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獣人達の国
156:もう少し
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「そうなんですね」
素直なアルディスは俺の内心や周りの状況がまだ見えていないようで、そう呟いた。
この時ばかりはアルディスの鈍さというか幼さに感謝したい。たとえ一人であっても分からない者がいると救われる。
だが……。
「ではアンドウに兄になってもらうのは無理ですか……」
この時ばかりはアルディスの幼さを恨みたくなった。
「んぐっ⁉︎」
あに⁉︎ 突然何をいうんだこいつは!
兄って事はあれだろ? 自分の姉──つまり王女と俺が結婚しろって事だろ?
やだよそんなん! まだイリンに告白してないし!
いや告白した後ならオッケーってわけじゃないけどね? そもそもハーレムとか求めてないし、好きな人と平穏に暮らしていければそれでいいんだ俺は。
間違っても王女なんかと結婚はしない。
というかそんなことになったら色々面倒なことになりそうだからお断りだ!
「あら? どうしたの?」
クリュテアがそう言いながら隣に座るアルディスを見てそう言ったのだが、何かあったのか?
俺もアルディスのことを見てみると、まるで蛇に睨まれた蛙のようにピクリともしなくなっていた。
その理由はわかる。いやというほどにわかっている。
隣に座るイリンに視線を向けると、そこには貼り付けたような笑顔でいるイリンの姿があった。
そして、その姿からはうっすらと得もいえぬオーラが漂っていた。……そろそろそのオーラが集まって具現化するんじゃないだろうか?スタ○ドみたいな感じで。
イリンは俺の視線に気がつくと、フッとそのオーラを消して俺に笑顔を向けた。
もう一度アルディスの方を見てみると、手を震わせながら息を吐き出していた。
どうやら予想通りにイリンが何かしたようだった。多分殺気をぶつけたとかそんなんだと思うけど、相手は王族なんだからやめてほしい。……俺も王族ぶっ飛ばしちゃったけどさぁ。
そんな感じで何事もなく、とは言い難かった夕食も終えてやっと帰ることができるようになった。
「アンドウ。また話を聞かせてもらえますか?」
そんな風に言ってくれるのは嬉しいんだが、俺としてはできればもう王族なんかと関わりたくない。
だけど、この状況じゃそうも言っていられない。どうせ後何回かは会う事になるんだろうな。
「はい。その時はよろしくお願いします」
「楽しみにしてます!」
その笑顔が少し恨めしい。
「ではクリュテア様。アルディス様。本日はこれにて失礼させていただきます」
「ええ。私もまた会えるのを楽しみにしておりますわ」
城から馬車を出され送られる事になったのだが、少し歩きたい気分だったので、キリーの家ではなく途中で降ろしてもらった。
「っはああぁぁ~。疲れたぁ~。もう行きたくねぇなぁ……」
馬車を見送った後、そう言って思い切り背伸びをしながら俺はぼやく。
本当に疲れた。体力的にはそれほどでもないが、精神的にかなりキた。やっぱり王族なんかと関わり合いになるもんじゃないと、再認識せざるを得ない。
「お疲れ様です」
そんな俺を労うようにイリンが背後から声をかけてきた。
俺はその声に惹かれるように振り向く。そこにはいつもと変わらない大きくなったイリンの姿がある。
「……もう少しだ。もう少しでお前の怪我を治してやれる」
探していた欠損を治す治癒の方法がやっと見つかったんだ。これで俺のせいで傷ついてしまったイリンの怪我を治してやることができる。そうすれば、イリンは魔術具なんて使わなくっても堂々と出歩くことができるようになる。
「……ありがとうございます」
だが、イリンの顔を見ると、いつもの笑みとは違って何か言いたげな微妙なものだった。
本来ならば獣人族にとっては失った尻尾が治るというのはとても嬉しいことのはずだ。それなのに、何故?
「どうかしたのか?」
「いいえ。まさか、これほど早く治る方法が見つかるとは思っていなかったので、驚いてしまいました」
俺だってこんなに早く見つかるとは思っていなかった。もっと、それこそ年単位で探さないと見つからないと思っていた。
それがこんなに早く見つかるなんてツイてるな。
イリンが何を思い悩んでいるのか分からないけど、それでも尻尾の怪我を治す事は間違っていないはずだ。だから、なんとしても俺は大会で勝って、例の一族に認めてもらうんだ。
そうすれば、もっと自分に誇りをもって生きることができるかもしれないから。
そうすれば、イリンにまともに向き合うことができるようになると思うから。
だから……。
「なんとしても勝ってやる」
たとえ身バレをしたとしても構わない。必要となればスキルも『宝』も、なんでも使ってやろう。
もう治癒の方法はわかっているんだ。ここで王国の奴らに見つかったとしても、準備して俺を襲いに来るまでには時間がかかるだろう。その間にはもうイリンの治癒は終わっているはずだ。そうなれば制限をかける必要もない。
今までは、どこにあるかも分からないものを探して情報を集めなくてはいけなかったため、追っ手が来たらその度に場所を移したり、対策を練ったりしないといけなかったので目立たないようにしてきたが、もう違う。
もうそんな事を気にする必要はない。治してしまいさえすれば後はまた何処ぞへと逃げてしまえば良いんだから。
「……もう少しだ」
今度はわざと負けるなんて絶対にしない。
何があっても、誰が相手でも──全力で勝とう。
素直なアルディスは俺の内心や周りの状況がまだ見えていないようで、そう呟いた。
この時ばかりはアルディスの鈍さというか幼さに感謝したい。たとえ一人であっても分からない者がいると救われる。
だが……。
「ではアンドウに兄になってもらうのは無理ですか……」
この時ばかりはアルディスの幼さを恨みたくなった。
「んぐっ⁉︎」
あに⁉︎ 突然何をいうんだこいつは!
