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第四章 恋の身支度

112.偽聖女、勘違いする

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 孤児院に戻ると普段と同じ日常が――。

 戻るわけではなかった。

「あー、もうみなさん無理して歩き回らないでくださいよ!」

「夫と息子がすみません」

「私のところも――」

 必死に冒険者の凱旋を見に行ったことで、症状が再び出ていた。

 学園の生徒達はすぐに治ったのに、ここにいる人達だけ治りにくいのは食べた量の違いなんだろうか。

 その辺のことを明確にしておかないと、今後の治療にも大きく関わってきそうだ。

「マミ先生、何か手伝うことはありますか?」

 アルヴィンもこの状況をみて、手伝おうとしてくれている。

 ただ、今まで魔物と命懸けで戦って疲れている中で、彼らも休ませる必要があった。

「今は大丈夫ですよ。しっかり休んでください」

 そう伝えるとアルヴィンは悲しそうな顔をしていた。 

「やっぱり俺のせいですか?」

 ん?

 また、この人は勘違いをしているような気がする。

 さっきも"ずっと一緒にいる"と告白みたいなことをされた。

 あんなに大きな声で言われたら、聞こえないふりもできない。

 恥ずかしくて目を逸らそうとしたら、クロが助け舟を出してくれた。

「俺がマミ先生の隣にいなかったから、辛い思いをさせて――」

「アルヴィンさんちょっと待ってください!」

「はい」

 何を勘違いしているのかわからないが、話し合った方が良い気がした。

「アルヴィンさんはどうしてそう思ったんですか?」

「皆さんからマミ先生が学園の生徒達に嫌な思いをさせられたと……」

 私が主婦仲間の方へ振り向くと、みんな顔を背けている。

 ああ、また何かアルヴィンに吹き込んだのだろう。

 間違ったことは言ってないが、まさかすでに情報が伝わっているとは思わなかった。

「俺が勝手なことをしてすみません」

 さっきまで魔物と戦ってたかっこいいアルヴィンはどこに行ったのだろうか。

 誰もがアルヴィン達を見て憧れを抱いていただろうに、実物は感情をコントロールできない子どものようだ。

「アルヴィンさん、部屋を見てください」

 アルヴィンは周囲を見渡した。

「ここにはアルヴィンさんが助けた生徒達はいますか?」

「いません。それはマミ先生に酷いことを――」

「危ない目に遭ったのはクロが助けてくれたし、相手にも謝ってもらいましたよ?」

「えっ……」

「ちゃんと治療を終えて、みなさん帰っていきました。病気だったのが嘘みたいにピンピンして、少し面白かったですよ」

 ほぼバッカアの脅しでどうにかなった。

 アルヴィンは私を危ない目に遭わせたことを後悔しているのだろう。

「だからアルヴィンさんは気にしなくても大丈夫ですよ。むしろ、その場ですぐに判断して頂きありがとうございました」

 私の言葉を聞いてホッとしたのだろう。

 普段の無表情なアルヴィンに戻っていた。

 それにみんなが見ているこの場で、また何をやらかすかそっちの方でドキドキする。

「お好み焼きを作って持っていくので、今日はゆっくり休んでくださいね」

 強制的にアルヴィンの体の向きを変えて押す。

「そういえば、アルヴィンさんとレナードさんどちらが魔物を倒したの?」

「そうよね。たくさんの魔物を倒したのにご褒美がないのも可哀想になってくるわね」

 何も起きずに終わるはずだったのに、主婦達の援護射撃にアルヴィンはくるりと向きを変える。

「マミ先生、ご褒美をください」

 さっきまでしょんぼりして落ち込んでいたのに、無表情になった途端に真顔で私を見つめてくる。

 そんなに見つめられると、こっちまでドキドキしてしまう。

「マミさん、さっき言ったやつですよ」

「えっ!? あれをするんですか!」

 ご飯を作っている間に、騎士へのご褒美という名の報酬は何をすれば良いのか聞いていた。

 本当にあれをやらないといけないのだろうか。

「マミさん頑張って!」

「ママ先生頑張って!」

「しぇんしぇいがんばってえ?」

 なぜか応援コールが鳴り止まない。

 こんなところでやるとは、あの時思いもしなかっただろう。

「アルヴィンさん座ってください」

「はい」

 アルヴィンは言われた通りに片膝立ちになる。

 ゆっくりと近寄りアルヴィンの前に立つ。

「お疲れ様です」

 私はアルヴィンの額にキスをした。

「えっ……」

 離れるとアルヴィンは驚いた表情をしていた。

 目をぱちくりさせては、鳩が豆鉄砲を食らったような顔だ。

 ポッポと並んだらそっくりだろう。

「お好み焼き作ってきます!」

 私は恥ずかしさのあまり急いで部屋から出て台所に向かった。

 キスをすれば良いと言われていただけで、本当は手の甲にお礼のキスをすれば良かったのをこの時の私は知らなかった。

───────────────────
【あとがき】

第四章はここで終わりです!
少しだけ二人の関係が発展しましたが、今度は寒くなる冬に突入します。

聖愛が今後どう関わってくるのかお楽しみください。

書籍第一巻が発売中です!
ぜひ、よろしくお願いいたします(*´꒳`*)
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