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第三章 シャノン大海戦編
EP52 一角
しおりを挟む花が目を覚ますと、昨日の疲れはすっかり取れ、熱中症も完全に治っていた。
腕時計を見ると、時刻は朝の7時だ。
「ふわぁ~・・・よく寝た!」
彼女は大きく伸びをして、飛び起きた。
「シン?もう朝よ?」
花は二重の意味で寝ぼけたことを、誰もいないテントに向けて言った。
「開けるわよ~?」
少し上ずった声で呼びかけるが、返事がない。
そして、恐る恐る開けてみると、中には誰もいなかった。
「もう!何処に行ったのよ!」
花がそう叫ぶと、茂みを掻き分ける音が背後からした。
「誰!?」
花は瞬時に杖を構えた。音は段々と近づいてくる。
そして遂に、何かが木々の間から覗き始めたーー。
「シンッ!?一体どうしたの!」
茂みから出てきたのは、血だらけのシンだった。
右腕と左足の脛に、何か尖った物で刺された痕がある。
「に、逃げろ!こっちに来るぞ!」
シンはそう言うと、倒れ込んだ。
血で地面が赤く染まっている。
「襲われたのね!?」
花はそう言って杖を振った。
シンの体に空いた穴は、緑のオーラに包まれて塞がった。
「た、助かったぁ~。聞いたことはあったけど、あんなに凶暴だとは・・・はぁ・・・。」
シンはため息をついて立ち上がった。
「やっぱり、追ってきてるな。悪いがこれ以上は逃げていられない。ここで始末させてもらう!」
シンは、茂みに向けて勢いよく言い放つ。
「ちょっと、何があっ・・・」
花は、茂みを見つめて絶句した。
金色に光る二つの目が、こちらを覗いている。
「あれは・・・ユニコーン!」
花は瞬時にその正体を察した。
金の混ざった白い体色と、逞しい体躯、そして何より額に生えた巨大な角は、地球の絵で見た物と変わりなかった。
「見惚れてる場合じゃないぞ!こっちに来る!」
シンは拳鍔を構えた。よく見るとユニコーンの胸部には3つの浅い穴が空いている。
「二手に分かれましょう!野犬に対して使ったのと同じ手よ!」
花は瞬時に作戦を決めた。
「あれか!遠目で見てた!だけど、犬と違って動いてる方を追うとは限らないだろ?」
シンは冷静に返したが、そんな事を言っていられないと、即座に実感した。
ユニコーンがこちらに向かってきたのだ。その姿はもはや、馬ではなく闘牛だった。
「走って!」
花は慌てて叫んだ。
シンの足は、瞬時に陸上部の本領を発揮したが、それは意味を成さなかった。
ユニコーンは、シンでなく花に向かったのだーー。
「くそっ!逃げろ!花!」
シンは力の限り叫んだが、花はすくんでしまい動けないようだ。
足は恐怖で震え、目を瞑ってしまった。
ユニコーンは瞬足を活かし、すぐに花の元に到達した。
そしてーー。
花に優しく頬擦りすると、その傍で横向きになり寝そべった。
「ッ!・・・あら?」
花は訳が分からなかった。
とりあえず、刺し殺されることが無いと察して、ゆっくりと目を開けた。
「一体、どういうことだ?」
シンは、花以上に不思議そうな顔をしている。
友好的に近付いた自分を、3時間も追いかけていた存在が、武器を構えていた花に懐くのは、不思議な光景だった。
「ユニコーンも美人には弱いのか?いや、そんな事ないはずだ・・・。」
シンは真剣に考えを巡らせて、一つの考えに到達した。
「そうか!ユニコーンは"純潔の乙女"に懐くんだ!」
「え?」
花は呆気に取られている。
シンがユニコーンの習性を知っている事にも驚いたが、その内容に更に驚いた。
「気にしなくていいぞ!俺の予想だと清也もバキバキ童て」
シンは窮地を脱すると早速、茶化し始めた。
笑いが止まらない様子で、腹を抱えている。
「うるさい!別にいいでしょ!」
花は顔を真っ赤にして、シンの声を遮った。
ただ、それで命が助かったなら、儲けものだとも思った。
「好きな人が居なかっただけだから!」
花は必死になって言った。
シンは信じなかったが、それは事実だった。
「本当か~?清也に聞けば、前世も美人だったそうじゃないか!」
シンは笑いながら聞いた。
「え?清也がそう言ってたの?」
花は無意識に話題を切り替えた。
「おう!バッチリ言ってたぞ!"めちゃくちゃ美人で驚いた"って。」
シンは少し脚色したが、確かに清也はそう思っていた。
「そっかぁ!えへへ~♪」
花はにやけ始めた。こうなると、花には何を言っても通じない。
その頃、清也は訳あって物陰に隠れていた。
ところがーー。
「へっ、へくしゅん!」
(誰か噂しやがったな!)
自分の噂をされた事により、盛大なくしゃみをした。
これにより、身を隠していた相手に見つかってしまう。
「誰かいやがるな!出てこい!」
誰かの声がする。清也はやむを得ず剣を抜いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんな事を少しも知らないシンは、ある事を思いついた。
「なぁ、このユニコーン。お前の言う事を聞くんじゃないか?」
シンは、いつになく真剣な顔をして聞いた。
「え?それって・・・?」
花は先の展開が読めた。だが、一応聞くことにした。
「ここからは、そのユニコーンに乗ろう!」
シンは満面の笑みで、無謀だと思わしき提案をした。
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