遅くなるでしょう」
「そうか。ありがとう」
それだけ言って踵を返し受付を後にした。
「いかがいたしますか?」
すると、今まで無言だったイリンが俺の後ろを歩きながら問いかけてきた。
だが、その答えは決まっている。そしてそれは、イリンも分かっているのだろう。
「助けに行く。イリンは──」
「もちろん、ご主人様と共に参ります」
最後まで言い切る事前に告げられたイリンの答え。
俺のことを見ている眼は蘭々と輝き、戦意に満ち溢れている。イリンもそれだけケイノアの事が気になっているのだろう。
「なら、一緒にあのバカを助けに行こうか」
「はい!」
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「現在大規模討伐作戦に出ている冒険者たちの救援準備が行われております。申し訳ありませんが、急ぎの御用でなければお待ち下さい」
ギルドで受付から説明を聞き叫んだシアリスに対して、受付の女性は抑揚のない事務的な言葉を返してきた。
「だから! 救援とはどういうことですか! なぜそのような事にっ!」
だが、そんな説明で納得できるはずもなく、シアリスは再び叫んで女性を問い詰める。
「今年の敵は獣系の魔物だったはずです。よほどの事がなければ救援など必要はないでしょう? だというのに、何故救援などということになっているのですか!?」
俺は今回の討伐隊の事をギルドに直接確認したわけではなかったが、ケイノアが言っていた限りでは出現する魔物は狼や猿などの獣系の魔物であったはずだ。
で、あるのなら、敵は冒険者たちにとっては普段からよく戦う相手であり、予想よりも数が多かったところで救援など必要ないはずだ。
「確かに獣系の魔物が敵だと判断されていました。実際最初はその通りだったようです。ですが、どうしてそうなったのかわかりませんが、昨日、敵はアンデットになって討伐隊を襲いました」
「アンデット!? 何故アンデットがっ!」
「原因は不明です。ひとまずは援軍を送り事態の収拾を行い、その後に調査となります。その結果はのでしばらくお待ち下さい」
受付の女性の言葉は最初よりも硬くなり、語気も強まっている気がする。多分、食い下がるシアリスにイラついているんだと思う。
まあ問題なく終わると思われていたのに突然救援要請があって、ギルドとしても混乱している忙しい時にクレーマーが来たら、俺だってキレる可能性がある。
「ならその援軍はどうなっているのです! 事態の収拾というのなら早く動きなさい! ここにいる冒険者達を送ればいいではありませんか!」
普段は見せない高圧的な態度のシアリスに、俺はそのあまりの違いから違和感を感じてしまった。
だがしかし、今はそんな違和感にかまっている場合じゃない。そろそろシアリスを止めないと面倒な事になりそうな気がする。業務妨害とか救援の邪魔をしたとか言って罰せられる事だってあるだろう。
「こちらとしても出来る限りの対応はしております。中途半端な援軍を送ったところで、余計危険が増すだけです。今は対アンデットに秀でた者を集め、揃ったところで一気に方をつける方針で動いております」
「何を悠長な事を──」
「シアリス。落ち着け」
俺は問題が起きる前にシアリスの肩に手を置き、彼女と受付の女性の間に入って話を止めにかかる。
「忙しいところすみませんでした。討伐隊にこの子の姉が行っているので心配なのです。俺たちも冒険者なので、必要になったらいつでも出られるように準備してますね」
「……ええ、その時は期待してます」
受付の女性のその表情は、お前たちに何が出来るんだ、と言わんばかりのものだった。これでも俺、大会で優勝したんだけどな……
まあ、忙しいところにクレーマーの相手をして苛立っていたんだろう。今の俺の装備はすごく簡素なものだし、それも相まってたんだろうと納得しよう。
「シアリス、こっちに来てくれ」
俺は受付の女性に食いかかってたシアリスの手を引いてギルドの端の方に寄った。
そこで離し始めようと思って振り返ると、パシッとシアリスの事を掴んでいた手を振り払われた。
「何をするのですか! あなたは状況をわかっているのですか!?」
「大丈夫だ。ギルドだってすぐに援軍を出すはずだし、ケイノアだってそう簡単にやられるようなやつじゃないんだろ? むしろ敵を全て片付けて調子に乗ってる可能性も──」
「違う! そんな可能性なんてありません!」
落ち着かせようとしたのだが、どういう事かシアリスは頭を激しく横に振り俺の言葉を否定する。
「あなたは何もわかっていない。お姉様では勝てるはずがないのです!」
「どういう事だ? だってあいつは眠りの魔術が……いや、待て。敵は、アンデット?」
アンデット。つまりは死者だ。動いていたとしても、その体は死んでいる。そんな奴に『眠り』なんてものが効くのか?
「そうです。アンデットに眠りの魔術は効きません! だからお姉様を助けに行かないといけないのです!」
「だが、だとしてもあいつは天才なんだろ? だったら……」
「お姉様、眠りの魔術を使わない単純な戦闘能力で言ったら、一般的なエルフより少し出来る程度でしかありません! アンデットの大群を相手にすることなどできないのです!」
「なんっ……!」
まさか……だとしたらかなりやばい状況じゃないか?
「だからすぐにでも助けに行かないといけないと言っているのですっ!」
憤りを露わにしたシアリスはその場から去ろうとしたが、俺はその腕を掴んで引き止めた。
「……アンデットが現れたのが昨日の夜からだとして、ケイノアはどのくらい持つと思う?」
「その前にどの程度眠りの魔術を使ったかによって変わりますが、もって後一日です。ですが、それがどうしたというのです。あなた方に助けを期待した私が間違っていました。私はお姉様の元に行きます」
「待て! お前はアンデットに効果のある何かを持っているのか?」
アンデットを倒すには特殊な魔術や魔術具が必要になる。それをもっていなければ、救援に行ったところでミイラとりがミイラになんてことになる。だからこそギルドもまだ動けていないわけだし。
「……だからどうしたというのです。あなたには関係ないでしょう。邪魔です。その手を離しなさい!」
シアリスはそう言うと腕を掴んでいた俺の手を振り払い走り去っていった。おそらく、いや、確実にケイノアを助けにいったのだろう
俺は走り去っていったシアリスの背を見送って、これからどうするべきかその場で考え始める。が、その考えも一瞬で終わった。
俺はさっきの受付に近づき話しかける。
「少しいいか?」
「はい? ……また貴方ですか。どうしました? 見たところ装備もまだ整っていないようですが。まさかその格好が貴方の万全だと──」
「援軍が向こうに到着するのはいつになる」
またきたのか、と露骨に苛立ちを見せる女性の言葉を遮って、俺は必要な事を聞く。
自分の言葉を途中で止められた事が不愉快だったのか、女性は顔をしかめたが、受付としてのプライドからか質問にはしっかりと答えてくれた。
「……早くとも明日の昼です。もっとも、それはなんの問題もなく事が進んだ場合ですが。実際にはもっと遅くなるでしょう」
「そうか。ありがとう」
それだけ言って踵を返し受付を後にした。
「いかがいたしますか?」
すると、今まで無言だったイリンが俺の後ろを歩きながら問いかけてきた。
だが、その答えは決まっている。そしてそれは、イリンも分かっているのだろう。
「助けに行く。イリンは──」
「もちろん、ご主人様と共に参ります」
最後まで言い切る事前に告げられたイリンの答え。
俺のことを見ている眼は蘭々と輝き、戦意に満ち溢れている。イリンもそれだけケイノアの事が気になっているのだろう。
「なら、一緒にあのバカを助けに行こうか」
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