170 / 412
第二章 少女期 瘴気編
第百六十九話 壊れゆく(イルト視点)
しおりを挟む
ユミリアを心配しながら、屋敷に泊まらせてもらった翌日。ユミリアはちゃんと目を覚ましてくれたものの、なぜか、僕達が近づくのを拒否し続けていた。
「ユミリア……」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
今にも泣き出しそうな表情で、僕やセイ、コウ、ローランを拒絶するユミリア。いや、それだけではない、先ほどまでは、ユミリアの父であるガイアスも、母であるミリアも、そして、大切なメイドであるはずのメリー達に対しても、拒絶していた。しかし……。
「姉上っ、大丈夫だよっ。ほら、落ち着こう?」
七歳になる、ユミリアの弟、ギリアだけは、ユミリアに拒絶されなかった。
それに嫉妬しなかったかといえば、嘘になるが、それでも、今はユミリアの側に誰も居ないよりは安心できる。それがたとえ、他の男であろうとも、ユミリアと父親が同じ兄弟であるのならば、我慢くらいできる。
「ユミリア、僕は、あの小屋があった場所を調べに行くつもりだよ」
ユミリアが落ち着いたのを見計らって、僕は、扉越しにしか声をかけられない愛しい婚約者へと声をかける。
「あそこには、何もありませんよ?」
「ユミリアはないと思っていても、もしかしたら見落としているだけかもしれない」
幾分か落ち着きを取り戻したユミリアの声に安心しながら、僕は、扉を開けたい衝動をグッと堪える。
「ユミリア様の護衛は、俺がこのままここで担当する」
「っ、ぼく、ユミリアと遊びたいけど、我慢するっ。ここで、一緒に待つ!」
「ぼ、僕は……仕方がないから、何か素材を集めてきてあげるよっ」
そして、続いたローラン達の言葉に安心していると、扉越しに、鋭い声が響く。
「ダメッ」
「えっ……?」
「な、なんで?」
「ユミリア?」
それぞれが、自分の言葉を否定したユミリアに困惑を隠せない。
「それと、イルト様、イルト様も、その場所に行ってはダメ」
「どうして?」
さすがに、僕もユミリアがなぜ拒絶するのか分からない以上、ユミリアの心情の推測などできない。
「ねぇ、皆。さっき言ってた捜索なり、護衛なり、待機なり、収集なりが終わった後、どうするつもりだった?」
そう言われて思い浮かべるのは、ユミリアを前に報告する自分の姿。しかし、それのどこが不味いのか全く分からない。
「……分からない? なら、やっぱり、侵食速度が……」
最初の言葉は、僕達への問いかけ。しかし、後の言葉は、ユミリアの独り言らしく、僕の耳でも、ほとんど聞こえない。そして……。
「ごめんなさい」
その一言が僕達の耳に届いた直後、ユミリアの気配が、その部屋から消えてしまった。
「ユミリア……」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
今にも泣き出しそうな表情で、僕やセイ、コウ、ローランを拒絶するユミリア。いや、それだけではない、先ほどまでは、ユミリアの父であるガイアスも、母であるミリアも、そして、大切なメイドであるはずのメリー達に対しても、拒絶していた。しかし……。
「姉上っ、大丈夫だよっ。ほら、落ち着こう?」
七歳になる、ユミリアの弟、ギリアだけは、ユミリアに拒絶されなかった。
それに嫉妬しなかったかといえば、嘘になるが、それでも、今はユミリアの側に誰も居ないよりは安心できる。それがたとえ、他の男であろうとも、ユミリアと父親が同じ兄弟であるのならば、我慢くらいできる。
「ユミリア、僕は、あの小屋があった場所を調べに行くつもりだよ」
ユミリアが落ち着いたのを見計らって、僕は、扉越しにしか声をかけられない愛しい婚約者へと声をかける。
「あそこには、何もありませんよ?」
「ユミリアはないと思っていても、もしかしたら見落としているだけかもしれない」
幾分か落ち着きを取り戻したユミリアの声に安心しながら、僕は、扉を開けたい衝動をグッと堪える。
「ユミリア様の護衛は、俺がこのままここで担当する」
「っ、ぼく、ユミリアと遊びたいけど、我慢するっ。ここで、一緒に待つ!」
「ぼ、僕は……仕方がないから、何か素材を集めてきてあげるよっ」
そして、続いたローラン達の言葉に安心していると、扉越しに、鋭い声が響く。
「ダメッ」
「えっ……?」
「な、なんで?」
「ユミリア?」
それぞれが、自分の言葉を否定したユミリアに困惑を隠せない。
「それと、イルト様、イルト様も、その場所に行ってはダメ」
「どうして?」
さすがに、僕もユミリアがなぜ拒絶するのか分からない以上、ユミリアの心情の推測などできない。
「ねぇ、皆。さっき言ってた捜索なり、護衛なり、待機なり、収集なりが終わった後、どうするつもりだった?」
そう言われて思い浮かべるのは、ユミリアを前に報告する自分の姿。しかし、それのどこが不味いのか全く分からない。
「……分からない? なら、やっぱり、侵食速度が……」
最初の言葉は、僕達への問いかけ。しかし、後の言葉は、ユミリアの独り言らしく、僕の耳でも、ほとんど聞こえない。そして……。
「ごめんなさい」
その一言が僕達の耳に届いた直後、ユミリアの気配が、その部屋から消えてしまった。
56
お気に入りに追加
5,828
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜
くろねこ
恋愛
気付いたら赤ん坊だった。
いや、ちょっと待て。ここはどこ?
私の顔をニコニコと覗き込んでいるのは、薄い翠の瞳に美しい金髪のご婦人。
マジか、、、てかついに異世界デビューきた!とワクワクしていたのもつかの間。
私の生まれた伯爵家は超貧乏とか、、、こうなったら前世の無駄知識をフル活用して、我が家を成り上げてみせますわ!
だって、このままじゃロクなところに嫁にいけないじゃないの!
前世で独身アラフォーだったミコトが、なんとか頑張って幸せを掴む、、、まで。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる