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第三章 レイラ
第三十四話
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吹き飛ばしたヤトを追うため、レイラはその大きな翼を広げて空へと飛び立つ。そして……。
「……ふゆ……」
そのまま、レイラは表情を強張らせた。
悪魔が用意していた小屋は完全に火が回り、もうもうと黒い煙を吹き上げている。
鬱蒼と生い茂っていたはずの木々は、レイラが何度か行った攻撃によって、かなりの量が薙ぎ倒されている状態であり、どんな災害が起きたらここまでになるのかと言いたくなる有様だ。
『うっかり森を全部焼き払ったり、氷漬けにしちゃったら、怒られる……?』
そう、かつてレイラは、パーシーに問いかけた。
『……頼むから、それは止めてくれ』
レイラの問いに、パーシーは確かにそう答えていた。
現状は、森を焼き払ったわけでも、氷漬けにしたわけでもない。しかし、小屋に放火して、森林破壊を行ったのはレイラ自身の所業でもある。
徐々に青ざめるレイラはすでに、悪魔を追うという考えはないようで……。
「し、消火なの! それと、えっと、木をもう一度生やすには、えっと、えっとっ」
とりあえずとばかりに大きな……小屋を丸々呑み込むほどの水の玉を作ったかと思えば、レイラはそれを上空からドパンと落とし、消火と同時に小屋を完全に破壊してしまう。
「ふゆっ!!?」
さらに破壊を行ってしまったという事実を前に、レイラは悲鳴を上げる。
「み、水、乾かさなきゃなのっ!」
小屋のあった場所は、大きな水溜り状態になってしまったため、レイラは次に大地を操って、それを埋めてしまう。
多少、周りの土が無くなりはしたし、必死にガッチリ埋め立てたために、その場所だけ恐ろしく固い地面になってしまったという現実はあるものの、破壊の痕跡はさほど目立たなくなる。
「それと、木! 木を生やす魔術……ふゆっ、習ってないの……」
もしかしたら、植物育成の魔術も存在するのかもしれない。しかし、現在のレイラにはその知識がない。単純に土を操るだとか、水を生み出す程度ならできても、植物育成などという複雑なものとなると、しっかりと魔術を学んでいなければできるものではないのだろう。
「それなら、魔法? ふゆ……詠唱は……」
環境破壊の痕跡を隠すため、シェラ達からの叱責を逃れるため、パーシーの言いつけを破らないため。理由は様々だが、それで魔法を開発しようという発想も、そして、それを実現させてしまう実力も、本来ならばあり得ない。ただ、レイラに限って言うならば、魔術がダメなら魔法、という発想はごくごく自然なものだった。
「ふゆぅ……『求めろ、求めろ、陽光を。足掻け、足掻け、摂理へと』」
何せレイラは、これまでに何度も何度も、魔法を行使している。
「『強き生は、絶え間なく。永劫の名に相応しく』」
即席で編み出した魔法など、普通は不発で終われば良い方で、下手をすれば暴発の危険もある。それでも、レイラは成功を確信しているように、真っ直ぐに森を見つめて紡ぎ出す。
「『育て、生い茂れ、永劫の森!』」
奇しくも、森の名前と同じ魔法名を宣言するレイラ。黄金の魔力に包まれるレイラは、その瞬間、木々が失われた大地へと、魔力を還元していく。
「っ……」
思った以上の魔力消費なのか、少しばかりレイラの表情が強張ったが、それでも魔力を送り込むことをレイラが止めることはなかった。そして……。
「ふゆっ! ちょっと多い気がするけど、だいじょーぶなの!」
ちょっとどころか、だいぶ多くなった木々を前に、レイラは満足そうにうなずく。
確かに、薙ぎ倒した木々は多かったが、その倍以上の量の木々が地響きとともにニョキニョキと生える様子は圧巻だった。ついでに、やたらと幹が大きく育ったものが多いため、圧迫感が凄まじい。
「……ふゆ? そういえば、何か忘れてるような……?」
と、そこで、レイラはようやく、自分が今まで何をしようとしていたのか、ということに考えを巡らせて……。
「ふゆぅぅぅうっ!! 悪魔を追いかけなきゃいけないんだったのっ!!」
バサッと翼を広げ、うさ耳をぴょんっと跳ね上げて、レイラは大急ぎで悪魔を追跡しようとして……。
「………………木がいっぱい過ぎて、見失ったの……」
自らが生やした木々によって、悪魔の魔力が全く掴めないという事態。それに呆然としていたレイラは、ゆっくり地面に着地して、そのまま項垂れた。
