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しおりを挟む「呪法石?」
「そ」
風呂場で痩せっぽちの身体を丸洗いしてやりながら、プロジモは頷いた。
生き返りたてのラヴィはどこか心ここにあらずといった様相でボンヤリしている。言葉も普段より幾許か舌足らずだ。
曰く、死んだ肉体は生き返る準備が整ったら、損傷した全てが同時に回復を始めるとの事だ。ダメージが大きい箇所ほど時間がかかり、逆に死に慣れて強靭になった精神は戻りが比較的早いのだそうだが、それでも復活は徐々に、らしい。ここ数日の世間話で知った興味深い話だ。
聞いた当初は、成程だから生首のままでも会話ができたのか、あのまま放置していたらラヴィが二人に増えていたのだろうかなどと愉快な想像をしたものだ。
左右バラバラに動いていた眼球が段階を踏んでじわじわとプロジモに焦点を合わせる。とても生きているものの動きには思えないそれにまたぞくりと背中が粟立つ予感がして、自然に見えるように目を逸らした。
「身体に根を張る石だよ、知らねえの?」
「聞いたことはないね」
「持ち主と離れたら根が伸びンだ」
「……それで死ぬ可能性は?」
「有るんじゃねえの? 離れ過ぎたら全身食い破るってよ」
「…………ふむ」
綺麗になった身体を拭いてやってさあ石を取ってくるかと立ち上がろうとしたが、上着の裾を引っ張られてつんのめる。
あぶねえだろうがと息巻くプロジモの怒声をスルーして、ラヴィは申し訳なさそうに告げた。
「それを着けるのは少し待ってもらっていいかい?」
「あ? 何でだよ」
「今予定外に死ぬと面倒だからね」
自らの死を面倒などとのたまいながら、ゴソゴソと服を被っている。前後逆だ。頭が出ていない内に直してやった。
「……逃げる気じゃねえだろうな?」
「あはは、きみから逃げてぼくに何かメリットがあるかい、所有者様?」
衿口から頭を出したラヴィが笑っている。
四六時中浮かべている達観した笑みよりも、今の外見年齢相応に生意気な笑顔の方が余程好ましい、とぼんやり思った。
どのくらい待てば良いかと聞けば念の為3週間から1ヶ月ほどと返され、いくら何でも長過ぎると抗議したが、ラヴィは譲る気は無さそうだった。
初めの1週間で二度ほど死んでいたが、そこからは熱を出しながらも死亡する気配はなかった。
熱心に粉をすり潰す小さな背中を背後から椅子に座って眺める。
最近のプロジモの日課だ。
一度も勉学に触れたことの無い彼でも流石に少しは理解し始めてきた。これは恐らく薬を作っているのだ。
はじめは熱冷ましでも拵えているのかと特に考えず納得したが、何日も黙々と、たまにどうでもいい話を後ろに居座る邪魔者に振りながら調合しているそれは、もしかしたらプロジモの為の薬なのかもしれないと思い直した。
確かに子どもは言っていたのだ。「病気なのはきみの方だろう」と。購入したものがプロジモの糧になる、と。
プロジモの記憶力は悪くはないが良くもない。ラヴィの言葉を思い出した頃には子どもが暫く魘されていた熱もすっかり下がっていた。
「うん、効いたかな」
「終わったのか」
「そうだね。プロジモ、これを」
小さな包みに小分けにされた粉は、正しくラヴィが数週間かけて調合したものであった。
「朝昼晩の食後に飲みなさい。1週間で効果が出ていたら投薬を続けよう」
「やっぱ俺の薬か。何の病気なんだ?」
「性感染症だよ」
聞くんじゃなかった。
気まずそうに顔を背けるプロジモに対して、ラヴィはあっけらかんとしたものだ。
「きみの性癖上仕方がないとは思うけれどね、今までは動物の死体か何かを使っていたんじゃあないか? 下手したら寄生虫に巣食われていたよ」
数週間広げていた器具を洗いながら説教してくる子ども。
使っていたのは動物の死体だけではなかったが、何を言っても墓穴にしかならないので秘匿とした。
「……もうしねえよ」
「約束できるかい? ぼくの知らない病に罹られたらお手上げだよ」
「おまえが居る限りは」
「……どの羊にも似合いの相手がいるものだね」
皮肉げに言われたその言葉の意味はよく分からなかったが、少なくとも子どもはプロジモの味方でいてくれそうであるという事だけは察することが出来た。
「そんじゃ石着けるか!」
「……楽しそうで何よりだよ……」
「生き返るからといって痛くない訳じゃあないのだからね?」と呆れ顔をしつつも、ラヴィは連れていかれた寝室で大人しく仰向けに横たわっている。
子どもは普段居間のソファに寝泊まりしているか、最近は床に直で寝ていたから、寝台を使うのはプロジモに都合がある時だけだ。
「もし死んだとしてもきみの病気が治るまでは手を出さないでおくれよ」
「何でだよ、死んだら治るんだろ?」
「治すためにまた死ねとおっしゃる?」
「いいだろ別に、減るもんじゃなし」
「……ならせめて生き返ってから中に射精しないでおくれ。死んでいる間なら感染しない筈だ」
面倒になってきたので適当に是と答えたが全く信用されてないのか懐疑的な視線を寄越される。忠告を守る気が一切無いとバレているようだ。
仕方がないだろう、生き返る時の凄まじい快楽を知ってしまったのだから。
せいぜい死なないよう祈っておくといい。
プロジモは胸の内でそう反論しながら、どこに石を埋めるべきかと子どもの薄い腹に指を滑らせた。
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この作品を読むためにアルファポリスを始めさせていただきました。
この作品の世界観や、それを伝える言葉遣い、ラヴィの可愛さにもう病みつきです。
今後も同作品や新規作品等で貴方の作品を見られたら幸福です。
最近辿り着きました。
話の雰囲気と文体が好きです。
2話が一番好きです。
良い旅を〜
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雰囲気か好みです〜