ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第五章 領地発展編

第178話 ゼービア出撃

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 壮大な石造りの空間を朝の静謐さが包む。
 静まり返った謁見の間は、厳かな雰囲気で満たされていた。

 そんな謁見の間の最奥の玉座に座る男が、よく通る声で口を開く。

「ゼービア・シュバインベルク。先の戦での決死の防戦見事であった。例えハイランダーの活躍があっても、そなたがおらねば王国は滅んでいたことだろう。褒美として、そなたを対魔族戦の最高指揮官に任じ、征夷大将軍の称号を贈る事にする。 ……今後も期待しておるぞ、ゼービア」

「はっ! この身に余る光栄、全身全霊で承ります!」

 玉座の手前で跪く女は、まだあどけなさの残る声を張り上げて、頭を垂れた。
 真新しい黄金の鎧に身を包み、絹のように滑らかで美しい紺色の髪を結い上げた美しい女だった。
 女の名前はゼービア・シュバインベルクと言った。



 謁見の間を後にしたゼービアは、長大な王城の廊下を一人でトボトボと歩いていた。

 どうしよう、また出世してしまったわ……。

 今回の大将軍任命の件は予め決まっていた事だったのだが、実際に称号を受け取ってみると流石に怖気づいた。
 大体、ただの大将軍ではなく、征夷大将軍ってどういう事?
 確か大昔に、魔族から領土を取り戻した名将に贈られた称号だったはずだ。
 それ以来、我が王国は一度も魔族から領土を奪えていないどころか、逆に侵略されている。
 そんな今の時代に征夷大将軍?
 魔族領に侵攻しろという事だろうか?
 3月毎に攻め込まれてヒーヒー言っているのに?

 絶対に無理よ……。

 ゼービアはへなへなと壁にもたれかかる。
 まだ20歳になったばかりだと言うのに、なぜそんな重責を背負わされなくてはならないのか。
 しかも、もともとの職務であった王国近衛騎士団長の職は、まさかの兼任という……。
 さすがに手がまわらないので、実務は副団長に任せるが。
 若干20歳で王国近衛騎士団長兼征夷大将軍の女ってどうなのだろう。
 お給金も倍以上になるので文句は言えないのだが。
 ちょっと堅苦し過ぎやしないだろうか。

 遠くにいるカレに引かれちゃったらどうしよう。

 そう考えると、途端に心配になってくる。
 こんな時は、親友のエレインに飲みながら相談したいのだが。
 エレインがカレの元に赴任してから、一月近くが経とうとしていた。
 今の私には相談する相手すらいない。

 そういえば、エレインには何度も手紙を送っていた。
 カレの普段の様子とか、カレが妻とどれだけ不仲なのかとか聞きたいことはたくさんあったのだ。
 エレインにカレが盗られちゃわないように釘を刺すのも忘れなかった。

 それなのに、エレインからは一通も返事が来ていなかった。
 真面目な彼女が返事を返さないなんて、少し心配だ。

 きっと赴任したばかりで忙しいのでしょうけど……。
 あーあ、私もセラン荒野行きたかったな。

 それにしても。
 そう思いながら、ゼービアは新調された自分の鎧を見下ろした。

 精緻な意匠の施された黄金の鎧。
 征夷大将軍叙任にあたって、陛下から前もって賜った鎧なのだが。
 派手なのだ。
 黄金って……。
 しかも、王都で一番人気のある服飾職人が意匠に協力したとかで、妙に露出が高い。
 太ももや二の腕、胸元などが空いていて、スースーする。
 以前身につけていた近衛騎士団の鎧よりも防御力が下がっているようで心配になった。
 例の服飾職人は、こっちの方が兵の受けがいいと言っていた。
 女言葉を使ってヒゲの濃い変な中年男性だった。
 だいぶ怪しい人物だったが、彼の言うことを真に受けていいのだろうか。

「随分浮かない顔をしておるな。疲れでも溜まっておるのか?」

 その時、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。

「……これはフィリップ大将軍」

 振り返れば、馴染みの上官が立っていた。
 黒髪を綺麗に撫で付けて、見事な口ひげを生やした清潔感のある男だった。
 その傷だらけで、日に焼けた精悍な顔つきは、男が数多の戦場を生き抜いてきた事を物語っている。

 慌てて、佇まいを正して敬礼をする。

「良い。もうお主も私と同格の大将軍であろう。敬礼などいらぬわ。それに……」

 フィリップはそう言ってくれるが、10年近く王国軍の最高司令官であり続けている男だ。
 いくら同じ大将軍になったからと言って、礼を尽くさなくて良い相手ではないのだが。

