桜色の女神 -S.A.K.U.R.A. Android records-

MAGI

文字の大きさ
18 / 27

第十七話 それぞれのアイデンティティ

しおりを挟む


 ジンの荒い、執拗な攻撃が続いていた。
 ボロキレのように振り回すか、不意に近づいてきたのには乱暴に殴りつける。
 その度にオトギリソウはオイルを吐く。
 一方的な甚振りを喰らう事は予想していなかったのか、オトギリソウは何も成す術なく、呆然と叩きつけられていた。
 しかし、余りにも長時間された事でオトギリソウの表情が変わり出していた。

「調子乗るなよおおおお!!!」

 叩きつけられた刹那、ジンの胸を光線が貫いた。
 どうやら目から放ったようであり、予備動作が全くなく、ジンは一瞬で貫かれた。だが、
「何かしたかテメェ、甘っちょろいわなあ、ワレ」

 ジンは全く意に介す事なく静かに威嚇した。
 凄まじい熱気も衰えず、禍々しい表情も弱まっていない。
 これにオトギリソウは少し怯んだ。

「ここまで無茶させるのも予想外だけどこれで終わらせてやるよ!!」

 地面に無様に食い込まれたオトギリソウは、両手の掌をジンに向け、それぞれの掌を発光させた。しかし、ジンがこれ以上何かする動作がない。

「ほ!今のでどこかイカれちゃって何にも出来なくなったみたいだねぇ!やっと終わらせられるよ!」

 オトギリソウの顔が、狂笑と憤怒がごちゃ混ぜになった不思議な表情で大いに歪む。掌の発光が両手を包み、ボウリング球サイズの光弾が発生した。

「壊れちまいな!」

 刹那、オトギリソウが放つが、瞬で光弾が弾かれた。光弾は遠くへ弾き飛ばされ、かなり離れた廃墟群の中へ突っ込み着弾、爆ぜた。

 光弾を弾いたのは、サクラだった。

「テメェ、後で遊んでやるってのに待てないのか?」

 オトギリソウは割って入って来たサクラに噛みつくが、サクラの表情を見てすぐに固まった。

 悲し気に顔を顰めていたが、怒気が孕んでいるのか、全身から空間の歪みのような揺らめきが見える。
 ジンとは別物の、触れてはいけない何かのようだった。

「争いなんて望んでない。静かに暮らしたいだけ」

 サクラは無防備にオトギリソウの前に立ち、静かに呟く。
 震えがなく、怖さとか悲しさ、と言うような声色ではなかった。

「戦闘用アンドロイドだから何?
 戦う為に造られた?
 そんなの関係ないよ。
 今生きているのはおそらくここにいる私達だけ。
 それでもまだしようって言うなら」

 サクラは触れもせず、オトギリソウの身体を浮かせて持ち上げ、自分とジンから離れた、ツバキの足元に放り投げた。
 ツバキは呆然としたまま静観していたが、オトギリソウが足元に投げつけられて我に返る。

