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第115話
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「黒い蝶に奪われた幸せを、全て取り戻す。
それが願いであり、私の使命です」
「……なに?」
司雀の言葉に、魁蓮は片眉を上げる。
あまり聞いた事のなかった司雀の本音は、かなり大きな内容だったが、その中でも気になる言葉が入っていた。
(黒い蝶……だと?)
何度も聞いたことのある言葉だった。
それは以前、日向の力を試そうとした際、夜遅くに彼の部屋へ訪問した時、日向が言っていた内容だ。
【それで、お前はここで何をしている】
【そうだった!さっき、不思議な蝶がいたんだよ】
【蝶?】
【そう。なんかめっちゃ綺麗な黒い蝶でさ、キラキラしてたんだ。淡く光ってた!そんで、僕の周りをヒラヒラヒラ~って回ってきた。
何だろーって思って見てたらさ、その蝶が僕の部屋の扉をすり抜けたの!】
【…………………………】
【ただの蝶じゃない!って思って廊下に出てきたんだけど、見当たらなくてさ……
ずーっと探してんだけど、いないんだよ。あ、お前見てない?キラキラした黒い蝶。ちょっと大きめ】
あの時は、真に受けていなかった。
虫なんて入ってくることはあるだろうし、発言からして寝ぼけているのだと、そう思っていた。
まして光っているなど、普通じゃ有り得ない。
だがよく考えてみれば、この世は普通のことなんて無いに等しい世の中だ。
ふざけ無し、寝ぼけてもいない、確信がある。
あの時の日向の言葉を振り返れば、あれが嘘では無いことが伺えた。
何より、司雀が同じ言葉を言っているのだ。
信憑性は、グッと上がる。
しかし……。
(……これは、厄介なことになっているな……)
日向の言っている黒い蝶と、司雀が言っている黒い蝶が、もし同じものだとしたら……。
日向が見たという黒蝶は、良いものではないということになる。
理由は、司雀が同じことを言ったからだ。
司雀の言葉の重要性、これは魁蓮が1番分かっていることであり、1番信頼することの出来るもの。
しかし、まだ良いものではないと確信はしていない。
魁蓮は、その黒蝶が良いものか悪いものか、最終的に確かめる必要がある。
だから試しに、魁蓮は司雀に質問をぶつけた。
「司雀、黒い蝶とは何だ」
「えっ」
疑問が生じた魁蓮に対し、司雀は目を見開いて驚いている。
本音を話したとはいえ、まさか尋ねられるとは思っていなかったようだ。
戸惑いながらも、司雀は申し訳なさそうに目を伏せる。
「……申し訳ございません。そのことについては、まだ詳しくお伝えすることが……」
「……………………」
司雀は、詳細を明かさなかった。
この反応で、魁蓮は理解する。
(ああ、これは……確定だな)
今までの司雀の行動から、魁蓮は確信に繋がった。
司雀が誰にも言わず、ただ1人で調べたり、気にしていることがある場合。
それは、悪いものということを通り越して、危険なものということになるのだ。
司雀は常に慎重な男だ。
調べものに関しては、確信がつくまでしっかりと調べる癖がある。
そして、調べていることについての詳細を掴んだ時、やっと魁蓮に話を持ちかけてくるのだ。
つまり、今何も教えてくれないということは……
まだ、黒蝶について確信のある詳細が掴めていない、ということになる。
謎が多いのか、手を出すことが難しいのか。
理由は分からないが、詳細が掴めない期間が長ければ長いほど、その調べている事案に危険度が増していくのだ。
だから、まだ魁蓮に話してくれない状況は極めて好ましくない。
「ですが、これだけは言えます」
ふと、考えを巡らせる魁蓮に、司雀は口を開いた。
先程と同じ真剣な眼差しだが、その表情は決して明るいものではなく、どこか青ざめたような表情だった。
珍しい顔をするものだと思いながら、魁蓮は司雀の言葉に耳を傾ける。
「魁蓮……できれば警戒して頂きたいです。
彼は決して弱くは無い。それどころか、この黄泉ですら滅ぼすことができる力を持った、残酷な存在であることは確かです。
もっと言えば、貴方と互角の強さを持っている可能性だってある……」
「……………………」
「貴方のことは信じています。ですが、今の生活と状況を守るために、どうかっ。
せめてもの警戒だけはっ…………」
(司雀が我に警告するのは、初めてだな。
