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第六章 マリオネット教団編(征夜視点)

EP141 道場破り <☆・キャラ立ち絵あり>

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 体が軽かった。何をしても、どこまで走っても、全く疲れない。
 ただ眠くなったら寝て、腹が減ったら食べて、それだけの繰り返しである。

 清々しい気持ちのままに草原を駆け回り、馬を借りる考えも無いままに走り続けた。
 すると、道の彼方に大きな町が見え始めた。地図の通りに進んで来れたなら、あれが"オルゼ"の町である。

(ここまで二日・・・滝を切ってた期間と合わせても、5日くらい・・・いける!いけるぞ!!!)

 征夜はさらに加速し、猛烈な速度で町に迫った。そして門番に話を付け、中に入れてもらう。

(冒険者の指輪・・・存在を忘れてた・・・。)

 苦労して手に入れた指輪なのに、それ以上の苦労に上書きされて、記憶から抹消されていた。
 ここまでの旅では提示を求められる事が無かったが、今回の町は治安が悪いようだ。だからこその身分証である。

 道中では盗賊や、魔物の類には一切遭遇しなかった。いや、それを振り切る速度で走って来ただけかも知れない。
 しかし、平和な雰囲気のある草原に、治安の悪い町が出来るなど不思議である。

(まずは宿を取ろうかな・・・いや、先に聞き込みか。まだ昼前だし、酒場じゃなくてレストランにしよう。)

 町中を進んで行くと、この町の荒廃具合を否が応でも感じ取る。
 壁には落書きが溢れ、路地裏には路上生活者が溢れ返っている。

 町には活気がなく、唯一輝いている場所は風俗街だった。
 派手な格好をした女性が幾度となく征夜の袖を引いたが、全て無視した。

(花の方が可愛いしなぁ・・・そもそも、20歳とか興味無いし・・・。)

 若い女が多く言い寄って来たが、全く興味が湧かない。
 それもそのはず、自分の恋人の方が何倍も魅力的なのだ。それに、彼に対しての誘惑に"若さは逆効果"である。

 そうこうしている間に、色香でむせ返りそうな町並みを抜け、寂れたレストランに到着した。席につき、周囲の客と話をする。

「マリオネット教団って知ってますか?」

「サーカスの話かい?悪いが不景気で、遊んでる余裕はないんだ。」

「し、失礼しました・・・。」

 聞き込みは、中々うまく行かない。考えてみれば当然だ。秘密結社の事を聞いて、知っていても教えるわけがない。

 昼食を終えた後も聞き込みを続ける。道行く人に語りかけ、話を聞いてみる。
 しかし、成果は上がらない。まともに取り合ってくれる人も少なく、明らかに効率が悪い。

(聞き込みで探すのは無駄か・・・。他の手を・・・。)

 諦めて宿を探そうとした瞬間、背後から肩を叩かれた。
 振り向くと、身長200センチほどのマッチョ巨漢が、征夜の事を見下ろしている。彼も身長は高い方だが、威圧感がまるで違う。

