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第一章

秋穂の真実 2

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「遠矢、二人どうだった?」

 秋穂から少しだけ離れて座り二人でテレビを見ている友紀が声をかける。

「んー? うん‥‥‥そうだな。まあ、またパンダだった」

 それを聞いて友紀は苦笑する。
 秋穂は少し微笑んだだけだ。

「また、だったんだ。そろそろ、引き離した方がいいんじゃない?」

 あれだけ外観も分かりやすい二人だ。
 新学期が始まってもまだ二年半。高校がある。
 兄としては樹乃が心配だし、七星も他所の子だがもう妹と変わらない。

「そうだな。あいつらああなってから、もう何年だ?」

 うーん、友紀は過去を振り返る。
 樹乃が事故を起こしてからこの双子はレースを辞めた。
 三人も参加する資金が実家にはなかったからだ。

 遠矢も友紀も原付以外にバイクはあるし、国内免許までだが取得している。
 ただ、資金がないだけでこの双子の耐久レースの成績はそれなりのものだった。

「そうだねー多分、事故してからならもう6年? でもあの関係はもう少し長いんじゃないかな?」

 ああ、こいつも気づいてるか。
 そりゃ当然。友紀もそんな顔で返した。

「市内の俺たちの実家に七星、移らせるか?」

 その時だ、秋穂が初めて口を開いた。

「多分、もう深い仲ですわ、旦那様。そうしても、樹乃ちゃんが行くだけです」

 それはそうだろうなあ。
 双子は同じようにため息をつく。
 これで七星が単なる居候なら追い出せるが毎月、数万の家賃と食費が入っている。

 いま追い出したら、一生、妹に恨まれるだろう。
 そして二人で出て行くはずだ。充てもなく。

「まあ、子供が産まれる訳ではないし。良いのでは? わたしが口を挟んで申し訳ありません」

 秋穂の言葉が遠矢の胸に突き刺さる。

「そんなあからさまに言うなよ、秋穂。どっかに出て行かれて、ある日、自殺とかは勘弁だ」
「なら、そっと見守るしかないね、僕たちで」

 二階にいた二人はこっそりと階段の横でその会話を盗み聞いていた。
 部屋に戻ると、樹乃が口を開く。

「まずいね。完璧、バレてる」
「うーむ。ななせは考えてます‥‥‥」
「あんたの浅い知恵じゃ、すぐに全部終わるわよ」

 七星はぐうの音も出ない。

「でも、兄貴たちは見守るみたいな感じだけど。秋穂義姉さんまで味方してくれるなんて‥‥‥」
「ななせは不機嫌。面白くない。秋穂さんは‥‥‥好きじゃない」
「七星ー‥‥‥」

 七星は返事をしない。
 今朝のダンベルの時の我慢といい、相当不機嫌なのは樹乃には分かっていた。
 キレたかな?
 可愛がって、御主人様。

 そんな、ペット樹乃がどこかにいる。
 可愛がってくれるかな?
 スイッチ入れてくれないかな?
 その後に散々な暴力があるのを分かってて、樹乃は期待する。
 しかし、七星の反応は違った。

「ねえ、樹乃?」
「へえ?」

 違うの?
 期待外れで間抜けな返事がでた。

「遠矢さんさー、七星の顔と樹乃の顔交互に見てたじゃん?」
「え? ああ、そう、ね」
「じゅのさん、うごかない。そうそのまんまーー」

 あれ、スイッチ入れてくれる?
 平手打ち、‥‥‥来ない。

「何見てるの?」

 樹乃は七星が違う可能性を考えてたことにようやく気付く。

「この角度、丸見え‥‥‥。下着なし。下まで‥‥‥まずいね?」

 え、まさかの。

「見られたってか、多分、見つかった」
「見つかったって、え、兄貴‥‥‥樹乃の胸見てたの!?」
「七星も見られた。だから、バレたんだ」

 樹乃がショックに悩み中、七星は静かになってしまう。
 なんとなく、樹乃には恋人の次の発言が予測できた。

「あれ、どしたの七星?」
「ごめん、ななせが悪い。出てくー‥‥‥」
「出て行くってどこに! あんた実家ももうないじゃん」
「身体でも売る。樹乃には迷惑かけっぱなしななせが悪い、出て行く。樹乃、さよならしよ?」

 やっぱり、そういうよね。
 七星はいつもそう。全部自分で抱え込む。
 樹乃が半分悪いのに。
 樹乃はそう思っていた。

「だめだよ、だってさっきだって。約束したじゃん、二人で何とかしよって‥‥‥」

 七星は樹乃の頭を左手で撫でてやる。

「じゅのさん、もうだめななせは決めた。ななせがいたら、みんな困るよ。だから、さよならしよ?」
「そんな、だめ。絶対に嫌。別れるなら死ぬ!!」

 あー‥‥‥しまった。
 言わない、言ったらダメな言葉が出た。
 七星のスイッチが入ってしまう。
 樹乃はそう思った。でもそれでこの場が保留になるなら、それでもいい。

 七星を失いたくない。
 そうも思った。
 そして七星の顔色は変わっている。

 スイッチ入れて、もう七星のスイッチは入ってるじゃん。
 いつもみたいに、樹乃のスイッチを‥‥‥。
 右側からいつも来る平手が、今日は左側から。
 中途半端だけど、それでも樹乃のスイッチは入っていた。
 ねえ、いつもみたいに左手で髪掴んで。
 右手でーー

「え‥‥‥?」

 目を閉じて待つのになにも来ない。

「メス犬樹乃。お手」
「へ? はい、御主人様」

 差し出した左手に右手を載せる。

「うん、メス犬樹乃。チンチン」
「や、それ恥ずかしい」
「うーむ。まあいい、許す、よしよし。終わり」

 左手で頭を撫でられてそれで終わり。
 樹乃は不完全燃焼だ。

「え、なにこの不完全燃焼。こんなのあり? 何よ、御主人様! 新しい調教ですか?」

 そっぽを向く七星に何か違和感を感じて樹乃は御主人様をよくよく観察する。
 パンの袋を‥‥‥左手で持って右手は?
 何で口使うの?
 メス犬から元に戻ってしまう。

 ある事実に、樹乃は気づいたから。
 まさか、昨日の夜に七星に殴られた後、樹乃は殴り返した。
 この時、あまり記憶にはなかったが七星の頭を何度も壁にぶつけた記憶はある。 
 頭の側頭部を‥‥‥

「七星、まさか右腕。だって朝の時‥‥‥だからダンベル止めたの? だから、キレれなかったの?」
「言わないでじゅのさん。ななせはもう役立たず。これ以上いたら、秋穂と同じになる。言わないで……」

 泣きながら七星はパンをほおばっていた。
 本人はシュールだとでも思っているのかもしれない。

「ばか。ほら、行くよ」

 五十キロもない七星を樹乃は軽々と担ぎ上げてしまったた。

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