話から推測するに、恐らく黒蝶は人間か妖魔……)
どうやら、魁蓮の予想以上に、状況は面倒なことになっているようだ。
そして、何より面倒なのは、
日向が魁蓮の知らないところで、その黒蝶に触れたことがあるということ。
異型妖魔から始まった、今の時代の数多の謎。
その1部に、日向が足を踏み入れている。
最近感じた、日向の周りにある誰かの気配。
それも何か関係しているのだろうか。
「黒蝶……か……」
この世に復活してから、誰かが潜んでいるのは分かっていた。
こちらを狙っている、殺意に似たような感覚。
でも、それが何なのかは分からないままだったが、少しずつ、敵の存在が現れ始めた。
相手は確実に、こちらに何かを仕掛けてきている。
黄泉を、魁蓮を、日向を、狙っている。
何かが、悪い方向へと変わり始めている……。
(争いが、起きるやもしれん。
本格的に動くべきか……………………)
全てが、誰かの手中にあるような気がした……。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「……何だ?」
その頃。
結界の外で龍牙と共に待機していた日向は、ふと感じた違和感に、片眉を上げていた。
ピリッと、緊張感が走るような空気の変化。
それは会場内ではなく、どこか別の場所から。
そんな中、日向を抱えていた龍牙は、ポカンとした顔で日向を見つめていた。
「何か、変な気配というか……」
「え、日向。何か感じるの?俺、何も感じないよ?」
「え?」
龍牙の言葉に、日向は目を見開く。
ハッキリ、とまではいかないが、なにか感じる。
そんな呆然とした答えしか出せないが、違和感は確かにあったのだ。
言葉では言い表しにくい、もどかしい状況。
だがそれらは、どうやら日向だけが感じていることらしく、龍牙にはさっぱりだった。
(確かに、何かを感じるんだけど……)
日向は、会場の扉へと視線を移した。
違和感の源は、あの扉の向こう、強いては外だ。
空気が漂う、というものでは無いが。
何も無いと言いきれない程には、日向の感覚はかなり研ぎ澄まされていて。
だが、力が強いはずの龍牙が、何も感じていない。
では、今感じるこの違和感は、一体何なのか。
緊張感?いや違う。
もっと強い、何か。
その時。
バリンッ!!!!!!!!!!!
「「っ!!!」」
大きな割れる音と同時に、司雀が張った結界が崩壊した。
直後、会場内に充満する魁蓮の妖力。
その量と重みは、普段使うには強すぎるものだ。
恐らく、魁蓮が膨大な妖力を使って、結界を叩き割ったのだろう。
結界の中は、それほど退屈だったのか。
なんて、いつもならそんな冗談交じりの考えが浮かぶのだが。
どうやら、そういう状況では無いらしい。
「魁蓮?」
結界から出てきた魁蓮は、酷く険しい顔をしていた。
いつも穏やかな表情をしている訳では無いが、今日は特に、何かを思い詰めているような雰囲気だ。
と、他人事でいれたのはここまで。
「……えっ?」
結界から出てきた魁蓮は、何も言葉を発することなく、日向の元へとやってきた。
そして、特に何も言うことなく、日向の腕を掴む。
「来い」
「えっ?な、何でっ」
ブワッ!!
日向が尋ねようとした瞬間、魁蓮は妖力を強め、そしてそのまま勝手に日向を連れて、瞬間移動してしまった。
移動先は、城にある日向の部屋。
まだ肆魔と夏市を回っていないというのに、どうして帰ってきたのか。
「お、おい!魁れっ、おわっ!」
日向が理由を尋ねようと声をかけた瞬間、魁蓮は日向を寝台へと乱暴に放り投げた。
まだ床じゃないだけ良かったが、それにしても自分勝手すぎる。
肆魔に何も言わずに帰ってきてしまった、酒場での騒ぎだって収めていないのに。
そもそも、騒ぎの元凶である彼が、なぜ何もせずにここへ移動してきたのか。
「ふっざけんなお前!いきなり何すんだよ!」
「黙れ。
小僧、我の問いに答えよ」
「はっ!?」
なんて身勝手な男だ。
とはいえ、わざわざ城に戻ってきたほどだ。
よほどの内容でなければ、身勝手だと怒ってしまいそうだ。
と思っていたのだが、魁蓮は予想の斜め上の質問をぶつけてきた。
「以前話していた黒蝶、分かること全て言え」
「……えっ?」
それが願いであり、私の使命です」
「……なに?」
司雀の言葉に、魁蓮は片眉を上げる。
あまり聞いた事のなかった司雀の本音は、かなり大きな内容だったが、その中でも気になる言葉が入っていた。
(黒い蝶……だと?)
