153 / 412
第二章 少女期 瘴気編
第百五十二話 七年前
しおりを挟む
「イルト様ーっ!」
「ユミリアっ!」
イルト様を呼びに、イルト様が乗る馬車へと向かえば、イルト様は喜色満面で私の体を抱き止める。
「イルト様っ、私も、イルト様も、同じクラスでしたよっ! ついでに、アルト様もっ」
黒目黒髪、そして黒の獣つきとして、優しい性根をそのままに成長したイルト様は、とてもかっこよくて、そんなイルト様に頭をナデナデされるととろけてしまいそうだ。
「そう、それは良かった。……ところでユミリア? 僕に言うことはないかい?」
「みゅ?」
「……何で、僕を置いて、二人とも先に行ったのかなぁ?」
いつの間にか、撫でる手が止まり、抱き止めていたはずの腕は、捕獲のための腕となっている。
「え、えっと……これには、深い事情がありまして……」
私とアルト様が先に向かったのは、イルト様に悪意を向ける輩が出ないように牽制するためだったりする。今もきっと、アルト様が上手くやってくれているはずだ。
「ふぅん? それは、僕にも言えないこと?」
つぅっと私の頬を指でなぞり、そのまま顎をクイッと上げさせられる。そして、目の前に広がるのは、恐ろしく妖艶な笑みを浮かべたイルト様。
「み、みゅう……」
あまりの妖艶さに、私は、パニックに陥る。
「ねぇ、ユミリアは、七年前、僕を助けるために、力を尽くしてくれたよね?」
七年前、イルト様が倒れた後、確かに、私は死力を尽くして、イルト様を助けるべく、魔導具を作り上げた。
イルト様が一度目を覚ましてから一週間後、私は、イルト様にまとわりつく瘴気を封印するという手段に出たのだ。本当は、浄化を再現する魔導具を作りたかった。と、いうより、作る気満々だった。しかし、どうやら、浄化の魔法というものはかなり特殊な存在らしく、その実態を把握することもままならなかったのだ。よって、イルト様を生かすという方向に思考をズラした私は、見事、その魔導具を作り上げてみせたのだ。
「あ、あの、えっと……」
「ふふっ、真っ赤で可愛い。僕はね、今はもう、浄化してもらって必要なくなった魔導具ではあるけど、ユミリアからもらったこのネックレスを、ずっと、ずーっと大切にしてるんだ」
そのネックレスは、翼を象ったチャームつきのシンプルなネックレス。しかし、瘴気の勢いが強かったせいで、イルト様に渡した後も、何度も何度も改良し、何度も何度も貴重な素材を注ぎ込んだ渾身の逸品だ。何せ、宇宙にまで素材を取りに行ったのだから。
「それでね? 僕は思ったんだ。ユミリアには、絶対に恩返ししなきゃって。だから、ね?」
『最近コソコソしている理由を話してよ』と、柔らかくも体の芯が震えるような声で告げられて、私は、ボーッとしながらうなずくのだった。
「ユミリアっ!」
イルト様を呼びに、イルト様が乗る馬車へと向かえば、イルト様は喜色満面で私の体を抱き止める。
「イルト様っ、私も、イルト様も、同じクラスでしたよっ! ついでに、アルト様もっ」
黒目黒髪、そして黒の獣つきとして、優しい性根をそのままに成長したイルト様は、とてもかっこよくて、そんなイルト様に頭をナデナデされるととろけてしまいそうだ。
「そう、それは良かった。……ところでユミリア? 僕に言うことはないかい?」
「みゅ?」
「……何で、僕を置いて、二人とも先に行ったのかなぁ?」
いつの間にか、撫でる手が止まり、抱き止めていたはずの腕は、捕獲のための腕となっている。
「え、えっと……これには、深い事情がありまして……」
私とアルト様が先に向かったのは、イルト様に悪意を向ける輩が出ないように牽制するためだったりする。今もきっと、アルト様が上手くやってくれているはずだ。
「ふぅん? それは、僕にも言えないこと?」
つぅっと私の頬を指でなぞり、そのまま顎をクイッと上げさせられる。そして、目の前に広がるのは、恐ろしく妖艶な笑みを浮かべたイルト様。
「み、みゅう……」
あまりの妖艶さに、私は、パニックに陥る。
「ねぇ、ユミリアは、七年前、僕を助けるために、力を尽くしてくれたよね?」
七年前、イルト様が倒れた後、確かに、私は死力を尽くして、イルト様を助けるべく、魔導具を作り上げた。
イルト様が一度目を覚ましてから一週間後、私は、イルト様にまとわりつく瘴気を封印するという手段に出たのだ。本当は、浄化を再現する魔導具を作りたかった。と、いうより、作る気満々だった。しかし、どうやら、浄化の魔法というものはかなり特殊な存在らしく、その実態を把握することもままならなかったのだ。よって、イルト様を生かすという方向に思考をズラした私は、見事、その魔導具を作り上げてみせたのだ。
「あ、あの、えっと……」
「ふふっ、真っ赤で可愛い。僕はね、今はもう、浄化してもらって必要なくなった魔導具ではあるけど、ユミリアからもらったこのネックレスを、ずっと、ずーっと大切にしてるんだ」
そのネックレスは、翼を象ったチャームつきのシンプルなネックレス。しかし、瘴気の勢いが強かったせいで、イルト様に渡した後も、何度も何度も改良し、何度も何度も貴重な素材を注ぎ込んだ渾身の逸品だ。何せ、宇宙にまで素材を取りに行ったのだから。
「それでね? 僕は思ったんだ。ユミリアには、絶対に恩返ししなきゃって。だから、ね?」
『最近コソコソしている理由を話してよ』と、柔らかくも体の芯が震えるような声で告げられて、私は、ボーッとしながらうなずくのだった。
187
あなたにおすすめの小説
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる