ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第27話 夜会

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 俺は物凄く顔色の悪いメイドさんに手伝ってもらいながら着替えをしていた。
 メイドさんは先程のカレリアさんとは別のメイドさんで、結構な美人だった。
 顔色は土気色なのが残念だった。
 吸血鬼に仕えるメイドってやっぱり人間じゃないのだろうか。
 顔色的にアンデッド系っぽいけど。

 メイドさんが用意してくれたのは、メチャクチャ高そうなダブルのスーツだった。

 生地は厚く丈夫そうで、深い漆黒に染まったスーツだ。
 よく見ると、裾や袖の所に細かな刺繍が施してある。

 俺がよく行く紳士服量販店では絶対扱ってなさそうなスーツだ。

 とりあえず、袖を通して、メイドさんの用意してくれた鏡を見る。

「なん……だと……!?」

 俺は鏡に移った自分を見て戦慄していた。
 スーツのサイズはピッタリで、結構俺にもよく似合っている。
 だが、問題はそこじゃない。
 そこには本当に若返った自分の姿があったのだ。

 肌はツヤツヤで、不摂生によってできまくった吹き出物などは一つもなく、頬はシュッと引き締まっていて不規則な生活と乱れた食生活によって、パンパンに太ってなどいない。
 鼻梁はすっと一筋に通っていて、酔っ払って駅の階段から落ちて鼻が曲がってしまったりしてはいない。
 唇もふっくらと健康的な色をしていて、これまた不摂生によってパサパサにささくれだって、慢性的な寝不足で紫色の唇になどなっていない。
 顔色もちょっと色白だが健康的に血の気が通っていて、度重なる体調不良によって土気色にはなっていない。
 そして、髪もふさふさとボリューミーで、ハゲかかって重度のストレスによって白髪交じりになどなっていない。

「イケメンやないか」

 思わず関西弁で言ってしまったが、若い頃の俺は今にして思えば十分にイケメンだった。
 多分、高校生くらいの頃の俺なのだが、それからたった15年ほどで、ヒトはあそこまで劣化するのかと思うと、ちょっと泣けてくる。
 たまに正月とかに実家に帰ってた時に、学生の頃の友達に会うと、みんな引きつった笑顔を浮かべていた理由がわかった気がする。
 本気で泣けてくる。

「ううっ」

 俺は思わず口を抑えて嗚咽を漏らしていた。

「……なぜ鏡を見て泣いているの。あなたは」

 不意に背後から声をかけられる。
 振り返ると、漆黒のドレスに身を包んだセレナが立っていた。
 以前、着ていたドレスとは細部は異なるが、似たような感じだ。
 両肩を出して、スカート裾の長いドレスだった。
 コメカミにつけた白い花飾りも復活している。

「あら、よく似合っているじゃない。もう少し襟を立てた方が、私の好みだわ」

 セレナが近づいてきて、襟を直してくれる。
 着替えを手伝ってくれたメイドさんが静かに頭を下げていた。
 セレナはメイドさんに小さく頷くと、俺と並んで鏡を見た。

 俺のスーツとセレナのドレスは釣り合いがとれていて、服装だけを見れば、何かの雑誌の表紙を飾れそうなレベルだ。
 服装だけね。
 人間離れした美しさを誇るセレナと並ぶと、俺はモブキャラにしか見えない。