シェラの予想はどうにかある程度回避されたが、レイラの精神的ダメージは大きいようだった。
「……ふゆ……」
そのまま、レイラは表情を強張らせた。
悪魔が用意していた小屋は完全に火が回り、もうもうと黒い煙を吹き上げている。
鬱蒼と生い茂っていたはずの木々は、レイラが何度か行った攻撃によって、かなりの量が薙ぎ倒されている状態であり、どんな災害が起きたらここまでになるのかと言いたくなる有様だ。
『うっかり森を全部焼き払ったり、氷漬けにしちゃったら、怒られる……?』
そう、かつてレイラは、パーシーに問いかけた。
『……頼むから、それは止めてくれ』
レイラの問いに、パーシーは確かにそう答えていた。
現状は、森を焼き払ったわけでも、氷漬けにしたわけでもない。しかし、小屋に放火して、森林破壊を行ったのはレイラ自身の所業でもある。
徐々に青ざめるレイラはすでに、悪魔を追うという考えはないようで……。
「し、消火なの! それと、えっと、木をもう一度生やすには、えっと、えっとっ」
とりあえずとばかりに大きな……小屋を丸々呑み込むほどの水の玉を作ったかと思えば、レイラはそれを上空からドパンと落とし、消火と同時に小屋を完全に破壊してしまう。
「ふゆっ!!?」
さらに破壊を行ってしまったという事実を前に、レイラは悲鳴を上げる。
「み、水、乾かさなきゃなのっ!」
小屋のあった場所は、大きな水溜り状態になってしまったため、レイラは次に大地を操って、それを埋めてしまう。
多少、周りの土が無くなりはしたし、必死にガッチリ埋め立てたために、その場所だけ恐ろしく固い地面になってしまったという現実はあるものの、破壊の痕跡はさほど目立たなくなる。
「それと、木! 木を生やす魔術……ふゆっ、習ってないの……」
もしかしたら、植物育成の魔術も存在するのかもしれない。しかし、現在のレイラにはその知識がない。単純に土を操るだとか、水を生み出す程度ならできても、植物育成などという複雑なものとなると、しっかりと魔術を学んでいなければできるものではないのだろう。
「それなら、魔法? ふゆ……詠唱は……」
環境破壊の痕跡を隠すため、シェラ達からの叱責を逃れるため、パーシーの言いつけを破らないため。理由は様々だが、それで魔法を開発しようという発想も、そして、それを実現させてしまう実力も、本来ならばあり得ない。ただ、レイラに限って言うならば、魔術がダメなら魔法、という発想はごくごく自然なものだった。
「ふゆぅ……『求めろ、求めろ、陽光を。足掻け、足掻け、摂理へと』」
何せレイラは、これまでに何度も何度も、魔法を行使している。
「『強き生は、絶え間なく。永劫の名に相応しく』」
即席で編み出した魔法など、普通は不発で終われば良い方で、下手をすれば暴発の危険もある。それでも、レイラは成功を確信しているように、真っ直ぐに森を見つめて紡ぎ出す。
「『育て、生い茂れ、永劫の森!』」
奇しくも、森の名前と同じ魔法名を宣言するレイラ。黄金の魔力に包まれるレイラは、その瞬間、木々が失われた大地へと、魔力を還元していく。
「っ……」
思った以上の魔力消費なのか、少しばかりレイラの表情が強張ったが、それでも魔力を送り込むことをレイラが止めることはなかった。そして……。
「ふゆっ! ちょっと多い気がするけど、だいじょーぶなの!」
ちょっとどころか、だいぶ多くなった木々を前に、レイラは満足そうにうなずく。
確かに、薙ぎ倒した木々は多かったが、その倍以上の量の木々が地響きとともにニョキニョキと生える様子は圧巻だった。ついでに、やたらと幹が大きく育ったものが多いため、圧迫感が凄まじい。
「……ふゆ? そういえば、何か忘れてるような……?」
と、そこで、レイラはようやく、自分が今まで何をしようとしていたのか、ということに考えを巡らせて……。
「ふゆぅぅぅうっ!! 悪魔を追いかけなきゃいけないんだったのっ!!」
バサッと翼を広げ、うさ耳をぴょんっと跳ね上げて、レイラは大急ぎで悪魔を追跡しようとして……。
「………………木がいっぱい過ぎて、見失ったの……」
自らが生やした木々によって、悪魔の魔力が全く掴めないという事態。それに呆然としていたレイラは、ゆっくり地面に着地して、そのまま項垂れた。
シェラの予想はどうにかある程度回避されたが、レイラの精神的ダメージは大きいようだった。
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