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第三章 レイラ
第三十六話
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「ふゆっ!?」
気配に敏いはずのレイラは、今、その存在に気づいたという様子で、ビクッと上空を見上げる。
そこに居たのは、全長五メートルをゆうに超えるだろう巨大な生き物。真っ白な翼と長い首。長い尾に、深い知恵を湛えた青の瞳。
どこからどう見ても、現在レイラが抱えている生き物と同族。むしろ、親である可能性が高かった。
凄まじい風圧に飛ばされそうになりながらも、どうにかその場で踏ん張ったレイラは、上空を見上げてキラキラとした目で見つめる。
「我が子を返せ! 異端めっ!!」
そんな折、予想外に響いた言葉。それは明らかにその生き物から発せられている言葉で、それを受けたレイラはというと……。
「ふゆっ! あなたは、この子のおとーさんかおかーさん??」
「っ、父親だ!!」
キラキラとした瞳のままに放たれた純粋な疑問の声に、その生き物は戸惑いの色を声に乗せながら答える。
「ピューッ!! ピュッピュッピューッ!!」
「……何? それは真か?」
「ふゆ? おとーさんのところに行きたいの? もう、だいじょーぶ??」
親子で何らかの会話をしているらしい様子に、レイラは不思議そうにしながらもそっと子供の方へ確認する。
「……異端、いや、娘。そなたが、我が子を救ったというのは事実か?」
どうやら、親子の会話は、レイラが子供を助けたという内容だったらしい。その問いかけに、レイラは首をかしげながら応える。
「えっとね、傷を治して、体を洗うことはしたの!」
「ピューッ!」
「ふむ、水も与えたのだな?」
「ふゆっ、元は、体を洗うために出したお水だったけど、別に変なお水じゃないのっ! ただ、魔力で出したお水だから、美味しくなかったかもしれないの……」
言いながらうさ耳を垂らすレイラ。しかし、子供の方はレイラを慰めるように『ピュー』と鳴いてその頭を擦りつける。
「ふむ……。我が名はガルド。我が子を救ってくれたこと、礼を言うぞ」
「ふゆっ! 私の名前は、レイラなの! お礼はいらないの! この子が、私を呼んでくれたから、色々できたの!」
「ピュッピュピュピューッ」
「……我が子が随分と世話になったらしい。レイラか……そなたの名、しかと覚えた。礼はいずれ、必ず行うと約束する。さぁ、ゆくぞ」
礼は不要だと告げたレイラの言葉を軽く無視したその生き物は、子供にことさら優しい声で帰ることを促す。
「ピュッ! ……ピュー」
「……我が子は、そなたに遊びに来てほしいらしい。その時は、我らも歓迎しよう」
「ふゆ? 分かったの! なら、その時はよろしくお願いします、なの!」
「あぁ、それと――――」
不思議な生き物達が去った後、レイラはようやく、シェラへと連絡を入れる。連絡した途端、『怪我はないか』に始まり、『森は無事なのか』や『悪魔はどうなった』などの質問が立て続けに投げかけられる。レイラは、それら全てに丁寧に答えて、最後に『早く帰ってくるように』と締め括られた言葉に、元気良く返事をする。
シェラとの繋がりを辿って森の端まで行けば、パーシー達を迎えに出すという話になったため、レイラは嬉しそうにパタパタと飛んでいく。
「っ、レイラ!!」
「「「レイラ!!」」」
森の端まで来たら、とりあえずパーシーを捜すようにとの言葉で、その場で滞空していたレイラは、その声にパッと笑顔を浮かべる。
「パーシー! モナ! ダモン! アレイル! ガット!!」
本来、迎えはパーシーのみでも問題はなかったはずなのだが、そこにはパーシーのみならず、調査隊のメンバーが全員揃っていた。しかも、全員が、鬼気迫る表情で。
「怪我は!?」
「レイラ、どこが痛いっすか!?」
「すまないっ、俺達の力不足のためにっ」
「ダモンとお頭の恩人なのに、おいら達はっ」
「とにかく、休むすっ」
レイラが地面に降り立てば、パーシー達が殺到して、とにかくレイラの様子を気遣う。
レイラの強さを知っていても、レイラの心の弱さも知っている。ダモンを助けたこともあって、仲間意識も芽生えたところだった彼らにとって、レイラはひたすら心配される。
「ふゆっ、だいじょーぶなの! どこも痛くないの!」
「いや、けど、その血は……」
元気良く返事をするレイラに、それでもパーシーは指摘する。
「ふゆ?」
そんなパーシーの指摘に、レイラは改めて自分の格好を観察する。
「…………私の血じゃないの!」
「「「嘘つけ!!」」」
実際、レイラのその言葉は嘘ではない。ちょうど膝の辺りにあるその血痕を見て、パーシー達がレイラのものだと思うのは当然のことだったが、レイラは全く嘘を吐いていなかった。
「ふ、ふゆっ、でも、もう、痛いのないの! ちゃんと治したの!」
「本当だな?」
「ふゆっ、ほんとーなの!」
その血は、あの生き物のもの。恐らくは、あの子供を洗う時についたのだと思われたがそれをレイラが話すことはない。
ピョンピョンと跳ねて怪我はないとアピールするレイラは、嘘は言っていないものの、本当のことも言っていない状態だ。
「だいじょーぶなの! 迎えに来てくれて、ありがとーなの!」
