愛恋の呪縛

サラ

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第35話

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「っだあああ!疲れたぁ!」

「ふざけるなバカ龍!やりすぎだ!」



 それからしばらく、日向たちはお披露目会を楽しんでいた。
 龍牙と虎珀のお披露目に何度も目を輝かせていた日向。
 そんな日向の姿に機嫌が良くなったのか、龍牙が調子に乗って力を強めてしまい、その被害で草むらがボロボロになっていた。
 力の使いすぎで体力が削れた龍牙は、ゴロンと横になり、日向はその隣でボロボロになった草むらを全快の力を使って蘇らせていた。



「だって、日向が喜んでくれるのが嬉しいんだもん!仕方ないでしょ~」

「ったく、調子に乗りやがって……」

「まあまあ虎珀、んな怒ってやんなって。建物とか壊さないだけ良かったんじゃない?」

「そうだそうだ~」

「お前は黙ってろバカ龍!」



 日向に治す力があったので事なきを得ているが、この状況が魁蓮にバレてしまったら、間違いなく怒りの雷が落ちる。
 あったかもしれない未来に、虎珀はガクッと項垂れていた。



「よし、これでおっけい!」



 ボロボロになった草むらを元に戻した日向は、両手を腰に当てる。
 日向の力は、怪我だけでなく植物にも効くのだ。
 ただ、栄養不足や毒に犯された植物は、治せるのかは不明。
 まだまだ可能性が広がりそうな力に、日向は期待を膨らませていた。

 その時、虎珀が何かを思い出したように立ち上がった。



「悪いが、俺はここまでだ」

「えっ、どうしたの?」

「昨日の騒動で、町の様子を見に行こうと思っている。一応、司雀様の結界があったから大丈夫だったが、結界外の被害は分からないからな」

「そっか。気をつけてね?」

「分かっている、じゃあ失礼する」



 虎珀はそう言うと、庭を抜け出し外へと出ていった。
 日向が遠ざかる虎珀の背中を見つめていると、龍牙は元気よく起き上がった。



「真面目だなぁ、ほんと」

「まあ、いい事じゃん。正義感が強くて」

「冗談通じない堅物で、俺はつまんねぇ」

「あははっ」



 虎珀の姿が見えなくなると、日向は龍牙と共に城の中へと入っていった。



















「夜飯何かな~?」

「え、もう?朝ごはん食べたばっかなのに」

「だって腹減ったんだもん!」

「あははっ、胃袋大きすぎ」



 散歩がてら、2人は城の中を歩いていた。
 その間も、龍牙は日向の歩幅に合わせて隣に並んでくれる。
 魁蓮に言われた通り、本当に日向を守ってくれているようだった。



「龍牙って、好物は何?」

「肉!あと、好物では無いけど人間も美味い!」

「お、おお……」



 やはり、龍牙は正真正銘の妖魔だった。
 自分も人間なんだけどなと思いながら、日向は反応に困る。
 いつか、勢い余って喰われてしまいそうだ。



「日向、人間食ったことある?」

「ナイデス」

「あはは!だよな!」



 (……えぇ、どういう質問だよこれ……)



 日向が龍牙の質問に青ざめていると……



「っ!」

「おわっ!」



 突然、龍牙が日向の手を掴み、グイッと自分の方に引き寄せた。
 そのまま龍牙の背中に移動すると、龍牙は日向を隠すように立つ。



「龍牙?急にどうしたん?」

「……なんだよ、忌蛇」

「えっ」



 龍牙の言葉に、日向はそっと顔を覗かせる。
 すると、目の前に廊下の塀に忍者のようにしゃがむ忌蛇の姿があった。
 忌蛇はただじっとしていて、言葉を発する訳でもない。
 日向が見つめていると、忌蛇は龍牙へと顔を上げる。



