愛恋の呪縛

サラ

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第21話

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「あーあ、暇だなぁ」



 それから数年。
 龍牙は、仙人にも目をつけられる程の危険妖魔になっていた。
 毎日、会う妖魔と喧嘩や戦いをし、気まぐれで人間を殺しては、子どもを食べていた。
 今日も、戦いを挑んできた数体の妖魔を倒し、その亡骸の上に座ってボケっとしている。



「もっと強いやつ寄越せよなー」



 亡骸の上に横たわり、雲におおわれた空を見上げた。
 龍牙は、戦えば戦うほど強くなった。
 力の序列である妖魔たちも、その強さを恐れ、龍牙が住処とする場所には近寄らなくなった。
 結果、挑んでくる者も限られてくる。
 退屈しのぎができない日々に、龍牙は飽きていた。



「腹はいっぱいだし、周りに妖魔いねぇしよ……」



 そう話しても、話し相手はいない。
 住処の周りにある人間の村は、ほとんど壊滅させてしまった。
 もう、楽しめるようなものが無かったのだ。



「……つまんねぇの」



 望んでいた、今の姿。
 全ては馬鹿にしてきた全員への復讐。
 だがそれも終わり、することが無い。
 退屈……と、言うことが出来るならば、どれだけ楽か。



「……………………」



 龍牙は知らなかった。
 強くなれば、怖いものもない。
 いじめられることも無く、やりたい放題だと。
 確かに間違ってはいなかった。
 でも、考えもしなかった問題が生まれたのだ。

 それは、「強者ゆえの孤独」



「……こんな静かだったっけ……」



 妖魔は本来、感情があまりない。
 時として感情が芽生えたとしても、それがなんなのか理解できない。
 辞書を見ても、妖魔には先例がないから。 
 自分に何が起きているのか、知ることもなかった。



「……はぁ……1日が長ぇ……」



 そう呟いていたその時。





「随分と、呑気な奴がいたものだな」

「っ!」





 突然、龍牙の耳に聞こえた低い声。
 龍牙は反射で起き上がり、辺りを見渡す。
 すると、目の前に男が立っていた。



 (気づかなかった……誰だ……?)



 龍牙は、突然現れた男に驚いていた。
 今までならば、気配を直ぐに感じ取れる龍牙が、この男に関しては何も感じなかったのだ。
 声をかけられるまで気づかなかった。
 男は、赤い刺繍の黒い衣に、顔まで広がるのようなものがあった。
 鋭い目つきの奥に光る、禍々しい赤い瞳。
 一見、人間にも見えるその姿は、姿だった。



「魁蓮、恐らくこの方ですよ」



 すると、その男の後ろから、もう1人誰かが姿を現した。
 赤い衣を纏い、腰まである茶髪の男。
 その男の言葉に、龍牙は思わず声を出す。




「魁蓮?……ははっ、もしかしてテメェ……都の?」




 以前耳にした、都で起きた大事件。
 ある日誕生した妖魔が、国で1番大きな都と隣接していた町も纏めた全てを滅ぼし、数多の人間と仙人を殺したという残虐な事件だ。
 その当事者である妖魔の特徴と、目の前にいる男の姿が合致している。
 龍牙はニヤリと口角を上げ、立ち上がった。



「まさか会えるとは思わなかったぜ。
 丁度いい!いつか手合わせしたかったんだ!」

「……確かに、噂通りの荒くれ者だな……」

「俺を知っているのか?ははっ、そりゃ光栄だな」



 龍牙は亡骸から飛び降り、グッと拳を握る。
 その姿に、魁蓮と呼ばれた男は後ろにいた男に声をかけた。



「司雀、下がっていろ」

「はい」



 司雀と呼ばれた男は、ササッと後ろに下がった。
 下がったのを確認すると、魁蓮は龍牙へと向き直る。



「……来い」

「っ!」


 (はっ……舐めやがって……)



 龍牙はギリっと歯を食いしばると、素早い速度で魁蓮へと飛び出していった。
 その時。



「っ!?」



 ドッと、龍牙に重い圧がかかった。
 重い石を、高いところから落とされたような。
 突然のことに、龍牙の頭は一瞬困惑する。
 だが、鍛えられた脳は直ぐに対応した。
 走り出していた足がもつれそうになりながらも、龍牙は全身に妖力を流し、襲ってくる圧力に耐える。
 そして、速度は落ちるものの、続けて魁蓮へと走り出す。



