Happynation番外編。

文月

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番外3 フミカ ② 神獣怖い

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「ナツカって、男は無理だ~。みたいなこと言ってたけど‥子供が出来たってことは、なんか心境の変化でもあったのかな~」

 ダラダラと寝転がっていたら、どうでもいいことばかり考える。
 ‥でも、そういうの‥どうでもいいこと考えちゃうほど暇なのも、悪くないな~なんて思ってしまうから質が悪い。平和でいいな~なんて思っちゃう‥。
 俺にこんな「こころのゆとり」ができるなんて、思いもしなかった。
 ‥俺だけなら絶対にいつまでたっても出来なかっただろうけどね。こころのゆとり
 つい苦笑いして起き上ろうとする俺を、アララキが後ろから抱きしめてきて‥布団に引き戻す。
「ナツカ、そんな話してたっけ? 」
 アララキの息とか、あったかさが裸の背中にダイレクトに伝わってくる。アララキは‥上着をいつの間にか着てる。っていうか、アララキはそういえば上着あんまり脱がないな。子供の頃、俺を庇ってできた傷が背中にあるらしいことを昔聞いた(アララキからではなく)ことがあるけど、それを気にしているんだろう。(気にする必要なんか勿論ないのに、だ)
 俺は、腰に回されたアララキの腕に自分の腕を絡めてアララキを見上げる。
「アララキそっくりのフミカが抱けるかな‥みたいなこと言ってなかったっけ? 」
 ふふ、と笑いながら言うと、アララキがちょっとむっとした顔をした。
「ナツカめ‥気持ち悪いこと想像するんじゃないよ‥」
 ‥そうだね。
「しかも、結婚って言って、まずそれを考えるってのが、嫌だ。あの、むっつりが」
 ‥それは、でもまあ‥そうかもしれないけど、まあ‥ね?
 俺は苦笑いするしかない。
「‥というか、あれ、男だから女だからって話だっけ? 」
「違ったっけ? 」
 ‥違った気がしてきた。
 アララキにはタタナイって話だった気がして来た。
 アララキは抱けない、だっけ? (←違います)
 でも、まあ。華奢なナツカが細マッチョのアララキを押し倒すの想像したけど‥なんか、違和感ありまくるよな。そういう甘い空気に‥ナツカとアララキがなる‥って想像がつかない。
 ヤキモチで、そういうの、やだ! ってのじゃなく‥普通に想像がつかない。
 アララキ(攻め)とナツカ(受け)ってのも想像がつかない。
 それって、アララキのせいだ。
 俺以外の他人に対して、すごく淡泊なんだ。
 ‥でも、それはちょっと‥てか‥かなり、‥嬉しいんだけど。
「まあ‥フミカとナツカは幼馴染だ。前のイメージが強すぎて、変化についていけない‥ってのは分かる。だけど、見かけは兎も角、中身は元のままだと思えば‥問題はない気も、する。‥少なくとも、僕はない。例え、サカマキの顔がカツラギでも‥こころがサカマキなら‥」
 ‥アララキに押し倒される「カツラギ(中身:サカマキ)」‥。想像できないわ~‥。
 てか、‥見掛けカツラギの俺‥。その俺を口説くアララキ。‥なんか、凄く‥嫌だ。アララキ×カツラギとか、嫌だ。反対も嫌だ‥。
「‥やめよう? この話‥」
「そうだね‥」
 ‥アララキもダメージ受けてるみたいだしね。

 男だから女だからって話っていうと‥
「フミカは‥その、‥女なのか? 」
 ちょっと赤面したアララキが聞いてきた。
 ‥今日はやけにこだわるね。娘の事だからかな?
「雌型ではあるね。‥再三言ったからもういいとは思うけど、神獣には雄雌の違いなんてないからね。総て見た目だけの問題だ。母親‥雌型の姿を見て育つから雌になる場合が多い。だから、俺みたいに生まれてすぐ母親と離れた場合なんかは‥特殊ケースだね。俺は、物心ついたころから、俺の周りにいたのは、男だけだった‥というか、お前だけだったしな。一緒に風呂に入るのもお前だけだったから、お前の身体しか見たことなかった。雌の形を知らなかったから、雌型になれなかった。
 フミカは俺が育てて来たけど、そもそも、元々の自分のイメージがあったから、女の見た目になりえた」
 元々フミカは自分の容姿を「使う」ことも厭わないタイプだった。
 自分の容姿にだって、拘りはあっただろう。
 だから、顔は基本的にアララキにそっくりだけど体付きは、(少なくとも外見は)女にしておきたかったのだろう。というか、‥今まで女だったのに、男になるって考えは浮かばないだろう。当然自分は女だって思っただろうし。

