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獣人達の国
137:大会に出よう
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どこかでこんな構図を見たなぁ。なんて黄昏ていると、傍観していたはずのガムラがそんなことを言った。
でも大会? それがどうしてここで出てくる?
「大会? なんでさ?」
まさに俺が疑問に思ってたことをキリーが聞いてくれた。
「だってそいつはアンドウと戦いたいんだろ?でも掟で決まってるから戦えばそいつはそいつらの里から追放される。だったら大会に出ればいいじゃねえか。そうすれば大会で偶然当たっただけ。掟は関係ないだろ?」
…ん? 待て待て。なんで俺がウースと戦うのは決定事項みたいになってんだ? 俺はこれ以上面倒を抱え込む気は無いんだぞ。戦いたくなんて無い。
というかでなければあの時里で戦った意味が薄れる。
「! そうか! その方法がっ!」
だがウースにはそんなことは関係なかった様で、名案だとばかりにガムラの考えに賛同している。どうやらこいつの中でも俺が戦うのは決まりの様だ。
「おい! お前は大会に出るのか!」
どうしようかな。大会に出てこいつを叩きのめしたとしても、またなんか言いがかりをつけてきそうなんだよな…。
かといって掟破りとしてこいつを倒して里に連れてってもこいつが処分でもされようものなら気分が悪い。なにせ処分を下すのはこいつの父親であり長であるウォルフなんだから。親に子供を殺させるのはちょっと嫌だな…。
「……そうだなぁ~……」
俺が悩みながら適当に返事をすると、ウースはそれを了承と受け取った様でギラギラとして目で俺を睨みつけた。
「俺は大会に出る! そこで決着をつけるぞ! 逃げるなよ!」
そう言いながらウースはどこぞへと走っていった。多分大会の参加申請でもしに行ったんだろう。
…どうしようか?俺参加しないとまずいのか?
「よし! これでアンドウとやれるな!」
…なるほど。こいつはそれが狙いだったわけか。なんであんなことを言ったのか少し疑問に思っていたが、そうか。…こいつも自分の願いのためには無駄に知恵が回るな。
……大会には出なくてもいいかな……。
俺はそう思い始めた。
たしかに大会に出ればあの襲撃をかけてきた面倒な店をどうにかできるかもしれないけど、それ以上に面倒になってきた。
どうせこの街でやることは終わってるんだ。金も手に入れて道具類を補充して情報を集めることが出来た。結果は特に情報はなかったけど、それ以外は達成しているし、もうこの街を出て行ってもいいくらいだ。
どうせあの店の力が通用するのはこの街の限られた所だけだろう。俺がこの街を出ていけばもう面倒にはならないはずだ。
たくさんの人が集まるんなら情報も何かしらあるかもしれないと思ってはいるから祭りの最中はここに留まるつもりだけど、そのあとはすぐに旅を再開した方がいいかもな……。
スパン!
俺がそんなことを考えていると、何か乾いた破裂音の様なものが聞こえた。
「いてっ!」
どうやら喜んでいるガムラをその後ろからキリーが頭を叩いた様だ。
「何すんだよ」
「何すんだはこっちのセリフだよ。まったく…。関係のないあんたがしゃしゃり出て余計なことをして…。あんたはいいとしても他のやつはどうなんだ? 大変なのは誰だと思ってるんだい? それぞれ事情ってもんがあるんだから軽々しく首を突っ込むんじゃないよ!」
…おお! さすがはキリー。長年ガムラの相手をしてるだけはある。
そうだ! その通り! 凄いぞキリー! 俺の言いたいことをよく言ってくれた!
