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獣人達の国
136:しつこい男
しおりを挟む「どうしてあなたがここにいるのでしょう?」
そうだ。俺たちは里を出てくるときにウースと戦ってもう追ってくるなと言ったはずだ。イリンだってはっきりと断った。
にもかかわらず、なぜここにきた?
いやまあ、理由はわかってるけどさ。
「私たちには関わらない様に言ったはずです」
いくらやりたい放題なウォルフでも流石に里のみんなの前で宣言した事を破らせはしないだろう。あいつは長として決めた事はしっかりとやるようだから、そこには息子だからとか関係ないと思ったんだが、違ったのか?
「猶予は与え、一度は見過ごしましたが……にも関わらずあなたはご主人様に掴みかかろうとしました。なにを考えてあなたはここにきたのか、答えていただけませんか?」
そう問いかけたイリンだったが、ウースの眼は俺に向けられており、その瞳は暗く濁ったような光を宿しているように感じた。
「イリンッ!なんでだ!なんでなんだよ!」
ウースはなんでだと言っているけど、それだけではなにが「なんで」なのか全くわからない。言葉をかけられたイリンも顔をしかめている。
とはいえ予想はつく。
なんで俺といるのか。なんで村に残らなかったのか。なんでまだ奴隷の首輪をつけているのか。
そんな無数の「なんで」なのだろう。結局は全部同じことを言ってるんだけどな。
「ウース。話をする気があるのなら『なんで』だけではなくしっかりと言葉を重ねなさい」
しっかりと断ったはずなのにまだつきまとうウースにいい加減嫌気がさしている様だ。イリンの顔が少しうんざりという感じになっている気がする。
…だけど、一つ言いたい。つきまとわれてうんざりされているのはウースだけじゃなくてお前もだったぞ、イリン。
今でこそいい思い出となって…、いい思い出?……。うん。いい思い出だな。そういう事にしておこう。
まあいい。今でこそいい思い出となっているが当初は俺も付きまとってきたイリンにどう対処しようか悩まされていた。
イリンも自分を見つめ直すいい機会だろう。人の振り見て我が振り直せって奴だ。……でも全く変わる気がしないのか気のせいだろうか?
「なんでそんな奴と一緒にいるんだ!里に戻ることができたんだからずっと里にいればいいじゃないか!もう奴隷じゃないんだろ!?」
「それは前にも言ったけれど、私は好きでご主人様の元にいるの。それをあなたにどうこう言われる筋合いはないわ」
イリンはもう奴隷じゃない。だから俺と一緒にいるのはおかしいというのがウースの言い分。言い分と言っても、自分が思いつくままに駄々をこねている様にしか見えないけど。
…ああそうだ。因みにイリンは何故かまた首輪をつけている。家族の元にいた時には外していたはずなんだけど何故だろうか?
てっきり捨てたものだと思ってたがそれ程大事にしてたのか……。……物を大切にしてるってのはいいことだよな!
「……これ以上は掟に逆らった者として対処しなくてはならないわ。敵なら殺すけれど、同じ里の仲間は出来るだけ殺したくはないの。もう私に関わらないで」
そう言ったイリンの目はすでに冷たくなっていて、本人が言う様に必要となれば今からでもウースのことを殺すだろうと思えてしまった。
「……お前のせいで!」
今度はイリンではなく俺に狙いを定めた様で、俺のことを見据えて怒鳴るウース。
だが、イリンが構えているせいで動けないでいる。
「…だったらお前ら大会に出ればいいじゃねえか」
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