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獣人達の国
151:尾無し
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「……理由をお伺いしても?」
イリンを治す方法を知っていると目の前のこいつは言った。手の届く場所に俺の探していたものがあるんだ。
だというのにそれを教えないとはどういう事か……。
俺は感情を抑え切ることができずに、無意識のうちに威圧していたらしい。
目の前でガタッと動く三人の様子を見てそれを知った俺は、直ぐに威圧を引っ込めた。
「申し訳ありません」
「いえ。……それで教えられないわけですが、それは我々にとっても重要なものです。ここにいる貴方がたであれば教えても構いませんが、それ以外となると教えることは出来ません」
重要なものだというのはわかる。時間が経ってその状態が固定化された欠損の治癒ができる者は、なかなかいない。他が使えなくとも、その魔術が使えるだけで一生暮らしには困らないほどだ。
だが、俺はどうしても教えてもらわないといけない。
……無理やり聞き出すか?
仮にも、というか正真正銘の王族であるにも関わらず、俺はそんなことを考えた。
あまり関わらないようにしようという考えはすでに何処ぞへと消え去っていた。
……どうする? どうにかして聞き出したいが……。
……? 待て。そういえば今、『ここにいる貴方がたであれば教えても構わない』と言っていなかったか?
ならイリンなら平気か? 俺が治したいのはイリンの尻尾だ。それならこいつの言う他のやつに教えるわけじゃないから大丈夫なんじゃ……。
「では、我々でが使うのであればその方法をお教え願えるのでしょうか?」
「……ええ。ですが怪我をしていないのでは?」
よし! ならいける!
「私は怪我はしておりません。しているのはこちらの者です」
俺はイリンを紹介するが、王達はどこを怪我しているのかわからないようだ。
……ああ、そういえばだいぶ前に隠蔽の魔術具を渡したんだった。
イリンに渡した魔術具で、イリンのことは注視出来ないようになっている。
認識はできるので個人の判別はできるのだが、それ以上には気付くことができない。
「イリン。指輪を外してくれ」
「……はい。かしこまりました」
そう言うとイリンは左手につけていた指輪を外した。ちょっと間があったのは気にしない。
だが、指輪を外しても何処が変わったのかわからないようだ。
まあそれも仕方がない。角度的に後ろなんて見ることができないだろう。
「イリン」
俺がイリンに目配せすると、イリンはうなずいた後に俺の後ろから少しズレて全員から見える位置で後ろを振り返って尻尾を見せた。
通常よりも短くなった尻尾を見てアルディスは驚いているが、ほかの上二人は顔をしかめている。そしてその度合いはクリュテアよりもアグティースの方が強い。
これは戦いに関して──というか獣人の誇りに関して思い入れの差だろうか?
「……尾無しか」
そうアグティースが呟いた後に彼は派手に吹き飛んでいった。
同じ椅子に座っていたアルディスとクリュテアも転んでいるが、そんなことは知った事ではない。
そう。アグティースが吹き飛んだ原因は俺だ。
俺は目の前に座っていたクソったれを収納魔術を併用した掌底で吹き飛ばしたのだ。
せっかく問題を起こさずとも治癒の方法が手に入りそうだったのに、こんなことで問題を起こすのはどうかしていると、頭の冷静な部分が言っているが、関係ない。
最初から俺の命を守ったから負ってしまった怪我だと言っておいたのに、尻尾を怪我していることで侮辱するような馬鹿は殴られて当然だ。
それに、命の恩人であり恋心を抱いている女の子を貶されて落ち着いていられる奴なんていないだろ。
