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第二章 少女期 瘴気編
第百五十一話 春(アルト視点)
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桜の花弁が舞い散る季節、春。
イルトが倒れてから、何度、この季節を迎えただろう。
「もう、七年、か……」
今日、この日は、王立メルディア魔法学園の入学式だ。そして、私の隣には当然、イルトの姿はない。
十分な知識と力を身につけた私は、獣つきとしての姿を二年前から晒している。白の獣つきである私は、建国の祖と同じ存在であり、神聖視されることが多く、また、膨大な魔力を有しているがために、人から避けられるようになる……はずだったのだが、ユミリア嬢が開発した染め粉と魔力制御の腕輪によって、そのような事態にはならなかった。現在の私は、水色の獣つきとなっている。
「おはようございます。アルト様」
「あぁ、おはよう。ユミリア嬢」
学園の中庭で、クラス分けの掲示を見るために歩いていた私は、あまりにも暗い顔で挨拶をしてきたユミリア嬢を見る。
長いストレートの黒髪に、獣つきとしての黒い猫耳、虚ろな黒い瞳に、白い肌、女性らしいくびれを持った体。彼女は、今日までにさらに美しく成長しており、黒でさえなければ、傾国と言われてもおかしくない状態だ。
ただし、最近のユミリア嬢に元気というものは欠片も存在しない。その理由を知っているがために、私は苦い表情を浮かべることしかできなかった。
(私達は、とうとう、間に合わなかったのだからな……)
早くから対処はしてきたはずだった。しかし、どうにも抗えない波というのは存在するらしく、私達の抵抗など、結果として無意味だった。
「ユミリア嬢、その……」
「慰めは不要です。行きましょう。アルト様」
何か言葉をかけようとするものの、ユミリア嬢はそれを即座に絶ち切る。普通ならば、王族に対する態度として不適切ではあるものの、ユミリア嬢ならば咎められることはない。ユミリア嬢には、それだけの地位があるのだから。
言葉を飲み込んで、ユミリア嬢に付いていくと、当然のごとく、クラス分けが掲示されている場所に出る。
「お退きなさい」
わらわらと同じ学年の者達が集まる中、ユミリア嬢は棘のある声を出して、彼らを退ける。その彼らの目には、一様に怯えの色が宿っていた。
「ふんっ」
ユミリア嬢は、かなり不機嫌に彼らを見渡して、前へと進む。そうして、掲示板に載っている成績及びクラス分けの表を眺めて……彼女は、パッと私の方を振り返る。
「やりましたよっ! 私達、同じクラスですっ!」
先ほどの不機嫌な様子から一転、キラキラと目を輝かせるユミリア嬢に、私は、裏から手を回していて良かったと安堵する。
『一位 アルト・ラ・リーリス、イルト・ラ・リーリス、ユミリア・リ・アルテナ Sクラス』
黒への偏見改善運動は、どうあっても成功しなかった。そして、それによってイルトが傷つく未来を苛立ちとともに嘆いていたユミリア嬢は、現在、イルトと同じクラスになれて、とても嬉しそうだ。
「では、アルト様っ。また後で! 私は、イルト様に伝えてきますっ!」
そう言って、優雅に、しかし、恐ろしく速い速度でイルトの元へ向かったユミリア嬢を、私は微笑ましく見送るのだった。
イルトが倒れてから、何度、この季節を迎えただろう。
「もう、七年、か……」
今日、この日は、王立メルディア魔法学園の入学式だ。そして、私の隣には当然、イルトの姿はない。
十分な知識と力を身につけた私は、獣つきとしての姿を二年前から晒している。白の獣つきである私は、建国の祖と同じ存在であり、神聖視されることが多く、また、膨大な魔力を有しているがために、人から避けられるようになる……はずだったのだが、ユミリア嬢が開発した染め粉と魔力制御の腕輪によって、そのような事態にはならなかった。現在の私は、水色の獣つきとなっている。
「おはようございます。アルト様」
「あぁ、おはよう。ユミリア嬢」
学園の中庭で、クラス分けの掲示を見るために歩いていた私は、あまりにも暗い顔で挨拶をしてきたユミリア嬢を見る。
長いストレートの黒髪に、獣つきとしての黒い猫耳、虚ろな黒い瞳に、白い肌、女性らしいくびれを持った体。彼女は、今日までにさらに美しく成長しており、黒でさえなければ、傾国と言われてもおかしくない状態だ。
ただし、最近のユミリア嬢に元気というものは欠片も存在しない。その理由を知っているがために、私は苦い表情を浮かべることしかできなかった。
(私達は、とうとう、間に合わなかったのだからな……)
早くから対処はしてきたはずだった。しかし、どうにも抗えない波というのは存在するらしく、私達の抵抗など、結果として無意味だった。
「ユミリア嬢、その……」
「慰めは不要です。行きましょう。アルト様」
何か言葉をかけようとするものの、ユミリア嬢はそれを即座に絶ち切る。普通ならば、王族に対する態度として不適切ではあるものの、ユミリア嬢ならば咎められることはない。ユミリア嬢には、それだけの地位があるのだから。
言葉を飲み込んで、ユミリア嬢に付いていくと、当然のごとく、クラス分けが掲示されている場所に出る。
「お退きなさい」
わらわらと同じ学年の者達が集まる中、ユミリア嬢は棘のある声を出して、彼らを退ける。その彼らの目には、一様に怯えの色が宿っていた。
「ふんっ」
ユミリア嬢は、かなり不機嫌に彼らを見渡して、前へと進む。そうして、掲示板に載っている成績及びクラス分けの表を眺めて……彼女は、パッと私の方を振り返る。
「やりましたよっ! 私達、同じクラスですっ!」
先ほどの不機嫌な様子から一転、キラキラと目を輝かせるユミリア嬢に、私は、裏から手を回していて良かったと安堵する。
『一位 アルト・ラ・リーリス、イルト・ラ・リーリス、ユミリア・リ・アルテナ Sクラス』
黒への偏見改善運動は、どうあっても成功しなかった。そして、それによってイルトが傷つく未来を苛立ちとともに嘆いていたユミリア嬢は、現在、イルトと同じクラスになれて、とても嬉しそうだ。
「では、アルト様っ。また後で! 私は、イルト様に伝えてきますっ!」
そう言って、優雅に、しかし、恐ろしく速い速度でイルトの元へ向かったユミリア嬢を、私は微笑ましく見送るのだった。
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