少しだけ狂った世界線で僕らは愛を語らう

星ふくろう

文字の大きさ
10 / 23
第一章

秋穂の真実 3

しおりを挟む
「ちょっ、怖い! ななせ、高いとこダメ!」
「知ってる。だからこうしたの。あんた一メートル上でも怖がりのビビリだから。七星!」

 その声と勢いに七星のスイッチが入ってしまう。
 そう殴られて喜ぶ方のスイッチが。

「はい……」

 着替えて。
 早く、そうせかされて。

「ちょっと、なんでそれ、痛いって!」
「ばか、MRIとか取る時にやけるでしょ。 ほら、口開けろ!」
「はいー」

 抵抗できない。
 舌も、耳も。
 金具が全部外されていく。

「ほら、下着付けてーああ……出来ないのか。いい、しばらくメス犬七星だかんね、樹乃が御主人様。命令には絶対服従! 返事は?」

 あ、足りないか。
 そう言われていつものように平手打ちが来る。
 だめ、それしたら、抵抗できなくなる。
 よけようとする前に、完全発動。

「はい……樹乃様」
「よし。こういう時に使えばいいのかなるほど。樹乃が死ぬとか言わなくてもいいんじゃん。七星だけスイッチ入れて樹乃が命令したら。へー‥‥‥。これからこうしよう」

 樹乃は新発見だと考えて喜んでる。
 七星の心の中ではふざけんな! そう叫んでいるがこれも居心地は悪くない。
 罪悪感を感じなくて済む。
 こうしていれば、二人とも暴力をふらずに側にいれれる。
 もう首輪してよ、ななせに。ばか樹乃。
 心の中でななせはそう叫んでいた。

「はい、病院行くよ」
「だから、怖いって!!?」

 悲鳴を上げる七星を肩に担いで樹乃は階下の扉を開けて絶句してしまった。
 予想はしていたが、まさかこんな昼日中からそんなことをしているなんて。
 
「兄貴‥‥‥何してんの?」
「あ、樹乃。なんで降りてきたのさ。見るなよ‥‥‥」
「きゃっ」

 階下では友紀と秋穂が愛し合おうとしていた。
 秋穂は恥じらいを見せて服を直そうとするが、友紀は上半身裸のままで七星を担ぎ上げている樹乃を見て呆れた顔をしていた。

「なんだ、七星は荷物になったのか?」
「あーもう、うるさいな。二人で好きなことしてるとこ、邪魔してごめん。こっちはほっといてよ。さっさと出て行くから‥‥‥ねえ、遠矢は?」
「兄さんをつけなさい。樹乃は妹なんだからさ、遠矢は出かけたよ。お前こそ、なんで七星、担いでるのさ? 新しいプレイか?」
「‥‥‥うるさいよ、エロ友紀。それに、秋穂姉さんも、その主体性のなさは感心しないわ。いい加減にどっちかにしたらどう? 兄貴たち、一卵性双生児なんだからもし産まれても、どっちの子供かわかんないじゃん」

 御主人様モードの樹乃は無敵だった。
 友紀は子供の話まで持ちだされ、秋穂とともに顔を見合わせて絶句してしまう。
 罪なことをしているという実感があるのか、二人は樹乃から顔を逸らしていた。

 ああ、めんどくさい。
 さっさと要件を済ませて出て行こう。
 樹乃は遠矢も含めたこの三人夫婦のいじいじとした隠れるような愛し合い方を好きになれなかった。

「ねえ、金貸して。七星のバカが右腕動かないの黙ってダンベル上げたから。もうヤバイの」
「え? 大丈夫なのかい? 病院に行くならまあ‥‥‥いいけどさ、秋穂?」
「あ、はい。ちょっと待って財布、どこだったかな‥‥‥」

 昨夜、自分が殴ったからとは、樹乃は一言も言わない。
 あくまで事故で押し通す気だった。
 それを樹乃に抱き上げられた七星は黙って見ていたが、ぽつりと一言呟いてしまう。

「じゅの、悪い奴……」

 七星に突っ込まれた樹乃は、うるさいよと頬をはたいて黙らせた。
 まだまだ無敵モードは全開だった。

「黙れ、メス犬七星。誰のせいでもいいの! 余計なこと言わない!」

 七星にだけ聞こえるように命令。
 樹乃のその横暴ぶりも、七星は嫌じゃないようだった。

「はい、じゅの……不満だけど。さま」
「あーそう。後から完全にしつけてやるわ。ねーお金!」
「待てって。ほら、これで足りるのか?」
「んー‥‥‥、多分。ありがとう、兄貴」

 物みたいにして七星を担ぎ、愛車で樹乃は家を後にする。
 こんなめんどくさい現場はさっさと立ち去るに限るのだ。

「見られたね、秋穂」
「そうね、友紀。子供、かー出来てたら、産んでいい?」
「秋穂、遠矢といる時と三人でいる時だけ旦那様とか、古い言葉使うの止めたらっていうか、遠矢ともしてるんだろ?」

 友紀は妻の変わりように呆れたように言う。

「だって、遠矢君はずっとあの秋穂しか知らないし。さきに友紀と恋人なってたのも知らないし‥‥‥お風呂は入るけど。キスも何もしてこないよ。遠矢君は、ただ、黙って介護するだけ。寝る時も離れてる。あの遊園地も、本当は来なかったら良かったのに」

 そこまで言うか?
 友紀は少しイラっとした。

「だって、そうしたら‥‥‥お父さんにお願いしてあんな滅茶苦茶なこと言わさなくて良かったのに」
「秋穂‥‥‥」
「ねえ、友紀も同罪だよ? 秋穂と友紀は同じ。秋穂のお父さんと遠矢君が一番の被害者」
「おい、もうやめろって」
「だって、秋穂は友紀だけを欲しいんだもの。その為ならなんでもする」

 その狂った笑顔に、友紀は少しだけ狂った世界線の愛を見た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...