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四十二話
しおりを挟む犯罪は、自傷行為。
正義が人を殺せるなんて、誰もが分かっているから。
上手く生きられない心の嘆きが、体に伝わって、暴力に変わり、他者は、自分も、最悪、死に至る。
「へぇ。“歩人君”って、言う名前なんだ…、」
手首に刻んだのは、間抜けではない。
他者を守りたい一心で、矛先を自分に当てがった犯罪者の小さな愛らしい一面なのだ。
罪と罰。
無関係な人が作り出した柔いお話ではなく、的が我が身を傷つける様を見たどうしようもない嘆きを言葉化した作者当人の心の痛みそのものを理解してもらう為の表現だ。
自傷行為から逃れる為に、彼には、何が必要か。
分かりきっているのに、懐に届く言葉をあげるには、境遇が似ていないと、とても難しい、と。
「おめぇん家のシャンプー良い匂いすんなぁ」
美智留は、風呂上がり、体に付いた水滴を拭き取っている俺に、リビングのカーペットの上に腰を下ろして、そう言う。
その手には、携帯電話。
いつも誰かと連絡を取り合っているのも、もう、俺は、理解して許しているつもりだ。
「お母さんが、そういうの好きだから」
答え返しながら、家にある寝巻きに着替え、リビングに移る。
美智留が、美智留で良かった。
俺の家でも、落ち着いていられるみたいだから。
「なぁ。このお菓子、食べてい?」
ずっと。うん、ずっと。
黒いローテーブルの上に、不恰好に開けられている紅茶のクッキーがあって、美智留は、多分、それを食うか食わないかで、悩んでいたみたいだ。
「……、ダメって言ったら?」
つい、虐めたくなって、そう言ってみた。
別に食っていいんだよ。全然。
美智留は、そんな、俺の心を、しっかりと、読んだようで。
「良いだろ一個ぐれぇ。」
ついに、食べてしまったんだな。
俺の口元は、緩む。
行儀は、悪い。でも、そう言う一面が可愛いとすら、思ってしまった。
「……。」
携帯を見つめて、不機嫌そうにムスっとした表情で、また、もぐもぐ食べるその姿を見つめた。
美智留の表情は、翳っていく。
目に涙は、浮かべられていない。
でも、何となく、寂しそうだった。
「…。良いって、気にしないで」
だから、俺は、ついつい、折れてしまった。
ちょっと意地悪したくなっただけ。
食べていいから、そこにあるようなもんだよ。
何で、そんな、可哀想に、見える表情をしたの。
「……」
美智留は、紅茶のクッキーに視線を上げて、口は一の字に閉ざし、表情を変えた。
楽しそうではない、でも、辛そうではない。
多分。
「…」
怒ったんだと思う。
「ごめん、美智留。」
俺の口から、すぐに謝る言葉が出た。
美智留に嫌われて困るのは、俺だから。
俺しかいないから。
俺には、美智留しか居ないから。
美智留に、ちゃんと愛されたいから。
「…。んん。」
面倒臭そうに、頷く。
多分、美智留が、俺を許した。
表情は、また、怒っているみたいだけれど、俺を拒絶はしないんだ、って、つい、こちらの閉ざした心に、ジンと緊張感が滲む。
緊張感。光が漏れ出すかのような感覚。
ヒョ、っとする感じの、
「申し訳ない」
って、すぐにまた謝ってしまった、感覚だ。
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