88 / 499
獣人達の国
156:もう少し
しおりを挟む
「そうなんですね」
素直なアルディスは俺の内心や周りの状況がまだ見えていないようで、そう呟いた。
この時ばかりはアルディスの鈍さというか幼さに感謝したい。たとえ一人であっても分からない者がいると救われる。
だが……。
「ではアンドウに兄になってもらうのは無理ですか……」
この時ばかりはアルディスの幼さを恨みたくなった。
「んぐっ⁉︎」
あに⁉︎ 突然何をいうんだこいつは!
兄って事はあれだろ? 自分の姉──つまり王女と俺が結婚しろって事だろ?
やだよそんなん! まだイリンに告白してないし!
いや告白した後ならオッケーってわけじゃないけどね? そもそもハーレムとか求めてないし、好きな人と平穏に暮らしていければそれでいいんだ俺は。
間違っても王女なんかと結婚はしない。
というかそんなことになったら色々面倒なことになりそうだからお断りだ!
「あら? どうしたの?」
クリュテアがそう言いながら隣に座るアルディスを見てそう言ったのだが、何かあったのか?
俺もアルディスのことを見てみると、まるで蛇に睨まれた蛙のようにピクリともしなくなっていた。
その理由はわかる。いやというほどにわかっている。
隣に座るイリンに視線を向けると、そこには貼り付けたような笑顔でいるイリンの姿があった。
そして、その姿からはうっすらと得もいえぬオーラが漂っていた。……そろそろそのオーラが集まって具現化するんじゃないだろうか?スタ○ドみたいな感じで。
イリンは俺の視線に気がつくと、フッとそのオーラを消して俺に笑顔を向けた。
もう一度アルディスの方を見てみると、手を震わせながら息を吐き出していた。
どうやら予想通りにイリンが何かしたようだった。多分殺気をぶつけたとかそんなんだと思うけど、相手は王族なんだからやめてほしい。……俺も王族ぶっ飛ばしちゃったけどさぁ。
そんな感じで何事もなく、とは言い難かった夕食も終えてやっと帰ることができるようになった。
「アンドウ。また話を聞かせてもらえますか?」
そんな風に言ってくれるのは嬉しいんだが、俺としてはできればもう王族なんかと関わりたくない。
だけど、この状況じゃそうも言っていられない。どうせ後何回かは会う事になるんだろうな。
「はい。その時はよろしくお願いします」
「楽しみにしてます!」
その笑顔が少し恨めしい。
「ではクリュテア様。アルディス様。本日はこれにて失礼させていただきます」
「ええ。私もまた会えるのを楽しみにしておりますわ」
城から馬車を出され送られる事になったのだが、少し歩きたい気分だったので、キリーの家ではなく途中で降ろしてもらった。
「っはああぁぁ~。疲れたぁ~。もう行きたくねぇなぁ……」
馬車を見送った後、そう言って思い切り背伸びをしながら俺はぼやく。
本当に疲れた。体力的にはそれほどでもないが、精神的にかなりキた。やっぱり王族なんかと関わり合いになるもんじゃないと、再認識せざるを得ない。
「お疲れ様です」
そんな俺を労うようにイリンが背後から声をかけてきた。
俺はその声に惹かれるように振り向く。そこにはいつもと変わらない大きくなったイリンの姿がある。
「……もう少しだ。もう少しでお前の怪我を治してやれる」
探していた欠損を治す治癒の方法がやっと見つかったんだ。これで俺のせいで傷ついてしまったイリンの怪我を治してやることができる。そうすれば、イリンは魔術具なんて使わなくっても堂々と出歩くことができるようになる。
「……ありがとうございます」
だが、イリンの顔を見ると、いつもの笑みとは違って何か言いたげな微妙なものだった。
本来ならば獣人族にとっては失った尻尾が治るというのはとても嬉しいことのはずだ。それなのに、何故?
「どうかしたのか?」
「いいえ。まさか、これほど早く治る方法が見つかるとは思っていなかったので、驚いてしまいました」
俺だってこんなに早く見つかるとは思っていなかった。もっと、それこそ年単位で探さないと見つからないと思っていた。
それがこんなに早く見つかるなんてツイてるな。
イリンが何を思い悩んでいるのか分からないけど、それでも尻尾の怪我を治す事は間違っていないはずだ。だから、なんとしても俺は大会で勝って、例の一族に認めてもらうんだ。
そうすれば、もっと自分に誇りをもって生きることができるかもしれないから。
そうすれば、イリンにまともに向き合うことができるようになると思うから。
だから……。
「なんとしても勝ってやる」
たとえ身バレをしたとしても構わない。必要となればスキルも『宝』も、なんでも使ってやろう。
もう治癒の方法はわかっているんだ。ここで王国の奴らに見つかったとしても、準備して俺を襲いに来るまでには時間がかかるだろう。その間にはもうイリンの治癒は終わっているはずだ。そうなれば制限をかける必要もない。
今までは、どこにあるかも分からないものを探して情報を集めなくてはいけなかったため、追っ手が来たらその度に場所を移したり、対策を練ったりしないといけなかったので目立たないようにしてきたが、もう違う。
もうそんな事を気にする必要はない。治してしまいさえすれば後はまた何処ぞへと逃げてしまえば良いんだから。
「……もう少しだ」
今度はわざと負けるなんて絶対にしない。
何があっても、誰が相手でも──全力で勝とう。
素直なアルディスは俺の内心や周りの状況がまだ見えていないようで、そう呟いた。
この時ばかりはアルディスの鈍さというか幼さに感謝したい。たとえ一人であっても分からない者がいると救われる。
だが……。
「ではアンドウに兄になってもらうのは無理ですか……」
この時ばかりはアルディスの幼さを恨みたくなった。
「んぐっ⁉︎」
あに⁉︎ 突然何をいうんだこいつは!
