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獣人達の国

118:おすすめの店

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「ああ、悪い悪い。ところでなんでお前はこんなところに?村から離れないんじゃなかったのか?」

 名前を忘れていたことをごまかすために、他に思い出したことで話を逸らす。話していればそのうち名前も思い出すだろう。

「ん?ああ、基本的にはな。今は特別だ。狩った魔物の素材を売ったり依頼をこなしたりして金を稼がなくちゃならんからな」
「そういえばそんなことを言っていたな。普段は村にいるけどたまに街に行くって」
「それにもうすぐ大会の時期だからな。優勝はできなくても上位に入れば金になる」

 そう言って笑っているが大会とはなんの事だ?まあこの男が参加するようなものでこの国で開かれるものとなると予想はつくが。

「なんだ知らないのか?結構有名なやつだと思ったんだが……まあ人間にはそんなに広まってないのかもな」

 曰く、これからくる寒さに負けるんじゃねえぞ!という事で開かれる武術の大会──お祭りらしい。
 武術とは言っても、基本的になんでもありで魔術も薬も毒もなんでもいいらしい。毒は大会で使用するなら事前に申請して使ってもいい毒か確認してもらわないといけないらいいが。

 冬になる前に開かれるらしいその大会に合わせて国中から人が集まるらしいが、前回は人間の参加もいっぱいあったと言う。

「ちょっと前までは人間ももっといたんだけど、最近になって戦争が始まるって噂が広まってな。それからどんどん減ってんだ」
「……因みになんだが、その戦争の噂が流れ出したのはいつぐらいだ?」
「あー、いつだったっけなー。……確か半年…まではいかないな、四、五ヶ月ぐらいじゃないか?」

 俺はその言葉を聞いて納得した。

 ……その噂。多分俺たちが原因だ。

 恐らく俺たちが召喚されたのを、もしくは召喚の準備に気づいた時点で話を広めたんだろう。
 俺が城を出てくる時に適当に裏切り者を仕立て上げたけど、本当に人間の中に獣人の協力者がいないとは言い切れない。というかいるだろう普通。国が本当に一つの意思の元まとまって行動できるわけがないんだから。

「……戦争が起こりそうなのに大会なんて開くのか?」
「当然だろ?所詮は噂だ。その程度で取りやめにしたら王は国民から腑抜けた王ってバカにされるぜ」

 まあそれはわかる。人間もメンツとか大事だから俺からしたらバカみたいに思えることもやらなくてはならないのだろう。…この国の人種の性質を考えると純粋に戦いたいだけとかな気もするけど。

「まあそんなわけで、俺はちょっと前からこの街にいるんだよ。お前は?」
「俺はちょっと探しものがあって適当に旅してるだけなんだが、……話すならここから離れないか?」
「ん?……おお。そういやここにいたら邪魔になるな」

 周りを見回すと見られていることに気づいようだ。

「あー。どっかゆっくりできるところ行くか。……っと、時間はあるか?」
「ああ。特に依頼を受けにきたってわけでもないし……イリンは平気か?」
「はい。私も初めてきたばかりですから、特にこれと言ってなにも」
「そうか。ならついてきてくれ」

 俺たちを扇動するように歩き出す男の後を追って俺も歩き出す。



「なんか食いたいもんはあるか?」

 もうそろそろ昼食どきだからそれも兼ねてということだろう。だが俺はこの街にきたばかりで、オススメの店や食べ物を知らない。こういうのは現地の人に任せるのがいいだろう。たまにハズレもあるが、それも含めて旅だろう。

「いや。特にはないな。何かオススメがあるならそれでいい」
「あー?…オススメかぁ。…あー、いきなり言われると困るもんだな…」

 そうして悩みながらも着いたのは、表通りから外れた一軒の古めかしい食事処だった。

「ここでどうだ?」
「俺は何も知らないからオススメだっていうならどこでも構わないぞ」
「おお!よかった!ここはちょっと変わった料理を出すし、店主もだいぶ変わってるんだが、味自体は美味いから心配しないでくれ!」

 味は美味い。とわざわざ言うってことは、言わなければならないようなものが出てくるのだろうか?
 ゲテモノ料理屋か?…なんだか少しだけ不安になってきたな。

「なあ……」
「おーい!客連れてきたぞー!」

 どんなものがあるのかだけでも聞いて覚悟を決めようと俺が口を開いたが、男は呼び止めるよりも早く店の扉をあけて中に入ってしまった。

 仕方がないので、俺も店の中に入って行ったのだが、知らず知らずのうちに眉を寄せてしまっていた。

「おーい!客だー!客ー!いるんだろー!」
「はいはいはいっと。聞こえてるよ」

 無人の店の中に大声で呼びかけていると、そんなセリフとともに奥から人が現れた。

 ……言葉とともに現れたので多分人であってると思うがどうなんだろうか?人じゃなくて魔物か?

 とても失礼なことだが、ついそう思ってしまった。この国には魔物も一緒に暮らしているしおかしくはないが、その人物は知識にあるどの種族とも一致しなかった。

 現れたのは人型の女性ではあるのだが腕が四本ある。それだけなら多腕種の亜人で終わったのだが、問題はもう一つの方。その人の顔には通常ならば存在しないものがあった。
 顔には目の両脇に縦に並んだ赤い玉が二つ。左右合わせて計四つが存在していた。そして人間と同じように付いている普通の目も、黒目はあるものの、白目の部分は赤く染まっていた。そして目から上と目の両脇は肌が見えないほどに蜘蛛のような短い毛で覆われていた。
その顔は灰色の髪で隠されているが、完全に隠し切れてはいない。
 亜人の中には蜘蛛のような種族もいるが、|こう(・・)ではなかったはずだ。

「気持ち悪いかい?」

 俺が驚いて固まっていると、その女性からそんな風に言われた。

「ああいえ、申し訳ありません。…その、見たことがなかったものでして…」
「いいよいいよ。こんな見た目だ。もう慣れてる。親にだって言われたくらいだ」

 目の前の女性はハハハッと笑っているけど、それはとても悲しいことではないだろうか。
 親にも言われたと言うことは、親は違う見た目をしていると言うことだ。つまり突然変異として生まれたんだろう。

 親から「気持ち悪い」と言われるような生活は決して楽しいものではなかっただろう。

 慣れていると言うことは慣れるほど同じような事にあってきたんだろう。

 他人から侮蔑され、見下され、虐げられ続けてきたのだろう。

 それでもこの女性は笑っていることができている。
 それは作り笑いなのかもしれないが、今笑っていられるのなら俺が変に気を使うのも失礼というものだろう。

「…何かオススメをお願いします」

 俺がそう言うと店主は少し驚いたように目を丸くした。

「…へぇ。なんでもいいのかい?」
「ええ。この店は店主も料理も変わっていると聞きましたが、美味しいと聞いているので楽しみにしてます」
「…まかせな」

 店主はフッと笑うと奥に引っ込んで行った。
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