兄って事はあれだろ? 自分の姉──つまり王女と俺が結婚しろって事だろ?
やだよそんなん! まだイリンに告白してないし!
いや告白した後ならオッケーってわけじゃないけどね? そもそもハーレムとか求めてないし、好きな人と平穏に暮らしていければそれでいいんだ俺は。
間違っても王女なんかと結婚はしない。
というかそんなことになったら色々面倒なことになりそうだからお断りだ!
「あら? どうしたの?」
クリュテアがそう言いながら隣に座るアルディスを見てそう言ったのだが、何かあったのか?
俺もアルディスのことを見てみると、まるで蛇に睨まれた蛙のようにピクリともしなくなっていた。
その理由はわかる。いやというほどにわかっている。
隣に座るイリンに視線を向けると、そこには貼り付けたような笑顔でいるイリンの姿があった。
そして、その姿からはうっすらと得もいえぬオーラが漂っていた。……そろそろそのオーラが集まって具現化するんじゃないだろうか?スタ○ドみたいな感じで。
イリンは俺の視線に気がつくと、フッとそのオーラを消して俺に笑顔を向けた。
もう一度アルディスの方を見てみると、手を震わせながら息を吐き出していた。
どうやら予想通りにイリンが何かしたようだった。多分殺気をぶつけたとかそんなんだと思うけど、相手は王族なんだからやめてほしい。……俺も王族ぶっ飛ばしちゃったけどさぁ。
そんな感じで何事もなく、とは言い難かった夕食も終えてやっと帰ることができるようになった。
「アンドウ。また話を聞かせてもらえますか?」
そんな風に言ってくれるのは嬉しいんだが、俺としてはできればもう王族なんかと関わりたくない。
だけど、この状況じゃそうも言っていられない。どうせ後何回かは会う事になるんだろうな。
「はい。その時はよろしくお願いします」
「楽しみにしてます!」
その笑顔が少し恨めしい。
「ではクリュテア様。アルディス様。本日はこれにて失礼させていただきます」
「ええ。私もまた会えるのを楽しみにしておりますわ」
城から馬車を出され送られる事になったのだが、少し歩きたい気分だったので、キリーの家ではなく途中で降ろしてもらった。
「っはああぁぁ~。疲れたぁ~。もう行きたくねぇなぁ……」
馬車を見送った後、そう言って思い切り背伸びをしながら俺はぼやく。
本当に疲れた。体力的にはそれほどでもないが、精神的にかなりキた。やっぱり王族なんかと関わり合いになるもんじゃないと、再認識せざるを得ない。
「お疲れ様です」
そんな俺を労うようにイリンが背後から声をかけてきた。
俺はその声に惹かれるように振り向く。そこにはいつもと変わらない大きくなったイリンの姿がある。
「……もう少しだ。もう少しでお前の怪我を治してやれる」
探していた欠損を治す治癒の方法がやっと見つかったんだ。これで俺のせいで傷ついてしまったイリンの怪我を治してやることができる。そうすれば、イリンは魔術具なんて使わなくっても堂々と出歩くことができるようになる。
「……ありがとうございます」
だが、イリンの顔を見ると、いつもの笑みとは違って何か言いたげな微妙なものだった。
本来ならば獣人族にとっては失った尻尾が治るというのはとても嬉しいことのはずだ。それなのに、何故?
「どうかしたのか?」
「いいえ。まさか、これほど早く治る方法が見つかるとは思っていなかったので、驚いてしまいました」
俺だってこんなに早く見つかるとは思っていなかった。もっと、それこそ年単位で探さないと見つからないと思っていた。
それがこんなに早く見つかるなんてツイてるな。
イリンが何を思い悩んでいるのか分からないけど、それでも尻尾の怪我を治す事は間違っていないはずだ。だから、なんとしても俺は大会で勝って、例の一族に認めてもらうんだ。
そうすれば、もっと自分に誇りをもって生きることができるかもしれないから。
そうすれば、イリンにまともに向き合うことができるようになると思うから。
だから……。
「なんとしても勝ってやる」
たとえ身バレをしたとしても構わない。必要となればスキルも『宝』も、なんでも使ってやろう。
もう治癒の方法はわかっているんだ。ここで王国の奴らに見つかったとしても、準備して俺を襲いに来るまでには時間がかかるだろう。その間にはもうイリンの治癒は終わっているはずだ。そうなれば制限をかける必要もない。
今までは、どこにあるかも分からないものを探して情報を集めなくてはいけなかったため、追っ手が来たらその度に場所を移したり、対策を練ったりしないといけなかったので目立たないようにしてきたが、もう違う。
もうそんな事を気にする必要はない。治してしまいさえすれば後はまた何処ぞへと逃げてしまえば良いんだから。
「……もう少しだ」
今度はわざと負けるなんて絶対にしない。
何があっても、誰が相手でも──全力で勝とう。
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