ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第34話 退魔師

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 今日も俺は朝から、丸太作りに勤しむ。
 倒木に《下級丸太生成》をかけて片っ端から丸太にしていくのだ。
 ルーナとフィリスも一緒だ。
 ただ、先程から全然作業が進まない。
 なぜならルーナとフィリスが数分に一度のペースでケンカを始めるからだ。

「ちょっと! ルーナお嬢様、さっきからコウ様に触りすぎですよ? なんなんですか? 痴女なんですか?」

「はあ!? 私がこいつと何しようがお前には関係ないだろう? だいたい、飽きちゃったんだからしょうがないじゃないか」

「なんで飽きたらコウ様にベタベタするんですか! その辺で遊んでればいいじゃないですか! 蝶々でも追いかけまわして」

「あっ! 今私の事バカにしたな? 私が蝶々追いかけ回して楽しめるように見えるのか?」

「見えます。だってルーナお嬢様、言っちゃ悪いと思って言いませんでしたけど、ちょっとバカっぽいですよ?」

「あっ! バカって言った! ひどいぞ! これでも私は学生の頃は一番頭良かったんだ。主席卒業なんだぞ!」

「ルーナお嬢様が主席って……、いくらお金積んだんですか?」

「ああっ! お前までそんな事を言うのか、うわーん」

 他の人にも言われていたらしいルーナが泣きながら抱きついてくる。
 というか、こいつ今日フィリスに泣かされるの何回目だろう。
 最初ルーナとフィリスがケンカを始めた時、フィリスは問答無用でルーナを殴ろうとしたので、暴力はいけないと窘めておいた。
 そうしたら、フィリスはしょんぼりしながらも、精神的な死を与えればよいのですね、とか怖いことを言い始めた。
 そして、現在の醜い罵り合いに至るのだ。

「……だから、なんでそこでコウ様に抱きつくんですか!」

「お前が私をいじめるからだ」

「じゃあ、なんで足まで絡めるんですか! そういう所が痴女っぽいんですよ!」

 確かにルーナの白い太ももが俺の足に絡みついていた。
 俺としては素敵な感触なので、なんの文句もないのだが。

 ただ本当にもうやめて欲しい。
 胃がキリキリする。
 ギャーギャーした女の罵り合いを聞いているだけで、頭がクラクラする。

 人間嫌いの俺にとって、この空間は毒にしかならない。

「……ちょっと向こうで休憩してくるから、あとは2人でごゆっくり」

 俺は纏わりつくルーナをひっぺがすと、そそくさと逃げることにした。
 ルーナとフィリスはケンカに夢中で、俺が立ち去っても気にしなかった。



 和を以て貴しとなせ。
 聖徳太子は本当に良いことを言うと思いながら、俺はとぼとぼと自宅まで戻ってきた。
 ほとぼりが冷めるまで、この辺で休憩してよう。
 そんな事を思っていると、急に聞き慣れぬ声がした。

「……あのもし、そこのお方」

 振り向くと、そこには教会の神父さんのような格好をしたおじさんが2人と、シスターの格好をした女性がいた。
 俺は心臓が凍りつくのが分かった。

「少々、伺いたい事があるのですが」

 シスターさんがこちらに向かって何かを言っている。
 俺はおどおどしながら、振り返ってみた。
 しかし、そこには誰もいない。
 全身から汗が滝のように溢れてくる。
 これはもしかして、俺に話しかけているのだろうか。

「あなたに聞いているのです。他に誰もいないじゃないですか」

 話しかけられているのは俺だった。
 以前、街なかで見知らぬ女性に話しかけられたと思ったら、俺の後ろにいる人に話しかけていたと知った時のあの感覚。
 恥ずかし恥ずかしと地面をのたうち回った後、思わず駅のホームから飛び降りたくなるあの感覚が恐くて、俺は基本的に知らない人に話しかけられても、まずは勘違いを疑う癖がついていた。
 しかし、今回は残念な事に話しかけられたのは俺のようだ。
 だが、これはまずい。
 見た感じ、シスターさんも神父さんたちも人間ぽい。
 今までのように明らかに人間離れしていたルーナやセレナ達とは違う。
 こいつらは、本物の人間ぽいのだ。
 俺は一瞬で、対人恐怖症をMAXで発動させた。

