相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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四章.入れ替わり

10.本物の四朗さん

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 ‥だけど、今改めて考えるとおかしかったよね。
 ‥鮮花と月桂は私に憑いてる(私を担当している? )臣霊だからみえるけど、華鳥は四朗さんの臣霊だから見えなかった‥とかいうことかな。
 勿論確かめる術はなかったけど、「きっとそうだろう」ってわかった。というか‥そう納得することにした。

 それにしても‥
 あの時は‥ホント色んな事があった。
 ホントに何もかもが「知らなかった」ばっかりだった。
 ってか、私が忘れてただけなんだ。

 四朗さんは、私の師匠である桜様の息子さんで私がここに来たのは「桜様が四朗さんを修行させる間私が四朗さんとしてこっちで過ごす」って使命の為。
 交通事故に見せかけて入れ替わる‥はずが、‥打ち所が悪かったのか記憶喪失になって、その使命を忘れてた。
 だけど、
 四朗さんを見た瞬間思い出した。
 記憶が戻った‥って言うより寧ろ、今まで催眠術かなんかで意識の奥底に押し込まれてたものが、催眠術がとかれて一気に「正気に戻った」って感じ。
 思い出した瞬間一番に感じたのは‥恥ずかしいだった。
 だって、四朗さんは勿論だけど男なわけだ。
 今まで自分が(覚えてなかったとはいえ)男の身体で過ごして‥。
 実体はない映像とはいえ、四朗さんの身体を見たこともあった。
 ‥筋肉がつかないな、としか思わなかったけど。(そもそも、見せかけの身体だから)
 別にじろじろなんて見ない。‥だって、自分の身体だって思ってたわけだから。自分の身体なんか普段じろじろ見る? ナルシストじゃあるまいし‥。
 でも‥考えてみれば自分の身体だったっていうのに、私は驚くほど‥四朗さんの身体を知らない。
 今だって、ぜんぜん思い出さない。
 そういえば‥(筋肉チェックをするために鏡で見ていると)ちょいちょい「気持ち悪いわね、自分の身体をじろじろ見るんじゃないわよ。あんたナルシストなの? 」とか‥鮮花(あの時は名前は知らなかった)に言われてたような気がする。
 それで「そりゃそうだな。キモイキモイ‥」って見るのやめたんだ。
 ‥万事がそんな感じで臣霊たちに操られてた‥っていうのは言い過ぎだけど‥調整してもらってたって感じなんだろう。

 ホントに、それを考えると赤面してしまう‥。まあ‥感触が無かったのは‥よかったんだけどね。

 でも、自分が四朗さんじゃなかったって気付いた瞬間‥ホントにすっごい納得した。
 今までの違和感が全部解消して‥「だからか」ってすとんって腑に落ちたって感じ。
 あ~。この人がおじい様の言ってた「以前の四朗さん」かあ‥って。

 本物の四朗さんは、オーラはあるんだけど、全然派手さはない。
 相崎みたいに目を引く華やかさは無いけど、自然に目が向いてしまう。
 道端に一本桔梗の花が咲いてて「おや? 」って目が留まる‥そんな感じ。
 ここでポイントは桔梗。菫やタンポポみたいな「普通にある」花じゃない。「キレイ‥」で足が止まって、「でもなんでこんなところに? 」って二度見‥みたいな。「この家の人の庭から種が落ちたのかな? 」って周りを見回して、きょろきょろ‥隣の家の人と目が合って、恥ずかしくなって立ち去る‥みたいな。
 綺麗だから欲しくなっちゃうんだけど、(絶対に草ではないから)摘むには罪悪感感じて‥摘めないレベルの花。
 ‥そんな感じ。

 私は意を決して‥小さく息を吐き
「四朗さん」
 四朗さんに声をかける。
「なに? 」
 四朗さんは振り向いて、ふわりと私に笑顔を向ける。
 その鮮やかなこと!
 これ、相生の父さんのスマイルだ! すごいな。やっぱり本物は違う。キラキラが違う。
 感激して‥そして、気付いた。四朗さんが私に目線を合わせていないことに。
 こっちを向いてるんだけど、目だけは微妙に私の目と合っていない。

 これって‥

 私は、もう一度小さく深呼吸して‥しっかりと四朗さんに視線を合わせる。
「私、柊 紅葉です、相生 四朗さんですか? 」
 一瞬、四朗さんが驚いた顔をする。
 しかし、すぐに笑顔に戻すと、今度は私にしっかり視線を合わせる。

「ええ。相生 四朗です」
 鮮やかな笑顔にくらくらする。
 ドキドキと心臓は苦しいくらいだけど‥恋とは違う。ただ、意識が全部そっちに持っていかれそうな気持になる。
 ‥魔性の笑みだ‥。
 澄んだ茶色の瞳が、もっと淡くシトリントパーズみたいに見える。

 綺麗‥。

「ああ。沢山言葉を学ばれたんですね。苦労を掛けさせてしまって」
 目の前の魔性の麗人がふふっと笑う。
 「ああ、調べられてるんだ」って気付いたけど‥全然嫌じゃなかった。
 ただ、
 ああ‥良かったですね、相生のおじい様‥。この人こそ相生の求める相生の跡継ぎですよ‥。
 って思った。

 と、はっと意識が戻る。
 私の意識を乗っ取らないで下さい! 
 ぎん、っと意識して四朗さんを睨み返すと、四朗さんがまたちょっと驚いた顔をした。
 突如、身体が重くなって‥「現実に戻ってきた」感覚があった。
 四朗さんは、
「さすが、母さんが認める紅葉さん。自力で意識を自分に戻した人は初めてです」
 そう言って、面白そうに笑った。
 もう、何なのよこのキラキラした人! 心臓が持たないよ! 
 ‥まだ心臓がバクバクいってる‥。

「あら、四朗様紅葉様をたらしこまないで下さる? 」
 ふふっと鮮花が笑ったが、目は笑っていない。確実に睨んでいる。月桂に至っては、四朗さんとの間に割って入ってきている。

 ‥まったく、この子たちは‥。私ってば‥愛されてる、なあ‥。
 そんなことをぼんやり思った。
 正直、免疫のない私は、限界値に達してた‥と思う。
「どうでもいいから、帰りましょう。四朗様は、タクシーをお呼びしますわ」
 と、桜様の女中さんが話を切り上げなかったら、どうなっていたことやら。

 その前に、お互いの臣霊を取り替えたりと、手短に支持したのも彼女だった。携帯番号の交換‥をしようと思ったら、四朗さんは持ってなくて、購入次第連絡するってことになった。
 そういうこと‥私は考えもしなくって、「本当にできる秘書、って感じ‥居てくれてよかった」って思った。ただ、月桂には思いっきり恨まれてたけど(※ 四朗さんに付くことになったから)。
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