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第187話
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「もう、結局自主練出来てないわ……」
紅葉が消えた後、日向は小さく愚痴を零しながら城を歩いていた。
気づけば自主練を終える時間になっていて、止むを得ず城に戻って来たところだ。
城を歩く日向の足は、いつもより重みがあった。
せっかくの自主練を邪魔され、挙句魁蓮の悪口を浴びせられて。
日向の気持ちは、全くもって穏やかでは無い。
足の踏み込みに、日向の怒った感情が籠る。
「紅葉のやつ……魁蓮は僕を裏切るとか、好き勝手言っちゃってさぁ。確かに疑っても仕方ないヤツかもしれんけど……酷いだけのヤツじゃないのに」
でも紅葉が言ったことは、きっと世間の声そのものなのだろう。
伝説が語り継がれるほど魁蓮という男は危険で、封印から解放された今、仙人は彼を倒そうと奮闘しているに違いない。
そう考えれば、封印から解放しただけでなく、魁蓮を信じている時点で日向も敵視される身だ。
紅葉があそこまで言ってくれたのは、多少の救いの手を差し伸べてくれていたのかもしれない。
それでも魁蓮を信じると言い張るのだから、日向も大概おかしい。
(分かってる、けど……)
頭では分かっている。
人間という立場で考えれば、自分が異常なことくらい。
紅葉の言うことを聞いていれば、きっと日向は魁蓮から逃れることが出来たのだろう。
せっかくの機会だったかもしれないのに、自分から潰してしまうことになるとは。
黄泉に来たばかりの頃では、考えられない行動だ。
「それに、もう前には戻れんし……」
それでも信じてしまうのは、感情のせいか。
絶対にありえないと思っていたことが起きてしまったのだ、人生は何が起こるか分からない。
もう3ヶ月も会っていない魁蓮のことを思うだけで、日向の胸は締め付けられる。
密かに会いたいと、願ってしまう。
恥ずかしいものだ、本当に。
「ふわぁぁ……眠……」
だが、眠気は所構わず襲ってくる。
紅葉が来たことで気を張りすぎていたのか、力はそんなに使っていなくても疲れは溜まっていた。
色んなことが起きたが、休みは必要。
「まあいっか。明日また頑張ればいいし」
気を取り直し、日向は階段を上がった。
過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
次に期待、と言い聞かせて、灯りが少ない階段を慎重に上がっていく。
ギシッ、ギシッ、と階段を踏む音が響いた。
皆が寝静まる夜は、日常で何気なく聞く音もやけに大きく聞こえる。
そしてようやく、自分の部屋がある4階にたどり着いた……その時。
「よしっ、着い……………………えっ……?」
階段の踊り場。
4階へと日向が足を踏み入れたと同時に、階段を降りてきた姿が目の前に立ち塞がった。
ぶつかる寸前、日向はグッと立ち止まる。
目を細めたくなるほどの血の匂いを漂わせ、血の気が引くような冷たい空気を纏っている。
そして、鼻を突き刺す血の匂いの中に感じた、
あの、蓮の花の香り……。
「っ!」
日向は顔を上げた。
でも、頭ではもう察していた。
目の前に誰がいるのかを……。
「魁、蓮……」
「っ……」
日向の前に居たのは、丁度5階から降りてきた魁蓮だった。
久々に見た好きな人の姿に、日向は目を見開き、そしてドクンッと心臓が高鳴る。
暴れてきた後かと思うほど、魁蓮は少しボロボロな姿だった。
対して魁蓮は、眠気が限界に達していて、ボケっとしたまま日向を見つめた。
この時2人は、実に3ヶ月ぶりの再会だった。
(司雀が夜中に帰ってきているとは言ってたけど、本当だったんだ……)
