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獣人国での冬

194:新居に招待

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「着いたぞ。ここが俺たちの家だ」

 受け取ったばかりでまともに使った事のない家を「自分の家だ」というのは、なんというか違和感があるな。

「へぇ~、ここ。……収納具なんて報酬にするぐらいだから、もうちょっといいところに住んでるものかと思ってたんだけどね~」
「文句があるなら帰っていいぞ」
「ああ、うそうそ! 素敵なお家ね!」

 慌ててゴマを擦り始めたケイノアを無視して、俺たちは門を潜り家の扉を開けた。

 中に入ると、何もない空間が広がっている。

「なによ。何にもないじゃない。本当にここに住んでるの?」
「住んではいないなぁ。なにせまともに入ったのは今日が初めてだし」

 客を迎えるには相応しくないが、こればっかりは仕方がない。というか、こいつを客に数えても良いのか少しだけ疑問だな。

「は? ……じゃあなに? 貴方達まだこの家で寝泊りしたことないの?」
「まあ今日来たばかりだからな」

 さっきそう言っただろうに。こいつはなにを聞いてたんだ?

「……そう」

 だが、それを聞いたケイノアは片手を腰に置き、もう片手を口元に当てて何かを考え込んでいる。
 すると、その考えに答えが出たのかニヤリと笑った。

 それを少しだけ不思議に思ったが、考えてもわからなかったので気にしないことにした。何かしたら追い出せば良いだろう。

「お前の部屋は二階だな」
「は~い」

 先ほどまでとは若干様子の違うケイノアを伴い、俺たちは二階に上がっていった。

「ここなら好きに使ってくれて構わない」
「……やっぱりここにも何もないのね」

 俺たちが使う予定のない部屋に案内したが、家具があったのはメインであろう一番良い部屋だけだったのだから、その案内した部屋には当然ながら何もない。

 さて、とりあえずこいつはコレでいいとして、俺たちはどうするか。もう今日中にやる事は終わってるし……ああでも、家具を頼むための設計図というか、採寸とデザインがあったな

「じゃあこの部屋は使っていいが、ほかの部屋には入るなよ。まあそうは言っても入ったところで何もないけどな」
「ちょっと、布団はどうすればいいのよ?」
「なくても寝られるだろ? 一番安い宿の雑魚寝部屋なんてこんなものだろ。宿代を取らないだけマシだと思え」

 雑魚寝部屋とか実際に泊まったことはないから本当かは知らないけど。
 ああいうのは金がなくても泊まらないほうがいいらしい。ほかのやつに襲われる可能性もあるし、物を盗まれる事もあるという事だ。
 本当に金がなければ仕方がないが、路地で野宿するよりはマシ程度のものらしい。それを知っている奴は多少の食事を切り詰めてもまともな宿を取るのだという。
 そんな場所にエルフの女が泊まったらどうなるか。まあ予想としては何かしらが起こるだろう。

「うう~、仕方ないわね。……ああ、なんでこんなにお金がないのかしら」
「全部使うからだろ。あと働かないから」

 能力はあるみたいだから、まともに冒険者として働けばいいのにな。

 俺はそれだけ言うと、イリンと共に部屋の外に出て一階に降りていった。



「……一応こんなもんか」
「はい。ひとまずのところは揃う筈です。あとは実際に暮らしてみて足りないようでしたら追加すれば良いかと」
「だな」

 一通りの家具の注文を書き終えて一息つくと、突然探知の中に誰かが入ってきた。
 普段はそれほど探知を広げていないので、その中に入ってくるとなるとそれなりに近づいていることになる。
 もっと深く調べればどんな見た目かまで分かるが、今から調べる時間はないだろう。

 誰だ? と思って振り向くと、ガチャリと玄関が開いてケイノアが入ってきた。

「あれ? お前出かけてたのか?」
「そうよ。宿にキャンセルに行ってたの。あとちょっと買い物ね」

 だが、ケイノアは特に何かを持っているようには見えない。

「お前金がないんじゃなかったのかよ」

 まさか、更に借金して大物を用意したんじゃないだろうな? と、つい顔をしかめてしまう。

「ええ。でもここに住むんなら宿代がかからないでしょ? だったらその分使っても良いじゃない」

 ……そんな考えだから借金なんてするんだよ。貯めるって考えはないのか? ないんだろうな。

「で、買ったものはどこだ? まさかとは思うが、俺宛ての請求とか来ないよな?」
「収納魔術のなかよ。……でも、言われてみればその手があったわね。もっと早く気づけばよかったわ。そうすればあんなに悩む必要なんてなかったのに」
「そんなことしたら、お前を届いた商品と一緒にこの家から追い出してるから安心しろ」

 もちろん請求はケイノア宛てに変更したうえでだ。絶対にこいつの買い物に金なんて払わないぞ。まあ、届いた物の中に必要なものがあったらこっちで買い取っても良いが。

「ふふん! そんな事を言ってられるのも今のうちよ! 明日になったらアッと驚かせてあげるんだから!」

 哀れになるほどの残念な胸を張って宣言するケイノア。付き合いは短いのに、それだけでなんとなくだがこいつの企みは失敗するんじゃないかと思えるから不思議だ。

「何しようとしてるんだ? おかしな事じゃないだろうな?」
「フン! そんなの言うわけないじゃない」
「イリン」
「はい」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私まだ何もしてないじゃない! 理不尽すぎるでしょ!?」

 ケイノアは耳を押さえながら抗議する。
 だがまあ、確かにな。『まだ』ではあるが、ケイノアは何もしていない。

「……何か俺達に迷惑かけたら叩き出すからな」
「そんな時は来ないから安心してなさい!」

 ……不安しかない。
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