ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第26話 エインヘリヤル

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「……状況は理解した」

 今までの経緯を説明し終わると、ルーナは小難しい顔をした。

「……つまり、お前は、私が気を失っている間に、他の女と浮気をしていたということか?」

「失礼な。お前、俺の話をちゃんと聞いていたか?」

 心外である。
 どこをどう聞き間違えれば、そんな解釈になるんだ。
 そもそも浮気ってなんだ。
 俺は別にルーナと付き合っているわけではないので、浮気などという現象は成立しない。

「ちゃんと聞いていた。あの女が吸血鬼で、油断させるためにキスをしていたら、あの女が発情して脱ぎだしたのだろう? そもそもなんで油断させるためにキスをするのかがわからない」

「……あれ?」

 たしかに。
 そう言われるとすごく浮気っぽい。
 浮気しちゃったんだろうか、俺。
 なんかもっと激しいバトル的な事をしていたような気もするが、俺の乏しいコミュニュケーション能力では、そんな事を伝達できないのだ。
 引きこもりとは因果なものである。

「……ねえ、なんで他の女とキスなんてするの?」

 ルーナは瞳をうるうるさせながら、詰め寄ってくる。

 ダメだ。この状況は既に詰んでいる。
 俺の理屈で言えば、キスなんて誰とでも出来るっつーので終わるのだが、多分ほとんどの人間は理解できない。理解してくれるのは日本クズ連盟(ヒモ、博打狂い、アル中などが所属)の仲間だけだ。

 そもそもなんで事細かに、セレナとの情事を説明してしまったのか。
 そこはボカしとけよと思うが、ルーナが気絶していた中で、あそこが一番印象的だったのだ。
 ややコミュ障も患っている俺は、素直に話してしまった。
 仕方ない。
 セレナくらいの美人とチューしたら、誰でもそうなるはずだ。

 とにかく、今ルーナに出来る言い訳はない。
 今までの人生で、こういう状況を乗り切れた例がない。

 とりあえず、ダメ元でルーナを抱きしめて、耳元で囁いてみた。

「悪かった。お前が死んだと思って、気が動転してたんだ」

「…………ん」

 ふざけんな、と言われてビンタが飛んでくるものと思っていたが、ルーナは素直に頷くと、俺に向かって唇を突き出してくる。

 一瞬、何やってんだと思ったが、とりあえずルーナにキスをする。
 触れ合うだけの軽いキスだ。

「……えへへ。そんなに私の事が心配だったのか?」

 ルーナの機嫌は一瞬で直り、嬉しそうに額を押し付けてくる。

「お、おう」

 俺はルーナのチョロさに戦慄を覚えた。
 大丈夫だろうか、こいつ。
 絶対、夜の歌舞伎町とかを一人で歩かせるのはやめようと思った。



「そもそも、お前はなんで無事なんだよ?」

 ルーナの機嫌を取り終えた所で、俺は今回の騒動最大の疑問をぶつけてみた。
 あれだけの雷に打たれて無傷でいられる訳がない。

「うーん、それはあの吸血鬼に聞いてみないとわからないけど。多分、私が受けたのは気絶雷(スタンパルサー)っていう風魔法の上級呪文だと思う。発動が物凄く早いけど、相手を気絶させるだけの呪文なんだ。かなり高位の風魔法使いじゃないと使えないんだぞ」

「……ほほう」

 そんな便利技があるのか。
 確かに、物凄い発動速度だった。
 ただ見た目も派手だったんどけどなー。
 もう少しわかりやすいエフェクトにしてくれないだろうか。
 気絶させた相手の頭の周りにヒヨコを出すとか。

 つまりなんだろう。
 俺が情弱だったから、発生した勘違いということだろうか。
 なんというか、物凄く。

「……恥ずかしい」

 思わず口に出してしまった。
 メチャクチャ恥ずかしいんだけど。
 何熱くなって、新魔法開発したり、武器スキル上げたりしてんだろう。
 全て勘違いだったんですけど。

 カーっと顔が熱くなってくる。

「ふふっ、だから安心しろ? お前の大切な私は無傷だぞ」

 嬉しそうにルーナは抱きついてくる。

 俺はちょっとイラッとした。
 こいつ本当にわかっているんだろうか。
 俺がどんな気持ちだったか。
 平和な日本育ちの俺にとって、人を殺したいと思った事なんてなかった。
 ましてや、そのまま殺してしまったのだ。
 セレナは人ではなくて、吸血鬼なのだが。

「……本当に、無傷なのか?」

「え?」

 なので、少し仕返しをしてみようと思った。

「本当に無傷なのか見せてみろ」

「ええ!? ここで?」

 俺の意図を察したルーナが顔を真赤にする。

「ああ。全身だからな? 全身」

 要は、全裸になれと言ってみたのだ。

 ルーナはもじもじしながらも、チュニックの胸元を緩め始める。

 え、まじで脱ぐの?
 軽い冗談だったのだが、ルーナはやる気のようだ。
 人間、言って見るものである。

「……なあ、そ、その、見るだけ、なのか?」

 恥ずかしそうに、上目遣いで服を脱いでる女にそんな事を言われたら。
 俺の何かがプッツンする音が聞こえて。
 俺は思わず――。

「……他人の城で、痴態を繰り広げるのは止めてもらいたいんだけど」

 突然、第三者の声が聞こえた。

 思わず振り返ると、そこには全裸になったセレナが立っていた。

「……お前」

 咄嗟にルーナを背中に隠すようにして、剣を生成する。

「酷いじゃない。燃やされるのなんて何百年ぶりかしら。さすがに灰の状態から再生するのは時間がかかるわね」

 セレナの美しい肢体には火傷一つなく、とても灰になるまで燃やされた人間とは思えない。
 というか、どうやったら死ぬんだよ。

「その上、苦労して再生してみれば、飽きもせず2人でイチャコライチャコラと……」

 ぶわっと可視化出来るほどの魔力がセレナから放出される。

「……お前には関係ないだろ!」

 俺の背中にしがみつくようにして隠れているルーナがそんな事を言う。
 ルーナのセリフに、セレナは眉を吊り上げながら、牙をむき出しにした。

「ここは、私の城よっ!」

 どうしよう。
 正論過ぎて何も言えない。

 それでも、今にもルーナに飛びかかりそうな勢いのセレナの前に立ちふさがる。

「…………」

 セレナは、そんな俺を見ると目をすうっと細めた。

「ねえ、あなたは何?」

「何と言われても、善良な一般人としか答えようがないが」

 セレナは俺の答えを聞いて、鼻で笑った。

「嘘おっしゃい。あなたが人間のわけないでしょう? 私に噛まれても眷属にならない。その若さで超高等魔術を使いこなす。剣術の腕も一流。それに、ねえ? 私が刺したお腹のキズはどうしたの? なんで塞がっているの?」

 あれから結構な時間が立って、俺のHPは全快ではないにせよ、結構回復していた。
 腹の傷もルーナが気付かないくらいには治っていた。

「あなたの正体を言いなさい。それとも、力ずくで言わされたいの?」

 セレナがバキバキと爪を鳴らせる。
 正直、もう勝てる気はしない。

「正体と言われても……」

 俺は本当にただの一般人のつもりなのだが。

「ダメだ。絶対に言っちゃダメだ!」

 ルーナが悲痛な声を上げる。

「あら、お前は知っているの? ならお前が言ってもいいのよ? 言わなければ、お前をグールに犯させて、その横でその男を私が犯してやるわ。私結構好きなのよ? 拷問」

 ルーナは俺の肩をギュッと掴んだ。

 そんな事は俺がさせない。
 させないが、足掻いた所で結果はあまり変わらないだろう。
 セレナをもう少し苦しめる事はできるかもしれないが、倒す方法は思い浮かばない。

「……俺がなんなのか話せば、見逃してくれるのか?」

「あなたが見逃せる存在ならね」

 まあ、俺なんて大した存在じゃないだろう。

 俺はルーナの手をとって、目配せをする。
 ルーナは、そんな俺の目を見て、力なく頷いた。

「俺はこの世界の人間じゃない。もともとは別の世界に住んでいて、その世界で死んだ後に、ヴァルキリーっていう女性に言われて、この世界にやってきたんだ」

 俺がそう話すと、セレナは眉間に皺を寄せた。
 考える時の癖なのだろうか、口に手を当てて俯いている。

「……続けなさい」

「お前に噛まれても無事だったのは、ヴァルキリーさんにつけてもらった能力のお陰だ。腹の傷が塞がったのもそうだが、剣とか魔法はこっちに来てから独学で覚えた」

「こっちに来てからどのくらいが経つの?」

「1ヶ月半くらいかな」

「そう。たった1ヶ月半で無手魔法(アイサイトスペル)を覚えたのね。……冗談じゃないわ」

「なあ、頼む! こいつが勇者だっていうのは黙っていてくれないか?」

 突然、ルーナが口を挟むと、セレナはギロリと睨みつけた。

「……勇者? 馬鹿じゃないの、小娘。この私が勇者なんかに灰にされるわけないでしょう? この子は、人間如きに召喚された勇者なんて生易しいモノじゃないわ。神に遣わされた英霊(エインヘリヤル)よ」

「エイン……?」

「あーなんか、ヴァルキリーさんもそんな事を言っていたな」

「はあ」

 セレナは小さなため息を付くと、なんでわざわざ私の所にとかブツブツ呟いた。

「……いいわ。停戦協定を結びましょう。後、安心しなさい小娘。この子の事は人間には言わないわよ」

 セレナはそう言って、腰に手を当てた。
 大きな胸がぷるんと揺れる。
 ルーナはホッとしたため息をついている。

「グラード! カレリア!」

 セレナがそう叫ぶと、突然、扉が開いた。
 そして、死人みたいな顔色をした老執事とメイドが入ってくる。

 俺は初めて見る人間に対人恐怖症を発動させて、ルーナの手を握る。
 え、セレナって一人暮らしじゃなかったの……?

「カレリアは、私とこの子の着替えを用意しなさい。グラードは、そこの小娘に別室でお茶を出して上げなさい。今からこの2人を客人とするわ」

「はい、お嬢様」「かしこまりました、お嬢様」

 老執事とメイドがセレナに頭を下げる。
 多分、老執事がグラードさんで、メイドがカレリアさんなのだろう。

「今日はもう遅いから、泊まっていきなさい」

 セレナのそんな提案に、ルーナは俺をちらりと見てから頷いた。
 まあ、たしかに疲れたしな。

「さあ、あなたは私と服を選びに行くのよ。ごめんなさいね、服破いちゃって」

 セレナに腕を取られる。
 生乳に腕が埋まった。
 なんだろう。
 みなぎってくる。

「お、おい!」

 不満の声を上げるルーナをセレナが、睨みつけて黙らせる。
 蛇に睨まれた蛙のようにたじろぐルーナ。
 正確には吸血鬼に睨まれたエルフだが。

「心配するな。ただ着替えてくるだけだよ。変なことはしない」

「……本当だな?」

 頷きながら、不安そうな表情を浮かべるルーナの頭を空いている手で撫でてやる。

 不意にセレナに胸を押し付けられた気がした。

 ……変なことになっても我慢できる自信は全くなかった。

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