ずっと、司雀からの報告でしか確認が出来なかった。
でも、まさか本当にこんな遅い時間に帰ってきているなんて。
そりゃあ会えるわけない。
日向はそう考えると、ゴクリと唾を飲み込む。
「ひ、久しぶり魁蓮っ……帰ってたんだな……」
先に口を開いたのは、日向だった。
日向はドクドクと早く鼓動を打つ心臓に耳を塞ぎたくなりながらも、魁蓮へと集中した。
久々に見た彼は、どこか疲れ果てたような表情をしていて、少しぐったりとしているようにも見える。
心配と嬉しさが同時に押し寄せてきて、日向は焦ってしまう。
しかし魁蓮は、そんな日向を気にすることなく、ただ静かに日向を見つめていた。
(なに、考えてんのかな……)
何も返事をしない魁蓮に、日向は少し焦る。
3ヶ月ぶりの再会とはいえ、あんな言い争いをしたのが最後だったのだ。
気まずさは当然あって、どんなふうに話せばいいのか分からない。
「と、とにかく…………おかえり、魁蓮」
日向は、精一杯の笑顔を浮かべた。
理由はどうあれ、こうして再会出来たのは嬉しかった。
その思いを含んだ表情で、日向は魁蓮に「おかえり」と伝える。
その時…………。
「……小僧」
「え?……おわっ!!!!!!!!」
おかえり、と言われた途端。
魁蓮は体の力が一気に抜け、ドッと襲ってきた眠気に従うように、日向の方へとグラッと倒れた。
いきなり体が傾く魁蓮に、日向は慌てて手を伸ばして支える。
力が抜けた魁蓮の体は、予想以上に重く、魁蓮の体を支えた日向は「ぐえっ」と変な声を上げた。
「ちょっ、ちょちょっ、魁蓮!?どうした!?」
「……………………」
「お、おいって!なに急にっ……」
「……………………」
「……え?魁蓮?待って、嘘でしょ、寝たの?」
「……………………」
「ちょっ、待っ……えぇっ!?正気かよお前!!!!こんな所で寝るとか、ふざけんなや!!!!!」
こんな不安定な場所だと言うのに、魁蓮はお構いなく眠りについてしまった。
ただでさえ体を支えるのに精一杯の日向は、どうしていいか分からず、その場で立ち止まってしまう。
辺りを見渡しても、当然誰もいない。
こういう時に限って、何故誰も起きていない深夜の時間帯なのだろうか。
「ひ、引きずっていいんかこれ……いや、引きずることも出来んかも……」
どう足掻いても、日向1人が魁蓮を動かすのは無理だった。
やはり、魁蓮に自力で歩いてもらうしか方法は無く、日向は渋々魁蓮へと視線を向ける。
「ちょっと魁蓮!まじで起きっ……」
その時、日向はあることに気づいた。
(こいつ、目の下のくまが酷い……)
間近だからこそ分かる、魁蓮の目の下のくま。
その深さが伺えた。
一体何日睡眠を取らなければ、こんな酷い表情になるのだろうと思うほど、魁蓮の顔は本当に疲れ切っていた。
目の下のくまの濃さが、その不調を物語っている。
「魁蓮……お前、現世で何をっ」
その時。
「ピィッ!」
「っ!」
階段の上から、鳥の声が聞こえた。
日向がバッと顔を上げると、5階から楊が降りてきた。
久々に見た楊の姿に、日向はパッと笑顔になる。
「楊!久しぶりじゃん!お前も帰ってたんだな!」
「ピィッ!」
「元気そうで良かったよ。
あ、そうだ楊。ちょっと手伝って欲しいんだけど。魁蓮のやつ、勝手に寝ちゃってさ。それに、なんか体調もあんま良くないっぽいから、一旦僕の部屋に連れていきたい。一緒に運んでくんね?」
「ピィ~!」
楊は元気よく返事をすると、ググッと体を大きくさせて、ゆっくりと背中に魁蓮を乗せた。
楊の上に移動してもなお、魁蓮は目を覚まさない。
よほど疲れているのか、それとも別に理由があるのか。
日向は少し心配しながら、楊と共に自分の部屋へと向かった。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「よし、これで大丈夫。ありがとう、楊」
