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第二章 少女期 瘴気編
第百七十話 果てしない困難(イルト視点)
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ユミリアの気配が消えた瞬間、僕は扉を開けてユミリアの名前を叫んでいた。しかし、当然、そこにユミリアの姿はない。ユミリアの弟であるギリアの姿があるだけだ。
「ユミリアは、どこ?」
ふわふわの金髪に、赤茶色の瞳を持つギリアへ質問すれば、ギリアは僕を見て、ビクッと怯えた様子を見せる。
「ねぇ、どこ? 何で、ユミリアが居ないの? ねぇ、何で?」
僕は、当然のことを問いかけているだけだ。だというのに、ギリアは沈黙したまま答えない。
それを、ユミリアを隠そうとしている態度だと判断した僕は、護身用に持っている短剣に手をかけて、一歩一歩、歩を進める。
「もう一度、聞くよ? ユミリアは、どこ?」
七歳児だろうと理解できるように、はっきりと質問をするが、やはり、ギリアは答えない。その表情が青ざめているだとか、小刻みに震えているだとかいう要素は、この時の僕には見えていなかった。
どうやら、痛めつけなければならないらしい。そう考えて、とうとう短剣を抜いた瞬間だった。
「王子殿下、ちょいと待ってくれねぇか?」
ユミリアの使用人として働き、なおかつ、教師にもなった男、ローランが、僕の手を押さえる。
「不敬罪って知ってる?」
罰せられたくなければ、この手を離せと言外に告げるものの、ローランの手は離れない。
「あぁ、けどなぁ、今、ギリア様は殿下に怯えて口がきけなくなってるだけだ。だから、痛めつける必要はない」
そう諭されて見てみれば、確かに、ギリアはその幼い顔を青くして、ブルブルと震え、涙目にすらなっていた。
「ほら、ギリア様、もう大丈夫だ。ゆっくり、息を吸って、吐くんだ」
状況を理解した僕は、とりあえず、短剣から手を離し、ギリアをなだめるローランを見守る。
「さぁ、ゆっくり話してくれ。何があった?」
ギリアが落ち着きを取り戻すまでの時間は、あまりにももどかしかった。しかし、ローランのおかげで、ようやく、ユミリアのことが分かりそうだと、ギリアへと視線を向ける。
「あ、姉上は、さっき、皆さんと話した時、すごく、辛そうで、悲しそうな顔をしていて……そ、そうしたら、突然、目の前で消えたんですっ」
しかし、ギリアの口から語られたのは、僕の望む答えではなかった。
「ひっ!」
僕の殺気のせいか、ギリアは短く悲鳴をあげる。
「ねぇ、心当たりはない?」
今度は、ギリアだけではない。そこに居る、ローラン、セイ、コウ達に対する問いかけでもある。そして、その問いかけに口を開いたのはセイだった。
「ユミリアの転移魔法は、行ったことのある場所にしか行けないって聞いたことがある。僕が知っているのは、そのくらいだけど、ユミリアの行動範囲を調べあげれば、あるいは……」
セイの言葉は、確かに貴重な情報ではある。しかし……。
「ユミリア様の行動範囲? いやいや、冗談だろ? それ、何の手がかりもないのと同じじゃねぇかっ」
ユミリアの行動範囲は広い。広過ぎる。国内どころか、国外でも平気で活動している。しかも、空の上の宇宙と呼ばれる場所にある星にすら行ったことがあるのだ。
「ユミリアは、何としてでも見つけ出す」
そんな僕の言葉に、ローラン達も大きくうなずくのだった。
「ユミリアは、どこ?」
ふわふわの金髪に、赤茶色の瞳を持つギリアへ質問すれば、ギリアは僕を見て、ビクッと怯えた様子を見せる。
「ねぇ、どこ? 何で、ユミリアが居ないの? ねぇ、何で?」
僕は、当然のことを問いかけているだけだ。だというのに、ギリアは沈黙したまま答えない。
それを、ユミリアを隠そうとしている態度だと判断した僕は、護身用に持っている短剣に手をかけて、一歩一歩、歩を進める。
「もう一度、聞くよ? ユミリアは、どこ?」
七歳児だろうと理解できるように、はっきりと質問をするが、やはり、ギリアは答えない。その表情が青ざめているだとか、小刻みに震えているだとかいう要素は、この時の僕には見えていなかった。
どうやら、痛めつけなければならないらしい。そう考えて、とうとう短剣を抜いた瞬間だった。
「王子殿下、ちょいと待ってくれねぇか?」
ユミリアの使用人として働き、なおかつ、教師にもなった男、ローランが、僕の手を押さえる。
「不敬罪って知ってる?」
罰せられたくなければ、この手を離せと言外に告げるものの、ローランの手は離れない。
「あぁ、けどなぁ、今、ギリア様は殿下に怯えて口がきけなくなってるだけだ。だから、痛めつける必要はない」
そう諭されて見てみれば、確かに、ギリアはその幼い顔を青くして、ブルブルと震え、涙目にすらなっていた。
「ほら、ギリア様、もう大丈夫だ。ゆっくり、息を吸って、吐くんだ」
状況を理解した僕は、とりあえず、短剣から手を離し、ギリアをなだめるローランを見守る。
「さぁ、ゆっくり話してくれ。何があった?」
ギリアが落ち着きを取り戻すまでの時間は、あまりにももどかしかった。しかし、ローランのおかげで、ようやく、ユミリアのことが分かりそうだと、ギリアへと視線を向ける。
「あ、姉上は、さっき、皆さんと話した時、すごく、辛そうで、悲しそうな顔をしていて……そ、そうしたら、突然、目の前で消えたんですっ」
しかし、ギリアの口から語られたのは、僕の望む答えではなかった。
「ひっ!」
僕の殺気のせいか、ギリアは短く悲鳴をあげる。
「ねぇ、心当たりはない?」
今度は、ギリアだけではない。そこに居る、ローラン、セイ、コウ達に対する問いかけでもある。そして、その問いかけに口を開いたのはセイだった。
「ユミリアの転移魔法は、行ったことのある場所にしか行けないって聞いたことがある。僕が知っているのは、そのくらいだけど、ユミリアの行動範囲を調べあげれば、あるいは……」
セイの言葉は、確かに貴重な情報ではある。しかし……。
「ユミリア様の行動範囲? いやいや、冗談だろ? それ、何の手がかりもないのと同じじゃねぇかっ」
ユミリアの行動範囲は広い。広過ぎる。国内どころか、国外でも平気で活動している。しかも、空の上の宇宙と呼ばれる場所にある星にすら行ったことがあるのだ。
「ユミリアは、何としてでも見つけ出す」
そんな僕の言葉に、ローラン達も大きくうなずくのだった。
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