あんちゃん!俺知ってるぜ!マリオネット教団!」

「えっ!?本当ですか!?」

「あぁ本当だ!俺の道場に来てくれれば、教えてやるぜ!」

「行きます!教えてください!」

 懸命な者ならすぐに気付くだろう。これは、キャッチセールスの常套手段である。
 少し考えれば分かるはずなのに、征夜はまんまと相手の策にハマった。

~~~~~~~~~~

「お邪魔しま~すっ!」

 元気良く挨拶しながら、暖簾をかき分けて道場に踏み込む。タトゥーだらけの巨漢が、ポーカーをしている手を止め、征夜の方へ振り向いた。

「早速ですが、マリオネット教団について教えて下さい!」

 単刀直入に聞く。それもそのはず、残されている時間はあまり無いのだ。事件が起こってからでは遅い。それを止める必要がある。
 しかし男たちは、答えようとする様子も見せずに、道場の裏手に入って行った。そして、一枚の紙を持って来たようだ。

「この書類にサインしたら教えてやるよ!」

「本当ですか!?それじゃ早速・・・・・・オルゼ剣法会・・・入門の掟・・・?あの、これって・・・。」

「あぁ!俺たちの流派名だ。入門しないなら、情報は教えられない。」

「あぁ・・・なるほど・・・。」

 流石の征夜も、ようやく気付いた。面倒な事に巻き込まれたようだ。
 三人の巨漢が征夜を取り囲み、頭上から睨み付けている。「入門しなければ帰さん」と言う強い意志が、全身から滲み出ているようだ。

「あ、あの・・・僕は道場に入門する気は・・・。」

「アンタも剣士だろ?なら、そんな"イワシボディ"で良いのか?剣法会に入れば、俺たちみたいにマッチョになれるぜ!ほら!入会金、30ファルゴ払いな!」

 有無を言わせない態度で、男たちは迫る。どうやら、選択の余地は無いらしい。背後の男が、真剣を抜いた音が聞こえる。

(冗談じゃない!30万なんて払ったら、僕は一文無しだ!なんとかしないと!)

 "平和的解決法"を模索するが、男たちは考える時間を与える気は無いらしい。
 征夜を急かすために、倉庫からある物を持ち出してくる。ズタ袋に覆われているが、それ確かに"人間"だ。

「むむ~!ふぅぅむぅ~!!!」

「こ、これは何ですか!?」

 ズタ袋から響く呻き声に驚き、思わず事実を確認しようとする。しかし、何が起こっているのかは明白だ。
 即ち、これが"治安の悪い町"たる所以である。この町では、人が拐われても大した捜索はされないのだ。

「うるっせぇぞ!黙れ!」

 優しかった男は、急に表情を変えた。そして、全力でズタ袋を殴打する。助けを求める声が止まり、グッタリと脱力してしまった。

「お、おい!何やってるんだ!」

「うるせぇなぁ!分かんねえのか?サンドバッグにしてんだよぉ!文句あんのか!?」

 文句しかないだろう。特に、サンドバッグ状態の本人は。

 征夜は咄嗟に、腰に差した刀を抜く事を考えた。しかし、それでは相手を殺してしまう。この相手は、殺さねばならない相手ではないはずだ。
 だからこそ、抜刀の判断を躊躇った。征夜の頭に、"峰打ち"という選択肢は無く、抜刀は即ち"殺人"を意味していた。

「死ねやぁっ!ガキぃっ!!!」

 2メートルの巨漢が、突如として征夜に剣を振り下ろす。刃渡りは1メートルほどあり、とても避けられる気配はない。

(や、ヤバいっ!やられるっ!!!)



 次の瞬間、征夜の体は自意識を離れ、相手の動きに合わせるように自動で動いた――。

 バコンッ!・・・ボキッ!

 突き出した拳から鈍い音が鳴り、直後に何かが折れた音がする。目を開けると、刀は征夜に当たる寸前で止まっている。

「ふ・・・ぐぁ・・・が・・・。」

 白目を剥いた男は、征夜に寄り掛かるように倒れ込んできた。押し潰される気は全くないので、自然と横に受け流す。

 どうやら、征夜の拳は男の腹を直撃したらしい。そして、鎖骨を叩き折るほど深くまで、一瞬にして食い込んだようだ。
 衝撃が背骨まで伝わった男は、ショックで気絶してしまった。起きる気配は全くない。

「・・・あれ?勝てちゃった・・・?」

 実感が全く湧かないが、征夜のKO勝ちである。彼が厨二病なら、ここで気の利いた事を言えただろう。
 しかし次に彼の口から出たのは、驚くほど安直な一言だった。

「・・・無抵抗な人を傷付けて・・・許さないぞっ!」

「ひいぃぃっ!!!」

 逃げ出そうとする巨漢を追撃し、二人とも素手で制圧した。征夜はどうやら、彼が思っていた以上に強くなっていたらしい――。

~~~~~~~~~~

「た、助かりました~・・・。見かけによらず、あなた強いんですね!」

「僕も驚きましたよ・・・これはもしや、と言う奴なのでは・・・?」

 そう、本人が一番驚いている。転生直後は"魔王の何倍も恐ろしく見えた"巨漢が、今となっては素手でワンパンである。
 剣道以外の武道は学んだ事がない。しかしどうやら、腕力に関しても圧倒的に向上しているようだ。

(そう言えば調気の極意は、筋組織の密度を向上させるんだっけ・・・。
 見た目はそんなに変わらないけど、中身は全然違うのかも・・・!)

 確かに、彼の腕力は見た目にそぐわない程度まで向上している。凝縮されているだけで、筋力としては彼らと変わらないのだ。
 しかし、腹筋が6つに割れて、手足が3割増しで太くなった事を、果たして"そんなに変わらない"で片付けて良いのだろうか――。

 取り敢えず彼は、現在の実力に関して確かな自信を持つことが出来た。
 宿敵ラドックスと当たる前に、ちょうど良い相手と戦えたのは嬉しい誤算である。

「もう本当に!なんとお礼して良いか!ありがとうございます!」

 文字通りサンドバックにされていた男を、ズタ袋から救出する。言っては悪いが、かなり弱そうな男である。
 鼻血を出してはいるが、そこまで衰弱している訳でもなさそうだ。

「こちらこそ、無事で良かったです!」

 征夜はそう言うと、男に肩を貸した。このまま、病院に連れて行こうと思ったのだ。

(・・・あれ?軽い?)

 想像の4倍は軽かった。いや、きっと男が軽いのでは無く、征夜の力が強いのだ。
 小柄とは言え成人している男を、征夜は軽々と持ち上げた。

「そうだ!お礼をさせてください!飯を奢りますよ!」

「いえ、僕が勝手に助けただけなので、礼は不要ですよ!」

「そう言わないでくださいよ!」

 礼をされるほどの事でも無い。征夜にとっては、ただの自己防衛なのだ。
 しかし男の方も、礼を返さずには居られない。この町における拉致は即ち、"野垂れ死ぬ事"と同義なのだから。

(・・・ダメで元々、聞いてみるか?)

 征夜の中で、無謀な案が浮かんだ。しかし、試す分には何の代償もない。

「実は僕、"マリオネット教団"という組織に入りたいんです・・・知ってる訳、無いですよねぇ・・・。」

「あぁ!俺、団員ですよ!」

「そうですよねぇ・・・秘密結社の事なんて知ってる訳・・・え?すいません、もう一度言って頂いても・・・?」

「俺、団員です!あなたのような強い人なら、も大歓迎ですよ!」

 どうやら、思いの外うまく行ったようだ。
 征夜は到着から僅か2時間で、マリオネット教団に到達した――。

~~~~~~~~~~

 アジトに向かう最中に、団員の男から教団の大まかな概要を説明された。

 マリオネット教団は名前からも感じ取れる通り、かなりの邪教である。
 彼らは金のため、もしくは教祖の信奉者として協力し、各地で割り当てられた任務をこなすようだ。

 任務の内容は毎回大きく異なっており、専門性の高い任務は特殊な部隊が行うようだ。
 これまでに行なった事の例を挙げると、貴族令嬢の誘拐殺人。宝石店の強盗。ギルドに対する脅迫。その他、多くの悪事をこなして来たようだ。

 10年前に発足されたばかりの組織だが、その構成員は10万を超えており、非常に大規模な活動を行なっている。
 恐怖で従っている者も多いが、それを加味しても入団希望者は増え続けているようだ――。

 多くの構成員は"本職である仕事"をこなしながら、その傍らで活動しているらしい。
 夜間に集会があるが、参加は自由。任務も希望制なので、実質的には"もう一つのギルド"としての側面も大きい。
 実際にギルドから"表沙汰に出来ない依頼"が、舞い込む事もあるようだ――。

「着きましたよ!ここがアジトです!」

 案内された場所は、古くて使われていない地下道だった。しかしどうやら、ただの地下道ではないようだ。

「ここは・・・広場ですか?」

「広場から分岐した道が、この町全体に広がってますよ!入団するのなら、まずは試験を受けてください!」

 やはり秘密結社。様々な入団試験が有るらしいが、まずは腕っぷしを試されるらしい。
 大量の書類が散乱するデスクに案内され、目つきの悪い男に入団希望の意志を知らせる。

「すいません、入団を希望するのですが・・・。」

「得物は?」

 ぶっきらぼうな口調である。冷たい目が征夜を品定めし、見下すような視線を浴びせる。

「う~ん・・・大剣かな?」

 日本刀と言っても伝わらないので、思い切って大剣と伝えてみた。
 刃渡り80センチの武器が、果たして大剣かは疑問が残るが、短剣では無いだろう。

「そこらへんで待ってろ。」

 薄暗がりの中に待機させられ、試験官となる者が到着するのを待つ。
 一体、どんな大男が出てくるのだろうか。試験官と呼ばれる者だ。おそらく、先ほどの連中よりも強いだろう。

(やはり剣士か?いや、どんな男が来ても!僕は絶対に負けないぞ!)

 決意を固く持つ。確かに、資正に勝った彼なら、どんな男が来ても簡単には負けない。
 あとは、魔法使いなどが用いるトリッキーな技にさえ注意すれば良い。

 その筈だったのだが――。





 しばらくすると薄暗がりの向こうから、紫の長髪を靡かせながら、"胸元を大きく露出させた格好の女性"が歩いてきた。
 一歩一歩に色気を纏わせ、全身から不思議なフェロモンを撒いている。

 妖艶な顔立ちに、花と同じかそれ以上に抜群なプロポーション。団員以外に有る本職は、明らかに"そういう職"である事を感じさせる女性だ。
 歩くたびに破壊力抜群の巨乳がたぷんたぷん揺れ、柔らかく豊満な尻もそれに付随する。まさに、歩くダイナマイトと言った具合だ。

 年齢は29くらい。明るい電灯の元に出ると、その艶やかな風貌が際立って見える。

「坊やが私の担当ね・・・♡あら~♡大剣を腰に刺してるなんて言うから、どんな醜男かと思えば、とっても可愛いじゃない♡
 お姉さん、ちょっと張り切っちゃうわ♡・・・チュッ♡」

 誘うような笑みを浮かべ、征夜を籠絡する気満々である。
 投げキッスを繰り出されると、彼は全身に緊張が走るのを感じた。

(む、胸が・・・すごい・・・いや待て、そんなに見たら失礼だ!視線を逸らせ!流石に怒られるぞ!)

 征夜は懸命に視線を逸らすが、やはりその魔力は強烈だ。
 女性の胸を見るのは失礼だと、かつて読んだ本に書いてあった。だからこそ、必死に視線を逸らす。

 しかしどうやら、女性の方はそう思ってないらしい――。

「ウフフ♡ガン見しちゃって♡私のおっぱい、そんなに気になるのかしら♡」

 女はそう言うと、わざとらしく胸を中央に寄せた。
 豊かな谷間がさらに強調され、征夜の瞳を直撃する。

(うわぁぁぁっ!!!やばい!Hなお姉さんだぁっ!!!)

 "天敵"の出現に対して征夜は、早くも負けそうな予感がしてきた――。
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