「さて、小娘の所に戻りましょうか。お食事にしましょう。エスコートしてちょうだい?」

 言われるがままに、セレナの手をとって歩きだす。

 って俺どこに行けばいいのかわからないんですけど。

 そんな事を思っていたが、メイドさんが先導してくれるようだ。
 よくできたメイドさんである。

 そういえば、本物のメイドさんって初めてみた。
 秋葉原とかにいる自己主張の塊のようなメイドさんと違って、本物のメイドさんは貞淑な感じがしていい。

「うちのメイドが気に入ったの?」

「ああ、いや、顔色悪いけど働きすぎなんじゃないかと心配になった」

「あはは。この子達は眷属だから人間じゃないわ」

「眷属って吸血鬼?」

「そうよ。私のかわいい子供達」

 メイドさんは粛々と我関せずといった感じで俺たちの前を歩いている。
 なんというか、無機質な感じがする。

「俺もこんな感じになるところだったのか……。俺を執事にでもしたかったのか?」

 人のお世話などしたことないし、する気も全く無い俺には無理な職業だった。

「まさか。あなたは、そうねえ……」

 セレナは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「私の性欲処理担当ってところかしら」

 セレナがいやらしく腕を絡めてくる。
 柔らかい感触と、僅かな香水の香りが漂う。
 俺は思わず生唾を飲み込んだ。

「……そういえば聞いてみたかったのだけれど。あなた眷属になっていない状態で、私にアレだけのキスをしたのよね?」

「ああ。お前を油断させようと思ってな」

 ルーナに怒られたが。

「……それにしては随分熱心な感じがしたのだけれど」

 言いながらセレナが急に立ち止まるので、俺はバランスを崩しそうになった。

「ただ、あのキスはすごく良かったわ」

 セレナはそのぷっくりと膨らんだ唇をいやらしく舐めた。

「ねえ、またしてくれる?」

 セレナはその豊満な胸を俺に押し付けながら、唇を突き出してくる。
 俺は思わず、その唇にむしゃぶりつこうとした。
 ただ、不意に思いとどまって、今セレナにキスをしたらどうなるか考えてみた。

「……いや、今は止めておく。また今度な」

「あら、あの小娘に遠慮しているの?」

「まあそれもあるが。正直、今キスをしたら、キスだけじゃとても収まりそうもない」

 もっと言うと、その後、1発だけじゃ収まりそうもない。
 ルーナですら、最初は数日間止まらなかったのだ。
 この女もルーナも同じくらい美しいが、色気というレベルではセレナの圧勝だ。
 ルーナが色気100だとしたら、セレナは53万くらいある。
 若返った今の俺の性欲ははっきり言って異常だ。
 死ぬまでヤりそうな気がする。
 テクノブレイクはやだ。

「ぷっ、あは、あははは。いい答えだわ。私もお夕食が食べられなくなるのはイヤだわ」

 いや、お夕食っていうレベルじゃないのだが。

「というか、あなた、吸血鬼の私が怖くはないの? 人間じゃないのよ?」

「美しい女にしか見えないからな」

 むしろ対人恐怖症の俺は人間の方が怖い。
 というか、俺はこの世界に来て、まだ一度も人間には会っていない気がする。

「……あれだけ、私の恐ろしさを目の当たりにしても?」

「強い女は嫌いじゃない」

 さすがに何やっても死なないのはちょっと引くが、セレナの巨乳を見ているとそんなことはどうでも良くなってくる。
 巨乳はジャスティスなのだ。

「ふうん、さすがエインヘリヤルというべきかしら。今度、そのセリフが嘘じゃないって証明してもらうわよ?」

「望むところだ」

 むしろお願いしたいくらいだ。
 そういえば、俺はまだあの巨乳を揉んでいないのだ。


 機嫌が良くなったのか、嬉しそうに俺の腕に抱きつくセレナに伴われて、俺達は再び歩き出した。
 再びメイドさんが先導してくれるが、このメイドさん先程まで完全に存在感を消していた。
 もしも、あそこで俺とセレナが始めたらどうしていたのだろうか。
 終わるまで待っていてくれたのだろうか。
 優秀なメイドさんすぎて、我が家にスカウトしたいくらいだ。
 うち1LKですけど。