「すぐに終わらせるよ?」

 オトギリソウとツバキの方に振り向き、サクラは冷徹に言い放った。

「ケケケケ!そう来なくっちゃなあ!
 どうにも今は不利なようだから今回は大人しく下がってやる。次で終わりだ」

 捨て台詞を吐き、オトギリソウは雑に立ち上がり、ボロボロになった身体を変に揺らしながら跳躍、飛び去って行った。

「アナタもまだ、こんな事するの?」

 残されたツバキに、サクラは問いかける。
 先程の冷徹な怒りの顔ではなく、今度は一層、悲哀を一色にした顔になった。

「・・・わかんないね」

 それだけ呟き、ツバキも跳躍して飛び去って行く。
 今までと違ったのは、少し悔いの念の雰囲気が出ていた事であろうか。
 それを察したのか、サクラは追わなかった。

「アイツぁ・・・、アイツぁ何処、行ったんや!!
 まだ終わって、ないやんけ!」

 ジンは途切れ途切れに吠えた。
 口調や顔つきが別物になり、悪魔染みたオーラはそのままながら、オトギリソウから受けたダメージが原因なのか一歩も動けずにいる。

「ジン・・・」

 サクラは意に介さず、立ち尽くす怒りのジンを両手で、そっと抱きしめた。サクラの頭がジンの頬を掠め、密着した事によりジンは固まった。

「な・・・、おま・・・」

 ジンは身体が動かせないまま、慌てた。
 ジンの凄まじい熱気が直接触れた事により、サクラの身体のところどころが熱されて蒸気を帯びている。

「落ち着いて。いつものジンに戻って。今のジン怖すぎるよ」

 抱きしめたまま頭を上げたサクラは、悲し気な貌でジンの貌を見つめた。

「戻って来てよ」

 すると、ジンの顔が元のアルビノに戻り、色素の薄い身体に戻った。
 同時に、力なく崩れ落ち、サクラはジンの身体を受け止めた。





「随分派手ニヤラレタモノダナ。さいぼーぐハココマデノ戦闘力ヲ持ッテイタカ」

 診療台のような修復装置に載せられたオトギリソウを見て、マスターは解析を行っていた。ツバキは補佐に回っている。

「頭部のメインプロセッサに異常は見られないよ。
 右前腕部半壊、左前腕部半壊、右脚部全損、左脚部ほぼ全壊。
 部品どころかパーツの交換修繕というレベルだよ」

 つらつらとツバキは破損個所を読み上げるが、どうにもぶっきらぼうな声になっている。

「我ガ出来ウル最上級ノ改造ヲ行ッテヤロウ。二日アレバこやつハ完全ニ復活スル」

 マスターはそう言ってすぐに、修繕に取り掛かった。
 それから無言になり、オトギリソウの修復に一極集中となり、ツバキに話しかけなくなった。ツバキは特に何も触れる事なく、修復室を出た。
 それからツバキは何も言葉を発する事なく、自分自身の自問自答をしていた。


 アタシは何をしたい?

 本当にDBA-03Aを破壊したいのか?

 いや、違う。破壊したいなら初めての接触で何も出来ないDBA-03Aを破壊していた筈。

 アザミの静止もわざわざ聞いた。

 アタシはただ、何かを壊してそれで終わりの存在?

 いや、違う。ホントはアイツらみたいな在り方、羨ましいんだ。

 いや、違う。アタシは戦闘用アンドロイドだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 いや、違う。ならDBA-03Aに対してのこの答えが出ない感覚、何だ?

 わからない・・・。

 わからないよ・・・!





 修繕されている最中、オトギリソウはバックグラウンド状態で考えていた。
 目は瞑ったまま、表情も変える事なく。

 あのサイボーグ野郎は次会ったら確実に壊す。

 DBA-01Eはどうでもいい。邪魔立てするなら壊すだけだ。

 だがDBA-03Aは何だ?

 戦う気になってくれたのなら、それは越した事はない。

 なってくれた?いや、こっちが攻撃しまくるんだから、そうなって当然だろ?

 でもその気になってくれた事にこっちは喜んでいる?

 これは何だ?プロセッサの回答でも追いつかない。

 この偉そうなデカブツに聞いても答えにならないだろう。

 これは何だ?一体なんだ・・・?

 この頭の中を巡るワードがとにかく駆け巡っている。

 どうしたものか。

 そうだな。

 次、DBA-03Aに会えばわかるのか?

 そうしかないだろうな。

 次に会うのが楽しみだな、くくくっ・・・




 クエルはジンの受けたダメージの解析を行った。
 オトギリソウから受けた怪光線の痕跡を見て、クエルは深刻に考えた。どうにもこのダメージを受けて、元の状態に戻ってから、ジンが起動しない。
 人間で言うところの昏睡状態とも言える。
 修復出来ても、次ジンが起動する保証がないのだ。

「ジン・・・、起きてよ!」

 サクラは先程からこの調子で、寝そべられたジンの身体にしがみ付いて泣いている。アザミはただ傍観しているが、やはりアザミもサクラに感化されたのであろう、表情だけは悲し気になっている。
 これを見て、クエルは自身の頭脳回路を巡らせた。


 サイボーグ・ジンの損傷率は20%ながら、胸部に受けた光線の銃創が致命的損傷となり、このままでは最早修復の見込みはない。

 このままサイボーグ・ジンがいなくなったらどうなるのか?

 間違いなく、サクラは助けて欲しいと言ってくるだろう。

 そして悲しむだろう。

 悲しむ?悲しむって何だ?

 サクラと共に行動してから、サクラが余りにも人間的過ぎたので、感情の解析の役には立った。

 しかしこんな状態のサクラは初めてだ。

 俺のすべき選択は何だ?

 サクラを・・・、喜ばせる?

 助けるだけでよかったのではないのか?

 いや、それも十分に助ける、に該当するだろう。

 そうなると俺の取るべき手段はこれだ。

 ジンが助かるのは確実だ。

 だがサクラは反対するだろう。

 どう言ったらサクラは納得する?

 そうだ、そのまま伝えれば良い。俺はその為に造られたのだ。

 本来の目的よりは逸れているだろうが、俺は自分が造られた意味を、今自分で解答を見出した。





 しばらくして、クエルはサクラに問い掛けた。

「ジンを確実に、この場で助けられる方法がある」

 クエルが言い、サクラは無言で顔を上げる。
 アザミは何かを察したのか、口をキュッと真一文字に結んだ。

「俺自身をジンの修復に使う。
 俺がジンの身体に入り込み、同化すれば一日も経たずにジンは復活する」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

処理中です...