「ピィッ!」
日向の部屋にたどり着いた後、日向と楊は寝台に魁蓮を寝かせた。
ゆっくりと魁蓮を寝かせた後、役目を終えた楊はそのままフッと姿を消した。
そして静かになった途端、日向は魁蓮に視線を落とす。
日向は額に滲んだ汗を軽く拭い、改めて魁蓮の様子を確かめた。
(妖力を使いすぎたのか?それとも風邪かな……)
とりあえず、体調不良なのは確かだった。
じっと魁蓮の顔色を眺め、何が起きているのかを確認する。
この3ヶ月、日向は魁蓮が何をしているのかすら知らなかった。
戦っていたのか、暇を持て余していたのか。
でも今の彼を見る限り、安全な場所にはいなかっただろう。
少なくとも、どこかで戦ってはいた。
「おわっ……」
ちらっと衣を軽くめくれば、戦いの傷があった。
一体いつの傷なのか、既に化膿が起きている。
その痛々しい姿に、日向は眉を顰めた。
「……少しでも怪我したら、言えって言ったのに……」
こうして寝ている間に確かめなければ、魁蓮もずっと隠したままだったのだろうか。
そう考えた途端、背筋が凍った。
やはり、強者の強さや余裕というものは、信じきってはいけない。
その裏では、どんな傷が隠れているのか分からないから。
「待ってろ、今治すから」
そう言うと日向は腕をまくり、そっと魁蓮の体に手をかざす。
そして、ゆっくりと力を込めていった。
今となっては、他人を治療なんて慣れたものだ。
命の危険がある大きな傷も、最低限の力で治せるようになり、無駄な放出も無い。
日向自身も、安定して治療が出来る。
(魁蓮……)
それから日向は、ずっと治療を続けていた。
休むことなく、一定の力を魁蓮に流し込む。
それから約20分後…………。
「……ん……」
ようやく魁蓮が目を覚ました。
ほとんど傷が無くなり、目の下のくまも綺麗に消えた時、魁蓮は深い眠りから目覚めるように目を開けた。
そして日向も、魁蓮が目を覚ましたことに気づき、パッと笑顔になる。
「あっ、魁蓮!起きたんだな!」
「………………っ………………?」
紅葉が消えた後、日向は小さく愚痴を零しながら城を歩いていた。
気づけば自主練を終える時間になっていて、止むを得ず城に戻って来たところだ。
城を歩く日向の足は、いつもより重みがあった。
せっかくの自主練を邪魔され、挙句魁蓮の悪口を浴びせられて。
日向の気持ちは、全くもって穏やかでは無い。
足の踏み込みに、日向の怒った感情が籠る。
「紅葉のやつ……魁蓮は僕を裏切るとか、好き勝手言っちゃってさぁ。確かに疑っても仕方ないヤツかもしれんけど……酷いだけのヤツじゃないのに」
でも紅葉が言ったことは、きっと世間の声そのものなのだろう。
伝説が語り継がれるほど魁蓮という男は危険で、封印から解放された今、仙人は彼を倒そうと奮闘しているに違いない。
そう考えれば、封印から解放しただけでなく、魁蓮を信じている時点で日向も敵視される身だ。
紅葉があそこまで言ってくれたのは、多少の救いの手を差し伸べてくれていたのかもしれない。
それでも魁蓮を信じると言い張るのだから、日向も大概おかしい。
(分かってる、けど……)
頭では分かっている。
人間という立場で考えれば、自分が異常なことくらい。
紅葉の言うことを聞いていれば、きっと日向は魁蓮から逃れることが出来たのだろう。
せっかくの機会だったかもしれないのに、自分から潰してしまうことになるとは。
黄泉に来たばかりの頃では、考えられない行動だ。
「それに、もう前には戻れんし……」
それでも信じてしまうのは、感情のせいか。
絶対にありえないと思っていたことが起きてしまったのだ、人生は何が起こるか分からない。
もう3ヶ月も会っていない魁蓮のことを思うだけで、日向の胸は締め付けられる。
密かに会いたいと、願ってしまう。
恥ずかしいものだ、本当に。