何度も聞いたことのある言葉だった。
それは以前、日向の力を試そうとした際、夜遅くに彼の部屋へ訪問した時、日向が言っていた内容だ。
【それで、お前はここで何をしている】
【そうだった!さっき、不思議な蝶がいたんだよ】
【蝶?】
【そう。なんかめっちゃ綺麗な黒い蝶でさ、キラキラしてたんだ。淡く光ってた!そんで、僕の周りをヒラヒラヒラ~って回ってきた。
何だろーって思って見てたらさ、その蝶が僕の部屋の扉をすり抜けたの!】
【…………………………】
【ただの蝶じゃない!って思って廊下に出てきたんだけど、見当たらなくてさ……
ずーっと探してんだけど、いないんだよ。あ、お前見てない?キラキラした黒い蝶。ちょっと大きめ】
あの時は、真に受けていなかった。
虫なんて入ってくることはあるだろうし、発言からして寝ぼけているのだと、そう思っていた。
まして光っているなど、普通じゃ有り得ない。
だがよく考えてみれば、この世は普通のことなんて無いに等しい世の中だ。
ふざけ無し、寝ぼけてもいない、確信がある。
あの時の日向の言葉を振り返れば、あれが嘘では無いことが伺えた。
何より、司雀が同じ言葉を言っているのだ。
信憑性は、グッと上がる。
しかし……。
(……これは、厄介なことになっているな……)
日向の言っている黒い蝶と、司雀が言っている黒い蝶が、もし同じものだとしたら……。
日向が見たという黒蝶は、良いものではないということになる。
理由は、司雀が同じことを言ったからだ。
司雀の言葉の重要性、これは魁蓮が1番分かっていることであり、1番信頼することの出来るもの。
しかし、まだ良いものではないと確信はしていない。
魁蓮は、その黒蝶が良いものか悪いものか、最終的に確かめる必要がある。
だから試しに、魁蓮は司雀に質問をぶつけた。
「司雀、黒い蝶とは何だ」
「えっ」
疑問が生じた魁蓮に対し、司雀は目を見開いて驚いている。
本音を話したとはいえ、まさか尋ねられるとは思っていなかったようだ。
戸惑いながらも、司雀は申し訳なさそうに目を伏せる。
「……申し訳ございません。そのことについては、まだ詳しくお伝えすることが……」
「……………………」
司雀は、詳細を明かさなかった。
この反応で、魁蓮は理解する。
(ああ、これは……確定だな)
今までの司雀の行動から、魁蓮は確信に繋がった。
司雀が誰にも言わず、ただ1人で調べたり、気にしていることがある場合。
それは、悪いものということを通り越して、危険なものということになるのだ。
司雀は常に慎重な男だ。
調べものに関しては、確信がつくまでしっかりと調べる癖がある。
そして、調べていることについての詳細を掴んだ時、やっと魁蓮に話を持ちかけてくるのだ。
つまり、今何も教えてくれないということは……
まだ、黒蝶について確信のある詳細が掴めていない、ということになる。
謎が多いのか、手を出すことが難しいのか。
理由は分からないが、詳細が掴めない期間が長ければ長いほど、その調べている事案に危険度が増していくのだ。
だから、まだ魁蓮に話してくれない状況は極めて好ましくない。
「ですが、これだけは言えます」
ふと、考えを巡らせる魁蓮に、司雀は口を開いた。
先程と同じ真剣な眼差しだが、その表情は決して明るいものではなく、どこか青ざめたような表情だった。
珍しい顔をするものだと思いながら、魁蓮は司雀の言葉に耳を傾ける。
「魁蓮……できれば警戒して頂きたいです。
彼は決して弱くは無い。それどころか、この黄泉ですら滅ぼすことができる力を持った、残酷な存在であることは確かです。
もっと言えば、貴方と互角の強さを持っている可能性だってある……」
「……………………」
「貴方のことは信じています。ですが、今の生活と状況を守るために、どうかっ。
せめてもの警戒だけはっ…………」
(司雀が我に警告するのは、初めてだな。
話から推測するに、恐らく黒蝶は人間か妖魔……)
どうやら、魁蓮の予想以上に、状況は面倒なことになっているようだ。
そして、何より面倒なのは、
日向が魁蓮の知らないところで、その黒蝶に触れたことがあるということ。
