愛恋の呪縛

サラ

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第15話

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「ここは、我ら妖魔が住まう【黄泉】
 そしてこの場所は、王である魁蓮の城の中」



 椅子に座った司雀は、先程の紹介と同じように、優しく分かりやすく説明を始めてくれた。



「私、龍牙、虎珀、忌蛇。
 私たち4体は、「肆魔しま」と呼ばれる特別な妖魔で、魁蓮の傘下にあたる存在です」

「傘下?手下とか、召使いってこと?」

「いえ、召使いのように仕えている訳では無いのです。我々が一方的に魁蓮に従っているだけなので、魁蓮からすれば、特に何とも思ってないかと」



 司雀の話によれば、
 魁蓮は「鬼の王」と呼ばれているが、一国を治める王様とは意味は違く、この世に存在する妖魔の中で最恐と呼ばれることから、その通り名がついたのだと。
 つまり、今いる妖魔全てが魁蓮に従っている訳ではなく、あくまで1番恐れられている存在に過ぎないんだとか。
 少なくとも黄泉に住まう妖魔たちは、魁蓮に忠誠を誓っている者だけしか居ないという。



「妖魔は仲間意識がありません。全ては力の序列。だからこそ、最強であり最恐の魁蓮を、妖魔たちは日々倒そうと試みているのです。
 復活した3日前の夜は、妖魔たちの悲痛な叫びが絶えませんでしたから」

「なんか、血なまぐさい世界……」

「不幸なことに、それが当たり前なのです。
 元は同じ妖魔の部類、ある意味仲間割れと言いますか」



 司雀は、困ったように笑った。
 日向が今まで書物を読んできた知識と、瀧と凪がたまに話してくれる情報だと、今の司雀の話と辻褄が合う。
 人間からすれば、妖魔は恐ろしい存在なのだ。
 どこまで行っても並んで立つことは無く、拮抗し合う。



 (妖魔は……人を殺すことを厭わない……)



 残酷な存在だ。



「……ねぇ」

「……えっ?」



 日向がじっと考えていると、ふと囁くような声が聞こえてきた。
 日向が顔を上げるが、誰かがいる訳でもない。
 では、今の声は誰なのか。



「体……何ともないの……?」

「っ……」



 先程と同じ、小さな声。
 だが今回はわかった。
 その声が、ずっと黙り続けていた忌蛇きじゃの仮面の奥から聞こえていたことに。
 日向が驚いて忌蛇を見つめると、忌蛇はさらに蹲る。



「何ともないって……何が?」

「…………気づいてないの?」

「?」



 日向がポカンとしていると、司雀も顎に手を当てて、日向をじっと見つめている。
 そしてなにかに気づいたように、「おや」と声を上げた。
 日向はなんの事だか分からず、司雀と忌蛇の顔を見比べる。
 すると、忌蛇はゆっくりと日向を指さした。



「君……、かけられてる」

「じゅ、ばく?」



 聞きなれない言葉に、日向は首を傾げた。
 呪縛とはなんの事だろうか。
 何となくの予想は出来るものの、ハッキリとした理解はできない。
 そのままポカンとしていると、予想外の反応だったのか、「えっ」と忌蛇が驚いた声を上げた。



「妖魔、というか……の呪縛をかけられて何ともないって……案外タフなのかな……」

「え、待って。何。なんの事」

「んー……簡単に言うと、呪われてる」

「はぁ!?!?!?!?」



 日向は忌蛇の言葉に、大声を出した。
 驚いた拍子で後ずさってしまい、壁にガンっと頭を打付ける。
 ぶつけた痛みを手で抑えながら、日向は血の気がサーッと引いていく感じがした。



「呪われてるって何!?怖い!!僕死ぬの!?」

「お、落ち着いてください。ご心配なさらず」



 酷く慌てている日向に、司雀は優しい声で宥める。
 だが、大人しくできるわけもなかった。
 そもそも、黄泉に連れてこられた時点で死を覚悟しているというのに、加えて呪われていると言われた。
 冷静でいられる方が狂っている。



「呪われてるとはいえ、何もしなければ害はありません」

「どういうこと!?呪縛って何!?」

「呪縛は、呪いの一種です」

「いや怖いことに変わりねぇじゃん!!!!!」



 もう何が何だか分からなかった。
 次から次へと情報と現実が押し寄せてきて、日向の頭は限界を超えていた。
 すると司雀は、「あっ」と声を上げる。



「何か、魁蓮と約束などしましたか?」

「え?」

「例えば……交換条件のようなものを。互いの了承があってこその呪縛なので」

「そんなのっ…………あっ」



 否定しようとした日向の脳裏に蘇る、魁蓮との会話。



【ではこうしよう。
 貴様が我のものになり、我のそばにいる限り……
 我は人間を殺さんと約束しようではないか】



「…………………………」



 (え、もしかして……あれのことかぁぁぁ!?)



 確かに、交換条件と言えばそうだ。
 日向の全てを魁蓮に差し出す代わりに、魁蓮は人間を殺さない。
 そしてそれは、日向が魁蓮のものになっている間だけ。
 了承はした、だが日向にとっては友人と交わすような口約束程度の認識。
 その上で、条件を飲み込んだのだ。



「……しま、した……了承……」

「でしたら、恐らくそれでしょうね」

「……最悪っ……」



 日向は両手で顔を覆った。
 そもそも、逃げ出すつもりは無い。
 日向が現世に戻れば、間違いなく魁蓮は人間を皆殺しにする。
 それが分かっていたから、彼の元から離れる選択肢は無かった。
 だが、そんなの初めから許されてはいなかったようだ。
 逃げ場なんて、既に消されていたようなもの。
 完全に檻の中だ。



「私たちからは、呪縛がかかっている。という情報しか認識できません。どんな内容での呪縛を結んだのかは、当事者であるお2人しか知りませんので、ご安心ください」

「ソウデスカ……」

「普通、妖魔の呪縛は人間にとって毒になることもあるのですが……丈夫な体なのですね」

「その呪縛、強力な上に複雑だよ……君、不思議だね」

「褒め言葉として、受け取っておきます……」



 今更、安心なんてできるわけが無い。
 まず安心とはなんなのだ。
 そんなくだらない疑問が飛び交うも、日向は逃げられないのだと、改めて思い知らされた。
 ほとんど、死に場所は決まったようなものだ。
 そう考えてしまったら、むしろ腹を括った方がいい。



 (もう、後には引けない……)



 日向はパンっと両手で頬を叩く。
 自分で選んだ道、自分が招いたこと。
 責任も全て、背負う義務がある。
 ならば、怯えている暇などないはずだ。



「っしゃ!やってやる!」



 そう口に出して、気合を入れた。
 意気込んで言う日向を、司雀は優しい笑みで見つめていた。





「あ、ついでに言っておくと……
 呪縛とは別に、日向様には魁蓮の妖力が付与されて守られてますので。黄泉での生活に支障はありませんよ」

「え、どゆこと?」

「普通の人間が黄泉に入ってきたら、1秒もせずに塵と化してしまうんです。今の日向様には、魁蓮の妖力が備わっています。結界みたいなものでしょうか。
 なので黄泉にいる妖魔たちにも、人間とはバレません。手出しもされないかと」

「……妖力無くなると、死ぬ?」

「もちろんです。なので、ご安心ください」

「アッ…………ウッス」
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