「ふわぁぁ……眠……」
だが、眠気は所構わず襲ってくる。
紅葉が来たことで気を張りすぎていたのか、力はそんなに使っていなくても疲れは溜まっていた。
色んなことが起きたが、休みは必要。
「まあいっか。明日また頑張ればいいし」
気を取り直し、日向は階段を上がった。
過ぎたことを悔やんでも仕方ない。
次に期待、と言い聞かせて、灯りが少ない階段を慎重に上がっていく。
ギシッ、ギシッ、と階段を踏む音が響いた。
皆が寝静まる夜は、日常で何気なく聞く音もやけに大きく聞こえる。
そしてようやく、自分の部屋がある4階にたどり着いた……その時。
「よしっ、着い……………………えっ……?」
階段の踊り場。
4階へと日向が足を踏み入れたと同時に、階段を降りてきた姿が目の前に立ち塞がった。
ぶつかる寸前、日向はグッと立ち止まる。
目を細めたくなるほどの血の匂いを漂わせ、血の気が引くような冷たい空気を纏っている。
そして、鼻を突き刺す血の匂いの中に感じた、
あの、蓮の花の香り……。
「っ!」
日向は顔を上げた。
でも、頭ではもう察していた。
目の前に誰がいるのかを……。
「魁、蓮……」
「っ……」
日向の前に居たのは、丁度5階から降りてきた魁蓮だった。
久々に見た好きな人の姿に、日向は目を見開き、そしてドクンッと心臓が高鳴る。
暴れてきた後かと思うほど、魁蓮は少しボロボロな姿だった。
対して魁蓮は、眠気が限界に達していて、ボケっとしたまま日向を見つめた。
この時2人は、実に3ヶ月ぶりの再会だった。
(司雀が夜中に帰ってきているとは言ってたけど、本当だったんだ……)
ずっと、司雀からの報告でしか確認が出来なかった。
でも、まさか本当にこんな遅い時間に帰ってきているなんて。
そりゃあ会えるわけない。
日向はそう考えると、ゴクリと唾を飲み込む。
「ひ、久しぶり魁蓮っ……帰ってたんだな……」
先に口を開いたのは、日向だった。
日向はドクドクと早く鼓動を打つ心臓に耳を塞ぎたくなりながらも、魁蓮へと集中した。
久々に見た彼は、どこか疲れ果てたような表情をしていて、少しぐったりとしているようにも見える。
心配と嬉しさが同時に押し寄せてきて、日向は焦ってしまう。
しかし魁蓮は、そんな日向を気にすることなく、ただ静かに日向を見つめていた。
(なに、考えてんのかな……)
何も返事をしない魁蓮に、日向は少し焦る。
3ヶ月ぶりの再会とはいえ、あんな言い争いをしたのが最後だったのだ。
気まずさは当然あって、どんなふうに話せばいいのか分からない。
「と、とにかく…………おかえり、魁蓮」
日向は、精一杯の笑顔を浮かべた。
理由はどうあれ、こうして再会出来たのは嬉しかった。
その思いを含んだ表情で、日向は魁蓮に「おかえり」と伝える。
その時…………。
「……小僧」
「え?……おわっ!!!!!!!!」
おかえり、と言われた途端。
魁蓮は体の力が一気に抜け、ドッと襲ってきた眠気に従うように、日向の方へとグラッと倒れた。
いきなり体が傾く魁蓮に、日向は慌てて手を伸ばして支える。
力が抜けた魁蓮の体は、予想以上に重く、魁蓮の体を支えた日向は「ぐえっ」と変な声を上げた。
「ちょっ、ちょちょっ、魁蓮!?どうした!?」
「……………………」
「お、おいって!なに急にっ……」
「……………………」
「……え?魁蓮?待って、嘘でしょ、寝たの?」
「……………………」
「ちょっ、待っ……えぇっ!?正気かよお前!!!!こんな所で寝るとか、ふざけんなや!!!!!」
こんな不安定な場所だと言うのに、魁蓮はお構いなく眠りについてしまった。
ただでさえ体を支えるのに精一杯の日向は、どうしていいか分からず、その場で立ち止まってしまう。
辺りを見渡しても、当然誰もいない。
こういう時に限って、何故誰も起きていない深夜の時間帯なのだろうか。
