231 / 259
第27章 白銅メモ
その7 きっとずっと忘れない
しおりを挟む
すっかり日も落ちたというのに、城下街にはたくさんの明かりが灯されて、昼間のようです。それに夕方にコーネルさんと来たときよりさらににぎやかで、大変な人出です。
そこへ、護衛兵たちの先導もあるとはいえ、ひときわ背が高くて遠くからでも目立つでん下方が登場したわけですから……夜店はたちまち大さわぎになりました。
「見て見て、寒月殿下に青月殿下よ!」
「やだ、おそろいのマフラーでイケメン度も倍増し!」
「いやあぁぁぁ殿下ぁぁぁぁ! こっち向いてえぇぇ!」
黄色い声というのでしょうか。ぼくには単にそうぞうしい声としか思えませんけども、女性から……そして男性からも、「うおー! やっべ、殿下方かっけー!」などと大声が飛び交っています。
寒月でん下も気さくに手をふって、笑顔で「よお、楽しんでるか! わりいな、ちょっと通らせてくれな」などと応えています。
青月でん下は小さくうなずくくらいで、ニコリともしません。そういえばこの方は、これくらい反応がうすいのがふつうなのでした。アーネスト様といるときはとても表情豊かなので、忘れていました。
王子様見たさにみんなが寄ってきますが、混乱状態にならないのは、お二人のいげんというやつだと思います。
やっぱりトラの方というのは迫力があるので、なれなれしく近付いたりさわったりはできません。でん下方も、そこまでされたらきっとイヤでしょうし、ムッとされると思います。
……ふつうは。
でも、ここに例外の方がいらっしゃいます。
トラの王子様たちにおじけづかないし、王子様たちのほうも大かんげいで受け入れる、きせきのようなお方が。
お二人にがっちりガードされているアーネスト様が、ケープのフードをおろして「すごい人だねえ」とほほ笑むと、周囲が一しゅん、しんと静まり返りました。
が、次のしゅんかん、かん高い声やおたけびや、空気が抜けたみたいな声が上がって、こしをぬかす人まで続出しました。
ぼくはもう知っています。アーネスト様を初めて見た人たちは、よくこういう反応をするのです。
「あの方がうわさの妖精伯爵様なのね!」
「マジ妖精じゃん……綺麗すぎる」
「なんと贅沢な目の保養じゃあ。これでもう、いつ召されても悔いはない」
誰もがアーネスト様にうっとり見惚れていますが、アーネスト様は両手で抱っこしたぼくに向かって、うれしそうに言いました。
「ほらほら、みんな白銅くんの可愛さに大騒ぎだよ!」
……アーネスト様は大変大らかでやさしい方なので、ご自身への評価に無とん着なのです。そしてぼくを過大評価しているのです。
でもそんなところもアーネスト様の素敵なところです。双子でん下ももはや、いちいちてい正しません。
「アーネスト、大丈夫か? ちゃんと見物できてるか?」
寒月でん下が心配そうにたずねると、青月でん下も気づかわしげにアーネスト様を見つめました。
「寒くないか? 気分が悪くなったら、すぐ言うんだぞ」
お二方がハチミツみたいに甘くアーネスト様を見つめるのを見て、またもキャーッ! とつんざくような声が上がりました。
「ちょっとご覧よ、殿下方のあのとろけそうなお顔!」
「青月殿下が微笑んでるよ!? あの青月殿下が!」
そうですとも! アーネスト様はすっごいんですから!
アーネスト様がほめられると、ぼくもとってもうれしくなっちゃいます。
それで気づかぬうちに、猫背が垂直になるほど胸を張ってしまっていたみたいで……
「まあ、なんて愛らしいこと。子猫と伯爵様、おそろいを着てるのね」
「伯爵様が猫獣人の従僕を可愛がっているのは、有名な話だぞ」
「わたしもさっきからあのケープが気になってたの。どちらもすっごく可愛いしお洒落よね。あんな綺麗なオレンジ色、見たことない!」
「妖精さんのようには着こなせないでしょうけど、子猫用のケープはうちの子にも欲しいわあ……」
図らずも、注目を集めてしまいました。
ちょっと恥ずかしくなったぼくとは対照的に、アーネスト様はキラリと目を光らせました。
「やはり! やはり今、白銅くんを称賛する言葉が聞こえた!」
……そのくらい熱心に、ご自分へのしょう賛も耳に入れるとよいと思うのですけど……アーネスト様は周囲のみなさんに向かって、かがやくような笑みを浮かべました。
「みなさん。僕の薬舗も明日からお祭り用のお品を並べさせていただきます。露店も出します。僕の自慢の従僕くんをモチーフにしたものがいろいろありますので、どうぞお越しくださいね」
アーネスト様、こんしんの営業スマイルです!
