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獣人国での冬
190:お断りさせていただきます
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「なんとか言いなさいよ!」
部屋の中にいたのは、金色の長い髪に蒼い瞳をした綺麗な少女。その耳は腰まで伸びる髪に隠される事なくピンと尖っている。見た目で決めつけるのは良くないと思うが、まあエルフで間違い無いだろうと思う。これは召喚時に与えられた脳内辞典がなかったとしても間違う事はないだろうと確信できる。
そんなエルフの少女は、その整った顔を怒りに染めて仁王立ちしている。
「……えっと、何か話しました?」
「は、はい。本日アンドウ様がお会いになられるという事と、昨日言っていた破棄の件についてあらかじめ説明をしておいたほうがいいかと思いまして、それを……」
俺たちをこの部屋まで案内してくれた職員の女性に聞いてみるが、彼女の言葉は途中で遮られた。
「あんた! 私が受けた依頼を勝手に破棄しようとするなんて、ちょっと冒険者をバカにしてんじゃ無いの!?」
確かに誰かが受けた依頼を依頼主の都合で勝手に破棄するというのは自分勝手すぎる。冒険者をバカにしていると言っても過言では無い。……ないのだが、少しぐらいこっちの話を聞いて欲しいと言うのは贅沢だろうか?
「あの、アンドウ様は──」
「ああ、大丈夫です。後はこっちでなんとかしますので、貴女は仕事に戻っていただいて構いませんよ」
「……分かりました。では失礼いたします」
エルフの少女を抑えようとしてくれた職員の女性を下がらせる。このままここにいても彼女の時間を無駄にするだけだろう。
「とりあえず座りましょうか」
俺は少女を落ち着かせるために一旦話を切ろうと、部屋に備え付けられているソファに座る。
向こうもそんな俺の行動を見て対面に座ったが、その顔は未だ険しく、俺を睨みつけている。
「で、依頼についてですが……」
俺がそう言うと、よほど言いたい事があったのだろう。目の前のエルフ少女はダンッと机を強く叩きつけた。
「~~~っ!」
だが、自分で叩きつけておいて痛かったのだろうか。叩きつけた拳を自分の方に引き寄せて若干涙目になりながらさすっている。
……なんだかこのエルフ、残念な感じがするんだが気のせいだろうか?
「依頼についてですが──」
「い、依頼の破棄は認めないわよ!」
目の前のエルフ少女は、最初と同じようにそう言って俺の言葉を遮りながら、涙目でこちらを睨みつける。
「こちらも今更依頼を破棄するつもりはありませんよ」
「……そうなの?」
「ええ。破棄、というのは昨日の時点で依頼の受注者がいる事を知らなかったものでして、既に受注者がいるのでしたらしっかりと依頼通りに話を進めるのが筋でしょう」
「そう。そうね。分かっているのならいいのよ!」
どこかホッとしてように呟いてから、腕を組んでふんぞりかえるエルフ少女。
というか、いい加減自己紹介ぐらいしないとだな。いつまでも名前も知らないっていうのは面倒だ。
「ところで、お名前を伺っても? 私は安堂彰人と言います」
「ふ~ん。アキト、ね。いいわ。私の名前を教えてあげる! 私はケイノアよ! ケイノア・ケルヴァーリスが私の名前。しっかり覚えておきなさい!」
ケイノアね。了解っと。
さて、名前がわかったのはいいんだが、これまでの対応からしてなんか傲慢な感じがするな。知識にも種族的にそんな感じだってあるから間違ってはいないだろう。
「それではケイノアさん。依頼した部位の欠損を治癒する方法ですが、それはどのようなものですか?」
「その前に一ついいかしら?」
なんだ? まあ、聞いてみるしかないか。
「どうぞ」
「私が教える方法は一族の秘密なの。正直に言って今回の依頼の対価では割りに合わないわ」
……価値が合わないというのなら、なんで依頼を受けたんだこいつ? 教えないんだったら依頼を受けた意味がないだろうに。
「でしたら──」
「そこで! 私の情報に相応しい対価を要求します!」
ああ、なるほど。つまりは値上げ要求か。
……どうしたものか。昨日考えた通り、保険というのはいくらあってもいい。いざという時のために多少高くなっても聞いとくべきか?
「因みに、今回の依頼の報酬は収納具でしたが、貴女はどんなものが相応しいとお思いでしょう?」
「ふん! 一族の秘密を教えるのよ? 収納具程度じゃ十個あっても足りないわ!」
収納具はいくらでも作れるが、流石にそれはぼりすぎじゃないか? まあエルフの秘密って言うんだからそれなりに価値はあるのかもしれないけどさぁ。
「でも、貴方は怪我をしていないのに欠損の治癒方法を探してるって事は人助けなんでしょ? だったらもっと安くしておいてあげる! ……そうね収納具三つでどうかしら?」
「いきなり下がったな」
おっと。つい口から漏れてしまった。
三つぐらいなら渡したところでどうでもいいんだが、なんというか、どうにも怪しい気がするんだよな。いや『怪しい』というよりは『おかしい』の方があってるか?