 メイドさんに案内された部屋を開けると、ルーナがうなだれて座っていた。
 ルーナの背後には、先程の老執事さんが控えていた。
 老執事さんの名前は忘れた。

 ルーナは俺に気づくと飛びついてくる。
 よく見てみると、目元が少し腫れている。
 泣いてたのだろうか。
 32にもなってよく泣く女だ。

「遅いぞ! 着替えにどれだけ時間がかかっているんだ!? あの女と何かしてたのか?」

「何もしてないよ」

「……本当か? くんくん。あっ! あの女の臭いがするぞ!」

 ルーナが俺の胸元に鼻を埋めると、涙をポロポロ流し始める。
 きっと待っている間、ずっと変な想像をしていたんだろうな。
 うわ、面倒くさ。

「セレナに借りた服なんだから、セレナの臭いがして当然だろう」

 たぶん、ずっとセレナに腕を抱かれていたり、途中ちょっとキスしそうになったりしたせいだが、アレくらいはセーフだろう。

「あれ? それはそうだが」

「何もしないって言っただろうが。それにそんなに時間かかったか? 着替え終わってまっすぐこっち来たはずだぞ」

 とりあえず、ルーナを抱きしめて背中を撫でてやりながらなだめる。

「……うん。そういえば、そんなに時間たっていない気もする。えへへ」

 ルーナの機嫌は次第に良くなっていった。

「……私の目の前でベタベタしないでくれる? 本当に面倒くさい女ね、お前」

「なんだと!? ……え、そういえば、お前達、なんでそんなお揃いみたいな格好しているんだ?」

「何? 私の見立てに文句でもあるの、小娘。この子の服、いいと思わない?」

「え、いや、格好いいけど……。こいつの服は、いつか私が作ろうと思っていたのに」

 せっかくなだめたのに、セレナが余計な事を言ったせいでルーナの耳がしゅんと垂れ下がっていく。

「この服は借りただけだ。スーツがダメになっちゃったからな。帰ったら何か服を作ってくれ」

 そう言うと、ルーナは気を取り直したように頷いてくれた。
 というか、スーツダメになったの地味に痛い。
 この高そうな服をずっと着ていても落ち着かないし。
 早くルーナに服を作ってもらおう。
 下着とかは結構作ってもらったのだが、服を作るには生地がないとか言ってた気がするけど。
 この際、羊毛でなんとかしてもらうか。
 ウールってチクチクする感じがして嫌だけど。



 今俺達がいる部屋は、セレナと戦った部屋よりは小さいが、確実にうちよりは広かった。
 中央に、白いテーブルクロスが敷かれたテーブルが置かれていて、その上には高級そうな燭台に明かりが灯っている。

 俺達は老執事さんに椅子を引いてもらって、そのテーブルに腰を下ろすと、様々な料理が運ばれてきた。

 料理は所謂コース料理で、どれも絶品だった。

「う、美味しい」

 ルーナは出された料理を口にする度に、悔しそうな表情を浮かべる。
 自分の料理と比べているのだろうか。
 たしかに、ここの料理は美味しいが。

「俺はルーナの料理も好きだけどな」

 毎日、ウサギとヒツジと木の実しかない限られた食材で、よくもあんなバリエーションの料理が作れるものだと感心していた。
 俺には逆立ちしたってできない。

「……え?」

 ルーナは咄嗟に顔を赤らめると、感極まったように俺の手を握る。

「ありがとう。すごく嬉しい」

 ルーナは写メりたくなるような笑顔を浮かべるが、セレナの不機嫌そうな咳払いに一瞬で顔を曇らせる。

「食事中くらい、発情するのを止められないの? 小娘」

「くっ……。吸血鬼め」

 セレナを忌々しそうにしながらも、ルーナは俺の手を離して食事に戻る。

「そういえば、吸血鬼って普通に食事するのか? てっきり、血を飲むものだと思っていた」

 俺は上品に料理を口に運んでいるセレナを見て、不意にそんな疑問が湧いていた。

「そうね。本当は血を頂ければ、それで済むのだけれど。それだけじゃ味気ないじゃない。美味しい料理は、趣味みたいなものね」

「なるほど」

 ずっと牛丼屋に通い続けていたら、たまにはカレーとかラーメンを食べたくなるような感じだろうか。
 なんか次元が違う気がするが。

「確かにこの料理は美味しい。すごい腕だと思う。一体誰が作っているんだ?」

「ふふ。小娘に気に入って貰えてよかったわ。元人間の有名な料理人よ」

「……元人間って」

 少し顔を青ざめて、ルーナは食事を再開する。

 今気づいたが、ルーナは綺麗にナイフとフォークを使う。
 俺みたいな付け焼き刃ではなく、物凄く上品な感じだ。
 お母様とかお祖母様とか言ってたし、もしかしてこいつ育ちがいいのだろうか。

「なあ、お前ってお嬢様みたいな食べ方をするよな?」

「え、えええ!? そうか? そんなこともないと思うぞ。私って結構がさつだし」

 がさつだと言うルーナは、上品に口を拭いている。
 嘘の下手くそなやつだ。
 隠したいなら、これ以上詮索はしないが。

 セレナがルーナをじとっとした目で見ているのが気になった。



 食事を終えると、セレナが改めて口を開く。

「さて、停戦協定の内容について話しましょう」

 そういえば、まだ話し合ってなかった。
 停戦協定なんて結んだ事ないからな。
 賠償金とか払えばいいのだろうか。

「言っておくが、俺は金など持っていない」

 なので予め宣言しておいた。
 こっちの通貨はもちろん、日本円すら持っていない。
 俺は本気で一文無しだ。
 ちょっと泣きたくなった。

「お金なんていらないわよ。そうね。あなたが毎日、私を抱いてくれるっていうのはどうかしら?」

「い、異議あり!!」

 ルーナががたんと立ち上がる。
 俺としては全くやぶさかではないのだが。

「……冗談よ。まったくつまらない小娘ね」

「吸血鬼ぃ!」

 今にも飛びかかりそうなルーナをなだめる。

「本当は初めから決めているの。あなたの血を少しでいいから、定期的に飲ませてほしいの」

「……まあ、少しならいいけど」

 なぜかルーナが代わりに答える。
 最初にセレナが高すぎる要求をしたせいで、今の話が軽く感じてしまっているのだろう。
 ルーナは完全にセレナの術中に嵌っていた。
 というか、俺の血だからね。

