愛恋の呪縛

サラ

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第51話

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「手始めに、下劣よ。
 これはなんだ?」



 男の返事を待たずに、魁蓮は男への尋問を始めた。
 魁蓮は背後にいた異型妖魔を指す。
 男が異型妖魔に気づくと、目を見開いた。



「そ、それはっ!俺が持ってきたっ」

「余計なことはいい。早く言え」

「っ!……に、人形だ。意志を持った人形……」

「人形?」



 直後、魁蓮は瞳に光を宿す。
 赤く禍々しい光を帯びた瞳は、しっかりと男を捉えていた。
 要がそれに気づくと、男に気づかれないように、そっと部屋に結界を張る。
 これで、この部屋で起きていることは外には漏れない。
 完全に、牢獄状態となった。



「お、俺も詳しいことは分かんねぇよ!
 でも、その異型妖魔は、与えられた任務を遂行するために動く人形だって聞いたことがあるっ……」

「任務?」

「そ、その異型妖魔は2種類いるんだ。
 ひとつめ、強者に反応する異型妖魔。
 ふたつめ、人間を襲うためだけの異型妖魔」

「………………」



 (ならば、龍牙と戦ったのは前者の可能性があるな……)



「下劣、これをどこで手に入れた?」

「に、人間の村を襲っていたところを、俺が縛った。
 異型妖魔のことは、風の噂で何となく耳にしていたから、ただの興味だったんだ……!」



 はずれだ。
 男はたまたま見つけただけで、この異型妖魔の何かに触れているわけではない。
 でもこれで、確信したこともある。

 この異型妖魔は、任務を遂行する人形。
 となれば、人工的に作られているという魁蓮の仮定は、あながち間違いでは無いかもしれない。



「貴様はこの異型妖魔をと言っていたが、貴様の力では敵わん相手だろう。何をした」

「い、いやっ……俺がソイツを見つけた時は、既に力尽きてたんだよ。人間の村を襲った後だったから、任務を果たしたのかなって……」

「…………………………」



 仮に人間を襲う異型妖魔なのだとしたら、その達成条件は比較的軽いのだろうか。
 例えば、1つの村を襲えば完了、のような。
 だがそれでは、人間を襲うという意味では、埒が明かない。
 何百年もかかってしまうだろう。
 それが……一体だけに課せられた任務ならば……。



「あ、そういやっ……」



 その時、ふと男が何かを思い出したように口を開く。
 魁蓮が視線を向けると、男は眉間に皺を寄せて話しだした。



「数日前、俺の喧嘩相手の妖魔が、に声をかけられたんだ」

「ほう……それで?」

「なんか楽しそうに話してて、そしたら一緒にどこかへ行っちまった。
 そういえば、それ以来見てないな……」

「会話の内容は」

「それはあんまり聞こえなかったけど……一つだけ、俺にも言ってきたことがあるんだ。
【愛しき主のために、力を貸してほしい。その代わり、貴方たちの願いを何でも叶えます】って」



 実に、奇妙な話だ。
 力を貸してもらう代わりに、願いを何でも叶える。
 怪しすぎることこの上ない。
 だが、その人物が言った言葉に魁蓮は注目した。



 (主……異型妖魔も言っていた……)



 確定だ。
 異型妖魔は人工的に作られた人形。
 任務遂行のためだけに動く存在で、その任務を与えているのは、恐らく皆が口にする「主」
 異型妖魔の種類は2つ。
 強者に反応する種と、人間を襲う種。
 最終目的は分からないままだが、異型妖魔が現れやすい場所は絞ることが出来る。



「はぁ……面倒なことになりそうだ」



 魁蓮がポツリと呟いていると、男がなにやら言いたげに魁蓮を見上げている。



「あ、あのぉ……か、帰ってもいいですか、ねぇ?」

「ん?あぁ、良いだろう」

「あ、ありがとうございっ」

「だが、貴様が還るのは……地だ」

「えっ?」

「分を弁えろ……〈マイ〉」



 その時、男の足元を漂っていた小さな影が、男の体より大きくなり、男はズルっと影の中に引きずりこまれた。
 すると、影からボンッと何かが飛び出してくる。
 要が首を傾げていると……
 飛び出してきたのは、妖魔の骨だった。