満面の笑みでそう告げるレイラを前に、パーシー達は今度こそ、安心したように笑みを浮かべた。
気配に敏いはずのレイラは、今、その存在に気づいたという様子で、ビクッと上空を見上げる。
そこに居たのは、全長五メートルをゆうに超えるだろう巨大な生き物。真っ白な翼と長い首。長い尾に、深い知恵を湛えた青の瞳。
どこからどう見ても、現在レイラが抱えている生き物と同族。むしろ、親である可能性が高かった。
凄まじい風圧に飛ばされそうになりながらも、どうにかその場で踏ん張ったレイラは、上空を見上げてキラキラとした目で見つめる。
「我が子を返せ! 異端めっ!!」
そんな折、予想外に響いた言葉。それは明らかにその生き物から発せられている言葉で、それを受けたレイラはというと……。
「ふゆっ! あなたは、この子のおとーさんかおかーさん??」
「っ、父親だ!!」
キラキラとした瞳のままに放たれた純粋な疑問の声に、その生き物は戸惑いの色を声に乗せながら答える。
「ピューッ!! ピュッピュッピューッ!!」
「……何? それは真か?」
「ふゆ? おとーさんのところに行きたいの? もう、だいじょーぶ??」
親子で何らかの会話をしているらしい様子に、レイラは不思議そうにしながらもそっと子供の方へ確認する。
「……異端、いや、娘。そなたが、我が子を救ったというのは事実か?」
どうやら、親子の会話は、レイラが子供を助けたという内容だったらしい。その問いかけに、レイラは首をかしげながら応える。
「えっとね、傷を治して、体を洗うことはしたの!」
「ピューッ!」
「ふむ、水も与えたのだな?」
「ふゆっ、元は、体を洗うために出したお水だったけど、別に変なお水じゃないのっ! ただ、魔力で出したお水だから、美味しくなかったかもしれないの……」
言いながらうさ耳を垂らすレイラ。しかし、子供の方はレイラを慰めるように『ピュー』と鳴いてその頭を擦りつける。
「ふむ……。我が名はガルド。我が子を救ってくれたこと、礼を言うぞ」
「ふゆっ! 私の名前は、レイラなの! お礼はいらないの! この子が、私を呼んでくれたから、色々できたの!」
「ピュッピュピュピューッ」
「……我が子が随分と世話になったらしい。レイラか……そなたの名、しかと覚えた。礼はいずれ、必ず行うと約束する。さぁ、ゆくぞ」
礼は不要だと告げたレイラの言葉を軽く無視したその生き物は、子供にことさら優しい声で帰ることを促す。
「ピュッ! ……ピュー」
「……我が子は、そなたに遊びに来てほしいらしい。その時は、我らも歓迎しよう」
「ふゆ? 分かったの! なら、その時はよろしくお願いします、なの!」
「あぁ、それと――――」
不思議な生き物達が去った後、レイラはようやく、シェラへと連絡を入れる。連絡した途端、『怪我はないか』に始まり、『森は無事なのか』や『悪魔はどうなった』などの質問が立て続けに投げかけられる。レイラは、それら全てに丁寧に答えて、最後に『早く帰ってくるように』と締め括られた言葉に、元気良く返事をする。
シェラとの繋がりを辿って森の端まで行けば、パーシー達を迎えに出すという話になったため、レイラは嬉しそうにパタパタと飛んでいく。
「っ、レイラ!!」
「「「レイラ!!」」」
森の端まで来たら、とりあえずパーシーを捜すようにとの言葉で、その場で滞空していたレイラは、その声にパッと笑顔を浮かべる。
「パーシー! モナ! ダモン! アレイル! ガット!!」
本来、迎えはパーシーのみでも問題はなかったはずなのだが、そこにはパーシーのみならず、調査隊のメンバーが全員揃っていた。しかも、全員が、鬼気迫る表情で。
「怪我は!?」
「レイラ、どこが痛いっすか!?」
「すまないっ、俺達の力不足のためにっ」
「ダモンとお頭の恩人なのに、おいら達はっ」
「とにかく、休むすっ」
レイラが地面に降り立てば、パーシー達が殺到して、とにかくレイラの様子を気遣う。
レイラの強さを知っていても、レイラの心の弱さも知っている。ダモンを助けたこともあって、仲間意識も芽生えたところだった彼らにとって、レイラはひたすら心配される。
「ふゆっ、だいじょーぶなの! どこも痛くないの!」
「いや、けど、その血は……」
元気良く返事をするレイラに、それでもパーシーは指摘する。
「ふゆ?」
そんなパーシーの指摘に、レイラは改めて自分の格好を観察する。
「…………私の血じゃないの!」
「「「嘘つけ!!」」」
実際、レイラのその言葉は嘘ではない。ちょうど膝の辺りにあるその血痕を見て、パーシー達がレイラのものだと思うのは当然のことだったが、レイラは全く嘘を吐いていなかった。
「ふ、ふゆっ、でも、もう、痛いのないの! ちゃんと治したの!」
「本当だな?」
「ふゆっ、ほんとーなの!」
その血は、あの生き物のもの。恐らくは、あの子供を洗う時についたのだと思われたがそれをレイラが話すことはない。
ピョンピョンと跳ねて怪我はないとアピールするレイラは、嘘は言っていないものの、本当のことも言っていない状態だ。
「だいじょーぶなの! 迎えに来てくれて、ありがとーなの!」
満面の笑みでそう告げるレイラを前に、パーシー達は今度こそ、安心したように笑みを浮かべた。
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