相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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三章.意識と無意識

4.根っからの女好きのたどり着いた結論

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 本当に、相生四朗には腹が立つ。

 爺様は今日も、俺のことを心配しているといいながら、四朗のことを引き合いに出してきた。
 ただの、基準の違いだろう。
 相生は、後継者選出の基準が相崎より甘い。
 ただ、それだけだ。(‥よくわからんがきっとそうに違いない! )
 そもそも相生なんて、一族での役割で言ったら、相模と同じくらいどうでもいい感じじゃないか。相生は、顔だけの客寄せパンダだし、相模はインチキ占い師だ。
 更に言うならば、相馬も要らない。
 情報と相崎の商才さえあればいいわけだ。情報収集なんて現在ではメディアの時代だ。相生なんていらない。勿論、相馬も。相模なんてもっとも要らない。

 他の三家なんて、おこぼれに預かっているお飾りにすぎない。

 全く! 
 そんなことを考えていたら、相崎信濃は珍しく不機嫌が顔に出ていた。ふと、人影が見えて、とっさに表情を戻す。
 ‥しまった、ここは学校だった。学校の子たちにこんな顔を見られてはいけない。
 こんな余裕のない顔を‥。
 しかし、人影は彼もよく知った人物の物だった。

 ‥相生四朗。

 相崎は踵を返した。
 わざわざ関わって、お互い不機嫌になる必要はない。
 だけど、四朗は相崎に気付く様子もなく、ぼんやりとしていた。
 珍しく周りに相馬武生もいない。
 しかしながら、気配に敏い四朗だ。通常なら、通行人に気付かないわけがない。

 通常なら、だ。

 しかし、今日の彼は相崎に気付いている様子はなかった。
 ぼんやりと、空気のように周りに溶け込んでいた。
 その様子は、何故か儚げで、‥美しかった。
 しばし見とれてしまった相崎は、すぐに我に返った。頭を鈍器で殴られたようなショックを受ける。

 ‥なんで俺が!

 だけど、もう一度四朗を見る。
 ‥恐る恐る。
 四朗がなぜさっき儚く見えたのかはわからなかった。相変わらずぼんやりしていたが、今はいつも通りふてくされて見えた。
 もう美しは見えなかった。
 その事にはほっとしたものの、相崎はふと、四朗が心配になった。
 まだ調子が悪いのかな? この前も倒れたし。
 心なしか、顔色も悪いような気がする。
 嫌いだと言いながらも、いいとこの坊ちゃんである相崎はいろいろと甘い。
 相崎はなんだかんだいいながら、悪い奴でもない。(基本が自分本位だから、いい奴ってほどでもないんだが)
 つまり、真に悪人にはなれないタイプの、つめが甘い坊ちゃんなのだ。
 さっき敵だといいながらも、弱っているように見える四朗のことが少し心配になった。
 つかつかと歩み寄ると、腕をぐっと掴む。

「大丈夫か? 」

 怒った様な顔で、ぶっきらぼうに言った。
 人がいないところで、男に振りまく愛想はない。(この前、車で送っていった時には、祖父に報告するかもしれない運転手などの使用人がいた。だけど、結局運転手は息子をよこしたから‥別に放っておいてもよかった)
 四朗は驚いて相崎を見ると、腕を振り切って走り去った。

「なんだ? 」

 唖然とした。
 そして、物凄い違和感を感じた。
 なんだろう、あの腕。見た以上に華奢で細かった。
 確かに筋肉はついていた。だけど、なんだか違う。
 肌もつるつるで、男のものとは思えなかった。
 激しく動揺した。

 ‥儚く見えたさっきといい、俺はいったいどうしてしまったというのだ?

 いや、そうじゃない。あの腕。あの肌。
 男のものだろうか?
 ‥そうは思えなかった。
 そういうの、俺が間違えるはずがない。
 それに、奴が走り去ったとき、ふわりといい香りがした。

 そういえば。
 いろんなことが思い当たる。

 四朗の横に立っていても、男独特の暑苦しさがない。華奢な体格の男ならともかく、四朗は180センチを超える身長だし、ほっそりとしているが体も鍛えている。
 顔も女みたいに綺麗だが、それでも暑苦しい男であるのには変わりがないはずだ。
 なのに、別に横に並んでもそんなに暑苦しくない。
 男臭さも感じない。本当の匂いとかそういう話をしているのでは、もちろんないのだが。

 つまり
 あまりにも不自然なのだ。

「しんちゃんは‥」
 しんちゃんは女の子だったのか?

 結果、こういう結論にたどり着いてしまった。
 恐るべし女好き!

「ええ? どういうこと? だけど、体育だって一緒に着替えてるぞ? 女が混じったらさすがにおかしい。そんなしみじみ見たことはないけど、確かに男だった。

 でも‥。あいつは小学校の修学旅行も欠席しているし、中学は‥ないから(中高一貫の学校なんだ)別として‥。だけど、あいつは学校行事で行く旅行は全て参加していない。
 ‥もしかして、胸がないだけで女だからか?
 体育もそういえば、人と一緒にする競技は休むことが多いな。それか、武生が不自然に張り付いている」
 そうか、あれは、触れさせまいとする配慮だったのか。
 武生は、四朗が女だってこと知っていたんだ。
「ん? でももっと子供のころは一緒にプールにも入ってた。それに、とっつかみ合いの喧嘩もしてた」
 普通に、硬かった。普通に男の身体だった。
 10歳にもなれば、男と女で身体に違いは出て来る。‥だけど。
 違和感を感じたことなんてなかった。

 絶対に、女の子ではなかった。
「いつからだ? いつから‥四朗は男じゃなくなった? (※変な言い方だが)。‥いつから、武生は四朗にべったりになり始めた? 」

 事故からだ。事故で記憶を失った四朗を心配してべったりになったんだ。
 そして、四朗の俺や周りに対する態度が変わったのも、あの時から‥。
 だけど、それは記憶を失ったからだ。
 そしてそんな四朗を「守る」武生‥。
 もしかして‥武生は何かを知っていて、四朗を守ってたんじゃなくて、「四朗(?)の秘密」を守っていた‥? 

 本当に四朗なんだろうか? 「この」四朗は‥、

「えええ? 」

 衝撃の事実に、相崎はその場からしばらく動くことが出来なかった。
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