「……る、る、るー」

 別にキタキツネを呼んでいるわけではない。

「ルーナ! ルーナさん! ルーニャああああああ!」

 俺は全力でルーナを呼んだ。
 俺がこの世界で頼れるのはルーナしかいない。

「……どうしたんだ? 寂しくなっちゃったのか? だから、私から離れるなと言っているだろう」

 呑気にやってきたルーナに飛びつく。

「わわっ! もう仕方のないやつだな」

 俺はルーナの背後に隠れるようにして、神父さんたちを指差す。
 俺の指は情けなくも震えていた。

「うん? なんだ客か」

 ルーナは少しも動揺せずに、神父さんたちに目を向けた。
 やだ、すごい頼もしい。
 惚れてしまいそうだ。

「おお、これはエルフ様。こんな所でお目にかかる事ができようとは」

 神父さん達がルーナに向かって、恭しく頭を下げている。
 ルーナが美人だからだろうか。

「教会の人間か。お前たちこそこんな所になんの用だ?」

 ルーナがそう聞くと、シスターさんが一歩前に出て口を開く。

「申し遅れましたが、我々は教会の巡礼者です。お二人はここで暮らしてらっしゃるご夫婦ですか?」

「ご夫婦……。うん。そうだ。私たちは夫婦だ」

 ルーナがさらっと嘘をつくので、俺はルーナのくびれをバシッと叩く。

「痛っ! 何をするんだ」

「うふふ、仲がよろしいのですね。人間とエルフの夫婦なんて珍しいですが」

 シスターさんは朗らかに笑った。
 シスターさんが代表して話している所を見ると、この人がリーダーっぽい。
 普通は神父さんの方が偉そうだけど。
 シスターさんは、なかなか整った顔立ちをしていた。
 白い肌に茶色い瞳をしている。
 髪は修道服のような頭巾に覆われていて見えないが。
 体つきも修道服に覆われていてよく分からないが、背は結構低い。
 フィリスと同じくらいだろうか。

「……あのご主人は、先程からどうしたのでしょうか? 何か私達が気に触るような事をしてしまったのでしょうか?」

 シスターさんが俺に注意を向けたので、俺はルーナの背中に顔を押し付けて隠れた。

「……ああ、気にしないでくれ。ちょっと人見知りなんだ」

「そうですか。……それで、奥様? 最近この辺りで変わったことはありませんでしたか?」

「奥様……」

 ルーナは感動したようにシスターさんのセリフを反芻している。
 ちょっとツッコミを入れたくなったが、ルーナの背に隠れている今の俺には黙っていることしか出来なかった。

「奥様? 聞いていらっしゃいますか?」

「うん? ああ、変わったことだったか? 特にないぞ」

「……そうでございますか。この辺りに強いアンデッドの気配を感じたのですが」

 その言葉に、俺とルーナは身体を強張らせた。
 脳裏にセレナの顔が浮かぶ。
 やっぱりあいつってアンデッド科の生き物なんだろうか。

 俺はルーナと短く目を合わせると、小さく首を振った。
 ルーナも小さく頷く。

「アンデッド? それは怖いな。だが、私たちは見たことはないぞ。気のせいじゃないか?」

 ルーナが胡散臭くもシラを切る。

「……コウ様、用事がお有りでしたら、ルーナお嬢様ではなく私を呼んで頂きたいのですが」

 その時、ちょっと怒った顔をしたフィリスがやってくる。
 物凄く悪いタイミングだ。
 フィリスは真っ青な顔に、赤い目をしていて、場違いなメイド服も合わさって、なんというか物凄くソレっぽい。