「話聞くだけって言ってたじゃないの~。
 もしかして食べちゃったの?」

「たわけ。マイにかかった者は、ミンの中で生き埋めになり、体が溶け骨と化す技だ。
 決して逃げられぬ、確実な死を意味する技だがなぁ」

「やだ怖い。生き埋めなんて御免だわっ」

「ならば、我の機嫌を損ねない行いをすることだな」

「任せなさい~?むしろ気持ちよくしてあげる♡」

「うざっ」

「ちょっと酷い~!!!!!」



 そう言いながら、要は男の骨を見つめる。
 完全に肉は溶けて、原型すら留めていない。
 その時、要はあることを思い出す。



「そういえば、魁蓮ちゃんっていくつ技を持ってるの?必殺技とか奥の手ってあるわけ?」

「……さぁな」

「あぁ、また誤魔化してる!秘密主義すぎるわよ!」

「喧しいぞ、要」



 魁蓮は適当に返事を返すと、背後にいる異型妖魔へと視線を向けた。
 未だ異型妖魔は、魁蓮に向かって唸っている。
 その時……



「貴様は用済みだ、去ね」



 直後、異型妖魔の足元に影が現れると、異型妖魔は内側からバンっと破裂した。
 無惨に飛び散り、修復なんてできるものでは無い。
 その様子を見ていた要は、困ったようにため息を吐く。



「良かったの?殺しちゃって」

「まともに言葉を話さぬ者など、必要ない」

「あらあら、厳しいわねぇ。
 ところで、今のも魁蓮ちゃんの技?なんて言うの?」

「……シャオ……」

「それは教えてくれるのねっ♡」

「いつまでも無視すると、お前は面倒だからな」

「やだぁ~、分かってんじゃないのよ!♡♡♡」

「チッ……
 まあ良い。引き続き頼むぞ。要」





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 その頃、別の場所では。



「えっ、ご馳走!」



 今日の夕餉のことを忌蛇に伝えるため、龍牙は忌蛇がいるクスノキの所に来ていた。
 龍牙からの伝達に、忌蛇は目を輝かせている。
 彼も、司雀のご飯が大好きだ。



「そ!だから、絶対遅れんなよ!
 遅れたら、飯無しだかんな!」

「うん!楽しみだね」



 忌蛇はニコッと笑った。
 鬼の面を被っているため、その表情が見えることは無いが、嬉しいという気持ちは龍牙に伝わっている。
 その時、忌蛇はあることが気になった。



「そういえば、あの子も居るの?人間の……」

「ん?日向のこと?もちろんいる。今は司雀の手伝いしてるぜ?」

「そっか、良かった」

「あぁ?良かっただぁ?」

「えっ」



 突然、龍牙は忌蛇の言葉に眉を顰める。
 何か悪いことでも言ったのかと忌蛇が慌てていると、龍牙はビシッと忌蛇を指さした。



「言っとくけどな!日向は俺が守るんだよ!手ぇ出してくんじゃねぇぞ!席も俺の隣ぃ!!!!」

「え、あ、あぁ……そういうこと……
 随分と、気に入ってるんだね」

「もちろん!日向は俺の事ちょー心配してくれたし!日向が危ない目に合わないように、俺が守る!そんで俺が怪我したら、治すのは日向!
 つまり!助け合いっこだ!いいだろー!」

「あははっ……」



 初めて黄泉に来た時から龍牙のことを知っている忌蛇は、龍牙の変わり様に内心驚いていた。
 同時に、熱心さが凄すぎて呆気に取られる。
 だが、当の本人は楽しそうだったため、特に指摘をする気にもならなかった。



「俺と日向は、ずーっと一緒!」

「でも、あの子って魁蓮様の……だよね?」

「いーや!相手が魁蓮だろうと、守るのは俺なの!魁蓮が日向のこと傷つけたら、俺が魁蓮ぶん殴る!」

「えぇ……それは、やめた方がいいんじゃ……」

「いいんだよ!お説教?ってやつ!司雀がいつも俺にしてくるやつを、俺が魁蓮にする!」



 (それをするには、相手が悪すぎると思うけど……)



「とにかく!今日の晩飯来いよな!遅刻すんなよ!」

「あ、うん。ありがとう」



 龍牙はそう言い放つと、颯爽と帰って行った。
 余程黄泉に戻りたいのか、はたまた日向に会いたいのか。
 理由は分からないが、忌蛇は元気よく走っていく龍牙の姿に、思わず小さく吹き出した。
 1人になると、風に揺れるクスノキを見上げる。



「皆でご飯……楽しみ」
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