9 / 23
第一章
秋穂の真実 2
しおりを挟む
「遠矢、二人どうだった?」
秋穂から少しだけ離れて座り二人でテレビを見ている友紀が声をかける。
「んー? うん‥‥‥そうだな。まあ、またパンダだった」
それを聞いて友紀は苦笑する。
秋穂は少し微笑んだだけだ。
「また、だったんだ。そろそろ、引き離した方がいいんじゃない?」
あれだけ外観も分かりやすい二人だ。
新学期が始まってもまだ二年半。高校がある。
兄としては樹乃が心配だし、七星も他所の子だがもう妹と変わらない。
「そうだな。あいつらああなってから、もう何年だ?」
うーん、友紀は過去を振り返る。
樹乃が事故を起こしてからこの双子はレースを辞めた。
三人も参加する資金が実家にはなかったからだ。
遠矢も友紀も原付以外にバイクはあるし、国内免許までだが取得している。
ただ、資金がないだけでこの双子の耐久レースの成績はそれなりのものだった。
「そうだねー多分、事故してからならもう6年? でもあの関係はもう少し長いんじゃないかな?」
ああ、こいつも気づいてるか。
そりゃ当然。友紀もそんな顔で返した。
「市内の俺たちの実家に七星、移らせるか?」
その時だ、秋穂が初めて口を開いた。
「多分、もう深い仲ですわ、旦那様。そうしても、樹乃ちゃんが行くだけです」
それはそうだろうなあ。
双子は同じようにため息をつく。
これで七星が単なる居候なら追い出せるが毎月、数万の家賃と食費が入っている。
いま追い出したら、一生、妹に恨まれるだろう。
そして二人で出て行くはずだ。充てもなく。
「まあ、子供が産まれる訳ではないし。良いのでは? わたしが口を挟んで申し訳ありません」
秋穂の言葉が遠矢の胸に突き刺さる。
「そんなあからさまに言うなよ、秋穂。どっかに出て行かれて、ある日、自殺とかは勘弁だ」
「なら、そっと見守るしかないね、僕たちで」
二階にいた二人はこっそりと階段の横でその会話を盗み聞いていた。
部屋に戻ると、樹乃が口を開く。
「まずいね。完璧、バレてる」
「うーむ。ななせは考えてます‥‥‥」
「あんたの浅い知恵じゃ、すぐに全部終わるわよ」
七星はぐうの音も出ない。
「でも、兄貴たちは見守るみたいな感じだけど。秋穂義姉さんまで味方してくれるなんて‥‥‥」
「ななせは不機嫌。面白くない。秋穂さんは‥‥‥好きじゃない」
「七星ー‥‥‥」
七星は返事をしない。
今朝のダンベルの時の我慢といい、相当不機嫌なのは樹乃には分かっていた。
キレたかな?
可愛がって、御主人様。
そんな、ペット樹乃がどこかにいる。
可愛がってくれるかな?
スイッチ入れてくれないかな?
その後に散々な暴力があるのを分かってて、樹乃は期待する。
しかし、七星の反応は違った。
「ねえ、樹乃?」
「へえ?」
違うの?
期待外れで間抜けな返事がでた。
「遠矢さんさー、七星の顔と樹乃の顔交互に見てたじゃん?」
「え? ああ、そう、ね」
「じゅのさん、うごかない。そうそのまんまーー」
あれ、スイッチ入れてくれる?
平手打ち、‥‥‥来ない。
「何見てるの?」
樹乃は七星が違う可能性を考えてたことにようやく気付く。
「この角度、丸見え‥‥‥。下着なし。下まで‥‥‥まずいね?」
え、まさかの。
「見られたってか、多分、見つかった」
「見つかったって、え、兄貴‥‥‥樹乃の胸見てたの!?」
「七星も見られた。だから、バレたんだ」
樹乃がショックに悩み中、七星は静かになってしまう。
なんとなく、樹乃には恋人の次の発言が予測できた。
「あれ、どしたの七星?」
「ごめん、ななせが悪い。出てくー‥‥‥」
「出て行くってどこに! あんた実家ももうないじゃん」
「身体でも売る。樹乃には迷惑かけっぱなしななせが悪い、出て行く。樹乃、さよならしよ?」
やっぱり、そういうよね。
七星はいつもそう。全部自分で抱え込む。
樹乃が半分悪いのに。
樹乃はそう思っていた。
「だめだよ、だってさっきだって。約束したじゃん、二人で何とかしよって‥‥‥」
七星は樹乃の頭を左手で撫でてやる。
「じゅのさん、もうだめななせは決めた。ななせがいたら、みんな困るよ。だから、さよならしよ?」
「そんな、だめ。絶対に嫌。別れるなら死ぬ!!」
あー‥‥‥しまった。
言わない、言ったらダメな言葉が出た。
七星のスイッチが入ってしまう。
樹乃はそう思った。でもそれでこの場が保留になるなら、それでもいい。
七星を失いたくない。
そうも思った。
そして七星の顔色は変わっている。
スイッチ入れて、もう七星のスイッチは入ってるじゃん。
いつもみたいに、樹乃のスイッチを‥‥‥。
右側からいつも来る平手が、今日は左側から。
中途半端だけど、それでも樹乃のスイッチは入っていた。
ねえ、いつもみたいに左手で髪掴んで。
右手でーー
「え‥‥‥?」
目を閉じて待つのになにも来ない。
「メス犬樹乃。お手」
「へ? はい、御主人様」
差し出した左手に右手を載せる。
「うん、メス犬樹乃。チンチン」
「や、それ恥ずかしい」
「うーむ。まあいい、許す、よしよし。終わり」
左手で頭を撫でられてそれで終わり。
樹乃は不完全燃焼だ。
「え、なにこの不完全燃焼。こんなのあり? 何よ、御主人様! 新しい調教ですか?」
そっぽを向く七星に何か違和感を感じて樹乃は御主人様をよくよく観察する。
パンの袋を‥‥‥左手で持って右手は?