 でも‥「選べる」ってフミカに教えた覚えはない。(そういえば)
 言ったら、選んだかな。‥選びたかったかな。
 ‥まあ、今からでも変えられるし、今度教えてやろ。

 そんなことを何となく考えてたらアララキが
「ふうん‥。神獣って結構自由なんだね」
 感心したみたいな‥へえ! ともほお‥ともつかない様な口調で呟いた。
 あれだ。びっくりはしたけど、元々なんでもありな神獣の事、別に今更といえば今更だな、って感じかな? 

 それも面白くない。

 だから、ちょっと(返事はわかりきってるけど)困らせる様なこと言ってみようと思う。
「‥変えようか? 」
 どうせ、言うでしょ? 
 サカマキだったら、見掛けなんて関係ない。男だろうと女だろうと。
 って、即答でしょ? 意地悪にすらならない。
 例えばここで俺が、
「アララキが女の子っぽい方がいいって言うなら‥変えるけど‥」
 って、拗ねた様な顔したって、そんなのお構いなしに、言うんでしょ? 「サカマキだったら、見掛けなんて関係ない。男だろうと女だろうと! 」自信満々に‥一点の曇りもない! みたいな表情で。
 余りにも「わかり切ってて」面白くないし、‥なんか、「判でも押してるのか? 」って気持ちになる。(←つまり、誠意が感じられないって拗ねてるんだ)
 だけど、‥そうじゃなかった。
「え? 」
 アララキは首を傾げた。
「なんでそんなこと言うの? 」
 って、‥悲しそうな顔をした。

 ‥なんでそんな顔するの。いつもみたいに「サカマキだったらそれでいい」って言えばいいじゃない。

「サカマキが選べなかったのは、僕のせいだった。僕がサカマキを閉じ込めて、君の世界を小さなものにしてしまった。僕しか選べないようにしていた。だから、‥女とか男とか選ぶ以前に、君は男‥僕しか知らなかった。だのに、君は‥僕の為に、その身を変えようかって聞いてくれるの? サカマキ‥僕は‥」

 胸が詰まるかと思った。
 
 で、気が付いたら‥
 キレてた。
「アララキはまだそんなこと言うんだな! 俺がお前といるのは、何か?! 俺がお前に流されて一緒にいるとでも思っているのか?! 子供も二人も作っておいて、まだそんなこと言うのか!? 
 そもそも子供の頃だったら、「それしか知らないから」だっただろうけど、大人になれば別に知る機会位ある。万民に嫌われてた昔ならともかく、今は男として女から言い寄られることだってある! まあ、ここの世界において俺は「ちっちゃくてカワイイ愛玩動物」みたいなポジションらしいから、女から言い寄られるって言っても、「大人のお付き合いしましょ」じゃないかもしれないがね! 」
 それでも、言い様はある。甘えた顔でおねだりして‥油断させて二人きりになったらこっちのものだ。後は、カツラギの手法で女の子位誑し込める(‥いや多分、‥出来ると思う)。体力も力もある方だ。女の子より‥とかのレベルじゃなくって、そこらのマッチョより普通にある。なんせ、ハイパー嫌われてる高位魔法使いとしてずっと最前線で死闘を繰り広げて来たんだ。魔力だけじゃなくって、喧嘩だって強いぞ(←思想が物騒。色気ゼロ。ほぼ戦闘。これはヤバい、これじゃ強姦‥)
「だからアララキ! そんなうじうじしたことばかり言ってたら! 」
 あ、アララキの顔がヤバい。
 泣きそう。
 でも、引かないぞ! 言っちゃうぞ!
「言ってたら! ‥言ってたら? 」
 ‥言ってたらどうなんだろ。そもそも、俺が何をすることがある? 「王様は実はけっこうめめっちい」って言いふらす? 「あんな男前だけど、中身はそうじゃないです」って? うん? なんだろ。そんなこと言いふらしてどうするんだ? 別にアララキは全然ダメージ受けないんじゃないかな。「あの二人が相変わらずつまんないことしてる」って周りに生温かい顔されるだけだ。

 おい、アララキの奴泣き出したぞ。どうした。俺がそういうこと本気でするとか思ってる? 

