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第七章 天空の覇者編

EP187 月光に照らされて

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「荷物はこれで全部だよね?」

「えぇ、もう全て積んだわ。」

「それじゃ、そろそろ出発しようか!」

 征夜が手綱を握り、他の3人は馬車に乗り込んだ。
 これまでは寝具や食料を含めた荷物を手で運んでいたが、その全てを雑に放り込んで出発できるのは、中々にありがたい。

「気を付けてね征夜!この子、とっても速いから!」

「了解!・・・練習がてら、少しゆっくり行こうか。」

 彼の提言に賛成したサランは、ゆっくりと頷いた。

「それじゃ、行くよっ!!!」

 合図と共に走り出したサランは、圧倒的な速度で進んで行く。背後へと吹き飛んで行く草原の景色は、なかなかに壮観だ。
 森を抜け、山を越え、湖を通り越し、いくつかの村を横切った。太陽は頂点を通り越し、日差しが強くなる。

 そんな中、征夜は一つの事に気付いた――。

(無人の村が多すぎないか?)

 10個ほど村を過ぎた時、彼はサランを停止させた。
 鞍から降りて、ソロソロと馬車へ戻って行く。

「あっ、そろそろ交代する?なら、私があの子に乗るわ。」

「いや、そうじゃないんだ。ちょっと聞いてほしい。・・・シン達も、チェスは後にしてくれ。」

 征夜が必死にサランを繰っていた中、シンとミサラは娯楽に興じていた。
 花は一人で黙々と、アルコールランプを使って薬の調合をしていたようだ。

「何かあったのか?」

「通ってきた村の様子が変だ。"廃墟じゃないのに無人の村"が多すぎる・・・。」

「出稼ぎに出たんじゃねぇか?」

「妻子を連れて行くなら、引っ越した方がマシだよ。
 それに、もう収穫出来るような野菜も放置されてる・・・。」

「突然消えちゃったみたいで、何だか気味が悪いわ・・・。」

「突然・・・消える・・・?」

 征夜はその言葉に既視感を覚える。
 大勢の人間が一斉に消え、残されたのは持ち物だけ。そんな状況は、"アイツ"にしか起こせない。

「・・・ラースの仕業か!」

「そうか!確かに奴なら、村の住人を根こそぎ拐える!」

 シンと征夜は顔を見合わせ、意見が一致した事を確認した。
 村人を全員拐う。そんな芸当を出来るのは、彼の他にいないのだ。そして何より、ラースには前科がある。

「集められた人たちは生贄にされるって、レポートに書いてあった・・・マズい!急がないと!」

「落ち着け。今から奴を探しても間に合わない。それに、挑んで勝てる保証もない。
 まずは竜だ。アイツらは、教団の最強兵器なんだろ?それを殺して回れば、向こうから出張でばって来る。」

「・・・他に、方法はないか・・・。」

 征夜は今すぐにでもラースを探し出し、息の根を止めてやりたかった。
 しかし、奴は強力な特殊能力を持っており、自分達との未知数だ。今はまだ挑む時ではない。そう言い聞かせる事で、平静を保つ。

「先を急ごう・・・!」

 征夜は再びサランに乗ると、全速力で草原を疾走した。

~~~~~~~~~~

「あっ、見て征夜!キャンプ場があるわ!」

「・・・ん?あ、あぁ、ほんとだ・・・。」

 日没を過ぎて夜の深みが増した頃、花は馬車の窓から外を眺めていた。
 そして視線の端を流れる河川の岸に、大きなキャンプ場がある事に気付いた。

 サランに道を伝えた征夜は、半ば居眠り運転をしていた。
 彼女は頭が良いので、指示すれば伝えた通りに進む。それどころか、地図を見せれば最適の道を自ら選ぶのだ。

「よーし・・・泊まろう・・・ふわぁ・・・。」

 間の抜けた欠伸をかいた征夜は、サランの進路をキャンプ地に向けた。

~~~~~~~~~~

「おぉ!そこの若い四人衆!ウチの商品見ないかい!?選りすぐりの逸品が安価で・・・!」
「トムの弁当屋だよ~!腹が減ってる奴は集まれ~!」
「これは世にも珍しい水晶玉で、一つ400ファルゴの分割払い・・・!」

 到着したキャンプ場は、行商人でごった返していた。
 怪しげな物販から、美味しそうな夕食まで。その種類は多岐に渡る。
 既に夜の9時を回った頃だが、見渡すと大勢の旅人が杯を交わし、飲んで騒いでの大騒ぎをしていた。

 四人は急いでテントを張り、夕食の用意を始める。
 炊事係は当然のように花であり、焚き火と鍋と串を用いて、様々な料理を作り始めた。

「魚釣ってきたよ~!」

 近くの川からアユのような魚を釣り上げた征夜は、それを竹串に差し込んだ。塩を振り、焚き火に向けて立てかけ、焼き上がるのを待つ。

「あれ?シン、どこに行くんだい?」

「あぁ、飯は俺抜きで良いぞ。あっちで他の奴と飲んでくる。」

「う、うん、分かった・・・。」

 圧倒的な陽キャパワーを見せ付けたシンは、唖然とした征夜を置き去りにして旅人の飲み会に混ざった。
 そして即座に、宴会を盛り上げていた踊り子の隣に座り、慣れた調子で口説き始める。

「実は俺、こう見えてもフリーなんだよね。
 昨日フラれたばかりで、まだ吹っ切れてなくてさ・・・。」

「私で良ければ、癒やしてあげようか?」

「君の上手なダンスなら、元気が取り戻せそうだ・・・!」

「あら、上手いのはダンスだけじゃないのよ?言いたい事、分かるかしら・・・♡」

「・・・当たり前だろ♪」

 セレアほどではないが、その踊り子も中々の豊満ボディを持った美女である。
 癒やして欲しいというのは建前であり、そんな事は互いに承知している。

 シンは僅か10分足らずで、女を一人持ち帰って来た。
 まだ3人が食べ終わってない頃に、早くもベッドインである。"流石の手腕"と言わざるを得ない。

「セレアさんにフラれたばかりなのに・・・。なんていうか、すごい胆力ね・・・。」

「僕には真似できないよ・・・。」

「・・・うん。」

 花は何気なく放った一言が、凄まじい破壊力と共に打ち返されたのを感じた。
 自分を差し置いてガールフレンドを作ったくせに、よくもそんな事が言えると思った。

(征夜・・・もしかして、元から私を彼女だと思ってない・・・?)

 そんな想像が頭をよぎり、最悪のパターンが浮かび上がる。

(あ、アレ?そもそも・・・先にキスしたのは・・・私?ていう事は・・・元から彼にその気は無いんじゃ・・・。)

 これまでの言動を見れば、そんな事はあり得ない。
 相思相愛のはずなのに、何故か不安が拡大していく。

 そして、そんな杞憂を煽るかのように、征夜が意図せず追い討ちをした――。

「ごちそうさま!・・・少将!実は私、新しい杖が欲しいんです!買って来ても良いですか?」

「あぁ、気を付けてね。・・・これ使って良いよ。」

「えっ?これって・・・。」

 そう言って征夜が手渡したのは、自らの"財布"だった。
 中にあるのは自分の全財産であり、この世界で稼いだ金だ。
 シンに頼めば金は出てくるが、自分で稼いだ事に"特別な意味"がある。

「あ、あの・・・!これって、どういう・・・?」

「僕の気持ちだよ。遠慮なく使ってくれ。」
(僕がシンを止めたせいで、余計に酷い目に合わせちゃった。これで、慰謝料だと思って欲しいな・・・。)

 征夜にしてみれば、この財布は謝罪の意思なのだ。
 腹を抉られる苦痛など、本来なら味わう必要のない事。それを与えてしまったのは、自分にも責任がある。だから、これは償いの代わりなのだ。

 だが一般的な考えとして、"財布の共有"というのは中々に重い意味がある。
 銀行口座や電子マネーなど形は違えども、金銭の共有は"恋人以上の信頼関係"を意味する事が多い――。

(少将が・・・私の事を認めて・・・!)
「分かりました!ありがとうございます!!!」

「えぇぇぇ!!!???せ、征夜っ!?」

 困惑する花をよそに、ミサラは走り出した。
 残された二人には、微妙な空気が残される。

「あ、あの・・・気持ちってどういう・・・。」

「あぁ、いや・・・これからの事を考えると、信頼関係って大事だから・・・。」
(これで許してもらえるとは、思ってないけどね・・・。)