「ま、まあね。……それで! どうかしら?」
どうしようか。収納具三つで欠損の治癒っていう保険が手に入るならほしいんだけど……
俺はチラリとケイノアの様子を伺う。
すると、向こうも俺の様子を見ていたのか目があって、その途端に目を逸らされた。
やっぱり何か隠してるよなぁ……。
「そうですね。では──お断りさせていただきます」
「フンッ、そうよね! 受けるわよ……え?」
「今回はご縁がなかったということで」
何かを隠してる奴の頼みを聞くなんて面倒にしかならなさそうだからな。
部屋の中にいたのは、金色の長い髪に蒼い瞳をした綺麗な少女。その耳は腰まで伸びる髪に隠される事なくピンと尖っている。見た目で決めつけるのは良くないと思うが、まあエルフで間違い無いだろうと思う。これは召喚時に与えられた脳内辞典がなかったとしても間違う事はないだろうと確信できる。
そんなエルフの少女は、その整った顔を怒りに染めて仁王立ちしている。
「……えっと、何か話しました?」
「は、はい。本日アンドウ様がお会いになられるという事と、昨日言っていた破棄の件についてあらかじめ説明をしておいたほうがいいかと思いまして、それを……」
俺たちをこの部屋まで案内してくれた職員の女性に聞いてみるが、彼女の言葉は途中で遮られた。
「あんた! 私が受けた依頼を勝手に破棄しようとするなんて、ちょっと冒険者をバカにしてんじゃ無いの!?」
確かに誰かが受けた依頼を依頼主の都合で勝手に破棄するというのは自分勝手すぎる。冒険者をバカにしていると言っても過言では無い。……ないのだが、少しぐらいこっちの話を聞いて欲しいと言うのは贅沢だろうか?
「あの、アンドウ様は──」
「ああ、大丈夫です。後はこっちでなんとかしますので、貴女は仕事に戻っていただいて構いませんよ」
「……分かりました。では失礼いたします」
エルフの少女を抑えようとしてくれた職員の女性を下がらせる。このままここにいても彼女の時間を無駄にするだけだろう。
「とりあえず座りましょうか」
俺は少女を落ち着かせるために一旦話を切ろうと、部屋に備え付けられているソファに座る。
向こうもそんな俺の行動を見て対面に座ったが、その顔は未だ険しく、俺を睨みつけている。
「で、依頼についてですが……」
俺がそう言うと、よほど言いたい事があったのだろう。目の前のエルフ少女はダンッと机を強く叩きつけた。
「~~~っ!」
だが、自分で叩きつけておいて痛かったのだろうか。叩きつけた拳を自分の方に引き寄せて若干涙目になりながらさすっている。
……なんだかこのエルフ、残念な感じがするんだが気のせいだろうか?
「依頼についてですが──」
「い、依頼の破棄は認めないわよ!」
目の前のエルフ少女は、最初と同じようにそう言って俺の言葉を遮りながら、涙目でこちらを睨みつける。
「こちらも今更依頼を破棄するつもりはありませんよ」
「……そうなの?」
「ええ。破棄、というのは昨日の時点で依頼の受注者がいる事を知らなかったものでして、既に受注者がいるのでしたらしっかりと依頼通りに話を進めるのが筋でしょう」
「そう。そうね。分かっているのならいいのよ!」
どこかホッとしてように呟いてから、腕を組んでふんぞりかえるエルフ少女。
というか、いい加減自己紹介ぐらいしないとだな。いつまでも名前も知らないっていうのは面倒だ。
「ところで、お名前を伺っても? 私は安堂彰人と言います」
「ふ~ん。アキト、ね。いいわ。私の名前を教えてあげる! 私はケイノアよ! ケイノア・ケルヴァーリスが私の名前。しっかり覚えておきなさい!」
ケイノアね。了解っと。
さて、名前がわかったのはいいんだが、これまでの対応からしてなんか傲慢な感じがするな。知識にも種族的にそんな感じだってあるから間違ってはいないだろう。
「それではケイノアさん。依頼した部位の欠損を治癒する方法ですが、それはどのようなものですか?」
「その前に一ついいかしら?」
なんだ? まあ、聞いてみるしかないか。
「どうぞ」
「私が教える方法は一族の秘密なの。正直に言って今回の依頼の対価では割りに合わないわ」
……価値が合わないというのなら、なんで依頼を受けたんだこいつ? 教えないんだったら依頼を受けた意味がないだろうに。
「でしたら──」
「そこで! 私の情報に相応しい対価を要求します!」
ああ、なるほど。つまりは値上げ要求か。
……どうしたものか。昨日考えた通り、保険というのはいくらあってもいい。いざという時のために多少高くなっても聞いとくべきか?
「因みに、今回の依頼の報酬は収納具でしたが、貴女はどんなものが相応しいとお思いでしょう?」
「ふん! 一族の秘密を教えるのよ? 収納具程度じゃ十個あっても足りないわ!」
収納具はいくらでも作れるが、流石にそれはぼりすぎじゃないか? まあエルフの秘密って言うんだからそれなりに価値はあるのかもしれないけどさぁ。
「でも、貴方は怪我をしていないのに欠損の治癒方法を探してるって事は人助けなんでしょ? だったらもっと安くしておいてあげる! ……そうね収納具三つでどうかしら?」
「いきなり下がったな」
おっと。つい口から漏れてしまった。
三つぐらいなら渡したところでどうでもいいんだが、なんというか、どうにも怪しい気がするんだよな。いや『怪しい』というよりは『おかしい』の方があってるか?
「ま、まあね。……それで! どうかしら?」
どうしようか。収納具三つで欠損の治癒っていう保険が手に入るならほしいんだけど……
俺はチラリとケイノアの様子を伺う。
すると、向こうも俺の様子を見ていたのか目があって、その途端に目を逸らされた。
やっぱり何か隠してるよなぁ……。
「そうですね。では──お断りさせていただきます」
「フンッ、そうよね! 受けるわよ……え?」
「今回はご縁がなかったということで」
何かを隠してる奴の頼みを聞くなんて面倒にしかならなさそうだからな。
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