異型妖魔から始まった、今の時代の数多の謎。
その1部に、日向が足を踏み入れている。
最近感じた、日向の周りにある誰かの気配。
それも何か関係しているのだろうか。
「黒蝶……か……」
この世に復活してから、誰かが潜んでいるのは分かっていた。
こちらを狙っている、殺意に似たような感覚。
でも、それが何なのかは分からないままだったが、少しずつ、敵の存在が現れ始めた。
相手は確実に、こちらに何かを仕掛けてきている。
黄泉を、魁蓮を、日向を、狙っている。
何かが、悪い方向へと変わり始めている……。
(争いが、起きるやもしれん。
本格的に動くべきか……………………)
全てが、誰かの手中にあるような気がした……。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「……何だ?」
その頃。
結界の外で龍牙と共に待機していた日向は、ふと感じた違和感に、片眉を上げていた。
ピリッと、緊張感が走るような空気の変化。
それは会場内ではなく、どこか別の場所から。
そんな中、日向を抱えていた龍牙は、ポカンとした顔で日向を見つめていた。
「何か、変な気配というか……」
「え、日向。何か感じるの?俺、何も感じないよ?」
「え?」
龍牙の言葉に、日向は目を見開く。
ハッキリ、とまではいかないが、なにか感じる。
そんな呆然とした答えしか出せないが、違和感は確かにあったのだ。
言葉では言い表しにくい、もどかしい状況。
だがそれらは、どうやら日向だけが感じていることらしく、龍牙にはさっぱりだった。
(確かに、何かを感じるんだけど……)
日向は、会場の扉へと視線を移した。
違和感の源は、あの扉の向こう、強いては外だ。
空気が漂う、というものでは無いが。
何も無いと言いきれない程には、日向の感覚はかなり研ぎ澄まされていて。
だが、力が強いはずの龍牙が、何も感じていない。
では、今感じるこの違和感は、一体何なのか。
緊張感?いや違う。
もっと強い、何か。
その時。
バリンッ!!!!!!!!!!!
「「っ!!!」」
大きな割れる音と同時に、司雀が張った結界が崩壊した。
直後、会場内に充満する魁蓮の妖力。
その量と重みは、普段使うには強すぎるものだ。
恐らく、魁蓮が膨大な妖力を使って、結界を叩き割ったのだろう。
結界の中は、それほど退屈だったのか。
なんて、いつもならそんな冗談交じりの考えが浮かぶのだが。
どうやら、そういう状況では無いらしい。
「魁蓮?」
結界から出てきた魁蓮は、酷く険しい顔をしていた。
いつも穏やかな表情をしている訳では無いが、今日は特に、何かを思い詰めているような雰囲気だ。
と、他人事でいれたのはここまで。
「……えっ?」
結界から出てきた魁蓮は、何も言葉を発することなく、日向の元へとやってきた。
そして、特に何も言うことなく、日向の腕を掴む。
「来い」
「えっ?な、何でっ」
ブワッ!!
日向が尋ねようとした瞬間、魁蓮は妖力を強め、そしてそのまま勝手に日向を連れて、瞬間移動してしまった。
移動先は、城にある日向の部屋。
まだ肆魔と夏市を回っていないというのに、どうして帰ってきたのか。
「お、おい!魁れっ、おわっ!」
日向が理由を尋ねようと声をかけた瞬間、魁蓮は日向を寝台へと乱暴に放り投げた。
まだ床じゃないだけ良かったが、それにしても自分勝手すぎる。
肆魔に何も言わずに帰ってきてしまった、酒場での騒ぎだって収めていないのに。
そもそも、騒ぎの元凶である彼が、なぜ何もせずにここへ移動してきたのか。
「ふっざけんなお前!いきなり何すんだよ!」
「黙れ。
小僧、我の問いに答えよ」
「はっ!?」
なんて身勝手な男だ。
とはいえ、わざわざ城に戻ってきたほどだ。
よほどの内容でなければ、身勝手だと怒ってしまいそうだ。
と思っていたのだが、魁蓮は予想の斜め上の質問をぶつけてきた。
「以前話していた黒蝶、分かること全て言え」
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