「し、信頼・・・関係・・・。」

 呆気に取られた花は、思わず言葉を失った。
 そして放心状態の花に対し、征夜は優しく声をかける。

「ごちそうさま!とっても美味しかったよ!・・・食器を洗うの手伝おうか?」

「い、いや・・・大丈夫よ・・・ありがとう・・・。」

「そうなの・・・?僕は向こうに居るから、用があったら呼んでね!」

 最後に優しく微笑みかけた征夜は、河川敷の奥へと走り去って行く。その後ろ姿に対し、花は思わず手を伸ばしてしまう。

「行かないで・・・一緒に居てよ・・・。」

 まるで逃げるように自らの元を去った征夜に対し、彼女は言葉では表せない悲壮感を覚えていた――。

~~~~~~~~~~

「ごめんくださ~い!ここって、杖を売ってるお店ですか?」

「あらま、可愛らしいお嬢さん。いらっしゃい・・・!」

 テントを覗くと、そこには痩せた老婆が座っていた。
 開かれた大きなトランクには、20㎝ほどの杖が数多く収納されている。

「新しい杖が欲しいんです!私に合った杖はありますか?」

「勿論ですよ・・・まずは、これなんてどうかしら・・・?純度100%の"天界製"ですよ。」

 そう言うと老婆は、純白の杖を手渡した。
 柄の部分には天使の翼を模した意匠が施されており、とてと美しい杖だ。

 ミサラは試しに、それを握ってみた。しかし、どうにもしっくり来ない。

「次はこれをどうぞ。ドゴルの名匠、クレイナスが作り出した一級品です・・・!」

 緑色に淡く光る、いかにも高級そうな杖だ。
 確かに肌触りは良いのだが、自分の杖という実感は無い。

「むむむ・・・中々に難しいお客様ですね・・・。」

「すみません・・・。」

「いえいえ、良いのですよ・・・!この感覚こそ、杖販売の醍醐味ですから・・・!」

 老婆は意気揚々と次の杖を漁り始めた。しかしミサラには、そのどれもが違う気がするのだ。

 そんな中、他とは違う"ガラスのケース"に個別で収められた1本の杖が、彼女の関心を引いた――。

「その中にあるのは・・・。」

「ん?おや、これに気付くとはお目が高い・・・!ただ、使いこなせますか・・・?」

「・・・説明を聞きたいです!」

「良いでしょう。この杖は、むかしむかし・・・。」

 老婆が語り出してのは、曰く付きの杖の伝説。
 一族に伝わる家宝の杖について、彼女は熱の篭った口調で解説を始めたのだった――。

~~~~~~~~~~

(やっぱり、征夜と一度話をした方が良いわ・・・彼の考えが、まるで分からないもの・・・。)

 夜食のプリンを作り終えた花は、クーラーボックスから容器を取り出した。
 料理の腕前は勿論、様々なレシピを知っているのも凄い。流石は料理人の娘である。

(征夜・・・なんで向こうに行ったのかな・・・そんなに、私と居るのが嫌なのかな・・・。)

 宴会に混ざるならともかく、何も無い河原の向こうへ行ったのは何故か。
 そう考えるとやはり、彼女から逃げたいのだろうか。何か後ろめたい事があって、自分を避けているのではと思った。

 小石を蹴飛ばしながら河原を進んで行くと、ボンヤリとした輪郭が見え始めた。
 一切の明かりも無い川の傍で、一心不乱に何かを続けている。

「征夜なの・・・?」

「・・・あぁ、花か。どうしたの?何か用かな?」

 少し疲れた調子で、ダルそうに返事をした。
 それに対して花は、言葉では言い表せない疎外感を感じてしまう。

「こんな暗い所で何やってるの?あっちの方が明るいよ?」

「いや、周りに人が居ない方が良いから。」

「そ、そっか・・・。」

 あまりにも淡白な返事に対し、花は何を話せば良いのか分からない。
 取り敢えず、持ってきた手土産を渡してしまおう。花は、それだけを考えていた。

「あ、あの・・・プリン作ったんだけど・・・要らない・・・よね?」

 自分が作った物など、欲しがるはずがない。
 花はそう思って、”要らない”と言われる事を想定していた。

「僕の為に作ってくれたの?ありがとう!あと300回で3000だから待ってて!」

「えっ?3000って・・・?」

「”素振り”だよっ!ほら、こんな風に!」

 征夜はそう言うと、縦向きの素振りを再開した。
 残像が残るほど凄まじい速度で刀を斬り下ろし、青白い刃が月光に照らされる。

(そっか・・・危ないから場所を移したんだ・・・。)

