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第三章 シャノン大海戦編
EP82 サムの家
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(一体、何だったんだ・・・。突然乱入して来て、サムの奴をぶちのめして、チー牛を食ったかと思ったら、連れて行きやがった・・・。)
シンはサムと男が光の中に消えると、少しの間呆然と立ち尽くしていた。
すると、花がシンの方へと駆け寄ってきた。
「大丈夫?お尻打ってたけど・・・。」
「何てこと無い。それよりも・・・行かせて良かったのか?本当に約束を守るか分からないぞ?」
シンはそう言うと、手に握ったままの封筒を見つめた。
自分の発した言葉が跳ね返ってきて心を抉ったが、彼の決意は変わらなかった。
「大丈夫、彼は約束を破らない。そんな気がするの。」
花は先程まで男が立っていた場所を見つめると、感慨深そうな顔をして言った。
彼女はシンとは違い、学生時代に負い目があるわけでは無い。そのため、サムへの共感などは殆ど無かった。
「まぁ、お前がそう言うなら構わないけどよ・・・。」
シンはそう言うと、急に何かを閃いたように目を見開いた。
「話は変わるんだが、コンサートの日付けを変更しないか?
二か月後に開催となるとソントに帰るのが間に合わない。
だから、一か月後にしよう。地図を見る限り、一カ月あれば大陸に住む6割の人が来場出来る。
あとは、プレッシャーを掛けたくないがお前次第だ。・・・いけそうか?」
シンは心配そうに花の方を見つめたが、花は満面の笑みで答えた。
「この調子ならいけるわ♪ダンスもコツを掴めたし、早く町の人に海を取り返してあげないと!」
シンの問いに即答した花の声は、聞いている者を思わず安堵させるほどに、清々しく力強い物だった。
跪いたままになっていた客たちも、顔を上げて花の宣誓に盛大な拍手をした。
「よし!決まりだな!じゃあ、コイツを出してくる。帰ってきたらポスターを作らないとな。」
シンはそう言うと、封筒とは別に明確な日時の記された招待状を書き上げ、酒場から飛び出していった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「着いたぞ。」
男に肩を掴まれたサムは体感にして僅か数秒後、ここまで通って来た光の渦を抜けて、地面に足を着けた。
瞬間移動という物なのか、高速移動という物なのか分からないが、少なくとも視界が開けた際にサムがいたのは酒場では無かった。
「おえっ・・・。」
サムは強烈な目眩と吐き気で、地面へと倒れ込んだ。嘔吐こそしなかったが、酷く耳鳴りがする。
「すまん、出来るだけ遅くしたんだが・・・。立てるか?」
男はそう言うと、四つん這いになり痙攣しながら背を曲げているサムに、手を差し伸べた。
サムは何とか顔を上げると、男の手を掴んだ。
「あ、ありがとう・・・。」
サムは男の声が先ほどのように怒りを湛えていないと感じ、警戒心を解いた。
「いいんだ。説明もせずに連れてきてすまない。」
男の方も、サムの敵意や警戒心が大幅に薄れたのを感じて、ある意味素直になった。
サムは立ち上がる事が出来た。
しかし、その場所に慣れるにはまだ時間が必要だった。
「ま、眩しいっ・・・。」
目線を地面よりも高くしたサムは、強烈な日差しによって目が焼けるように痛んだ。
反射運動によって瞬時に目を閉じたが、まぶたを突き抜けて光が差し込んで来る。どう足掻いても目を開けられない。
「やはり、ただの人間にとっては明るすぎるか・・・。
対策は後で考えるが、今はこれで我慢してくれ。」
男はそう言うと、目を閉じたままのサムにサングラスを掛けた。
かなり色の濃いサングラスではあったが、それでもなお日差しを完全に遮る事は出来なかった。しかし、目を開けられるくらいには視界が暗くなった。
やっとの思いで目を開けたサムの瞳に初めて飛び込んできたのは、どこまでも広がる黄緑色の芝生だった。
地平線の果てに巨大な虹が掛かり、その手前には巨大な西洋風の屋敷と、古ぼけたみすぼらしい和風の小屋が一つずつ、30メートルほど離れて建っている。
屋敷の周囲には見事な庭園が造られ、色とりどりの蝶や花、鳥たちが人工的な自然のもとで芸術を織りなしている。
「凄く大きなお家だね!どうやって建てたの!?あの花見たこと無いんだけど、何処でとってきたの?それにそれに!ここは・・・!」
サムは眼前に広がる神秘的な光景の心を奪われ、この2か月の間に悪友によって教え込まれた乱暴な口調は、いとも容易く削ぎ落された。
代わりに残ったのは彼本来の純粋な心持ちと、子供特有の膨大な好奇心だけだった。
「あの小屋は何?物置き?教会?それともトイレ?何で黒いレンガが乗ってるの?」
太平の世界には和風建築という物が存在しなかった。
そのため、屋根に乗せられた瓦を”黒いレンガ”としか認識出来なかったのだ。
「あれは物置きじゃない。私の家だ。」
男はサムを見下ろしながら優しく答えた。
「何であんなにちっちゃいの?右のおっきなお家は何なの!?」
サムの好奇心は止まらない。次々と疑問がわいて来るが、男は丁寧に答えていく。
「私しか住まないなら、大きくする意味が無いだろう?手入れだって大変だし。
右の家は・・・丁度いい。家主のお出ましだ。」
男はそう言うと、視線をサムから外した。
サムも男の視線が向かった先を見るが、誰もいない。
じれったくなったサムが男の顔へと視線を移そうとした次の瞬間、若い金髪の女性が文字通り”飛んで来た”。
「おかえりなさいませ、マスター。」
白い獣耳を生やした女性は、深々とお辞儀をした。
腰が曲げられた事により、前回は見えなかった背部がサムの目に映る。
彼女の足の付け根には、長く艶のある金色の尻尾が生えていた。
サムはその光景に動揺と興奮の入り混じった感情が湧き出てきたが、男は気に留める事無く会話を続ける。
「この少年が、お前の言っていたエレメントロードの少年だろう?
花を傷つけようとしていたから、帰還するついでに連れて来た。」
「何てことしてるんです!人間の分際で花様に危害を加えようなど言語道断です!
まして、あなたはこの方の従・・・今、伝えてもよいのでしょうか?」
女性はサムを叱り付けた後、男の方へと何かを確認するように話を振った。
「いや、その事は海戦が終わってからで良い。私たちの目的については、来るべき日までは秘密だ。
この少年を改心させる目的で連れてきたのだが・・・もう、目的達成かも知れん。」
「聞くところによると、この少年は魔力暴走を頻発させているようです。
魔親の責任として、私自ら教育させて頂きます。ついでに、ここでの生活にも慣れさせましょう。」
「お前の半分を魔能にしておいて正解だったな。
そいつの教育、頼んだぞ。私は少し寝る。ふわぁ~・・・。」
男は急に大きなあくびをかいた。その間の抜けた声に、サムまで釣られて眠くなって来る。
「かなりお疲れと存じます。後はすべて私に任せ、安心してお休みください。」
そう言われた男は立ちながら寝息を立て始め、眠ったまま自分の家だという小屋の方へと飛んで行った。
「さて、行きましょうか。まずは日焼け止めを塗らないと駄目ですね。
・・・そう言えば、名乗りがまだでしたね。私の名前は雷夜です。あなたは何というのですか?」
雷夜はサムへと優しく聞いた。
「僕の名前はサムって言います!」
サムは元気よく答えた。
「分かりました。敬称は付けなくて良いですね。」
雷夜はそう言うと、サムの手を引いて巨大な屋敷の方へと歩んで行った。
シンはサムと男が光の中に消えると、少しの間呆然と立ち尽くしていた。
すると、花がシンの方へと駆け寄ってきた。
「大丈夫?お尻打ってたけど・・・。」
「何てこと無い。それよりも・・・行かせて良かったのか?本当に約束を守るか分からないぞ?」
シンはそう言うと、手に握ったままの封筒を見つめた。
自分の発した言葉が跳ね返ってきて心を抉ったが、彼の決意は変わらなかった。
「大丈夫、彼は約束を破らない。そんな気がするの。」
花は先程まで男が立っていた場所を見つめると、感慨深そうな顔をして言った。
彼女はシンとは違い、学生時代に負い目があるわけでは無い。そのため、サムへの共感などは殆ど無かった。
「まぁ、お前がそう言うなら構わないけどよ・・・。」
シンはそう言うと、急に何かを閃いたように目を見開いた。
「話は変わるんだが、コンサートの日付けを変更しないか?
二か月後に開催となるとソントに帰るのが間に合わない。
だから、一か月後にしよう。地図を見る限り、一カ月あれば大陸に住む6割の人が来場出来る。
あとは、プレッシャーを掛けたくないがお前次第だ。・・・いけそうか?」
シンは心配そうに花の方を見つめたが、花は満面の笑みで答えた。
「この調子ならいけるわ♪ダンスもコツを掴めたし、早く町の人に海を取り返してあげないと!」
シンの問いに即答した花の声は、聞いている者を思わず安堵させるほどに、清々しく力強い物だった。
跪いたままになっていた客たちも、顔を上げて花の宣誓に盛大な拍手をした。
「よし!決まりだな!じゃあ、コイツを出してくる。帰ってきたらポスターを作らないとな。」
シンはそう言うと、封筒とは別に明確な日時の記された招待状を書き上げ、酒場から飛び出していった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「着いたぞ。」
男に肩を掴まれたサムは体感にして僅か数秒後、ここまで通って来た光の渦を抜けて、地面に足を着けた。
瞬間移動という物なのか、高速移動という物なのか分からないが、少なくとも視界が開けた際にサムがいたのは酒場では無かった。
「おえっ・・・。」
サムは強烈な目眩と吐き気で、地面へと倒れ込んだ。嘔吐こそしなかったが、酷く耳鳴りがする。
「すまん、出来るだけ遅くしたんだが・・・。立てるか?」
男はそう言うと、四つん這いになり痙攣しながら背を曲げているサムに、手を差し伸べた。
サムは何とか顔を上げると、男の手を掴んだ。
「あ、ありがとう・・・。」
サムは男の声が先ほどのように怒りを湛えていないと感じ、警戒心を解いた。
「いいんだ。説明もせずに連れてきてすまない。」
男の方も、サムの敵意や警戒心が大幅に薄れたのを感じて、ある意味素直になった。
サムは立ち上がる事が出来た。
しかし、その場所に慣れるにはまだ時間が必要だった。
「ま、眩しいっ・・・。」
目線を地面よりも高くしたサムは、強烈な日差しによって目が焼けるように痛んだ。
反射運動によって瞬時に目を閉じたが、まぶたを突き抜けて光が差し込んで来る。どう足掻いても目を開けられない。
「やはり、ただの人間にとっては明るすぎるか・・・。
対策は後で考えるが、今はこれで我慢してくれ。」
男はそう言うと、目を閉じたままのサムにサングラスを掛けた。
かなり色の濃いサングラスではあったが、それでもなお日差しを完全に遮る事は出来なかった。しかし、目を開けられるくらいには視界が暗くなった。
やっとの思いで目を開けたサムの瞳に初めて飛び込んできたのは、どこまでも広がる黄緑色の芝生だった。
地平線の果てに巨大な虹が掛かり、その手前には巨大な西洋風の屋敷と、古ぼけたみすぼらしい和風の小屋が一つずつ、30メートルほど離れて建っている。
屋敷の周囲には見事な庭園が造られ、色とりどりの蝶や花、鳥たちが人工的な自然のもとで芸術を織りなしている。
「凄く大きなお家だね!どうやって建てたの!?あの花見たこと無いんだけど、何処でとってきたの?それにそれに!ここは・・・!」
サムは眼前に広がる神秘的な光景の心を奪われ、この2か月の間に悪友によって教え込まれた乱暴な口調は、いとも容易く削ぎ落された。
代わりに残ったのは彼本来の純粋な心持ちと、子供特有の膨大な好奇心だけだった。
「あの小屋は何?物置き?教会?それともトイレ?何で黒いレンガが乗ってるの?」
太平の世界には和風建築という物が存在しなかった。
そのため、屋根に乗せられた瓦を”黒いレンガ”としか認識出来なかったのだ。
「あれは物置きじゃない。私の家だ。」
男はサムを見下ろしながら優しく答えた。
「何であんなにちっちゃいの?右のおっきなお家は何なの!?」
サムの好奇心は止まらない。次々と疑問がわいて来るが、男は丁寧に答えていく。
「私しか住まないなら、大きくする意味が無いだろう?手入れだって大変だし。
右の家は・・・丁度いい。家主のお出ましだ。」
男はそう言うと、視線をサムから外した。
サムも男の視線が向かった先を見るが、誰もいない。
じれったくなったサムが男の顔へと視線を移そうとした次の瞬間、若い金髪の女性が文字通り”飛んで来た”。
「おかえりなさいませ、マスター。」
白い獣耳を生やした女性は、深々とお辞儀をした。
腰が曲げられた事により、前回は見えなかった背部がサムの目に映る。
彼女の足の付け根には、長く艶のある金色の尻尾が生えていた。
サムはその光景に動揺と興奮の入り混じった感情が湧き出てきたが、男は気に留める事無く会話を続ける。
「この少年が、お前の言っていたエレメントロードの少年だろう?
花を傷つけようとしていたから、帰還するついでに連れて来た。」
「何てことしてるんです!人間の分際で花様に危害を加えようなど言語道断です!
まして、あなたはこの方の従・・・今、伝えてもよいのでしょうか?」
女性はサムを叱り付けた後、男の方へと何かを確認するように話を振った。
「いや、その事は海戦が終わってからで良い。私たちの目的については、来るべき日までは秘密だ。
この少年を改心させる目的で連れてきたのだが・・・もう、目的達成かも知れん。」
「聞くところによると、この少年は魔力暴走を頻発させているようです。
魔親の責任として、私自ら教育させて頂きます。ついでに、ここでの生活にも慣れさせましょう。」
「お前の半分を魔能にしておいて正解だったな。
そいつの教育、頼んだぞ。私は少し寝る。ふわぁ~・・・。」
男は急に大きなあくびをかいた。その間の抜けた声に、サムまで釣られて眠くなって来る。
「かなりお疲れと存じます。後はすべて私に任せ、安心してお休みください。」
そう言われた男は立ちながら寝息を立て始め、眠ったまま自分の家だという小屋の方へと飛んで行った。
「さて、行きましょうか。まずは日焼け止めを塗らないと駄目ですね。
・・・そう言えば、名乗りがまだでしたね。私の名前は雷夜です。あなたは何というのですか?」
雷夜はサムへと優しく聞いた。
「僕の名前はサムって言います!」
サムは元気よく答えた。
「分かりました。敬称は付けなくて良いですね。」
雷夜はそう言うと、サムの手を引いて巨大な屋敷の方へと歩んで行った。
応援ありがとうございます!
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