トラの王子様とは別の意味でのそのいりょくに、くずおれる人が続出しました。が、夢中で手を上げながら「はい! 必ず伺います!」「おれが行きます!」「いや私が!」「我こそは!」とアピールする人も大勢いました。
アーネスト様は「白銅くんのおかげで宣伝ばっちり!」とごきげんでしたが、アーネスト様を見せびらかしたいけど見せたくない双子でん下が、どんどん不きげんさんになっていたので、ぼくはアーネスト様に先へ進むよう提案しました。
デキる従僕は、気配り上手でなければいけませんからね。
でもそのあとは楽しすぎて、従僕の使命など忘れていました……。
アーネスト様におすすめしたかったお花屋さんや、子供向けだけれど異国の植物ずかんを扱う書店に案内すると、こちらのほうがうれしくなるくらい喜んでくれました。
アーネスト様はずかんもお花もたくさん買っていました。し設にも寄付したいそうです。でん下方は、アーネスト様の荷物を持ちたくて争っていました。
それから、念願の肉団子もごちそうになりました!
それだけじゃなく、猫のかたちのアメや、揚げ菓子や、ちっとも怖くないトラのお面や、きれいな音が出る水笛や、筆記具ひとそろいだとかまで買ってくれました。ぼくの家族のぶんまで注文して、家に届けるよう手配してくれたんです。嬉しい……みんな絶対喜びます!
それからそれから、サーカスを観たり、夜のボートに乗ったりもしました。
岸辺は明るく照らされているけれど、夜の湖は真っ黒で、最初はこわかったです。でもアーネスト様とでん下が一緒だから、すぐに平気になりました。
おだやかにゆれる湖から、明るくにぎやかな夜店の様子をながめるのは、なんだかとてもげん想的で、不思議な感覚でした。
この夜のことを、きっとこの先もずっと、忘れないと思います。
*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**
暑い中、皆様お疲れ様です。
そしてお越しいただき誠にありがとうございます。
作者、早めの夏休みをいただくことになりまして、この機会にパソコンも業者さんに預けてお手入れしていただくことに致しました。
その間、更新をお休みさせていただきます。
代わりといってはなんですが、『ミルクの結晶』というBL短編を、明日か明後日に予約投稿しておこうと考えています。よろしければお暇なときにでもご覧ください。
以前ほかのサイトで公開していたものを加筆修正した、1万文字ほどのBL童話風味です。雪がキーアイテムの物語なので、ちょっぴりでも納涼気分をおとどけできましたら幸いです❆
アツアツ日本列島ですが、皆様どうか可能な限りご無理なさらず、美味しいものを食べてダラダラして😸お躰第一でご自愛くださいませ🍉🎐
そこへ、護衛兵たちの先導もあるとはいえ、ひときわ背が高くて遠くからでも目立つでん下方が登場したわけですから……夜店はたちまち大さわぎになりました。
「見て見て、寒月殿下に青月殿下よ!」
「やだ、おそろいのマフラーでイケメン度も倍増し!」
「いやあぁぁぁ殿下ぁぁぁぁ! こっち向いてえぇぇ!」
黄色い声というのでしょうか。ぼくには単にそうぞうしい声としか思えませんけども、女性から……そして男性からも、「うおー! やっべ、殿下方かっけー!」などと大声が飛び交っています。
寒月でん下も気さくに手をふって、笑顔で「よお、楽しんでるか! わりいな、ちょっと通らせてくれな」などと応えています。
青月でん下は小さくうなずくくらいで、ニコリともしません。そういえばこの方は、これくらい反応がうすいのがふつうなのでした。アーネスト様といるときはとても表情豊かなので、忘れていました。
王子様見たさにみんなが寄ってきますが、混乱状態にならないのは、お二人のいげんというやつだと思います。
やっぱりトラの方というのは迫力があるので、なれなれしく近付いたりさわったりはできません。でん下方も、そこまでされたらきっとイヤでしょうし、ムッとされると思います。
……ふつうは。
でも、ここに例外の方がいらっしゃいます。
トラの王子様たちにおじけづかないし、王子様たちのほうも大かんげいで受け入れる、きせきのようなお方が。
お二人にがっちりガードされているアーネスト様が、ケープのフードをおろして「すごい人だねえ」とほほ笑むと、周囲が一しゅん、しんと静まり返りました。
が、次のしゅんかん、かん高い声やおたけびや、空気が抜けたみたいな声が上がって、こしをぬかす人まで続出しました。
ぼくはもう知っています。アーネスト様を初めて見た人たちは、よくこういう反応をするのです。
「あの方がうわさの妖精伯爵様なのね!」
「マジ妖精じゃん……綺麗すぎる」
「なんと贅沢な目の保養じゃあ。これでもう、いつ召されても悔いはない」
誰もがアーネスト様にうっとり見惚れていますが、アーネスト様は両手で抱っこしたぼくに向かって、うれしそうに言いました。
「ほらほら、みんな白銅くんの可愛さに大騒ぎだよ!」
……アーネスト様は大変大らかでやさしい方なので、ご自身への評価に無とん着なのです。そしてぼくを過大評価しているのです。
でもそんなところもアーネスト様の素敵なところです。双子でん下ももはや、いちいちてい正しません。
「アーネスト、大丈夫か? ちゃんと見物できてるか?」
寒月でん下が心配そうにたずねると、青月でん下も気づかわしげにアーネスト様を見つめました。
「寒くないか? 気分が悪くなったら、すぐ言うんだぞ」
お二方がハチミツみたいに甘くアーネスト様を見つめるのを見て、またもキャーッ! とつんざくような声が上がりました。
「ちょっとご覧よ、殿下方のあのとろけそうなお顔!」
「青月殿下が微笑んでるよ!? あの青月殿下が!」
そうですとも! アーネスト様はすっごいんですから!