 自分を避けていたのではなく、人混みを避けていた。ただ、それだけなのだ。
 それが分かった花は、少しだけ安堵した。深く深呼吸して、川岸の大岩に座り込む。

(カッコ良いなぁ・・・!)

 半年の修業を経て格段と逞しくなった征夜に、花は見惚れる事しか出来なかった――。

~~~~~~~~~~~

「2998・・・2999・・・3000・・・!よしっ!今日のノルマ終わりっ!」

「お疲れ様・・・!」

 征夜は汗を袴の袖で拭いながら、息を整える。
 数百回も残していた割には、驚くほど早く終わった。それだけ、彼の体が動きに馴染んでいるのだろう。

「いただきます!・・・美味しいっ!どうやって作ったの!?」

「材料と道具さえあれば、これぐらいはキャンプ中でも作れるの。氷は分けて貰ったわ。」

「凄いよほんとに!花って、やっぱり料理上手なんだね!」

「パパに叩き込まれたからね!」

 胸を張って誇らしげにしている彼女を、征夜は羨望の眼差しで見つめていた。
 何かを習い、上達して、人に見せられる程度にする。そんな事を出来るのは、積み重ねの賜物なのだ。

「僕はまだ・・・そんなレベルじゃないな・・・。」

「そんな事ないよ!征夜、とっても強くなったじゃない!
 1時間足らずで3000回も素振りをするなんて、普通の人には出来ないわよ!」

 征夜の素振りは、確かに半年前より格段に速く、鋭くなっていた。
 累計で100万回以上も刀を振るい、動きを体に叩き込んだのだ。以前は6時間も使っていた回数でも、今は6分の1で完遂できる。

「君には遠く及ばないよ。人に誇れる事でもないし・・・。」

 美味しい料理は人を笑顔にする。これは、疑いようのない事実だ。
 だが、鋭敏な斬撃と他人を圧倒する剣技は、果たして笑顔を作れるのだろうか。
 魔王を倒す。ラースを倒す。それは確かに、人を笑顔にする。しかし征夜には、武力が人を幸せに出来るとは、到底思えなかった。

「人殺しの技を覚えて、人殺しの力を高めてる。
 僕の心は道を見失って、いつの日か"人殺し"に成り果てるかも知れない。そう思うと、とても誇る気にはなれない。」

「なら、どうして強くなるの?」

 顔を曇らせた征夜に対し、花は優しく問いかけた。
 座り込んだ石から腰を上げ、ゆっくりと歩み寄る。

「あなたは・・・いえ、"私たち"は勇者なの。
 魔王を倒して、世界を救う使命があるのよ。その為には、強くならないと・・・。」

「その先に、何があるのかな・・・。」

 征夜には、どうにも"嫌な予感"がしていた。
 この美しい世界の根底に渦巻いた、憎悪の塊のような感覚。ドロドロと蕩け合いながら、全てを飲み込もうとする悪意を、敏感に感じていたのだ。

「魔王を倒しても、この世界は平和にならない。僕には、そう思えて仕方ない。
 まだ、何かある。僕の力ではどうしようもないほど、大きくて、粘り気の強い意志が、水面下で燻ってるような。
 僕には、それが怖いんだ。まだ、この戦いが始まりに過ぎない気がして・・・。」

 魔王を倒しても終わらないなら、戦いはどこに向かうのか。魔王を倒しても仕方ないなら、何のために鍛えるのか。

 その行く先も分からぬままに、征夜は無我夢中で力を求めていた――。

「それでも、強くなりたいのね。
 あなたはどこまでも貪欲に、力を求めている。
 それは何故?戦いに終わりは無く、道の先に平和は無い。それが分かっているのに、どうして歩みを止めないの?」

 その背に月光を浴びながら、彼女は透き通るように美しい声で問いかけた。
 全てを悟ったような。全てを見通すような。普段の彼女とは違うベクトルで、理知的な雰囲気を漂わせている――。



「"強くなければ守れない物"に・・・気付いたから・・・!」

 刀をしまった征夜は、花の元に駆け寄った。
 腕を大きく広げて、彼女の細い体を抱き締める。
 その腕に力を込めれば、彼女を容易に殺せてしまう。簡単に折れてしまいそうなほど、人の体は弱いのだ。

 だが、"か弱さ"もまた、たまらなく愛おしく思える。
 守らねば消えてしまう儚さが、他には代え難い"美しさ"を持っている――。

「僕は君を守りたい・・・!だから、まだまだ強くなるよ・・・!」

「信頼してますよ・・・私の騎士様・・・。」

 煌々と照る満月と、鮮やかにせせらぐ川の流れに包まれて、二人は静かにキスをした――。