「……血ってあらかじめとっておいたやつでもいいのか?」

「あら、ダメよ。そんなの無粋だわ。直接飲ませてくれないと」

 直接飲むって、アレだろうか。
 セレナと戦ってる時に、首筋を噛まれたのを思い出す。
 アレはヤバい。
 気持ちよすぎて気が狂いそうだった。
 ルーナに説明するのは難しいだろうが、セレナを抱いたほうがまだ自分を保てる。

「定期的ってどのくらいだ?」

「そうね、毎日、いえ3日に1回くらいでいいわ」

 あれを3日に1回体験するのか。
 俺は行儀が悪いが、テーブルに肘をついて考え込む。
 ルーナが不思議そうな顔をしながら、何をそんなに悩んでいるんだと言っている。
 この女は、あの快感を知らないのだ。
 多分、噛まれた後、高確率でそのままセレナを抱く気がする。
 そして、高確率でルーナが泣く。

「……ちなみに、断った場合は?」

「その場合は、残念だけど、殺すわ」

 見事な笑顔で物騒な事を口にするセレナ。
 まあ、そうなるよな。
 選択肢などないのだ。

 まあ、セレナに噛まれた後、オリハルコンの意思を発動して帰ってきてルーナを抱けばいいか。
 オリハルコンの意思は既に砕かれた気もするが。

「わかった。それで行こう」

「交渉成立ね」

 立ち上がって、セレナと握手をする。
 セレナは優雅な笑みを浮かべている。
 改めて見てみても、物凄い美人だ。
 そこはかとなく不安になった。

「さて、今夜は泊まっていってね。グラード、客室は2部屋用意できていて?」

「はい、お嬢様。滞りなく」

 できる執事さんだった。

「え? 私たちは同じ部屋でいいぞ?」

 ルーナが寄ってきて、俺の手を握る。
 いや、まあいいんだけどさ。
 こういう時は、ホストに従ったほうがいいのではないだろうか。

「……はあ?」

 セレナは物凄くイラっとした表情になる。
 心なしか額に青筋が浮かんでいるような気さえする。

「何なの小娘? 私の城でナニする気なの?」

「え、いや、別に何もしないけど……」

「……本当ね? 絶対、ナニもしないって誓えるのね? 言っておくけど、明日の朝、ナニかの後が見つかったら殺すわよ?」

「…………」

 ルーナも俺も目を反らせた。
 なぜならば、未だかつて何もしなかった日はないのだから。



 そんなわけで、俺は一人で豪華な客室に案内された。
 見るからにふかふかそうなベッドが置いてある。

「こちらの部屋でゆっくりお休みください」

 俺を部屋に案内してくれたのは、着替えを手伝ってくれたメイドさんだった。
 カンナさんと言う名前らしい。
 黒い髪を綺麗に纏めた清潔そうなメイドさんだった。
 ルーナやセレナと比べたらかわいそうだが、普通に美人だ。

「それでは、私は下がらせていただきます。何か御用がございましたら、この者にお申し付けください」

「……あぅ……あぁ……あうあ」

 カンナさんに案内されて、腐りかけのグールが入ってくる。
 ぷーんと死体特有のひどい臭いが漂ってくる。

 おい、カンナちょっと待て。

「あの、カンナさんに直接言うわけにはいかないんですか?」

 ちょっと死体っぽい顔色だけど普通に美人なカンナさんなら我慢できる。会話できるし。
 だが、こいつはダメだ。
 何言ってるかわかんないし。

「私には他の仕事がありますので」

「……すみません、ルーナの部屋ってどこですか?」

 ダメだ。
 そこはかとなくとかってレベルじゃないくらいにホラー感バリバリだ。
 ルーナの乳を揉んで落ち着かねば。

「申し訳ございません。主人より絶対に教えるなと申し使っておりますので」

 そう言いながら、頭を下げて部屋を出ていってしまうカンナさん。

「……おぉ……あぉ……うぅ……」

 グールはよろよろと部屋の中に入ってくると、ベッドのシーツをめくって、ぽんぽん叩いてくれる。

 ああ、どうもと言いながら、とりあえずベッドに横になる。

 俺が横になったのを確認すると、グールは部屋の灯りを消してから、廊下に出ていった。

 必死に目を閉じてみるが、廊下からグールのうめき声が響いてきて眠れなかった。
 俺はこの夜、何度もうなされるはめになった。
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