アーネスト様がほめられると、ぼくもとってもうれしくなっちゃいます。
それで気づかぬうちに、猫背が垂直になるほど胸を張ってしまっていたみたいで……
「まあ、なんて愛らしいこと。子猫と伯爵様、おそろいを着てるのね」
「伯爵様が猫獣人の従僕を可愛がっているのは、有名な話だぞ」
「わたしもさっきからあのケープが気になってたの。どちらもすっごく可愛いしお洒落よね。あんな綺麗なオレンジ色、見たことない!」
「妖精さんのようには着こなせないでしょうけど、子猫用のケープはうちの子にも欲しいわあ……」
図らずも、注目を集めてしまいました。
ちょっと恥ずかしくなったぼくとは対照的に、アーネスト様はキラリと目を光らせました。
「やはり! やはり今、白銅くんを称賛する言葉が聞こえた!」
……そのくらい熱心に、ご自分へのしょう賛も耳に入れるとよいと思うのですけど……アーネスト様は周囲のみなさんに向かって、かがやくような笑みを浮かべました。
「みなさん。僕の薬舗も明日からお祭り用のお品を並べさせていただきます。露店も出します。僕の自慢の従僕くんをモチーフにしたものがいろいろありますので、どうぞお越しくださいね」
アーネスト様、こんしんの営業スマイルです!
トラの王子様とは別の意味でのそのいりょくに、くずおれる人が続出しました。が、夢中で手を上げながら「はい! 必ず伺います!」「おれが行きます!」「いや私が!」「我こそは!」とアピールする人も大勢いました。
アーネスト様は「白銅くんのおかげで宣伝ばっちり!」とごきげんでしたが、アーネスト様を見せびらかしたいけど見せたくない双子でん下が、どんどん不きげんさんになっていたので、ぼくはアーネスト様に先へ進むよう提案しました。
デキる従僕は、気配り上手でなければいけませんからね。
でもそのあとは楽しすぎて、従僕の使命など忘れていました……。
アーネスト様におすすめしたかったお花屋さんや、子供向けだけれど異国の植物ずかんを扱う書店に案内すると、こちらのほうがうれしくなるくらい喜んでくれました。
アーネスト様はずかんもお花もたくさん買っていました。し設にも寄付したいそうです。でん下方は、アーネスト様の荷物を持ちたくて争っていました。
それから、念願の肉団子もごちそうになりました!
それだけじゃなく、猫のかたちのアメや、揚げ菓子や、ちっとも怖くないトラのお面や、きれいな音が出る水笛や、筆記具ひとそろいだとかまで買ってくれました。ぼくの家族のぶんまで注文して、家に届けるよう手配してくれたんです。嬉しい……みんな絶対喜びます!
それからそれから、サーカスを観たり、夜のボートに乗ったりもしました。
岸辺は明るく照らされているけれど、夜の湖は真っ黒で、最初はこわかったです。でもアーネスト様とでん下が一緒だから、すぐに平気になりました。
おだやかにゆれる湖から、明るくにぎやかな夜店の様子をながめるのは、なんだかとてもげん想的で、不思議な感覚でした。
この夜のことを、きっとこの先もずっと、忘れないと思います。
*.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**.:・.。**
暑い中、皆様お疲れ様です。
そしてお越しいただき誠にありがとうございます。
作者、早めの夏休みをいただくことになりまして、この機会にパソコンも業者さんに預けてお手入れしていただくことに致しました。
その間、更新をお休みさせていただきます。
代わりといってはなんですが、『ミルクの結晶』というBL短編を、明日か明後日に予約投稿しておこうと考えています。よろしければお暇なときにでもご覧ください。
以前ほかのサイトで公開していたものを加筆修正した、1万文字ほどのBL童話風味です。雪がキーアイテムの物語なので、ちょっぴりでも納涼気分をおとどけできましたら幸いです❆
アツアツ日本列島ですが、皆様どうか可能な限りご無理なさらず、美味しいものを食べてダラダラして😸お躰第一でご自愛くださいませ🍉🎐
111
お気に入りに追加
6,127
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。