愛恋の呪縛

サラ

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第179話

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 その頃。
 町が見渡せる深い森の中では、魁蓮と異型妖魔の戦いを眺めている人物たちが居た。



「ヒュー!さっすが鬼の王!最強だな!」

「静かになさい、声が大きい」

「あぁ?んだよいちいち。テメェと違って、俺は初めて鬼の王を拝んだんだよ」

「はぁ……」



 そこに居たのは、初めて見る鬼の王の戦いに興味津々なスーと、そんなスーに呆れているウーだった。



「つーか噂には聞いていたが、確かに美形だな?離れた場所から見てもわかる、欠点の無い綺麗な顔立ち。イカれた女妖魔どもが群がるのも、納得しちまうぜ」

「いきなり何を言っているんですか。我々がなんのためにここに来たのか、分かっているんです?」

の視察だろ~?んなの分かってるわ、いちいちうるせぇな」

「はぁ……」



 2人がここに来た理由。
 それは、先程突然現れた異型妖魔の視察だった。
 魁蓮が相手にしている異型妖魔は、まさにスーが何の前触れなく町に放ったもの。
 異型妖魔の出現は、彼の作戦のうちだったのだ。
 そしてウーは、その付き添い。



「にしても、流石は妖魔の頂点に立つ男ってか?あの可愛い可愛い俺たちのデカブツ相手でも、余裕の面持ちでよ~?」

「彼は、主様に匹敵する力を持っているんです。むしろこんな所で敗北するなど、的外れもいいところ」

「それはそうだろうけどよ、あのデカブツも相当な力の持ち主だぜ?自信作だってのに、俺はそっちの方がガッカリだわ」



 自分が町に放った異型妖魔が、何かしら魁蓮を潰すきっかけを作るかもしれない。
 そんな期待を持って見に来たというのに、自信作だという異型妖魔は鬼の王に押され気味。
 スーは魁蓮の強さを思い知ったと共に、呆れて退屈そうだった。



「デカブツちゃんでも駄目ってなると、やっぱ主しか殺せないってこと?鬼の王は」

「さぁ……正直、封印から目覚めた後の鬼の王が、どれほどの力を持っているのか。検討もつきません」

「まさに謎だらけ、ねぇ?」



 彼を殺したい妖魔は大勢いる。
 でも誰1人手を出さないのは、その行為が無駄だということを理解しているから。
 鬼の王に1度でも喧嘩を売れば、待っているのは死だけ。
 生きて帰れる者など、1人も居ない。
 それはスーたちも理解していることだった。

 大きな衝撃音が上がると共に見えてくる、魁蓮の姿。
 ウーはその姿を、鋭く睨んだ。



 (やはり、鬼の王は只者ではない……。
  主様が目の敵にするのも、納得できますね)



 噂や言葉だけでは語れない、鬼の王の存在。
 目にしたところで、全てを理解することなんて出来やしない。
 何を隠しているのか、何を秘めているのか。

 それは誰にも、分からないことだった。



 (ですが、最後に勝つのは……我々です)



 ウーが静かにそう決心した、その時。



「つーかよ、そもそも何で鬼の王は、鬼って言われてんだ?」

「えっ?」



 魁蓮にずっと集中していたウーは、スーの突然の質問に、間抜けな声が出てしまう。
 クルッと視線を向けると、スーは顎に手を当てながら、遠くにいる魁蓮をまじまじと見つめていた。



「だって、意味わからねぇだろ?鬼の王は、妖魔の頂点に立つ最強の男。だったら、妖魔の王って言えばいい。なのに、なんでわざわざって言い方をするんだ?」

「……言われてみれば、そうですね……」



 スーの言い分は、一理ある。
 今までずっと、その呼び名が浸透しすぎていて、深く考えることは無かった。
 だが、スーの意見を改めて聞いてみると、確かに引っかかる点ではある。

 妖魔には、鬼の要素はほとんどない。
 鬼のような妖怪とは少し違った存在であるため、むしろ鬼と表して呼ぶことの方が珍しい。
 そもそも、この呼び名は誰が決めたのかも不明だ。
 ウーが何故なのかと、同じように顎に手を当て考えていると……





「ある諸説の中で、鬼は死者の霊魂そのもので、姿かたちのないものって言われてるよ……。
 でも別の諸説では、死者の霊であるという考え方もある……」

「「っ!!!!!」」





 森で佇んでいた2人の背後から、少し弱々しい青年のような声がした。
 2人が反射的に振り返ると、背後に1人の青年が立っていた。
 ボロボロに解れた不気味な人形を両手で抱え込み、少し大きな垂れ目で、怯えるように2人を見つめている。
 そして頬には黒蝶の模様と、「参」の文字が。



