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獣人国での冬

204:魔術具の講義

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「いや~、それにしても、やっぱり家具のある家っていいわね!」

 ケイノアがリビングにあるソファに寝そべりながらそんなことを言っている。
 なんで俺の家なのに家主以上に寛いでんだろうな、こいつ。

「お前、自分の部屋に戻れよ。何のために部屋を貸してやってると思ってんだよ」

 ソファーに横になっているケイノアを見下ろしながらそう言ったが、ケイノアは動く気がない様だ。

「え~、だって私の部屋にはまだ何にもないし~。……ってそうだったわ! ねえねえ、私の部屋はいつになったらベッドが届くの?」
「は? 何言ってんだ? お前のベッドなんて知るか。自分で確認しろ」

 何で俺がこいつの頼んだものを知ってると思ったんだよ。そんなの俺が知るわけないだろうに。

「だって私どこに頼んだか知らないわよ?」
「……お前、それでどうやって注文したんだよ」
「へ? 私が注文するわけないじゃない。貴方がしてくれたんでしょ?」

 は? 何言ってんだこいつは? 俺は家具を注文したが、それは俺とイリンの分だけだ。

「お前のベッドなんて注文してないぞ」
「……え? ……な、何でよ!」
「いや、何でって言われても……必要だと思わなかったから?」

 元々ケイノアには部屋を貸してやるとは言ったが、身内判定はしてなかったので、家具を注文するときの意識の中になかった。

「必要に決まってるじゃない! 私はお客様よ!? お客様にこのまま床で寝ろって言う気なの!?」

 考えてみれば、いろいろ理由はあるが、こいつは客人になるのか。確かに客を床で寝させるのはどうなんだ? って感じだな。……客にしては態度が大きすぎる気がするがな。

 だがどうしたものか、今から注文したとしても、今度は割り込みなんて出来ないから完成はだいぶ先になるぞ。どうしたものか……

 いや、待てよ。ベッドが無いわけじゃないか。
 俺が家具を注文するにあたって、元々置いてあった家具は新しく作った物と雰囲気が合わなかったので、俺の収納の中に入っている。
 本当はこれから旅する時に使おうと思ってたんだが、それをそのまま渡せば問題はない。新しい物と合わないと言っても、ケイノアに使わせるだけなら大丈夫だろう。

「確かにお前の言う通りだな。ベッドは用意しよう」
「ほんと!? ふ、ふふん! 良い心がけじゃない。まあ今回は許してあげ──」
「ただし、俺の願いを聞いてくれたら、だ」

 最初からあった物とは言っても、折角だし活用させてもらおう。

「……願い?」
「そうだ。前に言っただろ? お前の知識が欲しいって」
「……そういえば、そんなことを言われたような気が、しないこともない、かも?」

 ……こいつはもう依頼の件のことを忘れてるのか?

「言ったんだよ。とにかく手伝え」
「面倒だけど、それでベッドが貰えるなら仕方ないわね。……ちゃんと用意してよ?」
「分かってるよ。……で、これなんだが、間違ってないか? それと、もっと効率化するにはどうすれば良い?」

 ケイノアが寝そべるソファーの対面に俺が腰を下ろすと、即座に俺の目の前にお茶が置かれた。
 俺はお茶を置いてくれたイリンに軽く頭を下げてから、以前設計した装飾品型収納具の設計図を収納から取り出してケイノアに渡す。

「……うっわ、何よこれ。作った奴バカじゃないの?」

 受け取ったケイノアは、それを見ると途端に顔を顰めながらそう言った。
 だが言葉には気をつけてくれ。今お茶を持ってきたイリンが、恐ろしい笑顔でお前の事を見てるぞ。

「……どこか間違いがあるのか?」
「いいえ、間違いは無いわ。ただ、詰め込みすぎね。見た限り問題は無いし、効率だけで言ったら結構いいけど……これ確認するのは目が疲れるわ。こうして見てるだけで嫌になってきたもの」

 ああ、バカってそういう……。
 俺の設計した収納の魔術具の設計図は、日本で見たときの集積回路の様に隅々まで書き込まれていて、かなりごちゃごちゃしている。実際作ってる時に自分でも何度か間違えた。



「……ふぅ~。ああ~、目が痛い~」
「お疲れさん。で、間違いとかはあったか?」
「無いわね。これ作ったのあんた? 結構やるじゃない」

 作ったのは俺だが、元になった知識は俺たち勇者を喚んだ魔術師のものだから全部俺が作ったとも言い難い。まあそこに電子基板風アレンジを加えたのでこの世界のやつには作れないだろうし、俺が作ったと言ってもいいのだろうか?

「でもこれ、このままじゃ使い物にならないわよ。今普及してる収納の鞄の方が魔力の消費量的に使い勝手が良いもの」
「……そうか。どうすれば実用化まで持っていける?」
「その前に聞きたいんだけど、これ、契約は掛けないの?」

 契約? この場合は俺が王国で王女とやった様に人と人を縛るものではないだろうな。でもそうすると、何と何を縛るものなんだ? 人と道具か?

「なんだ、契約って?」
「何言ってんのよ? 魔術具を効率的に使うための方法に決まってるでしょ? ……って、まさかこれもでは知られてないの?」
「ああ。少なくとも俺は知らない」

 知識の元になった王国一の魔術師でさえ知らないんだから、そこらへんの奴が知ってるって事はないだろう。

「察するに、魔術具と人を契約で繋げて、契約者しか使えなくなる代わりに魔術具が強化される、もしくは消費魔力が減って使いやすくなるってところか?」
「ええ、分かってるじゃない。そこまで分かってるのに、ほんとにないの?」
「ああ、無いな。……で、肝心の方法は?」

 俺が知ってるのは単なる漫画とかの知識だし。知識、というか経験から導き出される予測だ。
 ケイノアは、イリンの出したお茶をズズーっと飲んでから一息つく。

「ふぅ……簡単よ。紙とペンちょうだい」

 ケイノアは、サラサラとなんでもないかの様にそれなりに複雑な魔術を紙に書いていく。少なくとも俺はこれを見ないでかけって言われたら無理だ。

「これの上に魔術具を置いて契約者の血を垂らして魔術を起動させるの。それでおしまい。簡単でしょ?」
「なら先に魔術具を作らないといけないって事か」
「ええ。でも設計図はこれで良いと思うわよ。これ以上は細かく出来ないと思うし」
「そうか。ありがとう
「えっ、そ、そうかしら? ふふっ。……か、感謝するならベッドを寄越しなさい! それでいいわ!」

 面と向かって感謝されたからか、どこか照れた様にそう言うケイノア。

「ああ、感謝してる。ベッドは部屋に持ってっとくよ」

 俺はそれだけ言うと立ち上がり、ケイノアの部屋にベッドを置いてから自分の部屋に戻っていった。
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