俺が内心でキリーに賞賛を送っているが、キリーの話しはまだ続く。
「それに大丈夫ってのはあんたの浅知恵だろ?もしそれがダメだとイリンたちの里の長が判断したらどうすんだい! その場合取り返しのつかないことになることだってあるんだよ!?」
キリーが言った通り、もし俺達が里に戻ってウースが俺と戦うために大会に出たと言ったらどう対応するのか分からない。ガムラが言った様に大会に出て偶々戦っただけと判断する可能性ももちろんある。が、それは掟破りだと判断する可能性もある。正直言ってどうなるか読めない。
…だが今のところはそれについてどうこういうよりも……。
「キリー。その辺にしておけ」
「アンドウ。あんたはいいのかい?」
「よくはない。が、周りを見ろ。それ以上は場所を移してからの方がいいだろ」
そう言われてやっとここが往来の真ん中だと理解したのか、キリーは顔をしかめ口元をへの字にした。
「行くよ!」
怒っていた時は良かったが、正気に戻ると途端に恥ずかしくなったのだろう。そう言いながら歩くキリーの足はいつもよりもだいぶ早かった。
「…で、だ。改めて話をしようかガムラ」
すっかり日が昇りきった頃ににキリーの家に着いた俺たちはそれぞれの部屋に戻ろうとしたのだが、コソコソと、かつ素早く部屋に戻ろうとしたところでガムラはキリーの言葉に呼び止められた。
呼び止められた瞬間ガムラが大きな体と怖い顔をビクッとさせたのが面白かった。
「…でもその前に…こいつが悪かったね、アンドウ。イリン」
「気にするな。こっちだって迷惑かけてんだから、お互い様だろ?」
「私はご主人様がよろしいのであれば特にいうことはございません」
「そうかい…。ありがとう。それでも済まなかったね。こいつにはよく言っておくからさ」
「もうわかったって……」
「あんたは黙ってな」
キリーはガムラを睨みつけ、ガムラはそれに怯んだが、それは一瞬のことですぐに反論を始めた。
「ほら! もう昼飯の時間だろ! 俺はいいとしてもアンドウ達に迷惑をかけたのにまた昼飯抜きなんて迷惑をかけていいのかよ?」
「最初に迷惑をかけたのは誰だい…。でもまあそうだね」
そう言って怒りを収めたキリーとそれに安堵したガムラ。
「あんたの説教は後で必ずするからね。逃げられると思うんじゃないよ」
逃げられたと喜んだ矢先のその言葉でガムラはがっくりと項垂れた。
…やっぱりガムラとキリーの組み合わせはいいと思うんだけどなぁ。結婚とかはどうなんだろう?
でも大会? それがどうしてここで出てくる?
「大会? なんでさ?」
まさに俺が疑問に思ってたことをキリーが聞いてくれた。
「だってそいつはアンドウと戦いたいんだろ?でも掟で決まってるから戦えばそいつはそいつらの里から追放される。だったら大会に出ればいいじゃねえか。そうすれば大会で偶然当たっただけ。掟は関係ないだろ?」
…ん? 待て待て。なんで俺がウースと戦うのは決定事項みたいになってんだ? 俺はこれ以上面倒を抱え込む気は無いんだぞ。戦いたくなんて無い。
というかでなければあの時里で戦った意味が薄れる。
「! そうか! その方法がっ!」
だがウースにはそんなことは関係なかった様で、名案だとばかりにガムラの考えに賛同している。どうやらこいつの中でも俺が戦うのは決まりの様だ。
「おい! お前は大会に出るのか!」
どうしようかな。大会に出てこいつを叩きのめしたとしても、またなんか言いがかりをつけてきそうなんだよな…。
かといって掟破りとしてこいつを倒して里に連れてってもこいつが処分でもされようものなら気分が悪い。なにせ処分を下すのはこいつの父親であり長であるウォルフなんだから。親に子供を殺させるのはちょっと嫌だな…。
「……そうだなぁ~……」
俺が悩みながら適当に返事をすると、ウースはそれを了承と受け取った様でギラギラとして目で俺を睨みつけた。
「俺は大会に出る! そこで決着をつけるぞ! 逃げるなよ!」
そう言いながらウースはどこぞへと走っていった。多分大会の参加申請でもしに行ったんだろう。
…どうしようか?俺参加しないとまずいのか?