「……吸血鬼(ヴァンパイア)!」

 突然、シスターさんたちが距離を取る。

 シスターさんは修道服の裾をめくると、太ももに挿してあった銀色の片手剣を抜く。
 神父さんたちもどこからかクロスボウを取り出して構えていた。

 場に緊張が走る。

 フィリスはちらりとシスターさんたちを一瞥すると、吐き捨てるように言った。

「……教会の退魔師(エクソシスト)共ですか」

 フィリスは構えもせずに、背筋を伸ばして立っているだけだった。

「フィリス!」

 俺は嫌な予感がしたので、ルーナの背中から飛び出して、フィリスを守るようにシスターさん達の前に立ちふさがる。

「お、おい!」

 ルーナが短い制止の声をあげる。

「……ご主人。どいて頂けますか? ソレは凶悪な吸血鬼(ヴァンパイア)ですよ? 我ら人間の敵です。見た目に騙されてはいけません。ソレは人間の生き血をすするのです」

 銀の剣を構えながら、シスターさんが俺を鋭く睨む。
 確かに、吸血鬼は人間の血をすする。
 というか、現に俺は血を吸われている。
 でも。

「それがどうした」

 セレナもフィリスも美人なのだ。
 血を吸うくらい大したことはない。
 現に俺はそんな被害を受けていない。
 強いていうならば、ルーナが夜大変な事になるだけだ。

「……コウ様。素敵です。たくましい背中。はあはあ」

 フィリスが怯えたように、荒い息をついている。

「……おい」

 ルーナが呆れたような声を上げる。
 空気を読めと言ってやりたい。

「ご主人。哀れにも吸血鬼の色香に惑わされたようですね。こんなにお綺麗な奥様がいらっしゃるのに……」

「もっと言ってやってくれ」

 ルーナはいつの間にか、シスターさんの側に立っていた。
 後でお仕置きをしなければ。

「まあ、いいでしょう。その吸血鬼を滅ぼした後で、みっちりお説教して差し上げます」

 シスターさんから、魔力の流れを感じる。
 俺は瞬間的に、目の前に土壁を生成する。
 もうルーナの時のような失敗はしない。

「無駄です。聖門(ディバインズゲート)」

 突然、足元から白い光が立ち上る。
 やばい、俺がよく使う火柱のように、ゾーン系の魔法か。

 俺は咄嗟にフィリスを庇おうとする。

 しかし、俺達を包み込むように、白い光の柱が出現して――。

「あっ……」

 短い悲鳴を残して、フィリスは光りに包まれていく。

「フィリーーース!」

 俺は思わずフィリスを抱きしめた。
 白い光は、俺達を消し去るように地面から立ち上り、そして消えた。



 辺りには、光の残滓が僅かに宙を舞い、俺は膝から崩れ落ちるフィリスを抱きとめるように、ゆっくりと地面に座り込む。

「……あなたが魔法を使ったのには驚きましたが、聖門(ディバインズゲート)は魔を滅する究極の魔法。もうその吸血鬼は長くありません」

 シスターさんが何かを言っているがどうでもいい。

 俺の腕の中で、フィリスはわずかに目を開いた。
 その身体は力尽きる寸前のように、小刻みに震えている。

「……コウ様。あなたの、ような方に、出会えて、よかった」

 フィリスは弱々しくも、そんな泣かせる事を言った。

「フィリス。そんな事を言わないでください」

 俺は涙ぐみながらそんな事を言うと、フィリスは弱々しく手を上げて、俺の頬を撫でた。
 俺は思わずそんなフィリスの手を掴む。

「……コウ様、最期に浅ましい吸血鬼の願いを聞いて頂けますか? キスしてください」

「はあ!?」

 ルーナが場違いな声を上げる。
 本気で空気を読んで欲しい。
 フィリスの最期の願いなんだ。聞いてやらないでどうする。

「そんな事でいいのなら」