「キライにならないで‥」
「はあ?! 」
 何! 俺なんかした?! なに、何で急に泣き出すの! 
 ‥悔し泣きとかじゃなくって、マジ泣き‥。
 いい大人の男が、涙ぽろぽろ流してるの。‥え、何。怖い。
「キライになるとか‥別れるとか言わないで‥」
「えぇ!? 」
 言いませんけど!? 言ってませんけど!?
「い‥言わない‥けど‥」
 なんで俺がたじたじになってるんだ~!!
「言わない? 」
「言わない! 」
「僕の事、好き? 愛してる? 」
「‥そういうことは‥! いわないけど‥」
「‥やっぱり、嫌いなんだ‥」
 くどい! ウザイ!!
「ああ! もう、どうにかなりそうなくらい好きだ! 男のつもりで生きて来たけど、アララキにだったらグラマラスな女になれって言われたらそうするかもってくらい好きだ!! 」
「ええ!? またそれ?! 」
「‥カツラギ言ってたじゃん。俺みたいなぺちゃパイは物足りない‥みたいなこと」
 ぺちゃパイ‥とか、言うの恥ずかしい。
 学生時代、女の子って結構明け透けな子いたけど、恥ずかしいって思わないのかな~。
 ああ‥そうか、「性的な意味で言ってないから」別に恥ずかしい‥とかじゃないんだ。男子小学生ってち●ことかおっぱいとかいうけど、そういうの「性的な意味」で言ってないから言えるんだ。
 でも、女の子ってませてるから‥そういう意味が全然ないって感じじゃ無いのかも。
「物足りない‥とは思わないけど、でも、サカマキだから好きって感じだから、あったらあったで‥そういうサカマキもあり‥とかなのかなあ‥」

 いや、でもこれはホント。
 別に、サカマキが男じゃなきゃ嫌だとかじゃない。
 女の子っぽいサカマキもきっと可愛い。寧ろ見てみたい。‥サカマキはグラマラス美女っていうより、ちっぱいな可愛い系の方が似合う。きっとそう。(それじゃ今と変わんないか‥)

「偽物って点で、もうどうでもいい気もするんだけどな~」
 俺が、自分の平らかな胸を見下ろしながら言うと
「化粧も、服も全部そういうもんなんじゃない? 偽物だからって駄目なわけじゃない」
 その胸を後ろから揉みながらアララキが言った。
 ‥揉むほど無いだろう。
「フミカもそういう身体だって、ナツカは知ってるのかな」
「言わないだろ。フミカが」
 まあ、言わないだろう。それこそ、わざわざ言ってどうするって話だ。
 まあ、‥そうだよね。とアララキが苦笑いする。
「‥まあ、おっぱいが大きいとか、尻に丸みがあるとか見た目が変わるだけで、脱いだら、下半身は基本変わらない。神獣的にどさくさに紛れてヤルことやらなきゃなんないから、男性器を完全に消すことは出来ない。普段、男性器を極限まで小さくして‥よく見ないと分からない位には出来るとは思うけどね」
 男性器をつかって「ヤル」こと。行為のどさくさに、人の精子に神獣の精子を混ぜること。そしてそれを受精させること。
 ‥真剣な顔して、俺は一体何の話をしてるんだか。
 ‥さっきから、生々しい話ばっかりしてる。
「‥どさくさに紛れて‥っていって、行為中は、それこそ神獣の強い催淫状態下にあるから、多少の違和感には気付かないだろう」
 結構どうどうと「何でも」できるんじゃないかな。
 でも、‥神獣自体も、催淫状態で馬鹿になってるから‥「あれ(精子を混ぜる云々)」はただの、本能なんだろうな。‥そもそも、どういう動作なんだろ‥。絶対知りたくない。

「‥‥‥」

「つまり、‥ナツカは気付いてない訳か‥」

「‥‥‥」

 ‥神獣怖い。
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