冷静ではないのはわかっている。が、冷静になることなどできない。冷静になることを心が拒絶している。
「貴様! 何をする!」
「陛下! 何が……⁉︎」
吹き飛ばされたクソったれは壁に激突しながらも直ぐに態勢を立て直し、側に飾ってあった剣を手にするが……。
「やめろ!」
瞬間、その場を支配するような荒々しい圧力が部屋に充満した。
それだけでアグティースは動きを止め剣を手にしたまま微動だにしなくなった。
それと同時に、中でした大きな音に誘われて部屋の中に入ってきた騎士達もその圧力に動きを止める。
その圧力はグラティース王が放っているものだったが、俺にはとっさに誰がその威圧感を放ったのか分からなかった。
それ程までに先程の姿と今の姿は違って見える。
先ほどまではどこか頼りない雰囲気があったが、今ではとてもではないがそんなことを思えない。
戦いになれば勝てはするんだろうが、正直言って悪魔よりも、勇者達よりも、戦いたくはないと感じさせられた。
「アグティース。落ち着きなさい。今のはお前が悪い」
アグティース王は、その場にいる全員に問題ないと言い聞かせるようにはっきりとそう言った。
そして部屋の中に入ってきた騎士達に何でもないと言って再び追い出した。
部屋の隅で服を汚しながら剣を手にしている王子と、倒れている王女と王子を見てこのまま出て行ってもいいものかと騎士達は顔を見合わせた。
だが直後に再び放たれた威圧感によって、騎士達は慌てながら部屋を出て行った。
「こちらから招いておきながら申し訳ありませんでした」
先ほどまでの荒々しさをかけらも感じさせない声音でそう言って謝罪するグラティース王。
……だが俺はその温度差に戸惑い、まともに言葉を返すことすらできない。
「では話の続きを……ああ、部屋から出す前に椅子を直しておいて貰えばよかったですね」
グラティース王は、そう言って立ち上がってから俺がアグティースを殴り飛ばした時に倒れた椅子を起こし、未だ床に座り込んでいる二人に手を伸ばして立ち上がらせる。
「怪我はないですか」
「は、はい」
「ありませんわ。お父様」
「そうですか。それはよかったです」
そう言ってから二人を椅子に座らせると、グラティース王は再び椅子に座り直した。
だが、俺の目にはその姿が不気味に映った。
イリンを治す方法を知っていると目の前のこいつは言った。手の届く場所に俺の探していたものがあるんだ。
だというのにそれを教えないとはどういう事か……。
俺は感情を抑え切ることができずに、無意識のうちに威圧していたらしい。
目の前でガタッと動く三人の様子を見てそれを知った俺は、直ぐに威圧を引っ込めた。
「申し訳ありません」
「いえ。……それで教えられないわけですが、それは我々にとっても重要なものです。ここにいる貴方がたであれば教えても構いませんが、それ以外となると教えることは出来ません」
重要なものだというのはわかる。時間が経ってその状態が固定化された欠損の治癒ができる者は、なかなかいない。他が使えなくとも、その魔術が使えるだけで一生暮らしには困らないほどだ。
だが、俺はどうしても教えてもらわないといけない。
……無理やり聞き出すか?
仮にも、というか正真正銘の王族であるにも関わらず、俺はそんなことを考えた。
あまり関わらないようにしようという考えはすでに何処ぞへと消え去っていた。
……どうする? どうにかして聞き出したいが……。
……? 待て。そういえば今、『ここにいる貴方がたであれば教えても構わない』と言っていなかったか?
ならイリンなら平気か? 俺が治したいのはイリンの尻尾だ。それならこいつの言う他のやつに教えるわけじゃないから大丈夫なんじゃ……。
「では、我々でが使うのであればその方法をお教え願えるのでしょうか?」
「……ええ。ですが怪我をしていないのでは?」
よし! ならいける!
「私は怪我はしておりません。しているのはこちらの者です」
俺はイリンを紹介するが、王達はどこを怪我しているのかわからないようだ。
……ああ、そういえばだいぶ前に隠蔽の魔術具を渡したんだった。
イリンに渡した魔術具で、イリンのことは注視出来ないようになっている。
認識はできるので個人の判別はできるのだが、それ以上には気付くことができない。
「イリン。指輪を外してくれ」
「……はい。かしこまりました」
そう言うとイリンは左手につけていた指輪を外した。ちょっと間があったのは気にしない。
だが、指輪を外しても何処が変わったのかわからないようだ。
まあそれも仕方がない。角度的に後ろなんて見ることができないだろう。
「イリン」
俺がイリンに目配せすると、イリンはうなずいた後に俺の後ろから少しズレて全員から見える位置で後ろを振り返って尻尾を見せた。
通常よりも短くなった尻尾を見てアルディスは驚いているが、ほかの上二人は顔をしかめている。そしてその度合いはクリュテアよりもアグティースの方が強い。
これは戦いに関して──というか獣人の誇りに関して思い入れの差だろうか?
「……尾無しか」
そうアグティースが呟いた後に彼は派手に吹き飛んでいった。
同じ椅子に座っていたアルディスとクリュテアも転んでいるが、そんなことは知った事ではない。
そう。アグティースが吹き飛んだ原因は俺だ。
俺は目の前に座っていたクソったれを収納魔術を併用した掌底で吹き飛ばしたのだ。
せっかく問題を起こさずとも治癒の方法が手に入りそうだったのに、こんなことで問題を起こすのはどうかしていると、頭の冷静な部分が言っているが、関係ない。
最初から俺の命を守ったから負ってしまった怪我だと言っておいたのに、尻尾を怪我していることで侮辱するような馬鹿は殴られて当然だ。
それに、命の恩人であり恋心を抱いている女の子を貶されて落ち着いていられる奴なんていないだろ。
冷静ではないのはわかっている。が、冷静になることなどできない。冷静になることを心が拒絶している。
「貴様! 何をする!」
「陛下! 何が……⁉︎」
吹き飛ばされたクソったれは壁に激突しながらも直ぐに態勢を立て直し、側に飾ってあった剣を手にするが……。
「やめろ!」
瞬間、その場を支配するような荒々しい圧力が部屋に充満した。
それだけでアグティースは動きを止め剣を手にしたまま微動だにしなくなった。
それと同時に、中でした大きな音に誘われて部屋の中に入ってきた騎士達もその圧力に動きを止める。
その圧力はグラティース王が放っているものだったが、俺にはとっさに誰がその威圧感を放ったのか分からなかった。
それ程までに先程の姿と今の姿は違って見える。
先ほどまではどこか頼りない雰囲気があったが、今ではとてもではないがそんなことを思えない。
戦いになれば勝てはするんだろうが、正直言って悪魔よりも、勇者達よりも、戦いたくはないと感じさせられた。
「アグティース。落ち着きなさい。今のはお前が悪い」
アグティース王は、その場にいる全員に問題ないと言い聞かせるようにはっきりとそう言った。
そして部屋の中に入ってきた騎士達に何でもないと言って再び追い出した。
部屋の隅で服を汚しながら剣を手にしている王子と、倒れている王女と王子を見てこのまま出て行ってもいいものかと騎士達は顔を見合わせた。
だが直後に再び放たれた威圧感によって、騎士達は慌てながら部屋を出て行った。
「こちらから招いておきながら申し訳ありませんでした」
先ほどまでの荒々しさをかけらも感じさせない声音でそう言って謝罪するグラティース王。
……だが俺はその温度差に戸惑い、まともに言葉を返すことすらできない。
「では話の続きを……ああ、部屋から出す前に椅子を直しておいて貰えばよかったですね」
グラティース王は、そう言って立ち上がってから俺がアグティースを殴り飛ばした時に倒れた椅子を起こし、未だ床に座り込んでいる二人に手を伸ばして立ち上がらせる。
「怪我はないですか」
「は、はい」
「ありませんわ。お父様」
「そうですか。それはよかったです」
そう言ってから二人を椅子に座らせると、グラティース王は再び椅子に座り直した。
だが、俺の目にはその姿が不気味に映った。
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