「……先日、東の国境守備の任務を仰せつかってな。所謂、左遷だ」

 そう言って、フィリップは力なく笑う。

「閣下ほどの将軍が左遷なんて……」

「……先の蛮族侵攻戦での敗戦の責は私にある。我が国は一度の敗戦も許される状況ではないのだ。この首が繋がっているだけでも儲けものさ」

 首を撫でながら、フィリップは冗談めかして笑った。
 私は何も言うことが出来なかった。
 確かに軍の最高責任者にとって敗戦の責は重い。
 処刑されなかったのは、今までの功績があったからだろうか。
 前回、カレが古龍(エンシェントドラゴン)で敵を一掃した魔族侵攻戦の頃から、なぜか私が指揮を任されていた。
 あの時から、こうなるであろう予感はあったのだが。

「唯一の救いは、貴公が後を継いでくれた事だ。……後のことはよろしく頼むぞ」

 フィリップは私の肩に手を置き、最期に痛いほどの力を込めた。
 その手は、火傷しそうなほど、熱くて――。
 そう。
 フィリップがいなくなったら、王国軍を率いるのは私の役目なのだ。
 正直に言えば、逃げ出したい。
 でも。

「……お任せ下さい」

 二回りほども年上のフィリップの悲痛な表情を見ていたら、自然とそう答えていた。
 自信は無いけれど。
 正直に行って、じゃあ自分以外に誰かいるのかと問われれば、誰も思い浮かばなかった。
 我軍は兵も不足しているが、何よりも将が圧倒的に足りない。
 だから、思うことは唯一つ。

 ――私がやらねば、誰がやるの。



 早速、王国軍の再編成に取り掛かった。
 度重なる戦で、兵も物資も圧倒的に足りていなかった。
 前回、前々回と敵の数は増していて、およそ5万以上のオークが攻めてくることが予測される。
 しかし、こちらの兵力は領主軍を合わせても約7万。
 兵法に則れば、オークには2倍の兵力で当たるべきだ。
 7万では足りない。
 しかも、急いで掻き集めたため、兵の練度はかなり低い。

 結局、自ら鍛え上げた王国近衛5千のうち、4千を中核にして魔族討伐軍を編成することにした。
 陛下の護衛は残りの千と副団長に託す。
 陛下は快く許可してくださったが、近衛騎士団の本分から逸脱しているので心苦しかった。

 合わせて7万4千の部隊配置と水や食料などの物資の準備が終わったのは、魔族が攻めてくる直前だった。
 少しでも何かが遅れれば、手遅れになる可能性があった。
 三ヶ月に一回、こんな綱渡りをしなくてはならないのかと思うと、気が重くなる。

 兵力はまだまだ足りないが、明るい話題が2つ。
 一つは、ハイランダーの存在。
 王国最強の戦力を有する英雄は、今回も活躍してくれるはずだ。
 私自身、カレに会うのが楽しみで仕方なかった。

 とはいえ、ドラゴンとの連携など、どの兵法書にも載っていないので、今回もカレは遊軍扱いにした。
 万が一の為に、カレ抜きでも戦が成り立つ準備はしておかなければならない。

 そして、もう一つは勇者の存在。
 王国魔術師協会は、先日3人の勇者召喚に成功したらしい。
 幼い頃から勇者の話は物語などでよく聞かされているが、私が生きている間に召喚されたのは初めてだった。
 人類の最終手段となる救世主。

 しかし、私はその3人の勇者にまだ会っていない。
 勇者がどれほどの力を秘めているのかも把握していない。

 魔術師協会会長のアダルフィンを何度問い詰めても、のらりくらりと躱されるだけで、戦場でお披露目するの一点張りだった。
 以前からそうだったが、アダルフィンのあの陰険な表情をどうしても好きになれなかった。

 いくら勇者と言えども、実際にこの目で確かめていないものを戦術に組み込むことは出来なかった。
 アダルフィンが何を企んでいるのか判らないが、本当に腹が立つ。
 今は皆が協力しなくてはならない時代だと言うのに。



 出陣の日。
 私は愛騎の白馬を駆って、王都内を進む。
 後ろには王国と私の軍旗が続き、王国近衛と王国軍の隊列が付いてくる。
 このまま、領主軍との待ち合わせ場所であるフレジア平原に向かうのだ。