兄って事はあれだろ? 自分の姉──つまり王女と俺が結婚しろって事だろ?
やだよそんなん! まだイリンに告白してないし!
いや告白した後ならオッケーってわけじゃないけどね? そもそもハーレムとか求めてないし、好きな人と平穏に暮らしていければそれでいいんだ俺は。
間違っても王女なんかと結婚はしない。
というかそんなことになったら色々面倒なことになりそうだからお断りだ!
「あら? どうしたの?」
クリュテアがそう言いながら隣に座るアルディスを見てそう言ったのだが、何かあったのか?
俺もアルディスのことを見てみると、まるで蛇に睨まれた蛙のようにピクリともしなくなっていた。
その理由はわかる。いやというほどにわかっている。
隣に座るイリンに視線を向けると、そこには貼り付けたような笑顔でいるイリンの姿があった。
そして、その姿からはうっすらと得もいえぬオーラが漂っていた。……そろそろそのオーラが集まって具現化するんじゃないだろうか?スタ○ドみたいな感じで。
イリンは俺の視線に気がつくと、フッとそのオーラを消して俺に笑顔を向けた。
もう一度アルディスの方を見てみると、手を震わせながら息を吐き出していた。
どうやら予想通りにイリンが何かしたようだった。多分殺気をぶつけたとかそんなんだと思うけど、相手は王族なんだからやめてほしい。……俺も王族ぶっ飛ばしちゃったけどさぁ。
そんな感じで何事もなく、とは言い難かった夕食も終えてやっと帰ることができるようになった。
「アンドウ。また話を聞かせてもらえますか?」
そんな風に言ってくれるのは嬉しいんだが、俺としてはできればもう王族なんかと関わりたくない。
だけど、この状況じゃそうも言っていられない。どうせ後何回かは会う事になるんだろうな。
「はい。その時はよろしくお願いします」
「楽しみにしてます!」
その笑顔が少し恨めしい。
「ではクリュテア様。アルディス様。本日はこれにて失礼させていただきます」
「ええ。私もまた会えるのを楽しみにしておりますわ」
城から馬車を出され送られる事になったのだが、少し歩きたい気分だったので、キリーの家ではなく途中で降ろしてもらった。
「っはああぁぁ~。疲れたぁ~。もう行きたくねぇなぁ……」
馬車を見送った後、そう言って思い切り背伸びをしながら俺はぼやく。
本当に疲れた。体力的にはそれほどでもないが、精神的にかなりキた。やっぱり王族なんかと関わり合いになるもんじゃないと、再認識せざるを得ない。
「お疲れ様です」
そんな俺を労うようにイリンが背後から声をかけてきた。
俺はその声に惹かれるように振り向く。そこにはいつもと変わらない大きくなったイリンの姿がある。
「……もう少しだ。もう少しでお前の怪我を治してやれる」
探していた欠損を治す治癒の方法がやっと見つかったんだ。これで俺のせいで傷ついてしまったイリンの怪我を治してやることができる。そうすれば、イリンは魔術具なんて使わなくっても堂々と出歩くことができるようになる。
「……ありがとうございます」
だが、イリンの顔を見ると、いつもの笑みとは違って何か言いたげな微妙なものだった。
本来ならば獣人族にとっては失った尻尾が治るというのはとても嬉しいことのはずだ。それなのに、何故?
「どうかしたのか?」
「いいえ。まさか、これほど早く治る方法が見つかるとは思っていなかったので、驚いてしまいました」
俺だってこんなに早く見つかるとは思っていなかった。もっと、それこそ年単位で探さないと見つからないと思っていた。
それがこんなに早く見つかるなんてツイてるな。
イリンが何を思い悩んでいるのか分からないけど、それでも尻尾の怪我を治す事は間違っていないはずだ。だから、なんとしても俺は大会で勝って、例の一族に認めてもらうんだ。
そうすれば、もっと自分に誇りをもって生きることができるかもしれないから。
そうすれば、イリンにまともに向き合うことができるようになると思うから。
だから……。
「なんとしても勝ってやる」
たとえ身バレをしたとしても構わない。必要となればスキルも『宝』も、なんでも使ってやろう。
もう治癒の方法はわかっているんだ。ここで王国の奴らに見つかったとしても、準備して俺を襲いに来るまでには時間がかかるだろう。その間にはもうイリンの治癒は終わっているはずだ。そうなれば制限をかける必要もない。
今までは、どこにあるかも分からないものを探して情報を集めなくてはいけなかったため、追っ手が来たらその度に場所を移したり、対策を練ったりしないといけなかったので目立たないようにしてきたが、もう違う。
もうそんな事を気にする必要はない。治してしまいさえすれば後はまた何処ぞへと逃げてしまえば良いんだから。
「……もう少しだ」
今度はわざと負けるなんて絶対にしない。
何があっても、誰が相手でも──全力で勝とう。
0
お気に入りに追加
4,060
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。