「……どういう風の吹き回し……龍牙さん」

「あ?」

「人間嫌いのあなたが、人間の彼を守るなんて……
 下手したら、槍でも降る勢いだけど……」

「簡単な話だわ。俺が日向を守りたい、それだけ。つーか魁蓮にも任せられてんだよ」

「……………………」



 すると、忌蛇は日向へと視線を移す。
 ただじっと見つめられ、何かを言うでもない。
 仮面のせいで、表情も見えなかった。
 日向はどうしていいか分からず、その場に立ち尽くすだけ。
 龍牙も警戒しているのか、ずっと日向を守ってくれている。
 しばらく沈黙が続くと、忌蛇がゆっくりと口を開いた。



「君は、僕たちとは違う」

「……えっ?」



 忌蛇の言葉に、日向は首を傾げた。
 どういう意味なのかと困惑していると、忌蛇はゆっくりと立ち上がり、日向たちの前へと降りてくる。
 龍牙はそっと後ずさり、更に日向を背中に隠した。
 忌蛇は衣についていた汚れを軽く払うと、小さくため息を吐く。



「人間は……すぐ死ぬんだ。僕らと違って」

「……………………」

「死に方も、死に場所も選べないと……後悔するよ」



 その言葉の意味は、一体なんだろうか。
 心配しているようにも聞こえるし、馬鹿にしているようにも聞こえる。
 深くは語らない忌蛇に、日向は困惑するばかり。
 だが、日向には答えがあった。



「どういう意味で言ってるか分からんけど……
 僕は現世に帰らない。帰ったら、みんな魁蓮に殺される。みんなを守るために、僕はここに居るんだ」



 どういう意味で言われようと、日向の意志が変わることは、もう無かった。
 なんで自分なんだ、と悔やんだこともある。
 それでも、魁蓮は今も人間を殺していない。
 呪縛をかける程なのだ、しっかりと約束を守ってくれている。
 ならば、むしろ帰る理由がないだろう。



「この際、僕の死に方なんてどうでもいい。死に場所はここだって覚悟してる。
 もう、僕にできることはこれしかないんだ」



 (それでも、簡単に死ぬつもりはないけどな)



 日向は、決意の眼差しでそう告げた。
 その姿に、龍牙は驚いている。
 覚悟を決めた日向の姿は、とても凛々しかった。
 対して忌蛇は、変わらず日向を見つめている。
 終始、何を考えているのかが読めない。
 日向が緊張して言葉を待っていると、忌蛇はため息を吐く。



「馬鹿だね、君」

「え゛」



 まさかの答えが返ってきて、日向は心に衝撃を食らう。
 忌蛇の言葉を聞いていた龍牙は、ガッと怒りの形相に変わった。
 しかし、忌蛇はそのまま言葉を続ける。



「君みたいな子は、分かってないんだ。
 自分がどれだけ、自分自身を苦しめているのかを」

「……?」

「真っ直ぐに生きる子ほど……本音や心を隠す……
 何も言わずに、1人でどこかへ行くんだ……」



 そう話す忌蛇の声は、か細かった。
 ゆっくりと目を伏せ、何かを思い出すように。
 日向はその姿に、言葉を失った。
 どうしてか、忌蛇の言葉には重みがある。
 なにか、きっかけとなった過去があるかのように。
 日向がじっと見つめていると、忌蛇は背中を向けて、再び廊下の塀へと飛び乗った。



「ねぇ、君」

「な、なに?」

「君は人間。妖魔と違って寿命が短い。だから……
 もっと、自分を大切にして。自分の命を軽いものにしないで。君は、生きる権利があるんだから」

「っ……」



 忌蛇はそう言うと、素早い動きで飛び出した。
 姿はすぐに見えなくなり、しんと静まり返る。
 龍牙はガシガシと後頭部をかき、片眉を上げていた。



「なんだよアイツ、意味わかんねぇな」



 だが、日向には伝わった。
 恐らく忌蛇は、日向を心配してくれている。
 状況を分かった上で、忠告してくれたのだ。
 日向は忌蛇の言葉に、胸が暖かくなる。
 まるで、人間のような忌蛇の気持ち。



 (でもっ……なんで……)



 なぜ、忌蛇はあんなことを言ってくれたのか。
 表情も見えず、本心も汲み取れない。
 未だに謎が多い忌蛇を、日向は気にしていた。
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