~~~~~~~~~~

 その後も暫くの間、二人は抱擁を解かなかった。
 今という時間を共有できる喜びが、二人だけの世界に浸らせていたのだ。

「そろそろ戻ろうか・・・///」

「う、うん・・・///」

 互いにキザな事を言ったせいで、少しだけ気まずくなる。
 だが、花は確信していた。自分は征夜に好かれている。その思いは、彼に対する自分の思いと同じだと。

「あ、あの・・・騎士様っていうのは・・・。」

「王子様よりも・・・カッコいいかなって・・・///」

 あまりに恥ずかしくて、花は思わず目を背けてしまう。
 これではまるで、自分が"お姫様"ではないかと思い、頬がニヤけてしまう。

「頼ってくれて嬉しいよ。僕に出来るのは、君を守る事だけだからね。」

「征夜・・・♡」

 二人の間に、再びロマンチックなムードが漂い始めた。
 手を繋ぎ、両目を閉じて、口付けを交わそうとする。

 しかしキスの直前になって、征夜はパッチリと目を開いた。眉を細めて、険しい表情になっている。

「花、僕の言う事をよく聞いてね。」

「うん・・・ちゃんと聞くよ・・・///」

 花は頬を赤らめながら、彼の言葉を待った。
 きっと、征夜は自分に大切な事を伝えたいのだ。
 これからの関係、自分の事をどう思っているのか。そう言った事を、この機会に伝えたいのだろう。

 そう思って、胸を高鳴らせて期待する――。





「・・・逃げろ!振り返らずに走れ!!!」

「え?・・・きゃぁっ!?」

 征夜は突如として叫ぶと、彼女を力強く押し出した。
 川岸に積もる小石につまづいて、体制を崩したまま転んでしまう。

「征夜!?どういうつもりな」

ドオォーンッッッ!!!!!

 困惑した花は、思わず振り返った。
 しかし彼女の言葉を遮るように、"赤黒い光弾"が目前で炸裂する。

 さっきまで花が居た場所には、巨大なクレーターが出来ていた。砂利は砕け散り、地面は抉れ、砂煙が舞っている。

 征夜は素早く刀を抜いた。
 そして、花を庇うように立ち塞がり、その視線を頭上に向ける――。



「水を差して悪いなぁ・・・お二人さん・・・!」

 満月に背面を照らされながら、巨大な影が降りて来た。
 ボヤけていた輪郭は人型になり、嘲笑うような口調で語りかける。

「アッハハハハハッ!良いムードなのに、お邪魔だったかな?」

「とんでもないさ、待ってたんだよ!""をなぁ!!!」

 クッキリと晴れた土埃の向こうには、一人の男が浮遊していた。
 その顔を花は知らない。だが征夜にとっては、"忘れられない宿敵"なのだ――。

「逃げろ花!コイツは・・・""は・・・俺が倒す!!!」

「威勢だけは十分だな!吹雪征夜ぁッ!!!」

 花は助けを求める為に、足場の悪い砂利道を全速力で駆け出した。
 彼女の退避を見届けた征夜は、両足に力を込めて跳び上がる。

「さぁ・・・勝負だ!!!」

 月の光に照らされながら、因縁の対決が始まった――。
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