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第三章 教育を始めました

閑話.聖女、文句が止まりません

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「本当にやってられないわ」
「毎日やってられないよ」

 ボソッと呟いたつもりが、声が重なって響いてしまう。

 咄嗟に横を見るとそこには小柄な女性が立っていた。

「あっ……」

 お互いの時間が止まる。

 むしろ私より向こうのほうが止まっているのだろう。

 私が誰なのか気づいてすぐに頭を下げてきた。

「聖愛様申し訳ありません」

 私は頭を下げられたいわけではない。

 それなのに学園の中では聖女だと知れ渡っているため、この扱いを受けてしまう。

 そして、一番の原因はあの男達だろう。

「別に気にしなくていいですよ。私も疲れて逃げ出してきたところなので」

 彼女は首を傾げて私を見ていた。

 私よりも小柄な彼女はオドオドしている。

 どこか2歳年下の妹に似ている気がした。

「不満を言えるところがないと疲れますよね」

 私の言葉に驚いていた。

 彼女も目の下にクマができて、すぐに疲れていると感じた。

 顔も少しやつれている気がする。

 ただ、その表情ひとつひとつが妹と似ていた。

 きっと彼女は妹と似ているようで、全く似ていないのだろう。

 妹は乙女ゲームが大好きで、よく深夜までゲームをして寝不足になっていた。

 私に勧めてくるから、この世界が乙女ゲームなどにある似た環境だと気づいてしまった。

「今から言うことはただの独り言なので気にしないでくださいね」

 私は思っている不満を呟きだした。

「この世界の男はバカばかりなの? 貴族も自分の地位ばかり気にして、その時間があるなら知識をつければいいのよ。女性がそこまで卑下される必要もないし、手の上で男を転がせられるような女にならないでどうするのよ」

 今まで溜まっていた愚痴がどんどん吐き出されていく。

 この学園に来た時も王子の婚約者に絡まれたし、呼び出されては嫌がらせを受けていた。

 別にそこに関しては気にしていなかったが、王子が気づいてから空気が変わった。

 乙女ゲームのようなことが現実に起こるとは誰も思わないのだろう。

 むしろ私はヒロインや主人公にもなるつもりもない。

 あんなにアホな男達の相手はこっちからお断りだ。

「主席の聖愛さんにも不満があるんですね」

「私は聖女って言われているけど聖女ではないわ! 普段ニコニコしているのも生活するためよ」

 結局私も周りの女性達と変わらないのは事実。

 そうしないとこの世界では生きていけない。

 まだ、この世界を知るまでは出ていけないのが正直なところだ。

「なんか安心しました。私は最近まで平民だったので……」

 どうやら平民だった彼女には、この貴族ばかりの学園では生活しにくいのだろう。

「よかったら私とお友達になりませんか? 普通に話せる人が欲しいんです」

「いいんですか? 私は勉強もできないですし、低ランククラスですよ」

 この学園では学力と魔法技術でクラス分けがされている。

 そんな私は学力、魔法共にトップクラスのためSランククラスに配属された。

 それも王子の婚約者は気に食わないのだろう。

 だって、日本の小中学生レベルでどうにかなる学力だし、魔法は化学を応用したら自由度が増した。

 むしろ私自身の力で嫌がらせを解決したかったのに、どんどん変な方向にいってしまった。

「勉強なら私が教えますよ。むしろ一緒に勉強するのも楽しいかもしれないですね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 どこか妹に似ている彼女が、私の中で癒しの時間になりそうだと思った。

「聖愛、どこにいるんだー!」

 遠くから私を呼んでいる声が聞こえてきた。

 正直めんどくさいがもう行かないといけないのだろう。

「じゃあ、呼んでいるのでまた会えたら話しましょう」

 別れの挨拶をして私は王子の元へ戻った。

 この世界で初めてできた友達の名前を聞くのを忘れていた。
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