「ほう……」



 意外だったのか、魁蓮はポツリと呟いた。
 そして、魁蓮の元へとたどり着いた時、龍牙は思い切り拳を魁蓮めがけてぶつける。



「おらあああ!!!」



 だが、魁蓮は体を少し傾けて拳を避けた。
 続けて龍牙は、もう片方の拳を向ける。
 しかし、それも難なく避けられてしまった。
 それならばと、龍牙は両手を地面につけ、グッと足を上げると身軽な動きで回し蹴りをする。
 休む暇のない、不意の攻撃。



「遅い」



 確実に魁蓮に目掛けた回し蹴りは、魁蓮の手によって簡単に遮られた。
 あまりにも早い魁蓮の動きに、龍牙は内心驚いている。
 それでも、負けじと食らいつく。
 体勢を整え直し、手に妖力を溜めると、魁蓮に向かって投げつけた。
 妖力は鋭い斬撃のようなものに姿を変え、魁蓮に向かいながら地面を切っていく。
 しかし……



「……はっ……?」



 龍牙の飛ばした斬撃は、魁蓮の目の前で消えてしまった。
 何が起きたのかが分からない。
 対して魁蓮は、退屈そうに龍牙を見つめている。
 龍牙は困惑していた。



「っ……くそっ……!」



 1度考えるのをやめ、龍牙は再び魁蓮へと飛び出した。
 魁蓮の実態を知るために、妖力を使うのはやめて肉弾戦へと変える。
 目で追うことすら難しいほどの速度で、龍牙は魁蓮に攻撃を仕掛ける。
 しかし、魁蓮は全て避けていく。
 どれだけ攻めても、1度も当たらない。
 それどころか……



「ぐっ!!!!」



 知らない間に、魁蓮は龍牙に攻撃を仕掛けていた。
 龍牙の攻撃はひとつも当たらないのに、魁蓮の攻撃は、しっかりと龍牙の体へと食い込む。
 1度でも当たればいい、そう思うのに叶わない。



「くそっ!!!!!!」



 龍牙は、ただただ攻め続けた。
 でも、状況はひとつも変わらない。
 気づけば、血が出ていた。
 このままではダメだ、そう感じた。



 (だったら……これはどうだ!!!!)



 龍牙は魁蓮への攻撃を辞めると、魁蓮から少し距離を離す。
 そして、全身に大量の妖力を流す。
 同時に、龍牙はスウッと息を吸い込み始めた。
 龍牙は息を思い切り吸い込むと、頬が大きく膨らむくらいまで溜め込む。
 そして……



 ブワッ!!!!!!!!



 龍牙は、溜め込んだ息に妖力を混ぜこみ、魁蓮目掛けて放つ。
 龍牙の吐いた息は、青い炎へと姿を変えた。
 高温と閃光の如く速い炎は、辺りの森を焼き払うほどの凄まじい攻撃だ。



「これは……凄まじいですね……」



 後ろから見守っていた司雀も、これには呆気に取られるほど。
 広範囲の炎だ、避けることはまず出来ない。
 初めて滅ぼした村にも放ったこの攻撃は、龍牙の必殺技と言っても過言では無い。
 龍牙の目の前は、完全に焼け野原だった。



「ははっ!さすがにこれは、無傷じゃねえだろ!」

「ああ……当たればな」

「っ……!」



 直後。



「'' ウオ ''」



 魁蓮が小さく呟くと、龍牙たちのいる地面が大きな黒い湖へと姿を変えた。
 飲み込まれそうな、邪悪な印象。
 そして、龍牙の足元に渦が現れ始めた。
 何が起きているか分からず、龍牙はその場から離れようとするが、何故か体が動かない。
 龍牙が困惑していると、だんだんと体から力が抜けていった。



「あっ……」



 遂には立っていることも出来ず、膝から崩れ落ちる。
 龍牙がその場に座り込むと、ゆっくりと足元にあった渦は姿を消した。
 幻覚なのか、現実なのか。
 その判断ができないほどに、目の前に広がる湖は美しく、そして禍々しく感じた。
 思考が上手く働かず、龍牙は手も足も出ない。
 そんな中、魁蓮はぴちゃぴちゃと水の音を出しながら龍牙の前へと移動し、じっと龍牙を見下した。



「終いか」
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