「ひ、引きずっていいんかこれ……いや、引きずることも出来んかも……」
どう足掻いても、日向1人が魁蓮を動かすのは無理だった。
やはり、魁蓮に自力で歩いてもらうしか方法は無く、日向は渋々魁蓮へと視線を向ける。
「ちょっと魁蓮!まじで起きっ……」
その時、日向はあることに気づいた。
(こいつ、目の下のくまが酷い……)
間近だからこそ分かる、魁蓮の目の下のくま。
その深さが伺えた。
一体何日睡眠を取らなければ、こんな酷い表情になるのだろうと思うほど、魁蓮の顔は本当に疲れ切っていた。
目の下のくまの濃さが、その不調を物語っている。
「魁蓮……お前、現世で何をっ」
その時。
「ピィッ!」
「っ!」
階段の上から、鳥の声が聞こえた。
日向がバッと顔を上げると、5階から楊が降りてきた。
久々に見た楊の姿に、日向はパッと笑顔になる。
「楊!久しぶりじゃん!お前も帰ってたんだな!」
「ピィッ!」
「元気そうで良かったよ。
あ、そうだ楊。ちょっと手伝って欲しいんだけど。魁蓮のやつ、勝手に寝ちゃってさ。それに、なんか体調もあんま良くないっぽいから、一旦僕の部屋に連れていきたい。一緒に運んでくんね?」
「ピィ~!」
楊は元気よく返事をすると、ググッと体を大きくさせて、ゆっくりと背中に魁蓮を乗せた。
楊の上に移動してもなお、魁蓮は目を覚まさない。
よほど疲れているのか、それとも別に理由があるのか。
日向は少し心配しながら、楊と共に自分の部屋へと向かった。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「よし、これで大丈夫。ありがとう、楊」
「ピィッ!」
日向の部屋にたどり着いた後、日向と楊は寝台に魁蓮を寝かせた。
ゆっくりと魁蓮を寝かせた後、役目を終えた楊はそのままフッと姿を消した。
そして静かになった途端、日向は魁蓮に視線を落とす。
日向は額に滲んだ汗を軽く拭い、改めて魁蓮の様子を確かめた。
(妖力を使いすぎたのか?それとも風邪かな……)
とりあえず、体調不良なのは確かだった。
じっと魁蓮の顔色を眺め、何が起きているのかを確認する。
この3ヶ月、日向は魁蓮が何をしているのかすら知らなかった。
戦っていたのか、暇を持て余していたのか。
でも今の彼を見る限り、安全な場所にはいなかっただろう。
少なくとも、どこかで戦ってはいた。
「おわっ……」
ちらっと衣を軽くめくれば、戦いの傷があった。
一体いつの傷なのか、既に化膿が起きている。
その痛々しい姿に、日向は眉を顰めた。
「……少しでも怪我したら、言えって言ったのに……」
こうして寝ている間に確かめなければ、魁蓮もずっと隠したままだったのだろうか。
そう考えた途端、背筋が凍った。
やはり、強者の強さや余裕というものは、信じきってはいけない。
その裏では、どんな傷が隠れているのか分からないから。
「待ってろ、今治すから」
そう言うと日向は腕をまくり、そっと魁蓮の体に手をかざす。
そして、ゆっくりと力を込めていった。
今となっては、他人を治療なんて慣れたものだ。
命の危険がある大きな傷も、最低限の力で治せるようになり、無駄な放出も無い。
日向自身も、安定して治療が出来る。
(魁蓮……)
それから日向は、ずっと治療を続けていた。
休むことなく、一定の力を魁蓮に流し込む。
それから約20分後…………。
「……ん……」
ようやく魁蓮が目を覚ました。
ほとんど傷が無くなり、目の下のくまも綺麗に消えた時、魁蓮は深い眠りから目覚めるように目を開けた。
そして日向も、魁蓮が目を覚ましたことに気づき、パッと笑顔になる。
「あっ、魁蓮!起きたんだな!」
「………………っ………………?」
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