 俺は今にも死に絶えそうなフィリスの唇に口づけをする。
 フィリスの唇は、冷たくも柔らかかった。

「ああっ、コウ様! むちゅ、うむぅ、ちゅば」

 軽く触れるだけのキスをするつもりが、思い切りフィリスの舌が入り込んでくる。
 突然の出来事に脳がついてこなかったが、反射的に舌を絡めてしまった。

「うわー! お前たち、何をやっているんだ!」

 ルーナが割り込んできて、俺とフィリスを引き離そうとするが、フィリスの力は凄まじく全く離れようとしない。

「うむぅ、ちゅばっちゅば、ああ、コウ様、大好きです」

「なっ! このメイド、どさくさに紛れて何言ってるんだ!? ちょっと、もう本当にやめてよー! こいつは私のなんだからー!」

 ルーナがもはや泣き出す。
 俺もさすがにおかしいと思い始めたが、フィリスがガッチリと背中に手を回していて離れられない。
 結局、そのまま数分間、フィリスに口内をいいようにされ続けた。



「……ああ、美味しゅうございました」

 さっきまで死にかけていたはずのフィリスは、いつものように背筋をピンと伸ばして立っていた。
 心なしか肌艶がよくなっているようにすら見える。

「ひっく……ひどい……あんまりだ……私の目の前で……他の女と……あんなに」

 俺は仰向けに倒れていて、馬乗りになったルーナが泣きべそをかきながら、俺の唇をハンカチで拭き続けている。
 そろそろ摩擦熱で火傷しそうなので、やめて欲しい。

 なんというか、どうやら俺はフィリスに一杯食わされたようだ。
 まんまと騙された。
 演技力高すぎだろ。

「……あのう、ちょっと何が起きているのかわからないんですけど」

 不意に掛けられた声に振り向けば、途方に暮れたようにポカンと立ち尽くしているシスターさん達がいた。
 ああ、そういえばいたな。
 すっかり忘れていた。

「まだいたのですか? この上位吸血鬼(デイライトウォーカー)たる私が人間の神聖魔法如きでやられるはずがないでしょう?」

 フィリスが底冷えのする声で言う。

「ひいっ! 上位吸血鬼(デイライトウォーカー)!」

「気づいていなかったのですか? 吸血鬼が昼間に外を出歩いている時点で気づきなさい」

 突然、ガタガタと怯え始めるシスターさん達。

 俺はハンカチで拭き続けるルーナの手を止めて起き上がる。
 とりあえず泣きじゃくるルーナを抱きしめる。

「そんなにすごいのか? 上位吸血鬼(デイライトウォーカー)って」

「ぐす、ひっく、人間が倒そうとしたら、軍隊でもつれてこないと無理だ」

 なにそれかっこいい。
 俺を倒したいのなら、軍隊でも連れてくるんだな!
 男なら一度は言ってみたいセリフの一つだ。
 というか、ルーナが全くフィリスの心配をしていなかった理由がわかった。
 初めからシスターさん達に倒されるとは思っていないのだろう。

「……すごいな。うん? フィリスで軍隊ってことは、セレナは?」

 不意にそんな疑問が湧いた。
 フィリスの主人たるセレナはもっと強いんじゃないのか。

「…………全人類が束になってかかっていっても勝てないと思う。あいつは真祖だから」

「…………」

 俺、そんなのと戦っていたのか。
 ちょっと背筋が冷たくなった。

「さて、コウ様。この教会の犬どもをどういたしましょうか?」

 フィリスはいつもと変わらない感じで俺に聞いてくる。
 亜麻色の髪に陽光が反射して綺麗だった。
 なんだろう。
 ちょっとドキドキする。

「がぶっ!」

 そんな事を考えていたら、突然ルーナに肩を噛まれた。
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