何で口使うの?
メス犬から元に戻ってしまう。
ある事実に、樹乃は気づいたから。
まさか、昨日の夜に七星に殴られた後、樹乃は殴り返した。
この時、あまり記憶にはなかったが七星の頭を何度も壁にぶつけた記憶はある。
頭の側頭部を‥‥‥
「七星、まさか右腕。だって朝の時‥‥‥だからダンベル止めたの? だから、キレれなかったの?」
「言わないでじゅのさん。ななせはもう役立たず。これ以上いたら、秋穂と同じになる。言わないで……」
泣きながら七星はパンをほおばっていた。
本人はシュールだとでも思っているのかもしれない。
「ばか。ほら、行くよ」
五十キロもない七星を樹乃は軽々と担ぎ上げてしまったた。
秋穂から少しだけ離れて座り二人でテレビを見ている友紀が声をかける。
「んー? うん‥‥‥そうだな。まあ、またパンダだった」
それを聞いて友紀は苦笑する。
秋穂は少し微笑んだだけだ。
「また、だったんだ。そろそろ、引き離した方がいいんじゃない?」
あれだけ外観も分かりやすい二人だ。
新学期が始まってもまだ二年半。高校がある。
兄としては樹乃が心配だし、七星も他所の子だがもう妹と変わらない。
「そうだな。あいつらああなってから、もう何年だ?」
うーん、友紀は過去を振り返る。
樹乃が事故を起こしてからこの双子はレースを辞めた。
三人も参加する資金が実家にはなかったからだ。
遠矢も友紀も原付以外にバイクはあるし、国内免許までだが取得している。
ただ、資金がないだけでこの双子の耐久レースの成績はそれなりのものだった。
「そうだねー多分、事故してからならもう6年? でもあの関係はもう少し長いんじゃないかな?」
ああ、こいつも気づいてるか。
そりゃ当然。友紀もそんな顔で返した。
「市内の俺たちの実家に七星、移らせるか?」
その時だ、秋穂が初めて口を開いた。
「多分、もう深い仲ですわ、旦那様。そうしても、樹乃ちゃんが行くだけです」
それはそうだろうなあ。
双子は同じようにため息をつく。
これで七星が単なる居候なら追い出せるが毎月、数万の家賃と食費が入っている。
いま追い出したら、一生、妹に恨まれるだろう。
そして二人で出て行くはずだ。充てもなく。
「まあ、子供が産まれる訳ではないし。良いのでは? わたしが口を挟んで申し訳ありません」
秋穂の言葉が遠矢の胸に突き刺さる。
「そんなあからさまに言うなよ、秋穂。どっかに出て行かれて、ある日、自殺とかは勘弁だ」
「なら、そっと見守るしかないね、僕たちで」
二階にいた二人はこっそりと階段の横でその会話を盗み聞いていた。
部屋に戻ると、樹乃が口を開く。
「まずいね。完璧、バレてる」
「うーむ。ななせは考えてます‥‥‥」
「あんたの浅い知恵じゃ、すぐに全部終わるわよ」
七星はぐうの音も出ない。
「でも、兄貴たちは見守るみたいな感じだけど。秋穂義姉さんまで味方してくれるなんて‥‥‥」
「ななせは不機嫌。面白くない。秋穂さんは‥‥‥好きじゃない」
「七星ー‥‥‥」
七星は返事をしない。
今朝のダンベルの時の我慢といい、相当不機嫌なのは樹乃には分かっていた。
キレたかな?
可愛がって、御主人様。
そんな、ペット樹乃がどこかにいる。
可愛がってくれるかな?
スイッチ入れてくれないかな?
その後に散々な暴力があるのを分かってて、樹乃は期待する。
しかし、七星の反応は違った。
「ねえ、樹乃?」
「へえ?」
違うの?
