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第四章 マリオネット教団編(花視点)

EP113 悪魔の兆し

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それは、目覚めし運命の兆し――。

――――――――――――――――――

 ザァザァと降りしきる雨が、まるで彼女の行為を肯定するかのように、血まみれの立て髪を洗い流していく。
 仕事を終えて伸びをする会社員のように、サランは頭を大きく振って、絡み付いたをぞんざいに払い除けた。

「こ、これ・・・あなたがやったの・・・?」

ヒヒン!

 サランは、どこか誇らしげに嘶いた。自分の主人を救うために行った行為が、正しいと信じて疑っていない。
 頭を撫でて欲しいのだろう、呆然と立ち尽くす花に向かって、悠々と歩み寄って来る。

「ひぃっ!!!」

 花は短く悲鳴を上げた。正面から見たサランが、恐ろしくて堪らない。嬉しそうに近寄って来る様も、まるで”死神”のようである。

「あ、あの、助けてくれてありがとね、でも、ここまでしなくても良いのよ・・・?」

「???」

 サランは、何故かと問いたそうに小さく首を傾げた。

 ここで、花は完全に理解した。サランには感情がある。そして、人の言葉を理解できるのだ。
 理解してなお、人の命を奪う事に躊躇いを持っていない。

 どうやらunknown計画は残酷なまでに、その目標を達成したようだ。
 目の前にいるサランは、古代アトランティスの民が望んだ"究極の生物兵器"そのものである。

「この人たちは、確かに悪い人たちだけど・・・ここまでしなくて良いのに・・・。」

 花はこの蛮行を叱る気にはなれなかった。
 確かに、サランが彼女の窮地を救ったのは紛れもない事実だったからだ。
 ただ、やり過ぎてしまっただけ。善悪の判断ができない存在に対して本気で叱りつけるほど、花も子供ではない。

 呆然とする花の背後で、ガサガサと茂みをかき分ける音がする。
 音は段々と花に近寄って来る――。



「お~い!花ぁ~!ヤバい音がしたけど、大丈夫・・・おう。」

 茂みから這い出した来たのはシンだった。急いで走ったせいか、体中が擦り傷だらけである。
 凄惨な光景には慣れているシンは、花ほどはショックを覚えていないようだ。

「・・・おっ、サランじゃん!派手にやったなぁ、お前!
 ところでお前、本土に渡れそうな船見つけたか?無いなら、探さないと駄目だが・・・。」

 明らかに、遺体を前にして取る態度ではない。調子が軽すぎる。その様子に対して、花は言いようの無い怒りを感じる。

「ちょ、ちょっと!これを見て、なんとも思わないわけ!?人を殺しちゃったのよ!?」

「まぁ、動物がやったことだしな。
 お前だって、野生の猿が人を引っ掻いても、説教を垂れる気にはなら無いだろ?」

 シンはあたかも正論のように論点をズラした持論を語るが、これで食い下がる花ではない。

「で、でも死んじゃってるのよ!?この人たちにも家族がいるでしょう!?」

「ソイツの事だからお前を助ける為に殺したんだろ?
 なら、まぁ仕方ないだろ。俺だって、10人くらい撃ってきたわけだし。」

 シンは特に感慨も無さそうに、真顔のまま自分の凶行を告白する。本当に、殆ど罪悪感を感じていないようだ。

「殺しちゃったの・・・?」

「まぁ、半分くらいは助からないだろうな。何発か心臓に命中したし。」

「大変!すぐに助けに行かないと!」

「おい正気か?新手が来ないうちに、さっさと逃げちまおうぜ。」

 話が噛み合わない。花とシンでは、明らかに殺人に対する意識が異なっているのだ。

「そ、そうだけど・・・せめて、遺体の泥を払うくらいは・・・。」

「何でそこまでしたがるんだ?こんな奴ら、赤の他人だろ?
 死体なんて放っておけば良いじゃないか。どうせ魔王の手下なんだし。」

「・・・あなた、変になってるのよ!正気じゃ無いわ!人を殺して、何も思わないなんて!私、治療して来るから!」

「・・・???甘っちょろい事言ってないで、さっさと船探して逃げるぞ。」

 シンはさも当然のように、花の肩を掴んで引っ張って行こうとするが――。



バチンッ!

 花は勢いよく、シンの頬に平手打ちをした。その顔は怒りよりも、信念と使命感に燃えている。

「私に触らないで!あなたが、そんな人だとは思わなかったわ!」

「マジでどうしちゃったんだ・・・?お前らしくないぞ?」

 シンは少しも反省しておらず、叩かれた事に対しておこってもいない。むしろ、困惑している。
 花はその表情から、すぐに一つの結論を導いた。そして震える声で、真偽を確かめようとする。

「あなた・・・この世界に来る前に、人を殺した事、ある・・・?」

「あぁ、1人だけ。」

「そ、その時、どう思った・・・?」

 花は震える声で、質問を続ける。

「暴走族なんだし、犯罪の一つや二つ、やっちまうだろ?それがたまたま、殺人だっただけだ。
 勘違いしないでくれよ、相手は親の仇だ。ムカついたから殺した訳じゃない。」

「"衝動的"じゃないわけね・・・?」

「おう、多分な。」

「よく分かったわ。あなた・・・かも知れないわ・・・。」

 その時、遥か遠洋で巨大な雷鳴が響いた――。
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