「よぉ!サン!起きたんか!」

「ど、どうも……スーさん」

「相変わらず、ひ弱な奴だな。声に覇気がねぇわ」

「ご、ごごごめんなさい……」

「ああ、もういいって。めんどくせ」



 彼の名は、「サン
 スーたちと同じ異型妖魔である。
 異型妖魔とは思えないひ弱な性格で、口癖は「ごめんなさい」、いつも両手にはボロボロの人形を抱えており、彼にとっては精神安定剤のようなものだ。



サン。今の、鬼の話はどういうことですか」



 突然現れたサンに、ウーが今の話を詳しく尋ね返すと……





「「つまり、鬼の王はただの妖魔じゃないってこと~」」

「ひぃっ……!」





 突如、立ち尽くすサンの後ろから、2人の子どもがひょこっと顔を出した。
 いきなり現れた子どもたちに、サンはビクッと肩を跳ね上がらせる。



「い、いいいいきなり出てこないでよぉ!びっくりするじゃん!」

「きゃはは!サンったら、また怖がってるネ!」

「君、一応強いんだからさぁ?もっとちゃんとしなヨ」

「む、むむむ無理です」



 現れた子どもは、1人は男の子、もう1人は女の子。
 見た目は15歳くらいの子どもで、年相応にキャッキャと騒いでいる。
 そして2人の頬には、黒蝶の模様と「弐」の文字。
 彼らも子どもではあるものの、正真正銘の異型妖魔だ。

 だが彼らは2人で「弐」のため、特別にそれぞれ別の呼び名がある。
 由来は彼らの力の源であるもの。
 男の子の方は、「レイ
 女の子の方は、「フォン



「なんだよ、テメェらも起きてたんか」

「ちょっとスー?アタシたちにタメ口なんていい度胸ネ!?」

「そうだそうだ!実力なら、僕たちのほうが上だヨ!」

「あぁ、だる。これだから餓鬼は嫌いだわ」



 生意気な態度をとってくるレイフォンに、スーは静かに苛立ちを募らせた。
 だが彼らの言い分に否定しないのは、間違ったことは言っていないから。
 もしここで本気で戦えば、負けるのはスーの方だ。
 だからスーも、思うように手が出せない。
 故に、ただ苛立ちだけが募っていく。



「あの、話を戻しても?」



 つい脱線してしまった話を、ウーは無理やり戻した。
 その場にいる全員を見ると、ウーは改まって話し出す。



「鬼の王が、ただの妖魔ではないとは?彼が只者ではないことは、百も承知のことですけど」



 ウーは気になって仕方がなかったことを尋ねると、レイフォンは見つめ合い、そしてふふっと可愛らしい笑みを浮かべた。
 先に口を開いたのは、フォンだ。



「違う違う!ただの妖魔じゃないっていうのは、鬼の王の存在そのものが、妖魔だけじゃないってこと!」

「つまりね?
 鬼の王は、根っからの妖魔じゃないんだヨ」

「っ!?ど、どういうことですかっ……?」

「んー、詳しくは知らないんだけどネ?主様が、そう言っていたのー!」

「ただ分かっているのは、鬼の王は正真正銘の妖魔じゃない。存在自体に、秘密があるって事だヨ!」



 同じように話を聞いていたスーは、片眉を上げた。
 今の2人の言い分は、少し理解が追いつかない。
 固まったウーの代わりに、今度はスーが2人に尋ね返した。



「おい待てよ、そりゃどういうことだ?
 妖魔ってのは、原因不明の自然発生生物だろ?鬼の王だって他の妖魔と同じように、突然この世に誕生したって話じゃねえか。生まれ方は変わらねぇのに、何で鬼の王は正真正銘の妖魔じゃねぇんだよ」



 スーが尋ねると、今度はレイが口を開いた。



「あれ?もしかして、気づいていないの?鬼の王から感じる、異質の気配ってのに」

「あ?異質?何だよ」



 スーが首を傾げると、レイは目を細め、そしてニヤリと口角を上げた。
 子どもながらに不気味なその笑みは、何を考えているのか分かりづらい。
 スーもゴクリと唾を飲み込むと、レイはとんでもないことを口にする。





「ほんのわずかなんだけどね……。
 鬼の王の妖力の中に、仙人が持つと言われるが混ざってるんだヨ」

「「「「っ……!?」」」」
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