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第三章 少女期 女神編
第三百七十六話 神鏡邸(イルト視点)
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目的地である神鏡邸。それは、目に見えない場所にあるとされ、神々の中でも、その場所を知る者はごく僅かだ。
幾重にも張り巡らされた認識を歪める魔法に、侵入者を排除するための結界や迎撃装置。これだけでも、普通の神は近寄れない。ただし、それ以上に、この神鏡邸にはとんでもない仕掛けがある。
「反射?」
「そう。あの場所は、全てを反射する。だから、並の神が踏み入れたところで、すぐに狂って潰れるよ」
意識をはっきりとさせ、レインボードラゴン達には手のひらサイズに縮んでもらい、瓦礫の中を歩く僕達は、ユミリアのその説明を聞く。と、いっても、僕は、ユミリアのその話の内容を元々知っているため、驚きも何もない。
セイの質問に答えるユミリアの様子を眺めながら、この先に存在する神鏡邸に行きたくないという気持ちに駆られる。
まだ、僕がイリアスであった頃、興味本位で、その神鏡邸の仕組みに挑ませてもらったことがある。その結果は……。
「足音も、振動も、呼吸も、鼓動も、何もかもが、自分へ返ってくるの。攻撃をすれば、もちろんそれも跳ね返るけど、声をあげればそれだって跳ね返る。少なくとも、神以外が足を踏み入れたら、その瞬間に終わるよ。鼓動が二倍、三倍どころか、どんどん膨れ上がるんだから、心臓が耐えられずに破裂するの」
そう、そんな恐ろしい場所に、僕は、挑戦して、もう少しで死ぬところだ、というところまで追い詰められた。もちろん、その時は創世神様の許可をもらってからの挑戦だったため、ちゃんと迎えは来たものの、二度と入りたくないと思った記憶がとても強い。
「多分、私が神として覚醒しなければ、私は、神鏡邸には入れないと思う」
それでも、ユミリアの代わりだと思えば、どんなに恐ろしい場所だろうと乗り越えてみせるという気持ちになれる。
「そんな場所に、六番目とマリフィー様が居られるのか……?」
危険性が正確には想像できないものの、それでも、きっと危険だろうと思われる場所に、自分の仲間や、親しかった神が居るかもしれないという事実に、長男は不安そうに呟く。
「……二人なら無事だろう」
そんな長男に、僕は、気づけばそんな言葉をかけていた。
「六男がもし死ぬようなことがあれば、お前達にだけは分かる。重傷を負った時もまた同じだ」
レインボードラゴンは、七体で完成するドラゴンだと定めたのは、僕とユレイラだ。だから、彼らが知らない彼ら自身のことも知っている。
「なんとっ」
「それに、マリフィーが死んだというのもあり得ない」
そうして、僕が向けた視線の先で、コウがいち早く、それを見つける。
「あっ! マリフィーの千偽隊っ!」
コウが見つけたのは、マリフィーか自らの神力で作り出した、二十センチほどの身長の半透明な人形。彼らは、マリフィーの意思を受け、マリフィーのために、様々な罠を仕掛ける工作員だ。その一体が、瓦礫の上にポツンと立っていた。
「……もしかしたら、安全なルートで行けるかもしれないな」
マリフィーは、この神鏡邸の安全なルートを知っている神だ。そして、恐らくは、あの千偽隊がここに居るのは、僕達を待っていたからなのだろう。軽やかな身のこなしでこちらへ近づいてきたそれは、少しばかり体の白の割合を増やして自身を見やすくすると、敬礼する。
「マリフィーが生きている限り、千偽隊は消滅しないものね」
ユミリアの言葉に、コクコクとうなずいたそれは、やはり、道案内を兼ねているらしく、ある方向を指差して、そちらへと駆けていく。
僕達は、その様子に、無言でついていったのだった。
幾重にも張り巡らされた認識を歪める魔法に、侵入者を排除するための結界や迎撃装置。これだけでも、普通の神は近寄れない。ただし、それ以上に、この神鏡邸にはとんでもない仕掛けがある。
「反射?」
「そう。あの場所は、全てを反射する。だから、並の神が踏み入れたところで、すぐに狂って潰れるよ」
意識をはっきりとさせ、レインボードラゴン達には手のひらサイズに縮んでもらい、瓦礫の中を歩く僕達は、ユミリアのその説明を聞く。と、いっても、僕は、ユミリアのその話の内容を元々知っているため、驚きも何もない。
セイの質問に答えるユミリアの様子を眺めながら、この先に存在する神鏡邸に行きたくないという気持ちに駆られる。
まだ、僕がイリアスであった頃、興味本位で、その神鏡邸の仕組みに挑ませてもらったことがある。その結果は……。
「足音も、振動も、呼吸も、鼓動も、何もかもが、自分へ返ってくるの。攻撃をすれば、もちろんそれも跳ね返るけど、声をあげればそれだって跳ね返る。少なくとも、神以外が足を踏み入れたら、その瞬間に終わるよ。鼓動が二倍、三倍どころか、どんどん膨れ上がるんだから、心臓が耐えられずに破裂するの」
そう、そんな恐ろしい場所に、僕は、挑戦して、もう少しで死ぬところだ、というところまで追い詰められた。もちろん、その時は創世神様の許可をもらってからの挑戦だったため、ちゃんと迎えは来たものの、二度と入りたくないと思った記憶がとても強い。
「多分、私が神として覚醒しなければ、私は、神鏡邸には入れないと思う」
それでも、ユミリアの代わりだと思えば、どんなに恐ろしい場所だろうと乗り越えてみせるという気持ちになれる。
「そんな場所に、六番目とマリフィー様が居られるのか……?」
危険性が正確には想像できないものの、それでも、きっと危険だろうと思われる場所に、自分の仲間や、親しかった神が居るかもしれないという事実に、長男は不安そうに呟く。
「……二人なら無事だろう」
そんな長男に、僕は、気づけばそんな言葉をかけていた。
「六男がもし死ぬようなことがあれば、お前達にだけは分かる。重傷を負った時もまた同じだ」
レインボードラゴンは、七体で完成するドラゴンだと定めたのは、僕とユレイラだ。だから、彼らが知らない彼ら自身のことも知っている。
「なんとっ」
「それに、マリフィーが死んだというのもあり得ない」
そうして、僕が向けた視線の先で、コウがいち早く、それを見つける。
「あっ! マリフィーの千偽隊っ!」
コウが見つけたのは、マリフィーか自らの神力で作り出した、二十センチほどの身長の半透明な人形。彼らは、マリフィーの意思を受け、マリフィーのために、様々な罠を仕掛ける工作員だ。その一体が、瓦礫の上にポツンと立っていた。
「……もしかしたら、安全なルートで行けるかもしれないな」
マリフィーは、この神鏡邸の安全なルートを知っている神だ。そして、恐らくは、あの千偽隊がここに居るのは、僕達を待っていたからなのだろう。軽やかな身のこなしでこちらへ近づいてきたそれは、少しばかり体の白の割合を増やして自身を見やすくすると、敬礼する。
「マリフィーが生きている限り、千偽隊は消滅しないものね」
ユミリアの言葉に、コクコクとうなずいたそれは、やはり、道案内を兼ねているらしく、ある方向を指差して、そちらへと駆けていく。
僕達は、その様子に、無言でついていったのだった。
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