「ゼービア様ー! どうかご武運をー!」

「よろしくおねがいします、征夷大将軍閣下ー!」

「王国に勝利をー!」

 沿道で見送ってくれる民達の叫びは悲痛だった。
 誰もが、この軍が負ければどうなるか判っている。
 これは不退転の戦いなのだ。

 私は両目をきつく閉じて、民の叫びを心に焼き付けた。



 フレジア平原に布陣して、領主軍の集結を待った。
 もう殆どは集結していて、まだ来ていないのは東の外れの領主たちとハイランダーくらいだった。
 集結済みの領主たちには持ち場について、待機してもらっている。

 周辺の状況は、手厚すぎるほど方々に斥候を放って慎重に調べた。
 ちらほらとオークの目撃情報はあったが、まだこちらに攻め込めるほど集まっていないようだ。
 こちらの準備は余裕で整う。

 本陣に張った天幕の中で、ひたすらフレジア平原の地図を眺めた。
 側付きの参謀たちと何度も繰り返し戦術は練った。
 ありえない状況にまで思索を巡らせた。
 こちらは寡兵だ。
 でも、策に嵌めてしまえばいくらでも勝機はある。
 大丈夫。
 今の所は、全て上手く行っているのだから。

「閣下、2番隊と5番隊の斥候がまだ戻って来ておりません」

 違和感が始まったのは唐突だった。
 斥候隊を送り出したのは、一時間も前だった。
 まだ戻ってこないのはおかしい。

「すぐに別の斥候隊を向かわせなさい」

 指示を出してから、心臓が脈打つのを感じた。
 1つの部隊ならまだしも、2部隊戻って来ないのはおかしい。
 2番隊と5番隊が向かった先は、フレジア平原の北西部だった。
 鬱蒼とした森が拡がる辺りだった。
 森の中の偵察は高い馬術が必要されるため、特別に選別した部隊だったのだが。

 まさか。

 不意に背筋を冷たい汗が伝った。

「敵襲ー!!!」

 見張りの声が響いた時、全力で天幕の外に駆け出していた。

 フレジア平原の北東。

 巻き起こる土埃。
 耳ざわりな獣の鳴き声。

 森の中からオークの大軍が物凄い勢いで駆けてくる。
 その数は数千……いや、数万。

 ――バカな。

 私は思わず我が目を疑った。
 アレ程の大軍が捕捉されずに接近していたなんてありえない。
 放った斥候は?
 まさか刈り取られた?

 低能なオーク共にそんな高等戦術が可能なの!?

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

「ひいいいいい!」

「ぎゃああああ!」

 オーク共は既に先頭に陣取っていた領主軍に食らいついている。
 ほぼ布陣が終わっていたとは言え、突然の襲撃に領主軍は対応できていない。

 なんとかしなくては。
 陣を組み直して――いや、そんなことをしている時間はない。
 いや、兵の半数を囮にすれば、陣形の立て直しは可能だ。
 いやいや、そもそも寡兵なのに兵の半数も犠牲にできるか。

 頭の中でいくつもの考えが浮かんでは消える。
 こうしている間にも、指示のない兵たちは無駄に命を減らしていく。

 その焦りが、私に覚悟を決めさせた。

 今、わかりきっている事は、このままでは乱戦になるという事。

 乱戦において、陣形や細かい指示など意味をなさない。
 必要なのはただ一つ。

 ――兵の士気だ。

 私は剣を引き抜いて、鞘を捨てた。

「何をしているの!? それでも誇り高き王国の戦士か! 私たちに出来ることは唯一つ、民のために目の前のオークを殺しなさい!!!」

 声の限りに叫んだ。
 乾燥したフレジア平原の空に私の声が響き渡る。

 兵たちが私を見るのがわかる。

 後は将として、生き様を見せるだけだ。

「イヤアアアアアアア!」

 声が裏返るのも構わずに、気合を入れて駆け出した。
 ただ一人。
 馬鹿みたいに剣を振りかざして。
 オークの群れを目指して、ひた走る。

 やがて背後からじわじわと熱い熱気を感じた。
 それはまるで地鳴りのように。

「「「ウオオオオオオオオ!!!」」」

 王国全軍が私に呼応して雄叫びを上げていた。

 あまりの声の大きさにオーク達の動きが止まる。

 どうだ、オーク共。
 私たちは簡単には負けないわよ?

 そして、まずは一体目のオークの首を跳ね飛ばした。
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