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31.飼い主、僕はいらない子?

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 別の部屋に行くと、大きくふかふかな椅子にマービンと腰掛ける。

 隣にはケルベロスゥが座って一緒に話を聞こうとしている。

 いや、チラチラこっちを見ているのは僕と遊びたいのかな。

 僕はケルベロスゥの頭を撫でながら話を聞くことにした。

「君を呼んだのは昨日の事件について話を聞こうと思ってね」

「じけん?」

「ああ、紅蓮の冒険団がシュバルツとケルベロスゥを斬りつけたって」

 僕が馬小屋に行った時の話が聞きたいのかな?

「ぼくがついたときにはシュバルツがたおれていた」

 たしか僕が着いた時にはシュバルツは傷だらけで、ケルベロスゥが守っていたはず。

『あいつらがいきなり襲ってきたんだ!』
『僕らを捕まえるって言ってたけどね』
『私達が負けるはずないわ』

「そのときにおかねになるって」

「あいつらめ!」

 鎧を着たおじさんの顔は急に怖くなった。

 さっきまで優しいと思っていたのは嘘だったのか。

 ケルベロスゥも僕を守るために、さっと前に移動してきた。

「君達には申し訳ないことをした。実は昨日マービンから聞いた話で、冒険者ランクを下げることが決まった。ただ、あいつらに伝える前にまたやらかしたんだ」

「ぼうけんしゃらんく?」

「冒険者はランクに分けられていて、悪いことをしたやつはランクが下がる決まりになってるんだ」

「一般的に市民が魔物に襲われていたら守るのも冒険者の仕事でもあるからね。俺が襲われそうになって、逃げ出したあいつらはランクが下がる処罰になるんだ」

 あまり理解はできていないけど、昨日のやつらは悪いことをしたやつで、ビッグベアーから逃げ出したやつでもあるってことだ。

「きっと体の色が変わったから、シュバルツには気づいてはいなかったが、ケルベロスゥを捕まえるのに邪魔だったんだろうな」

 邪魔だから殺そうとしたの?

 なんでみんなは邪魔だからってそんなことをするの?

 だんだんと体が冷たくなり、中からドロドロとしたものが出てきそうな気がしてきた。

「ぼくもじゃまだからすてられたの?」

 僕の言葉にみんなの視線が集まった。

 隠れていたはずのおててさんとおででさんが出てきて、僕の頭を撫でてくる。

 そのおかげか少しだけドロドロした何かが、消えていくような気がした。

『俺がいるぞ!』
『僕がいるよ!』
『私がいるよ!』

 ケルベロスゥは僕の上に跨り、必死に顔をペロペロとしてくる。

 僕は家族に捨てられた。

 でも、ケルベロスゥやおててさん達に出会えたからまだよかった。

 一人だったら今頃ビッグベアーに食べられていたからね。

「話したくなかったらいいが、ココロはなぜそんなことを言うんだ?」

「パパがぼくをあくまだって」

「どこが悪魔なんだ?」

「くろいかみにくろいめ」

「それだけで捨てられたのか?」

 マービンの言葉に僕は頷く。

 僕は昔から黒い髪と黒い瞳のせいで悪魔と言われていたからね。

 悪魔は災いを呼ぶと言われている。

 僕が町にいた時はまだ悪いこと起きなかったけど、あのままいたら悪いことが起きたのかな?

「それにぼくだけスキルがちがうの」

「どいつとこいつも虫唾が走るな」

 鎧のおじさんはさっきよりも怒っていた。

 怒りすぎて顔が果実のように真っ赤になっている。

「そもそもスキルは先祖返りだってあるぐらいだ。見た目が家族と違うのもその影響だろ」

「俺もそう思う。むしろ暗い髪色は魔力をたくさん持っている証拠だ」

「どういうこと?」

 僕は首を傾げる。

「んー、単純にいえばココロに似た人が昔にいたってことだな。だから別にココロが生まれてダメだってことはないかな」

 マービンの言葉に僕の瞳からポタポタと涙が溢れ出てくる。

 僕は本当にいらない子じゃないのかな?

 生まれてきてよかったのかな?

 今までは家族だけが僕の味方だった。

 そんな家族からもいらないと言われて、ずっとどうしたら良いのかわからなかった。

『おい、ココロを泣かすなよ!』
『ココロ大丈夫だよ?』
『あんたのタマを食いちぎるわよ!』

 ケルベロスゥは僕を慰めようと、顔をスリスリしてきた。

 おててさん達もさっきより激しく頭を撫でてくれる。

 でも、そんなにやると髪の毛が鎧のおじさんみたいになっちゃうよ?

「俺は間違ったことを言っていないからな! そもそもいらなくなったからって森に置いていかなくても――」

「ぼくはおかねとこうかんでうられたの。そのとちゅうで――」

――バン!

 鎧のおじさんとマービンは勢いよく立ち上がると、僕のところにやってきた。

 あれ、僕まだ悪いことをしていないよ?

「君は何も悪くないからな!」

「悪いのは全部大人達だ。ココロはそのままでいいぞ」

 おじさんとマービンは優しく僕を抱きしめてくれた。

 少し汗の匂いがするけど、久しぶりに抱きしめてもらって優しい気持ちになった。

 捨てられたのは僕のせいじゃないんだね。

 生まれてきてもよかったんだね。

 僕はこれからも生きてて良いんだね。

 心の中にあったドロドロがどこかに消えていくような気がした。
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