愛恋の呪縛

サラ

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第10話

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「小僧……その力はなんだ……?」



 3人の背後から聞こえた低い声。
 その声に、全員の血の気が引いた。
 日向は、気づいてしまった。
 この力をむやみに使ってはいけないこと、誰もいない時に使うこと。
 その全てを無視して、力を使ってしまった。



「くっ!!!」



 最悪の事態を避けるため、瀧は剣を構えた。
 しかし。



「邪魔だ」



 魁蓮がクイっと軽く手を振ると、瀧と凪は先程とは違う鎖に縛られ、そのまま空中へと上げられた。



「瀧!!凪!!」



 突然のことに、日向は理解が追いつかない。
 気づけば、2人は無数の鎖に縛られて身動きが取れないまま、空中へと上げられている。
 2人は必死に抵抗しているが、さらに鎖が力を増し、その抵抗すら許さない。
 日向が立ち上がろうとすると



「答えよ、小僧」

「っ!!!」



 魁蓮が、それを塞ぐように見下してきた。
 日向は魁蓮に気づくと、目を見開く。



「お前っ……森の中にいたっ……」



 何故ここに。
 そんな疑問が頭を埋めつくすが、今この光景を見て理解できないわけが無い。
 恐らく2人を傷つけ町を壊し、大勢の人を殺したのはコイツだ、と。
 それを理解すると、日向は身動きが取れなくなった。
 目の前の男に逆らわずとも、今の日向は死と隣り合わせの状態。
 少しでも過ちを犯せば、殺される気がした。



「貴様、見たことの無い力を使うのだな。
 仙人の霊力、我ら妖魔の妖力。そのどちらにも該当しない。治癒……と言ったところか?」

「っ……」



 魁蓮は日向をじっと見つめながら、ボソボソと考えを述べる。
 日向はその間、何も話すことが出来なかった。
 ただ、怖かった。



「霊力とは違い、妖力には少量の治癒力はある。が、せいぜい微小な傷を治す程度だ。小僧のように、完治させるような力は無い。実に興味深い……」

「……………………」



 魁蓮はニヤリと笑みを浮かべた。
 何を考えているのか分からないが、日向にとっていいことでは無いのはすぐに分かった。
 この状況は、どうすれば打破できるのか。
 いくら考えても、逃げられる未来は見えない。
 絶望的だった。



「日向から離れろ!!!!!」

「っ!」



 動けなくなっていた日向の耳に入った、瀧の怒声。
 日向が顔を上げると、瀧は巻きついてくる鎖に抵抗しながら、胸の内に湧き上がる怒りを言葉に変えてぶつけていた。
 凪も怪我をしたまま抵抗し、なんとか抜け出そうと考える。



「お前の相手は俺たちだ!日向に手ぇ出すな!!!」

「日向ではなく、私たちに矛先を向けろ!!!!!」

「……瀧、凪……」



 彼らが、全力で守ろうとしてくれている。
 その事実だけでも、今の日向にとっては嬉しくてたまらなかった。
 だが、そんな感動的な瞬間でさえ、魁蓮にとってはどうでもいい。
 むしろ魁蓮からすれば、邪魔をしてこようとする瀧と凪は、苛立ちの元だ。



「口を慎め、下劣が」



 魁蓮が少し怒りを込めたように言うと、2人にまとわりついていた鎖が、ズルズルと大きくなり、同時に2人の体を締める力を強くした。
 凪が先程食らった重圧とは違う圧迫感。
 雑巾を力強く絞るような、そんな負荷が2人を襲う。



「「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」」



 激痛が、2人の体を駆け巡る。
 息をすることすら許されない、それほどまでの圧迫。
 どれだけ鍛えている仙人でも、この苦痛は悲惨なものだ。



「っ!お願い!やめてくれ!!!!!」



 2人の悲鳴に、日向は思わずそう叫ぶ。
 もう、殺されるかもしれない、なんて怯えている暇はない。
 このままでは、2人が殺されてしまう。
 どんな手を使ってでもいいから、助けたかった。