期待外れで間抜けな返事がでた。
「遠矢さんさー、七星の顔と樹乃の顔交互に見てたじゃん?」
「え? ああ、そう、ね」
「じゅのさん、うごかない。そうそのまんまーー」
あれ、スイッチ入れてくれる?
平手打ち、‥‥‥来ない。
「何見てるの?」
樹乃は七星が違う可能性を考えてたことにようやく気付く。
「この角度、丸見え‥‥‥。下着なし。下まで‥‥‥まずいね?」
え、まさかの。
「見られたってか、多分、見つかった」
「見つかったって、え、兄貴‥‥‥樹乃の胸見てたの!?」
「七星も見られた。だから、バレたんだ」
樹乃がショックに悩み中、七星は静かになってしまう。
なんとなく、樹乃には恋人の次の発言が予測できた。
「あれ、どしたの七星?」
「ごめん、ななせが悪い。出てくー‥‥‥」
「出て行くってどこに! あんた実家ももうないじゃん」
「身体でも売る。樹乃には迷惑かけっぱなしななせが悪い、出て行く。樹乃、さよならしよ?」
やっぱり、そういうよね。
七星はいつもそう。全部自分で抱え込む。
樹乃が半分悪いのに。
樹乃はそう思っていた。
「だめだよ、だってさっきだって。約束したじゃん、二人で何とかしよって‥‥‥」
七星は樹乃の頭を左手で撫でてやる。
「じゅのさん、もうだめななせは決めた。ななせがいたら、みんな困るよ。だから、さよならしよ?」
「そんな、だめ。絶対に嫌。別れるなら死ぬ!!」
あー‥‥‥しまった。
言わない、言ったらダメな言葉が出た。
七星のスイッチが入ってしまう。
樹乃はそう思った。でもそれでこの場が保留になるなら、それでもいい。
七星を失いたくない。
そうも思った。
そして七星の顔色は変わっている。
スイッチ入れて、もう七星のスイッチは入ってるじゃん。
いつもみたいに、樹乃のスイッチを‥‥‥。
右側からいつも来る平手が、今日は左側から。
中途半端だけど、それでも樹乃のスイッチは入っていた。
ねえ、いつもみたいに左手で髪掴んで。
右手でーー
「え‥‥‥?」
目を閉じて待つのになにも来ない。
「メス犬樹乃。お手」
「へ? はい、御主人様」
差し出した左手に右手を載せる。
「うん、メス犬樹乃。チンチン」
「や、それ恥ずかしい」
「うーむ。まあいい、許す、よしよし。終わり」
左手で頭を撫でられてそれで終わり。
樹乃は不完全燃焼だ。
「え、なにこの不完全燃焼。こんなのあり? 何よ、御主人様! 新しい調教ですか?」
そっぽを向く七星に何か違和感を感じて樹乃は御主人様をよくよく観察する。
パンの袋を‥‥‥左手で持って右手は?
何で口使うの?
メス犬から元に戻ってしまう。
ある事実に、樹乃は気づいたから。
まさか、昨日の夜に七星に殴られた後、樹乃は殴り返した。
この時、あまり記憶にはなかったが七星の頭を何度も壁にぶつけた記憶はある。
頭の側頭部を‥‥‥
「七星、まさか右腕。だって朝の時‥‥‥だからダンベル止めたの? だから、キレれなかったの?」
「言わないでじゅのさん。ななせはもう役立たず。これ以上いたら、秋穂と同じになる。言わないで……」
泣きながら七星はパンをほおばっていた。
本人はシュールだとでも思っているのかもしれない。
「ばか。ほら、行くよ」
五十キロもない七星を樹乃は軽々と担ぎ上げてしまったた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
好きになっちゃったね。
青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。
一ノ瀬水葉
おねしょ癖がある。
おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。
ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。
羽月京華
おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。
おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。
見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。
私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。
自分のpixivから少しですが加筆して再掲。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ヤンデレ男の娘の取り扱い方
下妻 憂
キャラ文芸
【ヤンデレ+男の娘のブラックコメディ】
「朝顔 結城」
それが僕の幼馴染の名前。
彼は彼であると同時に彼女でもある。
男でありながら女より女らしい容姿と性格。
幼馴染以上親友以上の関係だった。
しかし、ある日を境にそれは別の関係へと形を変える。
主人公・夕暮 秋貴は親友である結城との間柄を恋人関係へ昇華させた。
同性同士の負い目から、どこかしら違和感を覚えつつも2人の恋人生活がスタートする。
しかし、女装少年という事を差し引いても、結城はとんでもない爆弾を抱えていた。
――その一方、秋貴は赤黒の世界と異形を目にするようになる。
現実とヤミが混じり合う「恋愛サイコホラー」
本作はサークル「さふいずむ」で2012年から配信したフリーゲーム『ヤンデレ男の娘の取り扱い方シリーズ』の小説版です。
※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています。
※第三部は書き溜めが出来た後、公開開始します。
こちらの評判が良ければ、早めに再開するかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる