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第一章 幼少期編
第百五十話 おとうとのために(アルト視点)
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(……はっ、夢!?)
目が覚めると、私はなぜか、父上から心配そうな顔で覗き込まれていた。
確か、先ほどまでの夢では、イルトがおかしくなって、私に魔力をぶつけようとして、それをユミリア嬢の友だと名乗る二人組が防いで、それから……。
(抱えられて、窓から飛び降りた……私、生きてる? と、いうことは、やはり、あれは悪い夢っ!?)
ゆっくりと身を起こしながら、私は、あれが夢ならばイルトは無事のはずだと確信する。やはり、イルトが私を殺そうとするなど、あり得ないことだったのだ。
「アルト、何を考えているかは良く分かったが、それは夢ではない。先ほど、セイ殿とローラン殿が、イルトを連れて去ったところだ」
「えっ……?」
夢ではない、という言葉を、私は理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「イルトには、休息が必要だ。だから、しばらくの間は、イルトに会うことを禁ずる」
「っ、イルトはっ、イルトは、どこですかっ?」
あれが現実だったなど、信じたくない。しかし、父上の目は、あまりにも真剣で、私はつい、目を逸らしたくなってしまう。
「アルト。イルトは必ず、元に戻る。しかし、それまでに我々が側に居ては、治るものも治らない。となれば、どうすべきか、分かるな?」
「……はい」
父上は、私にイルトの居場所を教えるつもりはないらしい。あの時の二人組は、ユミリア嬢の友と名乗っていたから、もしかしたらユミリア嬢に聞けば分かるかもしれないという思いもあるものの、恐らく、それは許されないのだろう。
「…………アルト、これより先、お前は王太子として、厳しい教育を受けることとなる。悩む暇など、与えられない」
落ち込む私を前に、父上は何度も閉口しながら、何かを言いかけたものの、結局それを諦めて、厳しい言葉を告げてくる。
「っ、わかり、ました」
それは、イルトのことを考えるなということなのだろう。そこに、どのような意図が含まれているのかは分からないが、私にとっては、とても残酷な言葉だった。しかし、希望が全くないわけではない。父上は、イルトが元に戻ることを確信している。私が知る限り、その鍵となるのはユミリア嬢だ。恐らくは、父上にそう言わせるだけの信頼が、ユミリア嬢にあるのだろう。
(私だって、ユミリア嬢のことは信じている。だから、きっと、イルトはまた戻ってくる)
ならば、それまでに、私は今度こそ、頼れるお兄ちゃんにならなければならない。今はきっと、力を蓄える時なのだ。そうして、その力で、イルトを守れるようにならなければならないのだ。
「ちちうえ、わたしは、イルトをまもりたい。そのためのちからをつけたい。だから、おねがいします。わたしに、そのほうほうをおしえてくださいっ」
私は、まだまだ知らないことがたくさんある。イルトを守る方法だって、その力を得る手段だって、何も分からない。
「ならば、学べ。どんなことでも、貪欲に。そうすれば、それはいずれアルトの力となる。アルトが守りたいと思うものを守る力となる」
そう言われて、私は、父上が厳しい教育を課す意味を正しく理解した。教育があれば、そして、学ぼうとする意思さえあれば、私は、いずれイルトを守れるようになる。それを理解して、私は父上の目を見つめ返す。
「わたしは、かならず、イルトをまもれるようになってみせますっ。よろしくおねがいします。ちちうえ」
大切な、大切な弟を守るため、私はどんなものでも学んでみせようと決意する。どんなに辛くとも、成し遂げてみせると決意する。
(だから、早く治して帰ってきて)
きっと、今の私にできないことを、ユミリア嬢はやってくれる。それでイルトが助かるのならば、何の問題もない。
その日から、私は厳しい勉強と鍛練の日々を送ることになるのだった。
目が覚めると、私はなぜか、父上から心配そうな顔で覗き込まれていた。
確か、先ほどまでの夢では、イルトがおかしくなって、私に魔力をぶつけようとして、それをユミリア嬢の友だと名乗る二人組が防いで、それから……。
(抱えられて、窓から飛び降りた……私、生きてる? と、いうことは、やはり、あれは悪い夢っ!?)
ゆっくりと身を起こしながら、私は、あれが夢ならばイルトは無事のはずだと確信する。やはり、イルトが私を殺そうとするなど、あり得ないことだったのだ。
「アルト、何を考えているかは良く分かったが、それは夢ではない。先ほど、セイ殿とローラン殿が、イルトを連れて去ったところだ」
「えっ……?」
夢ではない、という言葉を、私は理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「イルトには、休息が必要だ。だから、しばらくの間は、イルトに会うことを禁ずる」
「っ、イルトはっ、イルトは、どこですかっ?」
あれが現実だったなど、信じたくない。しかし、父上の目は、あまりにも真剣で、私はつい、目を逸らしたくなってしまう。
「アルト。イルトは必ず、元に戻る。しかし、それまでに我々が側に居ては、治るものも治らない。となれば、どうすべきか、分かるな?」
「……はい」
父上は、私にイルトの居場所を教えるつもりはないらしい。あの時の二人組は、ユミリア嬢の友と名乗っていたから、もしかしたらユミリア嬢に聞けば分かるかもしれないという思いもあるものの、恐らく、それは許されないのだろう。
「…………アルト、これより先、お前は王太子として、厳しい教育を受けることとなる。悩む暇など、与えられない」
落ち込む私を前に、父上は何度も閉口しながら、何かを言いかけたものの、結局それを諦めて、厳しい言葉を告げてくる。
「っ、わかり、ました」
それは、イルトのことを考えるなということなのだろう。そこに、どのような意図が含まれているのかは分からないが、私にとっては、とても残酷な言葉だった。しかし、希望が全くないわけではない。父上は、イルトが元に戻ることを確信している。私が知る限り、その鍵となるのはユミリア嬢だ。恐らくは、父上にそう言わせるだけの信頼が、ユミリア嬢にあるのだろう。
(私だって、ユミリア嬢のことは信じている。だから、きっと、イルトはまた戻ってくる)
ならば、それまでに、私は今度こそ、頼れるお兄ちゃんにならなければならない。今はきっと、力を蓄える時なのだ。そうして、その力で、イルトを守れるようにならなければならないのだ。
「ちちうえ、わたしは、イルトをまもりたい。そのためのちからをつけたい。だから、おねがいします。わたしに、そのほうほうをおしえてくださいっ」
私は、まだまだ知らないことがたくさんある。イルトを守る方法だって、その力を得る手段だって、何も分からない。
「ならば、学べ。どんなことでも、貪欲に。そうすれば、それはいずれアルトの力となる。アルトが守りたいと思うものを守る力となる」
そう言われて、私は、父上が厳しい教育を課す意味を正しく理解した。教育があれば、そして、学ぼうとする意思さえあれば、私は、いずれイルトを守れるようになる。それを理解して、私は父上の目を見つめ返す。
「わたしは、かならず、イルトをまもれるようになってみせますっ。よろしくおねがいします。ちちうえ」
大切な、大切な弟を守るため、私はどんなものでも学んでみせようと決意する。どんなに辛くとも、成し遂げてみせると決意する。
(だから、早く治して帰ってきて)
きっと、今の私にできないことを、ユミリア嬢はやってくれる。それでイルトが助かるのならば、何の問題もない。
その日から、私は厳しい勉強と鍛練の日々を送ることになるのだった。
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