 2人を見上げていた魁蓮は、日向の叫びにクルッと横目で振り返る。
 目が合う恐怖を抱きながらも、日向は必死に訴える。



「何でもする!だからお願い!2人を苦しめないで!!!」

「言葉に責任をもったことはあるか小僧。「何でも」など、口先だけの戯言は受け取れん」

「嘘じゃない!その言葉の通りだよ!2人をこれ以上、痛い目に合わせないでくれ!
 その代わり、僕のことは殺してくれてもいいから!2人だけはっ……頼む!!!!!」



 後悔はしていない、と言ったら嘘になる。
 今自分が発した言葉は、感情のままに言った言葉。
 だから、本心かと聞かれるとそうでは無い。
 2人は助けたい、苦しみから解放してあげたい。
 でも、死ぬのは怖い。
 むせ返りそうなほどの恐怖を感じながら、日向はただ懇願し続けた。
 すると、魁蓮は日向に向き直る。



「言葉は選べよ、小僧。我を誰だと心得ている……」

「っ…………」



 2人とは違って、日向は霊力を持たない。
 だから、目の前の彼が妖魔なのか、ましてや誰なのかを判別することは出来ない。
 それでも、人間では無いことは確信していた。
 だとしても、人間では無かったとしても。
 日向の意思が変わることは無い。
 日向は静かに息を吸い込んで、そして吐き出す。
 少しでも緊張を和らげ、恐怖に歪んだ笑みを浮かべた。



「どうせ殺されるくらいなら……やられっぱなしなんてゴメンだね……お前が誰だろうと関係ねぇよ。
 最期くらいは、馬鹿みてぇに抗っていたいから……」

「っ………………」



 どうせ殺されるなら。
 どうせ助からないなら。
 ならばせめて、最後の最後までは抗いたい。
 怖気づくばかりではなかったという、証明がしたい。
 どんな酷い殺され方をされたとしても、怯えてばかりの最後では無かったのだと、少しは自信を持てるから。
 怖くて仕方がないけれど、日向は怖いだけじゃないと示すように、口角だけは下げなかった。
 すると、それを見ていた魁蓮は、ニヤッと笑みを浮かべる。
 そして……



「ククッ……フフッ……ハハハッ…………
 アッハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」



 大きく、そして不気味に高々と笑った。
 魁蓮の反応に、3人は目を見開いて驚く。
 狂気的な高笑いに、日向はゾッとする。
 魁蓮は一通り笑い終えると、笑みを浮かべながら、冷たい視線を日向に向ける。



「哀れだなぁ小僧……実に滑稽、実に愉快!!!!
 貴様の貧弱なその覚悟、まさに情けない!!!」

「っ……!!!!」

「己では何も出来ぬからと、我に助けを乞うことしか出来んとはっ……惨めなことこの上ないぞ……?

 だが…………」



 そこまで言うと、魁蓮はゆっくりと日向に近づいた。
 そして腰を曲げ、腰を抜かしている日向の顔に、自分の顔を近づける。



「その威勢と覚悟は、褒めてやろう……
 生半可な人間では、到底できない決断だ」

「っ…………」



 日向は、ただ見つめ返した。
 日向の綺麗な青い瞳に映るのは、血液のような真っ赤な瞳を宿す、狂気な存在。
 誰も抗えない、誰も勝てない。
 まさに頂点。
 恐怖を映し出す日向の瞳を見つめ、魁蓮は静かに笑う。
 直後。



「わっ!!!!!」



 魁蓮は、乱暴に日向の胸ぐらを掴んだ。
 あまりの強さに、日向は一瞬首が締まる。
 そして、胸ぐらを掴んだまま、魁蓮は日向を自分の方へと引き寄せた。
 ギラギラとおぞましく光る赤い瞳を輝かせながら、ニヤリと口角が上がったままの口から、言葉を吐いた。





「気に入った、小僧……我のものになれ」

「……えっ……」





 それは、死よりも恐ろしい……
 呪いの言葉だった。
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