「よし! これでアンドウとやれるな!」
…なるほど。こいつはそれが狙いだったわけか。なんであんなことを言ったのか少し疑問に思っていたが、そうか。…こいつも自分の願いのためには無駄に知恵が回るな。
……大会には出なくてもいいかな……。
俺はそう思い始めた。
たしかに大会に出ればあの襲撃をかけてきた面倒な店をどうにかできるかもしれないけど、それ以上に面倒になってきた。
どうせこの街でやることは終わってるんだ。金も手に入れて道具類を補充して情報を集めることが出来た。結果は特に情報はなかったけど、それ以外は達成しているし、もうこの街を出て行ってもいいくらいだ。
どうせあの店の力が通用するのはこの街の限られた所だけだろう。俺がこの街を出ていけばもう面倒にはならないはずだ。
たくさんの人が集まるんなら情報も何かしらあるかもしれないと思ってはいるから祭りの最中はここに留まるつもりだけど、そのあとはすぐに旅を再開した方がいいかもな……。
スパン!
俺がそんなことを考えていると、何か乾いた破裂音の様なものが聞こえた。
「いてっ!」
どうやら喜んでいるガムラをその後ろからキリーが頭を叩いた様だ。
「何すんだよ」
「何すんだはこっちのセリフだよ。まったく…。関係のないあんたがしゃしゃり出て余計なことをして…。あんたはいいとしても他のやつはどうなんだ? 大変なのは誰だと思ってるんだい? それぞれ事情ってもんがあるんだから軽々しく首を突っ込むんじゃないよ!」
…おお! さすがはキリー。長年ガムラの相手をしてるだけはある。
そうだ! その通り! 凄いぞキリー! 俺の言いたいことをよく言ってくれた!
俺が内心でキリーに賞賛を送っているが、キリーの話しはまだ続く。
「それに大丈夫ってのはあんたの浅知恵だろ?もしそれがダメだとイリンたちの里の長が判断したらどうすんだい! その場合取り返しのつかないことになることだってあるんだよ!?」
キリーが言った通り、もし俺達が里に戻ってウースが俺と戦うために大会に出たと言ったらどう対応するのか分からない。ガムラが言った様に大会に出て偶々戦っただけと判断する可能性ももちろんある。が、それは掟破りだと判断する可能性もある。正直言ってどうなるか読めない。
…だが今のところはそれについてどうこういうよりも……。
「キリー。その辺にしておけ」
「アンドウ。あんたはいいのかい?」
「よくはない。が、周りを見ろ。それ以上は場所を移してからの方がいいだろ」
そう言われてやっとここが往来の真ん中だと理解したのか、キリーは顔をしかめ口元をへの字にした。
「行くよ!」
怒っていた時は良かったが、正気に戻ると途端に恥ずかしくなったのだろう。そう言いながら歩くキリーの足はいつもよりもだいぶ早かった。
「…で、だ。改めて話をしようかガムラ」
すっかり日が昇りきった頃ににキリーの家に着いた俺たちはそれぞれの部屋に戻ろうとしたのだが、コソコソと、かつ素早く部屋に戻ろうとしたところでガムラはキリーの言葉に呼び止められた。
呼び止められた瞬間ガムラが大きな体と怖い顔をビクッとさせたのが面白かった。
「…でもその前に…こいつが悪かったね、アンドウ。イリン」
「気にするな。こっちだって迷惑かけてんだから、お互い様だろ?」
「私はご主人様がよろしいのであれば特にいうことはございません」
「そうかい…。ありがとう。それでも済まなかったね。こいつにはよく言っておくからさ」
「もうわかったって……」
「あんたは黙ってな」
キリーはガムラを睨みつけ、ガムラはそれに怯んだが、それは一瞬のことですぐに反論を始めた。
「ほら! もう昼飯の時間だろ! 俺はいいとしてもアンドウ達に迷惑をかけたのにまた昼飯抜きなんて迷惑をかけていいのかよ?」
「最初に迷惑をかけたのは誰だい…。でもまあそうだね」
そう言って怒りを収めたキリーとそれに安堵したガムラ。
「あんたの説教は後で必ずするからね。逃げられると思うんじゃないよ」
逃げられたと喜んだ矢先のその言葉でガムラはがっくりと項垂れた。
…やっぱりガムラとキリーの組み合わせはいいと思うんだけどなぁ。結婚とかはどうなんだろう?
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